29 やっと見つけた
マイケルが消えて2週間経った。
ずっとマイケルがどこにいるのかすら分からない。そして、サイモンは相変わらずニコニコとして司令官室で仕事をしていて、大丈夫ですよ、としか言ってくれない。
「マイケル司令官が消えたのは任務です」
何度エメリーが聞いても、サイモンはそう答えるだけだった。
エメリーは不安でたまらず、ショーンにマイケルの心をとらえて欲しいと頼んだ。でも、ショーンはできないと言う。
(…本当に?)
「司令官は俺の精神感応力の領域の外にいるんだ。だからできない」
ショーンは涙目のエメリーをじっと見つめた。
「少しの間、耐えろエメリー。
司令官を信じて待てよ」
エメリーはその言葉に頷いたが、心は辛くて弾けそうになっていた。
(だって、もう2週間になるんだよ。
なのに、どこでどうしているのか、全く分からないなんて…。おかしいよ)
エメリーの心が読めるショーンは、かける言葉が見つからない。
エメリーはほろほろと泣いた。
マイケルが自衛軍の秘密の任務についたと聞いているロレインとエレノア姫は、元気のないエメリーを楽しませようと庭でお茶会を開いた。
アメリア姫は四阿に手作りクッキーを持ってやって来た。
「マイケルはね、このクッキーが好きなんだよ。
この前作ったらね、ボリボリってエメリーの分まで全部食べちゃったの。それで、エメリーにはまた作ってあげてくださいね、って頼まれていたんだ。
マイケルって優しいよね。クッキーは全部食べちゃったけど」
何も知らないアメリア姫の言葉にエメリーはとうとう泣き出してしまった。
え〜っ!とアメリアは目を丸くした。
「ねぇ、もしかして…。
エメリーってマイケルのこと、好きなの?」
マメリアはじっとエメリーの顔を見つめていたが、エレノアの袖を引いて言った。
「エレノアお姉さま、知ってたの?」
「そ、そうだね。知ってたよ。
エメリーはね、マイケルと2週間離れただけで泣いちゃうほど好きなんだよ」
ロレインはエメリーの背中をそっと撫でている。
「まあまあまあ…。マイケルはお仕事が終わったら戻って来ますからね。そんなに泣かないのよ」
はい、申し訳ありません、とエメリーは何度も言い、アメリア姫に勧められるままにクッキーをかじった。
(違うんです。マイケルは…あの人は今、敵の中に居るのに、どこにいるのか居場所すらわからないんです)
心の中でそう思いながら、エメリーはポロポロと落ちる涙を手の甲で拭って微笑んだ。
更に2週間経った頃、サイモンから新しい任務について連絡があった。
「ローズマリー嬢から王家に連絡が来たのです。
シュメール伯爵を通して、前々から決まっている日程で国王陛下と謁見する事の確認の連絡をして来ました。
エメリー大佐にも任務がありますから、よろしくお願いします」
「マイケルは?マイケルはどうしてるの?」
エメリーはサイモンに詰め寄ったが、サイモンの返事はつれない。
「司令官は任務を遂行中です」
「サイモン秘書官!」
「ダメですよ、エメリー大佐。
司令官から何も言うなと命令されていますのでね」
(…辛い。悲しい。
マイケルはどこにいるのだろう)
それから更に2週間。
マイケルの心を捉えた、とショーンから連絡があった。
マイケルがイザベルとなったローズマリーと2人、街を散策している所も確認したという。
エメリーはマイケルに会いに行きたいと思った。
元気な顔を見たい、そう言うエメリーにショーンは首を横に振った。
エメリーはショーンの襟を掴んで言った。
「何で?何でなの?
遠くから元気なのか見るだけで、そばには行かない。声もかけない。約束する。
お願い。遠くから顔を見るだけでいいから」
「エメリーをマイケル司令官に会わせるな、ってサイモン秘書官に言われているんだよ。これは司令官からの命令だってね。だから、会わせるわけにはいかない。だめだ」
エメリーは両手で顔を覆い泣き出した。
(マイケルに会いたい。なのに連絡は取れない。
分かってる。でも会いたい。
1人ではマイケルの居場所はわからない。
どうしようも出来ない。でも会いたい!)
エメリーは泣き続けた。
ショーンは困った顔でエメリーを抱きしめる事しかできなかった。
しばらくしたある日、エメリーは御屋敷をアレックス爺に任せて、久しぶりにカールとデュークのカフェへとやって来た。何も知らない兄達は、いつもの通り優しく暖かい。
「新作、食べなよ。人気なんだぜ。」
出してくれたパンの新製品は、なかなかに美味しかった。
カールが笑いながらエメリーを見て、落ち込んでるなぁという。
デュークは、エメリーが甘いパンをこれだけ食べるという事は、そういう事だな、と笑う。
2人は理由など聞かず、ただただエメリーに微笑みかける。その微笑みで心が少しほぐれていく。
「やはりカールとデュークに会いに来てよかった。
ありがとう、お兄ちゃん」
「うわっ!お兄ちゃんだって!」
「まあ、本当にお兄ちゃんだけど、久しぶりに聞いたぞ」
ちょっと元気が出たエメリーは、少し街を歩こうと思った。
空には赤い月と青い月が輝き、辺りを照らしていた。その月あかりの中、恋人達は腕を組み、ゆっくりと歩いている。その顔はどれも楽しげだ。
(1人は寂しい。やはり、帰ろう)
そう思った時、エメリーは青みがかった銀色の髪を持つ男と真っ白な肌に漆黒の髪を持つ女の後ろ姿を見た。
その男は女の腰に手を回し、ピタッとくっ付いて歩いていた。
女が何かを男に囁いた。
男は女の頬に口付けしながら、何かを囁いて微笑んでいる。
エメリーは一瞬、動けなくなった。
(マイケル…?マイケル…だよね。
違う。マイケルじゃない。違うよね?)
そう心に言い聞かせてエメリーは2人を追った。
追ってしまった。追わずにはいられなかった。
2人は物陰で立ち止まり口付けをし始めた。壁に押し付けられて女が男の首に手を回す。
2人の絡む舌先がちろりと見えた。そして、男が女の胸に手を置いた。
男が離れて佇むエメリーに気づき、目線を送る。眼はエメリーを見ているが、唇は女から離さない。見せつける様に2人の口付けは激しくなっていく。
聞こえるはずのない2人の熱い吐息が、聞こえる。
男の脚が女の太腿の間に割り込んでいく。
そして、男の手がゆっくりとエメリーに向けられた。
(私はマイケルに攻撃されようとしてるの?私は殺されるの?マイケルに?)
体が固まった様に動けないエメリーの眼に、マイケルの指先が光を放つのが見えた。
次の瞬間、エメリーは何かに攫われて城に着いていた。




