五十三話
本棟を出るとすぐに異常が目に入った。
広い鈴ヶ森の中庭には人だかりができていた。その誰もがざわざわと落ち着きがない。
レイジには何が起きているのかわからないが、これはただ事じゃない。早くみんなを探さないと。
ノブコ先生とレイジが人波をかき分けて進んでいると、断片的な言葉が耳に入ってくる。ざわめきが混じり合い会話の全容は知りえなかったが、その中に気になる単語が頻発した。〈学園破り〉……多数の口から、何度も聞こえてきた言葉だ。
まさか。エリナはあり得ないと言っていたはずだ。だが、もし〈学園破り〉が来たのなら、先頭で指揮を執っているに違いない。レイジたちはどんどん校門側へと進んでいく。
突然、人の壁が途絶えた。円状に人垣ができている。生徒会が銅像のように規則正しく直立し、生徒たちをそれ以上進ませないようにしている。その空間にエリナと堀之内がいた。
「やっと出られた。エリナ、まさか……」
「そのまさかですわ。この五人、〈学園破り〉ですのよ」
校門を塞ぐようにマントで身を隠した五人組が立っている。
「あれー? タケちゃんやアンリちゃん、それにキョウちゃんは?」
「この騒ぎです。我々を見つけられないのでしょう」
「みんな浮き足立ってるよ。大丈夫かな」
「心配ありませんわ。二等級学園が先日の勝利で弾みをつけて来た、きっとそんなところですわ。ですが、所詮は二等級。鈴ヶ森の敵ではありません」
「そっか。けちょんけちょんだね」
「けちょんけちょんですわ」
エリナが自信たっぷりに一歩前に出た。
「あなた方、ここが一等級学園、鈴ヶ森と知っていい度胸ですわ。いいでしょう。〈学園破り〉をお受けいたしますわ。ルールを設定後、こちらの代表を同じく五人選出し……」
「いらねえよ」
マントの中で一番大柄の人物がエリナの言葉を遮った。
「いらない? それはどういう意味ですの」
「ルールも、代表者もいらねえって言ってんだ。全員で好きにかかってくりゃあいい」
「な、バカにしているんですの!?」
マントの集団、中央の人物が前に出た。
「ガタク。今までとは違う。正式な〈学園破り〉に則り、名乗りを上げてやろう」
その少女は驚くほど大きな声で言った。
「我々は龍晃学園」
五人のマントが剥がれ、一斉に風に飛ぶ。
真っ白な制服に六角龍の記章が光る。
「鈴ヶ森に正式に〈学園破り〉を挑む。ルールは無用、そちらは全員でかかってこい。先に立つ者のいなくなった学園が負けだ」
長いポニーテールの少女の声は中庭に、いや学園中に響き空気を震わせた。
「ずいぶん大げさだな。それに全員を相手にするって? これは楽勝だね、エリナ。……エリナ?」
エリナの様子がおかしい。青ざめて小刻みに震えている。先ほどの自信はどこへ行ったのだろう。
「あ、あり得ませんわ」
「どうしたんだよ」
「あなた龍晃学園を知らないんですの? 最も歴史ある学園、名門中の名門、龍の才覚を育成すると言われる一等級学園。それが龍晃学園ですわ」
「一等級って……〈学園破り〉をする意味がないじゃないか」
「だからあり得ないのですわ。まさか、スミカ様がいないときに……」
ガタクと呼ばれた大柄な男が鼻で笑う。
「どうした? 始めねえのか、生徒会長さんよ。それとも、やっぱりやめますってか」
「あり得ませんわ」
「ああ?」
エリナの表情が一瞬で切り変わった。
「〈学園破り〉、鈴ヶ森生徒会長の権限でお受けいたします」
龍晃のリーダー格の少女がうなずく。
「それでこそ一等級学園だ。ガタク、ケイ、センゾウ、マヨ。今までのようにはいかん。全員で学園を制圧しろ」
金剛寺ガタクは首をごきっと鳴らし、拳をガンと突き合わせた。
羽角ケイはすちゃっとメガネをかける。
俵屋センゾウはキザったらしく前髪を跳ね上げる。
根城マヨは俯き加減でぶつぶつ何かをつぶやいている。
「開始だ」
登場とは対照的に、あまりに自然に〈学園破り〉が開始された。




