六十四話
ガタクの迫力満点なパンチを掻い潜り、キョウは鋭く腹部を突く。ガタクのもう一方の腕がゆっくりと腰まで引かれ、勢いよく振り上げられる。キョウはとっさに飛び退き、腕の間合いから逃れる。強烈な風圧を伴った拳が眼前を通過した。
この一場面だけを見ればキョウが優勢だ。しかし……。
「はあ、はあ……」
「どうした。息が上がってるぜ」
「うっせえ! ……クソッ!」
キョウは肩で息をつき、目に流れる汗を腕で拭う。対するガタクだが、見た目が元から暑苦しいのを差し引くとして、汗一粒流さず涼しいものだ。
それもそのはず、キョウとガタクの腕力差は決定的だった。あの強烈なパンチを一撃でもらえば、あるいは腕や足をつかまれてしまえば、もう勝負の結果が見えてしまう。
キョウはフットワークを軽くし、大きく移動しながら何度もガタクに攻撃を加えた。いや、そうするしかなかった。
しかも、その攻撃の効果が見えないとなれば、疲れた体を支える心にも負担が回る。ガタクはまるでへっちゃらな顔をしているのである。これは負けん気の強いキョウには堪えた。
「この筋肉ダルマが……」
悪態にも元気がなくなってきている。
このまま続けても、このタフネス怪力バカを倒せない。消耗するだけだ。キョウは倒せる力を残しているうちに勝負を決する道を選んだ。
「うおおおーっ!」
雄たけびを上げながらガタクの正面から挑む。加速、各関節の捻り、腕の力、それら全てをキョウは一発のパンチに託す。
突き出された、お互いの拳がすれ違う。
バッキーン!
吹き飛んだのはキョウだけだった。そのまま建物の壁に激突する。
体格の差が明暗を分けた。リーチがあるだけ、ガタクの拳が先に当たったのだ。
ガタクは前に出した拳をゆっくりと引いた。
「根性はあるな。だが、それじゃあ俺は倒せねえ」
ざし、ざしと大きな足音がキョウへと近づく。キョウは顔を上げるが、四肢は投げ出されたままだ。動けない。
「へっ……やれよ。じゃなけりゃ、一分後には起き上がって、おまえをぶちのめしてやる」
ガタクは元よりそのつもりだと言わんばかりに拳を構えた。
「チャラい見た目で期待してなかったんだが、なかなか楽しめたぜ。あばよ」
握られた拳は岩のようだ。それが勢いよくキョウに迫る。




