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14 新人エメリーの特殊任務



 新人騎士達の配属が決まり、エメリーは国王陛下の親衛隊に配属になった。アレックス親衛隊隊長からの、どうしても来てほしい、という要請だった。


 親衛隊の入団式では見覚えのある騎士達がニコニコとしてエメリーを見守ってくれた。マイケルはいないけれど、知っている騎士達がいると少しだけ安心できる。


 エメリーが詰所に行くと、皆が周りに集まってきて嬉しそうに話しかけた。


「エメリーちゃん、なんてもう言えないよなぁ」

「これからは呼び捨てだな」

「そうだな、エメリー!」


「はいっ!よろしくお願いします!」


 騎士達はエメリーをコソコソと隅っこに連れて行き、ところでさ…と小声で話し始めた。


「卒業パーティーの時さ、マイケルとキスしたって、ほんと?」


 顔を赤くするエメリーを見て騎士達は唸った。


「ほ、ほんとなんだ…。くそっ!あいつ、どんな殺し文句言ったんだよ!」


「マイケルのやろう!これ以上エメリーちゃんに手出したら、許さねぇ!」


「だから、みんなのエメリーちゃんだって何回も言ったのに!あのやろう!!」


「エメリーちゃん、マイケルのやろうに、なんか酷いことされそうになったら、お兄さん騎士達にすぐに言いなさい。いいね?」


「おい!お前達、何をやっている!」


 するどい声を出しながら部屋に入ってきたのは、アレックス隊長だった。


「はいっ!新人騎士と親睦を深めるために、話しをしておりました!」


 敬礼をする騎士たちをジロリと睨んだアレックス隊長は、にやっと笑った。


「暇を持て余しているようだな…。着替えて城の周りを走って来い。10周したら許してやる。行け!」


 なんで俺たちが…と小声で文句を言う騎士達に、なんなら15周にしてやっても構わんぞ、とアレックス隊長はなかなかに厳しい。


 エメリーもついて行こうとすると、エメリーは残れ、とアレックス隊長が言う。


「エメリーには話がある。ついてこい」



 アレックス隊長の部屋に入ると、エメリーは座りなさいと言われた。しばらくすると、女性がお茶とお菓子を運んで来て、アレックス隊長の斜め後ろにひっそりと立った。その女性はマイケルの母、ロレインだがエメリーはまだ知らない。


「エメリー、これからお前に大事な話がある。

 話す前に言っておくが、これは決して強制するものでは無い。私はエメリーの意思を尊重する。

 そして、これから話す事は他言無用だ」


「はい」


 エメリーの心臓は緊張のあまりバクバクと鼓動を速めた。


「半年後、お前には特別の任務を与えたいと考えている。

 あるお方を護るために自衛軍に異動し、その方の住む屋敷にも侍女として詰めてもらいたい。

 その方が誰なのかは、お前な返事を聞いてからだ」


 アレックス隊長の眼光が鋭くなった。


「もし、お前がこの仕事を受けると決めた場合、これから半年は厳しい訓練を受ける事になる。いざという時にはお前が盾になって、その方を護れるようになるためだ。更に、侍女としての振る舞いも学んでもらう。

 よく考えろ。1週間の猶予を与える」


 ほんの少し優しい顔つきになり、アレックス隊長は言葉を続けた。


「親衛隊に入るのがお前の夢だったのだろう?

 でも、この仕事を受けた場合、それを一旦忘れてもらわなければならない。

 気が進まないなら、断って構わない。嫌々受ける仕事ではないからな。命をかけてもらわねばならないのだ。

 何か、聞きたいことはあるか?

 今はなくとも後から聞きたいことが出てきたら、いつでも聞きに来い。遠慮する事ではない。

 話は以上だ。

 緊張で喉も乾いたろう?

 お茶を飲んで、お菓子を食べて帰りなさい」


 エメリーは、はいと返事をしてクッキーと紅茶を頂き、ごちそうさまでした、とアレックス隊長と後ろに立つ女性を見て礼をした。




 コツコツコツとエメリーの足音が城の中庭に響く。頭が混乱してよくわからない。


 その後もなかなか仕事に集中できないまま、宿舎に戻った。他言無用…誰にも相談できない。全てを自分で決めるのは、難しかった。


 エメリーは窓辺に椅子を引き寄せて、夜空に浮かぶ赤い月と青い月を見て呟いた。


「私はどうすればいいのでしょうか?」


 2つの月の暖かな光がエメリーを包み込んだ。

 

 気づくと、エメリーの前に1人の女性がいた。

 その姿は透き通っていて、光の中で揺らめいて見えた。

 白い肌、黒い髪、薄く紅を乗せた様な唇。とても美しい女性だった。


「エメリー、何を悩む?

 お前を信じている人達がいる。

 そして、進むべき道がお前を待っている。

 それに、お前がそばにいたいと思う相手が

 進む道の先に待っているのだろう?

 恐れる事はない。

 私はいつもお前のそばにいる。

 自分を信じて、前に進め。」


「…あ、あなたは…?」


 揺らめく女性は微笑みながらエメリーに片手を向けて、一筋の光を放った。その光がエメリーを包み込んだところでエメリーは我に返った。

 

 夜空には大きな赤い月と青い月が輝いていた。




 1週間を待たずに、エメリーはアレックス隊長に、話を受けると返事をした。


「若輩の私を信じて大任をまかせていただくことを、誇りに思います。よろしく、お願い致します」


 敬礼をしながら、そう言うエメリーをアレックス隊長は頼もしげに見ていた。



 それからの訓練は本当に厳しかった。


 アレックス隊長は容赦なくエメリーを叩きのめした。

 他の騎士たちは、影でアレックス隊長を鬼畜と言っていたが、エメリーは真正面からアレックス隊長と向き合った。


 エメリーには誰にも言えない、ただ一つの心の支えがあった。


 自衛軍にはマイケルがいる。

 強くなってマイケルのいる自衛軍に行く。

 マイケルのそばに行く。

 大好きなマイケルのそばに!


 エメリーの眼は爛々と輝き、前だけを見つめていた。





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