見つけたのは
「ひかりちゃんも楽器さわってみない? もちろんドラムもOKよ?」
「雫、私ギターやりたい!」
風花ちゃんがはしゃいでいます。
指さした先には丸っこいデザインのギターがありました。
中心からふちに向かうにつれ、濃くて鮮やかな赤色が映えます。
「レスポールね」
ギターをかまえた風花ちゃんはどこかのロックバンドにでもいそうな雰囲気です。
ピックで弦を弾くとフォーン、とあたたかな音がしました。
「おおぉ」
勝ち気そうな瞳が輝きます。
「ほら、ひかりちゃんは? 好きなデザインのもので良いのよ?」
しずくちゃんがおっとりと微笑みます。
「好きな……」
どれが良いのでしょう。
七宮さんにはよくわかりません。
ふと、隅っこに立っていた楽器が目をひきました。
やわらかいクリーム色で、ギターよりちょっとシンプルな構造をしています。
「うふふ、ベースね?」
しずくちゃんが持ってきてくれます。
肩にかけるとずしっと重さが伝わりました。
「アンプにつないじゃいましょう」
大きな黒いスピーカーとコードでつないで、ベースについていたツマミを回しました。
ドゥーン。
「!」
低い音です。
部屋全体が震えたような気がしました。
ドゥーン。
からだの奥から心地よい低音が響きます。
ドゥーン。ドゥーン。ドゥーン。
一定のリズムで鳴らしつづけます。
「……これ、良い」
まっすぐだった口もとがちょっぴりあがります。
ふわふわのくせ毛もふりふりと揺れました。
そろそろお昼です。
戻らなければなりません。
「またいつでも来てね」
コードを片付けながらしずくちゃんがふわりと笑みを浮かべます。
「いくいくー!」
風花ちゃんが元気にこたえました。
「ひかりちゃん、このシールドを隣の部屋に置いてきてくれないかしら?」
「わかりました」
七宮さんはぐるぐるに巻かれたコードを受けとります。
「お願いね」
しずくちゃんは七宮さんの後ろ姿をどこか面白そうに見つめていました。
──────
ガチャリ。
隣の部屋を開けた七宮さんは息を飲みました。
その人は窓を背に座り込み、ギターを弾いています。
骨ばった男の子らしい手が、軽々と繊細なメロディを紡ぎました。
大きなヘッドホンをしていて、こちらに気づいていないのでしょう。
伏せられた目元には長いまつげが生えているのが見えました。
日の光でサラサラの黒髪がきらめく様子はまるで、
「……女神さま」
ドアを閉めることも忘れてつぶやきました。
ピタリと流れる音色が止まりました。
「え? あれ?」
その人は七宮さんに気づくとあわててヘッドホンを外しました。
黒い瞳がこれでもかと見開かれます。
「な、七宮さん!?」
どうやら七宮さんのことを知っているみたいです。
「……あれ、」
この人って。
七宮さんも気づきます。
「ほんとの女神さまだ」
ぶふっ!
扉の外で誰かが吹き出した音がしました。
「俺、めがみじゃなくて三上だけど……?」
「あ、いえ、なんでもないです。この間は本を貸していただいてありがとうございました」
この人、本を貸してくれた後ろの席の人だ。
七宮さんはペコリと頭を下げました。
「いえいえ、こちらこそ」
目の前の人、三上くんもペコリと頭を下げました。
「…………」
「…………」
沈黙が続きます。
どうやって話を続けたら良いのでしょうか。
ふわふわのくせ毛がオロオロと揺らぎます。
そして。
七宮さんは困ったあげく、
「……失礼しますっ」
コードを置くなり、部屋の外へと飛び出しました。
「わわっ、ヒカリ!?」
なぜかすぐ近くにいた風花ちゃんとしずくちゃんに抱きつきます。
「えっ! ちょ待っ……な、なにゃみっ……!」
部屋のなかから思いっきりカミカミの叫び声が聞こえた気もしますがきにしません。
「ごはん。たべる。いこう」
カタコトの七宮さんのほっぺたはほんのり色づいていました。
「ひかりちゃん、頑張ったのね」
しずくちゃんがおっとりと面白そうに微笑みました。
七宮さんは今日もしあわせ。
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