第4話・その子が怖れるその理由 ~隅々までを見通して~
第5章 積み重なった様々な
第4話・その子が怖れるその理由 ~隅々までを見通して~
時間にして、十数秒。一分にも満たない短い時間でありながら、その何十倍もの時間が過ぎたような錯覚。
一度、アインが目を閉じると、それまで室内を圧迫するかのように存在を主張していた魔力の気配がきれいさっぱり消え失せる。
「「…………っ…………」」
言葉を発するどころか、身動き一つとれずに立ち尽くしていたシリウムとウスニーが喉の奥で悲鳴を飲み込む。
同じように、一度大きく息を吐いたアインはゆっくりと口を開いた。
「……インス様。後ろも、見て……いいですか?」
「? うしろ?」
言われてインスはちょっと首を傾げ、こくりと頷くアインを見上げる。
今のアインの目には、先ほどまでの濃密な魔力を感じることはなく……なるほど、普段は『見ない』ようにしているというのはこういうことかと、そんな場合ではないのに納得していた。
「……インス。うつ伏せに寝ろ……そういうことだろう?」
やり取りを見ていたシリウムが口を挟み、ああ……と、納得したインスはすぐにうつ伏せになって、背中側をアインに向ける。
「……あ……。はい。そうです。……ありがとうございます」
なるほど、そう言うのかと一つ学んで、頷いたアインは続けます。と改めて宣言した。
もう一度、ゆっくりと目を閉じて、深呼吸をして、開くのと同時に集中した魔力が見えないものを映し出す。
余分なものを視界から排除して行って、インス一人に集中する。
けれど、絶対に負担をかけないように、慎重に……近づかせ過ぎず、乗せ過ぎず……視えるけれども、それ以上にはならないようにと、神経を張り詰める。
だって……そうしないと……
(……壊して、しまうから……)
クロードに保護される直前。不法で人身売買を行っていた裏家業の者たちによって拘束されていたアインは、その瞳の魔力で鎖を破壊することで逃げ出せた。
そんなことが起こるなんて思ってもいなかったけれど……その後も、怖い。嫌だ。と思ったら、保護された先だった神殿孤児院の医務室を壊してしまっていた。
だから、アインにとって……見者の力は怖いものだ。
使いたくなんかないし、無くなってしまえばいいのに……とすら思う。
けれど、今は……
(……この、力で……インス様を、苦しめている、何かが……少しでも、わかるのなら……)
直接的に治療の役には立てなくても、それをシリウムやウスニーと言ったちゃんとした医呪神官が識ってくれるだけでも、絶対に何かが変わる。
そう、信じているから……
背中側も、同じように頭の先から足の先、指の先までじっくりと、けれども軽やかに撫でるアインの魔力と視線を感じながら、インスも固唾をのんで終わるのを待つ。
再び、時間として十数秒。ほんのわずかな時間が、とてつもない重みをも持って過ぎ……
「「っ!? アイン!!」」
「……っ……!?」
シリウムと、ウスニーの、焦りを帯びた声にインスはパッと顔を上げると、グラリと後ろに倒れかかったアインを、慌てて抱き止める。
「アイン君っ!?」
「…………っ……」
ぐったりとして、荒い呼吸を繰り返すアインはすっかり青ざめ、全身に汗をかいて震えていた。
「………………っ」
すぐにインスは場所を入れ替え、アインをベッドに寝かすと、素早くシリウムが容態を確認する。
「……疲労だな……あれだけ精密に、あの量の魔力を制御していれば当然か……」
苦し気に眉を寄せて必死に息をするアインの様子に、息を吐いたシリウムはそう診断し、同じくらい青い顔になっているインスに目をやった。
「……お前は? あれだけの魔力にさらされていたら……」
「いえ……。私は大丈夫です……アイン君が、気遣ってくれていましたから……」
シリウムの問いかけを途中で遮り、緩く首を横に振って説明したインスの答えにウスニーと二人して絶句する。
同時に、なおさらこの状況は当然かと、溜め息を吐いた。
第5章第4話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、アインが自身の持つ『見者の目』という規格外の能力に対して、普段どのような恐怖やトラウマを抱いているのかが明かされました。
自分の力が物理的な「破壊」を招いてしまうかもしれないという過去の記憶。
使いたくない、怖いと怯えながらも、それでも「インス様を苦しめている原因が少しでも分かるなら」と、大好きな人のために極限まで神経をすり減らして力を制御する……。
インスに絶対に負担をかけまいと無理をした結果、倒れ込んでしまったアイン。
果たして、彼が『視た』ものとは何だったのか!?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは本日22時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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【第6弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト




