六十五話
バッ!
横合いから何かが飛び出しキョウを抱え上げた。そのまま横に飛び、ガタクの拳から逃れる。
拳は二人を外れ、そのまま地面を打った。衝撃が地面、空気を介しビリビリと伝播する。
「レ、レイジ……!」
「大丈夫か、キョウ」
キョウを助け出したのはレイジだった。
「みっともねえな。負けちまってよ」
「そんなこと思うもんか。立派さ」
キョウの目が潤む。顔を埋めるようにレイジにしがみついた。
ガタクは向き直ると、レイジにじろりと視線を向けた。
「誰だ、てめえ」
「どうでもいい。俺の友達に酷いことして、許さないぞ!」
「ははーん、さてはおめえだな。鈴ヶ森には丈夫さが自慢のやつがいるってな。見た目じゃそうは見えねえが、俺にはわかる。探す手間が省けたぜ」
レイジはキョウに壁際で楽な姿勢を取らせると、その手に胸のハンカチを握らせた。涙がこぼれないうちに。
キョウは、それでちーんと鼻をかんだ。きちんと洗って返してほしい。
「その女もなかなかやるもんだが、おまえにはそれ以上を期待してる。行くぜ!」
ガタクが巨体を揺さぶり急接近、繰り出されたパンチをレイジはまともに受ける。足が地面を離れ、レイジは背中から壁に激突した。
「レイジ!」
キョウが思わず名前を呼ぶ。
びたんと張りついたレイジは、壁を軽く蹴って体をはがす。危なげなく着地した。とことこと歩き、間合いを戻す。
ガタクの口元が嬉しさを隠せないように吊り上がる。
「俺の拳を受けて立ち上がれたやつは、片手で数えるほどしかいねえ。だが、その数人も、ここまでピンピンしてなかったぜ」
レイジはガタクへとさらに接近する。ガタクの腕が届く、危険な距離だ。それなのに、レイジは体をかばう様子も、素早く近づいて攻撃する様子もない。無防備すぎる。
「レイジ! 何してんだ! 危ねえぞ!」
レイジに声は届いている。そのはずなのに彼は俯き加減でゆっくりとガタクへ近づいていくだけだ。
「よほど自信があるのか、それともバカなのか?」
虚を衝かれた風もなく、ガタクは上半身を捻り、巻き込むように腕を振る。まるで竜巻のようなフックが、まともにレイジの頭部に当たった。
「へ……へへへ……」
ガタクが笑い始めた。
レイジは吹き飛ばなかった。頭に拳を受けたまま僅かに地面を滑ったが、二本の足が大地を捉えた。
レイジを押しのけようとガタクの腕に力が込められたのが、キョウの目にもわかった。過剰な力が筋肉を震えさせる。
だが、動かせない。レイジはしっかりと踏みとどまっている。
レイジがギロリとガタクを睨む。その目にはちらちらと何かが燃えている。彼は怒っていた。




