35 女達の朝
アメリア姫は部屋の前に立っていた。昨晩、マイケルが戻ってくると聞いて、何だか早く目が覚めてしまったのだ。
廊下の角を曲がり、並んでやって来るマイケルとエメリーを見て、アメリア姫は両眼を大きく見開き、両手で口を押さえながら大声を出した。
「#%#*+$€!!!」
エレノア姫が自室のドアから顔を覗かせた。
「アメリア、どうした…の?って、マイケルとエメリーだ。マイケル、お帰りなさい。アメリア、どうしたの?」
「だって、だって…!マイケルとエメリーが…。
きゃああぁ!」
つつつ…とエメリーの前まで行ったアメリアは、エメリーの両手を取ってぶんぶんぶんと振った。
「エメリー、よかったね。もう、泣かなくても大丈夫だね」
そして、マイケルをキッとみて言った。
「エメリーはね、2週間離れていただけで泣いちゃうぐらいマイケルが好きなんだよ!知ってた?
なのに!こんなに長くいなくなるなんて、エメリーがかわいそうじゃないの!エメリーをまた泣かせたら、このアメリアが許さないからね!」
マイケルはアメリアの前にひざまづいて真面目な顔で答えた。
「はい、アメリア様。ご心配をおかけいたしました。でも、ご安心ください。
私もエメリーが大好きですからね。エメリーを大切に致しますよ」
きゃぁぁぁ!とアメリアは大声を出して、エレノアを振り返った。
「お、お姉さま!聞いた?ねぇ、聞いてた?
マイケルもエメリーが大好きだって!
きゃあぁぁぁ!」
アリメアは大声を出しながら、ダイニングルームへと走って行った。エレノアはそんなアメリアをやれやれといった顔で見送った。
マイケルは自衛軍の秘密の任務についている、とだけ聞いていたエレノアはマイケルに言った。
「任務は完了したのね。お疲れさまでした」
そして、苦笑しながらエメリーを見た。
「しばらくはアメリアに騒がれるかもね」
はい、覚悟しておきます、とエメリーはにっこりと笑った。その顔がキラキラと輝いていて、エレノアはとても羨ましくなった。
私もいつか誰かを好きになって、こんな風に輝くのだろうか。それは、いつなんだろう。
エレノアはまだ出会ってもいない未来の恋人に、想いを馳せた。
外が深々と冷えるシュメール領の小さな家で、ローズマリーは眼を覚ました。暖炉に火が入った部屋は暖かく、カーテンの隙間からは朝の光が差し込んでいた。
ふと隣を見ると、白銀の髪を持つ愛しい人が自分の方を向いて眠っていた。
(クインス…?
どうしてここにいるの?王都でお仕事でしょ?)
思わず白銀の髪に手を伸ばして、そっと触ってみる。さらさらの長い髪が指の間に落ちた。
う〜ん…と小さく言ってクインスが眼を開け、パチパチと瞬きをした。そして、にっこりとするとローズマリーに、よかった、目が覚めたんだねと言って頬にキスをした。
「今日は、ゆっくり寝ていないと…。ローズマリーは長い間、病気で意識がなかったんだよ」
そう言うと、クインスはローズマリーを抱きしめた。
クインスの胸に抱かれたローズマリーは身体中に暖かな想いが溢れてきて、幸せな気持ちになっていた。
(病気だったの、私?
何だかよく分からないけど…今はこうしていたい)
うつらうつらとしながら、ルーズマリーはゆっくりとクインスの首に腕を回した。すると、なぜだか1つの言葉がこぼれて出た。
「ありがとう…」
クインスがハッとしてローズマリーの顔を見た時、ローズマリーは穏やかな笑顔を見せながら、眠っていた。
その頃、ミミは行ってらっしゃいとサイモンの頬にキスをして、サイモンを送り出していた。行ってくるね、と手を振るサイモンを見送るとミミはさっと家事を済ませて予備学校へと急ぐ。
ミミはサイモンと同じ官史になりたくて、昨年、試験を受けたのだが受からなかった。
落ち込んだミミは、家出してサイモンの家に来た。まだ15歳なのに一緒に住むなんて早すぎる、と親には反対されたけど、どうしてもサイモンのそばにいたかった。だから、家出して来た。
大きなカバンを持ってやって来たミミを見ても、サイモンは驚いたりしなかった。ただ、よく考えたのかい?とだけ聞いた。
はい、と頷いたミミを抱きしめたサイモンは、来てくれてありがとうと囁いた。
「大丈夫だ、後は俺に任せなさい。何も心配はいらないからね」
そう言ってサイモンはミミの実家に行き、きっちりと話をして帰って来た。サイモンにかかると大人でも敵わないのをミミは知っていたから、何を話したのかは聞かなかった。
それから1年経った。16歳になったミミは1度も実家に帰っていない。
本当はサイモンに勉強を教えてもらった方がよく分かるのだけれど、仕事の邪魔はしたくないから予備学校に行く事にした。サイモンは予備学校の費用も出してくれた。
「俺にはそれぐらいしかしてあげれないからね。頑張るんだよ。応援してる」
サイモンはいつだってミミの味方だ。優しくて、頼りになる人で、心から愛している。
(次こそは受かりたい。いや、合格するんだ!
サイモンさまと同じ様には出来ないけど、できたら、秘書官のお仕事がしたい。昨日、ここにいらした騎士の皆様のお話を聞いて、やり甲斐がありそうだと思ったから)
ミミは試験に受かった後の夢を見つけた。
(頑張ろう!
何が何でも合格してみせるんだから!)
予備学校への道を急ぐミミは、帰ってきたらサイモンさまに自分の夢を話してみよう、と思うのだった。
きっとサイモンさまは、ミミなら出来るよって優しく励ましてくれる。
ミミは未来に向けて、また新しい一歩を踏み出した。




