ほっ。
ピピー。
お湯がわきました。
ケトルのボタンが点滅しています。
「んー……」
ベッドの上に乗っていた毛布のかたまりがもぞもぞと動きました。
ひょこりとふわふわのくせ毛がのぞきます。
七宮さんです。
目をこすりながら小さなキッチンに向かいます。
「えーと、ほうじ茶は……」
がさがさ戸棚を探します。
夏ですが、クーラーの効いた部屋で飲むのが美味しいのです。
カチャリ。コポコポ。
用意したサーバーにケトルの中身を注ぎ入れます。
三角形のティーバッグがサーバーのなかでくるくると踊りました。
七宮さんは食器棚から湯のみを取り出しました。
白地にピンクの花が散っている可愛らしいデザインです。
透明だったお湯は琥珀色に変わりつつあります。
とぽとぽと湯のみに注ぎました。
窓からは柔らかい日差しがさしこんでいます。
蒸し暑い風がベランダのシーツと戯れていました。
ほかほかと湯気が立ちのぼり、良い匂いが漂います。
リビングの座布団にすわり、片手を湯のみの底に。もう片方は横に添えて、コクリとお茶を飲み込みました。
あったかいものが喉を流れおち、お腹の底からじんわりとあたたまります。
「しみる……」
ほうっと息がこぼれ、幸せそうに目が細められました。
正座をしていた足もいつのまにか崩されています。
ふわふわのくせ毛がふよりと動きました。
「もう一杯……」
七宮さんは、今日もしあわせ。
お読み頂きありがとうございました。