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五十四話

 逆瀬リンの合図で、四人が別々の方向に飛び去る。

 センゾウだけがその場に残った。だが、彼は慌てたりしない。むしろそのにやけた顔には余裕が浮かんでいる。


「このいけ好かない男はわたくしが相手します。堀之内、レイジは他の龍晃メンバーを見つけて倒しなさい。恩田先生は下級生や体力の低い者を本棟の中へ誘導してくださいますか」

 レイジたちは了解した。


 ガタクの向かった方で何かが飛び散った。

 空を舞っているのは鈴ヶ森の生徒だ。


「あのでかいやつ、ずいぶん派手にやる。あっちには俺が行くよ。ホリーは別方向を頼む」

「しかし」

「大丈夫。スレイ部で鍛えられてる」

「わかりました。何かあれば、すぐに駆けつけます」


 二人は別れる。


「はーい、皆さーん。指示に従って、落ち着いて本棟に避難しましょうねー」


 ノブコ先生がゆったりとした口調でそくそくと生徒を誘導していく。彼女があまりに落ちついているのでパニックが起こらない。避難はあっという間に終了する。

 中庭に残るのは生徒会を始めとした、腕に自信のある生徒だ。


「笠舞生徒会長、ここは我々にお任せを!」


 センゾウへと生徒会メンバーが一斉に飛びかかる。


「自己紹介をしよう」


 センゾウは胸元から、きらりと光る黄金色のカードを取り出す。


「僕の名前は俵屋センゾウ」


 カードが宙に三日月を描く。


「ぐわー!」

「ぎょえー!」

「げひー!」


 生徒会はその一撃に吹っ飛ばされた。


「俵屋……東に鶴来、西に俵屋と言われた、超が五、六はつくような大企業。その御曹司が龍晃に通っていると聞いたことがありますわ。そして、その手にしているのはゴールデンカード。富裕層の中でも一握りしか持つことの許されない、言ってしまえばあらゆるものが無尽蔵に買えるカードですわね」

「さすが笠舞のお嬢さん。こちら側の事情には詳しいようだ」


 生徒会メンバーが次々に起きあがる。それはそうだ。カードに撫でられただけでやられるわけがない。


「怪我がないようでよかったですわ。あなた方、手出しは無用です。わたくしに任せなさい」

「いーや、手出ししてもらうよ。僕はこのカードで君たちの心を買う」

「何を言ってますの」


 センゾウは生徒会のメンバーの一人に無防備に歩み寄る。


「君のことは知っているよ。どうやら、あまり裕福ではないようだね。親御さんがずいぶん苦労して君を学園に入れてくれてるようだ」

「どうしてそれを……」

「僕に買えないものはない。情報なんて鼻紙みたいなものさ。僕がその悩みを消してあげよう。卒業までの学費を支払っておいてやる。ただし、僕の味方をすればだ」

「そんなことをしては笠舞様に、そして学園に顔向けできない!」

「なあに心配ないさ。僕が龍晃学園に口を聞いてあげるよ。その方が親御さんも喜ぶんじゃないかなあ」


 山吹色に輝くゴールデンカードが頬をぴたぴたと叩く。


「くっ……」

「耳を貸してはいけませんわ!」

「笠舞様」


 その彼がエリナへ振り返る。


「……申し訳ありません」

「そんな……」


 彼は拳を構えた。


「あっはっはっは! 愉快だ。僕はとーっても気分がいいぞ。他のやつにも好きなものを与えてやろう。さあ君だ、何が欲しい?」

「父の会社が経営不振で……」

「いいだろう、俵屋コーポレーションが融資してやる」

「本当ですか!」

「お金は嘘をつかなーい!」


 センゾウはぴっとカードを切り返す。その反射が周囲をぴかりと照らす。

 集団の雰囲気が変わった。目に金のカードが映り込む。おどおどと目くばせしながら、センゾウを取り囲んでいく。


「俺にも! 俺にも!」

「よし、買ってやる!」

「土地!」

「はっはっは、オーケーだ!」

「マンション!」

「一棟丸ごと買ってやろう」

「ジェット機!」

「明日から空は君のものだー!」


 次々と生徒会、そして生徒たちが買収され、エリナに敵対していく。


「なんと浅ましい、そして卑劣な!」


 エリナはセンゾウを睨みつける。センゾウはその視線を真っ向から受け、自慢げににやりと笑った。

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