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そのメール、代筆いたします  作者: 蒼井スカイ
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0.再会と出会い(前)

新作『そのメール、代筆いたします』を本日から不定期で投稿いたします。

本日は2本に分けて投稿しますので、ぜひ最後までお楽しみください!

「いっそのこと、仕事にでもしたら?」


 私は友人、知人の勧めで、自分の強みを活かした新しいサービスを起業した。これまでの自分では会えなかっただろう多くの出会いもあった。様々な悩みを抱えている人たちの力になれるこの仕事は、私の天職と言ってもいいだろう。


 こんな人生を送ることができたのは間違いなく、あの2人のおかげだ。1人は大学時代からの付き合いになる友人、もう1人は――。





 大学卒業後、就活で30社以上落ち続け、ようやくチャンスを手繰り寄せることができた出版社に入社。だが、入社から僅か3年で退職せざるを得なくなった。

 内気な性格の私は職場の人間関係に失敗し、今は大好きな自宅に籠る日々を送っている。カフェ巡りや飲み歩きの趣味もなければ、恋人もいない、頻繁に会う友人もいない。もちろん、投資やギャンブルなどにも一切縁がない。

 使い道のない給料だけが溜まっていった。しばらくは生活の心配がなく、ゆっくり仕事探しを始めることにした。どうせなら、と人間関係に煩わされることのない在宅でできる仕事を探すことにした。



 ある日、数少ない友人の1人から「久しぶりに会おう」という連絡が来た。その友人――陽菜ちゃん――は学生時代を共に過ごした友人だ。彼女は社交的で私とは正反対の性格だった。老若男女から好かれ、学生の頃から幅広い交友関係を築いていた。

 そんな誰からも好かれる彼女が、なぜ私と友人になったのか、今でも不思議で仕方がない。大学卒業後、彼女は大手企業へ、私は郊外にある小さな出版社で就職した。お互いに仕事で忙しい日々を送っていたこともあり、彼女と会う機会はめっきり減っていた。


――それにしても、陽菜ちゃん、急に連絡してくるなんてどうしたんだろう? 就職してから会うことも、連絡することも減っていたし、何かあったのかな?





 翌週の金曜日の夜――。


「理桜っ、遅くなってごめんねっ」

「ううん、そんなに待ってないから大丈夫だよ」

「理桜、相変わらず優しいねっ!」

「そんなことないよ」

「理桜と会うの、久しぶりだよねっ。元気してた?」

「――うん、元気……陽菜ちゃんは? 元気だった?」

「もちろんっ! 先月、新しいプロジェクトのリーダーに抜擢されてね、ようやく自分がやりたい仕事ができるようになったの!」

「す、すごいね! 陽菜ちゃん、おめでとう!」

「理桜、ありがとう~!」


――陽菜ちゃんはすごいな。社会人3年目で、もうプロジェクトリーダーに抜擢されるなんて。陽菜ちゃん、コミュニケーション能力高くて、はっきり自分の意見を言える子だもの。陽菜ちゃんの頑張りや努力が認められて、本当に良かった。それに比べて私は……。



「理桜は何か頼んだ?」

「ううん、まだ。陽菜ちゃんが来たら一緒に頼もうと思って」

「そっか、待っててくれたんだ。ありがとね。じゃあ、何か頼もうよ。理桜は何飲む? あたしは生ビールっ」

「う~ん、私は烏龍茶にしようかな」

「そっか、理桜はアルコール全然ダメだったっけ?」

「うん、学生の頃はそうだったけど、社会人になってから甘いお酒なら少し飲めるようになったよ」

「カクテル? それなら、せっかくだから、理桜もお酒飲もうよっ」

「えっ、う、うん……そうだね、陽菜ちゃんと久しぶりに会えたし、少しだけ飲もうかな」

「よしっ、今日は飲もう~! じゃあ、オーダーするねっ」



 お酒を初めて飲んだのは成人した年の夏休みだった。彼女から誘われて、大学のサークルのバーベキュー大会に参加した。内気な性格の私は自分から話をすることができず、ずっと誰かの話の聞き役に徹していた。

 元々、大人数の中にいることは苦手だと思っていたけど、彼女のサークルの子たちは皆やさしくて、私にも積極的に話しかけてくれた。そこで、大人数で賑やかに過ごす楽しさを知った。学生時代を楽しく過ごせたのは、他ならない彼女のおかげだ。



 彼女と待ち合わせをしたのは都内のビジネス街の裏通りにある隠れ家風のダイニングバーだった。お店のチョイスはもちろん彼女で、センスの良さを感じる。

 店内は柔らかな間接照明で照らされており、落ち着いてゆっくり話せる雰囲気に居心地の良さを感じた。お客の数は金曜日の夜にしては少なく、知る人ぞ知るお店という印象を受けた。


 8席あるバーカウンターにはバーテンダーがおり、全て女性客で埋まっていた。不思議に思ってバーカウンターを見ていると、目の前に座る彼女が声を潜めるように告げた。


「あのバーテン、イケメンでしょ? いつも女性客に囲まれてるんだよ」

「あぁ、それで……」


――あぁ、そういうことか。イケメンを拝みに、この店を聞きつけた女性客がひっきりなしにバーカウンターの席を争っている訳ね。まぁ、私には関係ないけど。


 オーダーしたドリンクが揃い、久しぶりの再会に思わず胸が躍り、乾杯の声とともに、カツンとグラスをぶつける高い音が鳴り響いた。


「「乾杯っ」」


 私たちはカシスオレンジと生ビールで乾杯をし、乾いた喉を潤した。


「はぁ~、やっぱり仕事終わりのビールは最高っ!」

「陽菜ちゃん、本当に美味しそうにビールを飲むよね」

「うん、だって本当に美味しいんだもんっ。理桜はビールが飲めないだなんて、もったいないよ~」

「うん、私も何度か試してみたんだけどね。やっぱり、こっちの方が合ってるみたい」

「そっかぁ。さすがにビールが美味しいからって、強制はできないからなぁ」

「ふふふ」

「ねぇ、それはそうと、理桜は最近どう?」

「えっ、私?」

「うん、私の近況はさっき話したでしょ? 理桜の近況も教えてよっ」

「――――」

「理桜? 何かあったの?」

「――うん……実はね……」


 自分から、苦労して内定を取り付けた出版社を退職したことを言うつもりはなかったが、彼女に聞かれた以上、隠すことはできないと覚悟を決め、全てを打ち明けた。


「理桜っ、そんな会社、辞めて当然だよっ! 理桜のやさしさに浸け込んで、嫌がらせをするなんて最低だよっ」

「陽菜ちゃんっ? でも、断れなかった私も悪いの……」

「そんなことないっ、理桜は全然悪くないよ! 私は理桜の味方だからねっ」

「陽菜ちゃん、ありがと……」

「――それじゃあ、理桜は今、転職活動中ってこと?」

「うん、そうなるかな……」


 陽菜ちゃんはその後、少しだけ無言になった。何か考えているようだった。


「ねぇ、理桜。私のお願いを聞いてくれない?」

「お願い?」

「――うん、実はね……私の代わりにメールの文章を考えてほしいのっ」

「メールの文章を?」

「うんっ。ほらっ、理桜は文章書くの得意だったでしょ? それに、昔『理桜式部』って言われてたって言ってたじゃない? だから、お願いするなら、理桜しかいない、って思って! もちろん、報酬もしっかり払うからっ。理桜、お願いっ!」


 理桜式部、久しぶりに誰かの口から聞いた言葉だった。あれは中学生の頃だろうか。文章を書くのが得意なのを買われ、弁論大会の弁論文の作成を手伝わされたことがあった。私が書いた弁論文を発表した同級生が見事優勝したことで、私のあだ名は文章に長けた歴史の偉人の名をもじって「理桜式部」と名付けられたのだ。


「ちょ、ちょっと待って! 私、文章を書くのは好きだけど、陽菜ちゃんの代わりにメールの文章を考えるなんて、無理だよっ。それに、友達から、お金なんてもらえないっ」


――陽菜ちゃん、急に何を言うかと思ったら……私にメールの代筆をしろって? でも、誰かにメールの内容を考えて欲しいと思うくらい、重要なメールなんて私には無理だよ……。いくら、文章を書くのが好きな私でも、そんな重要そうなメールの文章なんて考えられないよ。


「理桜なら、絶対に誰かの心を動かすような文章を考えてくれるって、私、信じてるからっ」

「――――陽菜ちゃん……でも、やっぱり私にはできないよ。それに、誰かが考えた言葉より、自分で考えた言葉の方が相手に届くと思うんだ……」

「――理桜の言う通り、本当は分かってるんだ……。でもっ、絶対に失敗できないの! だって、彼は……彼は私のことを想ってるのに、私のために離れようとしてるから……」

「えっ? それって、どういう、こと?」

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