Prologo~序幕~
最初はどうしても地の文が多くなってしまっています。
なるべく工夫しているので、ぜひ一度目を通してみてください
物語の導入として、この国の神話についての絵本を借りてきたので、読んでみてくださいね!
むかしむかし、広い野原と森に生きる人々がいました。
風を読み、土を聞き、太陽と星と共に暮らしていました。
誰もがそんな穏やかな日々が続いていくと思っていました。
しかしある日、恐ろしい魔物が襲い掛かってきたのです。
その魔物は野を焼き、湖を干上がらせ、作物を枯らしてしまいました。
誰もが故郷を諦めなければならないのかと思ったその時、白い髪の少年が立ち上がりました。
そして彼は黒髪の友人とともに魔物に立ち向かっていきました。
人々は感動し、できうる限りの援助をしました。
そのとき、どこからか光が現れ、人々に降り注ぎました。
人々の様子に心打たれた神様が人々に祝福を与えたのです。
少年たちはその力を手に、魔物を倒すことができました。
少年たちは神への感謝として8つの美しい魔法を捧げることにしました。
その後人々は少年たちをリーダーとし、その地に町を築いていきました。
そして、神にささげた魔法は後に楽章として残され、受け継がれていくことになったのです。
おしまい
~シエルダー商会出版「はじめてのがくしょう」より~
「遅いわよ!いったい、どこで何をしていたらこんなに遅れるのよ!」
「ごめん。どうしても行っておきたい場所があって」
上がった息を整えながら駆け込んできた私を迎えたのは、怒りをたっぷり含んだ声だった。
「試験会場よりも先に行かなければならない場所があるなんて初めて聞いたわ!ぜひ今度連れて行って頂戴」
彼女の動きに合わせて、縦に巻かれたポニーテールがプリプリと揺れる。
そんなことを言いつつも席を取っておいてくれる親友――ロニアはやっぱり私に甘いところがある。まぁ、へそを曲げられたら面倒なので口に出すことはないが……。
「そう怒らないのロニア。でも本当に心配していたの、ルーシィ。今まで練習、頑張っていたでしょう?無事に間に合って良かったわ」
「ありがとう~カリーナ」
春の日差しに赤みを帯びたほっぺを感謝と共にモチモチすると、私たちの妖精はぷくっと丸くなる。
……荒んだ心が癒されていくよ。
抱えてきた鞄と共にカリーナの隣に腰を落ち着けると、反対側からまたお怒りの声がとんでくる。
「あら、わたくしには感謝の言葉はなくって?」
「助かったよロニア。持つべきは席取りしてくれる心の広い友人だね」
ふんっと顔を背け、彼女は眼下に広がる試験会場へと目を向けてしまった。これ以上の謝罪は受け取ってもらえなさそうだ。一見優しく取りなしてくれているカリーナも、めったに見ないほど怒っている。かわいいけれども、これは怒っているのだ。
となると、やるべきことはただ1つ。
……今月の限定パフェで許してもらえるかなぁ。
今月ちょっと金欠だからケーキセットは厳しいんだよね。
これまで時折あった喧嘩とは違い、今回は心配させた自分が悪い。100%悪い。しかしこんなにも開始ギリギリになるとは思ってもいなかったのも、また事実。頼むからこちらを威圧しないでほしい、ロニア。
「静粛に」
たった一言、大声というわけでもない、学長のよく通る声と杖で床石を叩く澄んだ音が、全校生徒と観客合わせて2,000人は超える会場を一瞬で静まり変えさせる。
先ほどまで声を上げて走り回っていた子どもたちまでも、静かに次の言葉を待っていた。
「これより、王立アンダテリア生徒の進級式および、楽章の最終選定試験を行う」
ここ、ロースタリゼンテ王国は大陸の南西に位置し、温暖な気候と広い国土と海洋を有する豊かな国だ。そして、それだけでなく、魔術に秀でる国とも言われている。
というのも、国民のほぼ全員が魔術を扱うことができるからだ。
例えば、町のパン屋のおばさんがパンを焼く火も魔術だし、人気のスイーツ店では氷の魔術を使った保存を採用しているおかげで、いつだっておいしいアイスや旬のフルーツを楽しむことができる。
そのうえ、魔力を生み出す豊かな自然のおかげで他国のように魔力エネルギーの枯渇に悩まされることも無い。
学長の言葉で一度は静まった会場も、次第にボルテージが上がっていく。
「今年の楽章は誰になるのかしら」
「去年は波乱だったもの。今年も楽しみだわ」
そう、魔術に秀でる国と呼ばれるもう1つの所以が、『楽章』と呼ばれる魔術の存在だ。
『楽章』とは、建国前に起こった魔物による災害に力添えをしてくださった神への感謝として献上した魔法といわれている。
そして今は、魔術研究育成機関であるアンダテリアの学長及び、選ばれた生徒が8つの『楽章』をそれぞれ担当し、催事や祈祷での披露、技術の継承と向上を行っている。
担当者はそれぞれの『楽章』名で呼ばれることが多く、学生7名のこともそのまま楽章、と呼ばれている。
つまり、楽章選定試験は、その7人の生徒を新2年生から新6年生の計500名の中から選ぶ大切な試験ということだ。新年度一発目の大イベントでもある。
そして、私はこの試験に全霊をかけている。
楽章の存在はこの国の象徴であり、学生でありながら小さくない影響力と絶大な名誉を得ることができる。また、王家をはじめとした国家上層部とのつながりを得ることもあるという。
楽章に選ばれたら翔竜騎士になり、外国へ遠征に行く夢に大きく近づくことができる!
かつて国を救った竜にあやかって作られた翔竜騎士は、騎士団が誇る最高の実働部隊だ。そして幼い頃からの憧れであり、夢でもある。
そのためにも、目指すは楽章の花形、『ワルツ』!!
学生が担当する7つの楽章の中でも表に出ることが多く、それにより高い技術を求められるのがワルツだ。つまり、大人とのコネを作りやすく、実力を示しやすいということでもある。
翔竜騎士はおろか、騎士団は非常に狭き門。つながりは自分を守ることもできるし、強みにもなる。いくらでもあったほうがいい。
それに……
「やはり貴女への注目は避けられないようね。……この程度で潰れてしまうようではワルツなんて夢のまた夢でしてよ、『両書の聖女』のご息女様」
「ぐっっ」
楽章になりたいもう1つの理由がこれ、母の存在だ。
母シンティアーレは初の選定である新2年のときに『サンクチュアリ』に選ばれ、その2年後に『レクイエム』にも選ばれるという、前代未聞の2冠を達成し、卒業まで責務を全うしたという伝説の人だ。
その後魔警士となり外国を回った後、辞めて今は料理や事業などに手を出す、本人曰く悠々自適な生活を送っている。
比べるものではないとは分かっているが、超えたいと思う性格は遺伝だろうか。
別に母と仲が悪いわけではなく、むしろ良好な方だが、こういったときは非常に恨みたくもなる。
「周りを気にしたり、期待に応えようとしなくてもいいの。楽しむことが一番大切だって誰かが言ってたわ!」
母様はそう言ってくれたけど、それでも気になってしまう。
興味、期待、妬み、値踏みの視線。
「ルーシィ、あなたすぐに順番が来るんでしょう。そろそろ向かった方がいいんじゃないの?」
心配の色をにじませたカリーナの声で意識を戻される。眼下に目をやれば、すでに4人目の披露が終わったところだった。
この試験は、全生徒の中からあらかじめ行われた前提試験で選ばれた30人が、最終選定として生徒職員及び観覧者、そして神の御前で楽章と同じ型の魔術を披露するというものなのだ。
私はくじ運が悪く、12番目というなんとも微妙な順番になってしまったが。
「うん、ありがとう。行ってくるね」
「荷物は持っておくよ。ここで応援しているからね!」
「あまりにひどいものだったら、ケーキセットを追加しますわよ!」
「かんべんしてくださいぃ」
……なんとも癖の強い激励だことで。
待機場所である舞台袖に向かにつれ、えぐるような視線が増えていく。ないはずの重さを感じるほどだ。
今まで受けてきた興味や注目も少なくないはずだが、比較にならないほどの遠慮のなさに自分がいかに良いクラスに恵まれていたのかを痛感する。
歩みを進めるごとに足元が冷えていき、喉が締まり、呼吸さえも苦しい。そして手が細かく震えるのを止めることもできない。
まさか、ここまでとは……修羅場はある程度通ってきたと思っていたのに。
幼いころからの修羅の日々がフラッシュバックする。過去に母に捕まった犯人の逆恨みで誘拐されたり、母に翔竜騎士になりたいと伝えてから続く、年に2度の山での修行とか……
(気を強く持ちなさい、ルルーシエ・アルトーネ。大丈夫。何度もやってきたことをやるだけだから)
……母様直伝の『ラジオタイソウダイイチ』をやっておこうかな。
「おおぉぉ!!!」
会場を揺らすほどのどよめきと歓声、続く拍手によって視線の檻から一気に解放された。
一瞬宙に浮いたような錯覚は視線から解放されたからか、はたまた目の前の光景によるものか。
すり鉢状の観覧席の中央、円く作られた舞台の上に、それはそれは美しい、息をのむほどの魔術が展開されていた。
光界とは、表現である。光界を作るための魔術や呪文が存在するわけでなく、自分ができる魔術を組み合わせ、より美しく、より印象的に構築しなければならない。
用いられるのは誰もが知っている日常的な魔術ばかり。だからこそ求められるのは、センスと表現力なのだ。
本や母様に何度だって聞いたし、何度だって想像した。けれど——
(これが『ワルツ』……)
中央にふわりと浮く術者の周りを何重にも角度を変えた光の輪が回転し、輪からあふれ出した光がふわふわと舞う。
術者の手の動きに合わせて光は色形を変え、リズムを刻みながらくるりと回る。さながら、術者を中心とした美しい天球技のようだった。
生み出された光は舞台を飛び出し、呆気にとられる観客をも照らしていた。
光が術者の赤みのある黒髪に反射し、光の帯を自身に巡らせるその様は、術者自身がまるで魔術によって生み出された存在かのように人々の目に映っていた。
「きれい……」
自分がこぼした言葉なのか、はたまた誰かのつぶやきか。
この場に言葉を返せる者はいなかった。
読んでいただき、ありがとうございました!
私自身、本がとても好きで、幼いころから空想に胸を膨らませるような子供でしたが、
まさか長編を書き始めることになるとは。
まだまだつたないところがありますが、温かく見守ってくださると幸いです!
最初は1~3話を一気に投稿、1週間に1,2話を目安に順次投稿していく予定です。




