六十七話
情報交換。レイジに合流した三人の話を総合すると……
「五人中、四人は倒したことになるのか」
「ええ。残るは、あのポニーテールの女子のみですわ」
「四人は彼女に統率されていたように見えました」
「リーダーってことだね。手ごわいのかな」
「こっちは全員残ってる。他の生徒だっている。なんとかなるだろ」
「これでようやくいつも通りが戻ってくるわけか」
レイジの言葉にエリナが表情を暗くする。鈴ヶ森の存続が危うくなったとは、スレイ部にもまだ伝えていなかったのだ。
もう終わったかのように話すレイジとキョウを堀之内がいさめる。
「油断は禁物です。各個撃破されると状況をひっくり返される恐れがあります。ここは、皆さん固まって行動しましょう」
「ホリーに賛成だな。一緒に行こう」
全員がうなずく。
――数分前。鈴ヶ森女子寮の壁にもたれるように座り込む人物がいた。タケミだ。
「なんだい、あの女。べらぼうじゃないか。これは……ちょっとまずいね。早く、みんなに知らせないと……」
壁を頼りに立ち上がろうとするが、脚の力がすとんと抜ける。
「参ったね。脚が言うこと聞きやしない……」
それでもタケミは何とか立ち上がった。ふらふらと寮を離れる。
ポニーテールを靡かせ、リンが鈴ヶ森学園領を行く。その風格。立ち向かおうとする生徒は一人もいない。遠巻きに眺めるだけで手を出せない。まるで自分の領土のように颯爽とリンは行く。
センゾウが情けない顔をして隅の方でカードをいじっていた。マヨが眠ったように地面に横たわっていた。ケイにはいつもの凛々しさがなく、ぼんやりと何もない空中を見つめていた。そして、ガタクが大の字になって完全に伸びていた。
「全員やられたか。さすがは鈴ヶ森。一等級を維持し続けるだけはある」
リンの視線が先にいる五人に向けられる。
「彼らか」
これは直感だ。だが、それゆえに間違いないとリンは確信する。
彼女の足がレイジ達へと向いた。
堀之内がびくりと身を震わせ、振り返る。
「どうした、ホリー」
「彼女です……。龍晃のリーダーがそこにいます」
堀之内は思った。この感覚、まるでスミカ様の前で失態をしでかしたときのようだと。純粋な畏れ。それを抱かせる何かをあのポニーテールの少女は纏っている。
「どうする? 一人ずつ戦うか? 相手のやり方が見えるかも」
「いえ、レイジくん。ここは全員で一気に攻めましょう」
「堀之内? あなたらしくないですわね」
堀之内はメガネを整える。そのこめかみを汗が伝った。
「ええ、承知しています。ですが、今はそんなときではない。彼女はとてつもなく強い。何かそんな予感がしてなりません。出し惜しみをすれば、それが直接敗北に繋がるでしょう」
「ルール無用と言いだしたのはあっちだ。遠慮するこたぁねえぜ」
「……わかりましたわ。片をつけましょう」
「僕たちが一丸となれば勝てるよ」
「そうだな。あいつを倒して、鈴ヶ森のいつもどおりを取り戻そう。それでいつもどおりにスミカを迎えるんだ」
それぞれ短く声を上げ、力強くうなずく。
だが、エリナの表情は薄っすらと暗い。彼女だけが抱えた不安。レイジの言う、いつもどおり……それを守れるのか。自信も策もない。




