五十二話
幸い、オカルト受講者はスレイ部だけだ。作業は直に終わった。
「おつかれさまー。二人でやると早いわねー」
「おつかれー。でも、このぐらいの量、俺がいなくても……」
「スミカ様、帰ってこないわねー」
レイジの言葉を待たずにノブコ先生が言った。
「ああ、うん。どうしたんだろ」
「スミカ様がみんなに与えてる影響って、やっぱり大きいのねえ。特に六号くんはとっても変よー」
「そうかな?」
「変よー。口を開けば、スミカ様の名前ばかり。食事すら集中できてないみたい」
そう言えばそうだ。さっき何食べたんだっけ。最後にチョコを食べたのははっきり思い出せるが、うーん、昼食の内容が思い出せない。
「スミカ様のことだから、きっと考えがあるのよー。心配いらないわー」
「そうだけど、何しに行くかぐらいは伝えて行ってもいいんじゃないか」
「きっと言えない理由があったのね。スミカ様がそう判断したのだから、それでいいのよー。だから、六号くんがくよくよしていてはだめなのでーす」
「くよくよはしてないよ」
「あらー、そうだったの。うふふ」
ノブコ先生はレイジを心配してくれていたのだ。だからプリント整理をさせた。単純な作業は面白くもなんともなかったが、少なくともその間は何も考えずにいられた。
「もっと、みんなに頼ってもいいんだぞー」
おでこをツンと突かれる。
そっか。早く認められなきゃと思って、無意識に自分の力で何とかしようとし過ぎていたんだ。でも、ピンと張っていた心がスミカというピースを失ってだらりとなってしまった。その弛んだ余分がもやもやとした気持ちの原因だったのか。
「ありがとう、ノブコ先生。すっきりした」
彼女はにこりと笑う。ノブコ先生はこういう仕草があどけない。それがナイスバディとアンバランスな魅力を……いかんいかん、思考鉄道が脱線し、そのまま宇宙を走るところだった。
「あとねー、先生には甘えてほしいなー」
「なっ!」
レイジは飛び退った。エビも顔負けの後ろ移動である。
「えー、何その反応ー。キョウちゃんのときはデレデレしてるのにー」
「デレデレって……いや、びっくりしちゃって」
「でも、元気出たみたいね」
「うん、すっかり」
「よかったー。スレイ部のみんなはねー、六号くんが大好きなのよー。だから、六号くんがいつも通りになれば、みんな元気になると思うわ」
そうだよな。エリカじゃないけれど、スミカがいないからこそ普段通りにしなきゃいけない。
彼女が帰って来たとき、なんの変わりもなく挨拶を交わす。それが一番のお出迎えなのだ。
よし! いつも通りにするぞ!
ぴろりーぺんぺけてんてれー。
堀之内からメールだ。講義中のはずだけど、さては退屈でちょっかい出しに来たな。
〈件名:緊急事態です
本文:メールに返信は不要です。説明している時間がありません。恩田先生は一緒ですか? 連れてすぐに中庭に来てください。〉
いつも通り、儚く終了。
なんだなんだ、緊急事態ってなんだ?
ノブコ先生に伝えなきゃ。
「んー文面からは、よほど切羽詰まった印象を受けるわねー。すぐに行きましょう」




