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三十七話

「――というわけで新しく奴隷が増えたぞ。さあ、名乗れ」


 レイジたちにノブコ先生とタケミが合流し、スレイ部一同は朝食のために食堂へと来ていた。


「鷲嶽キョウだ。よろしく頼むぜ。で、こいつら全員スミカのしもべなのか?」

「しもべではなく奴隷だ」

「へー」


 キョウは、何かに納得したようにしきりにうなずいていた。


 キョウはすっかり棘が抜けたようで、表情に険しさはもうない。

 改めて見ると、彼女もかなり可愛いんだよな。健康的な小麦色の肌を大胆に露出しているのが、この学園ではすごく新鮮だ。


「それで鷲嶽さん、その格好はどうしますの? もう派手にする必要はないのですし、生徒会としてもいかがかと思いますわ。元に戻されてはどうかしら」

「うーん、そうしたいのは山々だけどさあ、元々の俺ってどんなんだったのか、すっかり忘れちゃってさ。短期間ですっかり染みついちまったみたいで、おいそれとは変えらんねえんだよな。話し方も戻せねえし……」

「なるほど、わかりましたわ。また時期を見てお話ししましょう」

「すまねえな、会長さん」


 スミカが軽く咳払いした。


「六号、鷲嶽と新しい奴隷も増えたことだし、ここらで親睦を兼ねて企画を催したい」


 おお、これが堀之内の言っていたスミカの思いつきというやつか。


「スミカ様、先日の予算は無事通りましたわ」

「そうか。昨年は花見だったな」

「花見!」


 満開の桜に、おいしいお弁当。お団子なんかもあるかもしれない。

 レジャーシートの上での和気あいあいとした時間をレイジは想像した。ぽわぽわ。

 大きく口を開けお団子を食べようとすると、スレイ部の誰かが俺の顔に手を伸ばすんだ。そして鼻に乗ったピンクの花びらをそっと取り除く。ちょっとしたやり取りをしながら笑顔になった後、再び口を開けてお団子をぱくり。


「だが、今年は花見はなしだ」


 お団子は風船が割れるように消滅した。

 ああ……俺のお団子……。レイジは諦めきれない。


「えーお花見行こうよー」


 お花見気分で口答えしたレイジは、容赦なくスミカパンチでぶっ飛ばされた。


「うるさいやつだ。最後まで聞け」


 レイジはよろよろと椅子に戻る。

 キョウはその様子を見て、なるほどなあと感心していた。


「花見は楽しいイベントだ。だが、準備や周囲の喧騒で我々の時間、空間が持てないだろう。第一、今は何月だ? 葉桜を見たいなら別だが」

「趣を介さないようで恐縮ですが、葉桜ではただの野外昼食。食事であれば、こうして毎日のようにしているのですからね」

「そのとおりだ。だから、今年は合宿に行く」


 もう緑の葉っぱがもりもり出てくる季節だ。それに費用申請資料には、はっきり合宿と書いてあったのだ。

 花見のわけがないじゃん。ないじゃーん。じゃーん……。心の中でこだました。

 さらばお団子。たぶんみたらしだった。君のことは忘れない。


 だが待てよ。合宿……要はキャンプだろう。

 はんごうでご飯を炊いたり、綺麗な川で遊んだり、テントで寝泊まりしたり……最後の日にはキャンプファイアなんて大きなイベントがあるかもしれない。火を囲んでみんなで踊るんだ。


「日程は早速だが、今週末から始まる連休を利用する」

「スミカ様、その三日間は快晴。天気が崩れる心配はございません。気温、湿度ともに快適。風量、日照は穏やかで屋外でも過ごしやすいでしょう。絶好のキャンプ日和だと思われます」


 何も確認せずに堀之内が答える。人間アメダスか、おまえは。


「私とタケちゃんの都合も大丈夫よー」

「なら決まりだ。今週末の予定は開けておくように」


 合宿かあ。これはこれで楽しそうだ。


 新しいメンバーを加えて朝食が始まった。

 しかし、レイジはさっぱり味がわからない。というのもキョウのせいだ。


「じー……っ」


 弱ったセミのような音を出しながらキョウがレイジを睨んでいる。

 やはり、負けて悔しかったのだろうか。スミカとの確執は解消されたようだが、新たな矛先がレイジに向いてしまったのかもしれない。

 レイジは視線を意識しないために、作業的に食事を口に運んだ。


「おまえさあ……」

「はひっ?」


 突然話しかけられて変な声が出た。


「結構、カッコいいんじゃん」

「へ?」


 レイジは箸の上のご飯がぽろりと膝に落ちたことにも気がつかない。

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