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12 マイケルの特殊任務



 エマと四阿で会った夜。


 マイケルは自衛軍の職務室で1人、夜空に輝く赤い月と青い月を眺めていた。しんと静まり返った部屋は暗く、月の光が差し込んでいた。


 その月の光を浴びながら、マイケルはエマに言われた事を思い返していた。


(エマ殿は俺の瞳の中にただ1人の女性が映っている、と言った。俺がその女性を想っているとも…)


 マイケルの心に浮かぶ女性の名前は1つしかない。


(エメリー?)


 マイケルは首を振った。

 

(いや、いや、いや、違うだろ?

 エメリーは子供の頃からの知り合いだ。それ以上でも、それ以下でもない。

 でも、どこにいてもエメリーがいるってすぐわかる。

 あぁ、きっとあの目立つ黄紅色の髪の毛のせいだ。そうに違いない)


 マイケルは1人で納得した。


(でもなんで、エメリーの名前が浮かんだのだろう。なんで、エメリーの赤くなった顔を思い出すのだろう…)


 マイケルは夜が更けていくのも気付かずに、エメリーの事を考えていた。





     *** *** *** ***




 しばらくしたある日の事。


 アレックス親衛隊長に呼ばれたマイケルは、大きな御屋敷にいた。見覚えがないのに懐かしい雰囲気のその場所は、エレノア姫のいる御屋敷だった。


 御屋敷の一室でアレックス隊長と向かい合って座り、マイケルは少しだけ緊張していた。

 

「いいか、マイケル。お前の記憶の封印を解く。目を瞑れ」


 マイケルは頷くと深呼吸をして、ゆっくりと目を閉じた。すると、一瞬、頭の中に閃光が走ったような感覚があり、マイケルは身震いした。


 目を開けてみろ、と言われてマイケルは瞬きしながら目を開けた。


(あぁ、この部屋、覚えている。

 窓から見える庭の様子も変わらない。

 俺は帰ってきた)


 マイケルは全てのことを思い出していた。


 赤ちゃんだったエレノア姫。

 大きくなり俺の後を追いかけてばかりいたエレノア姫。

 転んで大泣きするエレノア姫。

 俺が御屋敷を出て行く日に、涙を堪えていたエレノア姫。


 そして、アレックス隊長に魔力で叩きのめされ、鍛えられていた自分の事も思い出していた。


(ああ、そうか…。

 優しくて強く、魔力を操り悪を倒すことを俺に教えてくれた人。それはアレックス隊長だったんだ。俺が子供の頃に憧れていたのは、この人なんだ)


 目の前に座るアレックス隊長を見て、マイケルはなんだか胸がいっぱいになってしまった。


 

「大丈夫そうだな」


 アレックス隊長が微笑んでマイケルを見た。


「俺の事も思い出したか?まぁ、そういうことだ。悪く思わないでほしい。

 2、3日は頭痛や眩暈がするかもしれないが、すぐ治るだろう。疲れた時は無理せずに休め。いいな?」


 アレックス隊長は立ち上がった。

 

「お前にはここで執事だ。仕事の内容は大した事はない。エレノア姫の護衛だと思っていればいい」


 そして、何故かアレックスは次の言葉を言い淀んだ。


「……私はここでは…爺やだよ。

 馬番のアレックス爺。

 セオドラ国王と王妃ゾーイ様からは、似合っていると言われているが、まぁ、なんだ。笑うなよ」


 そう言うと、アレックス隊長は爺やに姿を変えた。


「アレックス爺、とてもよくお似合いです」


 マイケルの言葉にアレックスは苦笑いをした。


「私が親衛隊の隊長だというのは、ここではロレイン殿しか知らない秘密だ。

 私は親衛隊、マイケルは自衛軍の掛け持ちだ。2人で時間を調整してお仕えしよう。

 今までは姫がここから出る事もほとんどなかったから安全だった。だが姫はもう直ぐ自衛軍の副司令長官、お前の上司になる。命を狙われる可能性もあるから、気を緩めるなよ。

 エレノア姫はまだご自分の立場をご存知ない、という事を忘れるな」


 はい、と返事をしたマイケルは、執事に姿を変えた。


 では、お目通りしよう、というアレックス隊長の声の終らぬ間にドアをノックする音がして、エレノア姫が入ってきた。


「わぁ〜っ!マイケル!マイケルだっ!

 待ってたの。すごく会いたかった!」


 エレノア姫はマイケルに嬉しそうに抱きついている。アメリア姫はドアから顔だけ出して、マイケルを恥ずかしそうに見ている。


「エレノア様、アメリア様、お久しぶりです。マイケルが戻って参りました。これから私がおそばにおりますからね。お任せください!」


 まぁまぁまぁ、マイケルったら…とロレインの声がした。ふと見ると、ロレインはアメリア姫を抱っこしている。


「お嬢様、マイケルは頼りになる私の息子です。こき使ってくださいな。アレックス爺もそうだって言ってますからね」


「その通りですぞ!」


 こうして、マイケルの新しい暮らしが始まった。


 アレックス隊長に相談して、サイモンにはこの屋敷にいる事とアレックス隊長との交代勤務だと話してある。姫達のことは話していないが、国王直々に依頼された秘密の仕事だというと、サイモンは妙に張り切った。


 サイモンは胸をドンと叩き、調整はお任せください!となんとも頼りになる返事をして、にぃ〜っと笑った。


「秘密の仕事…!こういうの、私の得意分野です」


(どういう分野なんだよ!)


 それでも頼りになるサイモンを秘書官にしてくれたアレックス隊長に、心から感謝したマイケルだった。




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