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異世界侍  作者: 黒銘菓
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最終話:侍VS異世界○○

「ここか。邪悪の居る部屋は。」

 「流石に解るわよね。正直、この場所、居るだけで辛いものがあるわ。」

 目の前に大きな扉がある。木製で金属の装飾が施された大きな扉である。

 あの後、黒い目玉が居なくなった後。拙者たちはエリ殿の導きで邪悪の居るであろう場所。つまりは玉座の間に来ていた。

 拙者は妖魔の類が見えるような性質では無いが、この先に何かが居る事だけは解る。

 背筋が凍らされるようで、心の臓が蠢く。夜の墓場とてここまで気味の悪いものでは無いだろう。前の黒目玉もそれなりに気味が悪かったが、これ程では無かった。

 「参るぞ。」

 そうは言ってもこの先の邪悪は倒さねばならない。意を決して扉を押す。

 エリ殿も覚悟を決めた表情で拙者を見る。

 玉座の間の扉が今開かれた。









 「ようこそ。異世界から来たお侍さん。そして女神様。あ、女神さまはさっき会いましたね。」

 王の間は天井が異様に高く、部屋自体も相当に広かった。赤い豪華な敷物に装飾品、柱まで装飾が成されて贅を尽くしてある。その豪華絢爛な部屋の奥に玉座があり、その玉座には男が座っていた。金の髪に立派な髭を蓄えた厳格そうな御仁であった。彼は金糸で編まれたような輝く着物に身を包み、輝く金と宝玉で飾られた珍妙な兜を被り、虚ろな目で拙者たちを見ていた。彼が城主で間違いないだろう。しかし、声はこの御仁から発せられたものではない。

「貴殿が邪悪か?この国に最近入り、それまでの平和を崩そうとしている輩か?」

拙者はエリ殿を庇うように前に出て鯉口を切る。前の黒目玉と気配が似ていた。

「貴様…黒目玉か?」

「え?イヤイヤ、僕はどっちも違いますよ。」

男はそう言って玉座から立ち上がり、手を前に出し、ヒラヒラと振る。

「まぁ最近王様のフリして軍備増強したのは僕だし黒い目玉作ったのは僕なんだけどね。」

男は虚ろな眼でこちらを見る。王様のフリ?

「どういうことだ。エリ殿。こやつは?」

「えぇ、ここの国の王様よ。さっき私を攫ったのはこの人。でも変。邪悪。とても邪悪。さっきより邪悪。なにこれ?」

エリ殿が困惑している。黒目玉を作ったと言っていた。黒目玉同様にこやつも体に入り込む輩か。


斬不斬


一瞬で距離を詰め、男の体を斬る。


斬不斬

何度も何度も、例え心臓に居ずとも体をくまなく斬る。

「おー。これが分体の言った斬ったヤツか。」

 効果が無い。体の中に斬った感覚も無い。おかしい。

そもそも、この身体からはそこまで強い邪悪さを感じない。しかし、扉の前ではすさまじく濃い邪悪を感じた。どういうことだ。


そういえばこやつ…。

「貴殿、拙者の事を最初何と呼んだ?」

王に尋ねる。

「ん?いや、異世界から来たお侍さん。だっけ?違うの?見たところソッチのは神様でしょ?この国にアンタみたいなのは居ないからさ。多分他の場所から呼んだんでしょ?」

…気付いていないか。

「貴殿の正体。もしかして。」

「ん?」

「拙者と同じ神に呼ばれて来た者か?」

後ろのエリ殿が息を呑んだのが解った。

虚ろな目の王も感心しているような、驚いているようなふうに見える。

「んー。なんでそう思ったの?」

一瞬で先刻までの口調に戻ったが、図星だろう。

「貴殿は言った。『侍』と。貴殿が言った。いや、貴殿の口からしか聞いていないのだ。その単語を。」

「雨月さん。それどういう事?」

後ろのエリ殿も気付いていないようだ。

「エリ殿、この国に拙者のような、着物を着た刀を使う者は居るか?」

「えぇっと。この国には居ないわ。他国に似たようなのが居る。って聞いたことは有るけど。」

「そやつらは侍とは呼ばれて無いのではないか?」

「そうね。侍とは聞かないわ。って。あっ!」

気付いたらしい。

「侍などという言葉。拙者の郷里にしか無いのだ。それを貴殿が知っている。何故か?拙者は最初に聞いた。『同郷の、反則級の力を他の神から与えられた人が居る。』と。それが貴殿では無いのか?おそらく拙者の斬不斬を喰らって何ともないのはその反則の力の効果なのであろう。違うか?」

虚ろな目の王は黙ったままだ。しかし、王の間全体から何かが来る。

黒い水。それはエリ殿が囚われていた黒い塊のような、しかし、それとは一線を画すおぞましさがあった。

「仕方ないな。ばれたんなら君とそこの神様を口封じしなきゃ。」

王の身体が崩れ落ち、それが合図であるかのように黒い水が集まり、人の形を成し始めた。成程、王を傀儡としていたものは言わば末端。

「僕の名前は黒井天男。異世界から来た勇者だ。君達悪党を成敗してくれよう。」

黒い水は人になると太刀を手から生み出し、拙者に突きつけた。

「何が悪党だ。最早拙者、貴様のような外道に名乗る名は無い。ただそこの神の頼みを聞き入れ、自分の意志で貴様のような外道を斬りに参った。」

拙者も刀を抜くとそれが合図かの様に剣戟が始まった。

最終局面開始である。


鎌鼬


空気の刃が黒い奴に迫る。


黒壁


黒い液体が目の前に壁を成し、鎌鼬がぶつかり消える。おのれ。


嵐槌


空気の槌が黒い奴を押し潰す。しかし、太刀が一瞬で盾になりそれを防ぐ。しかも、足元には釘のような足が付いており吹き飛ばない。

風が止むと盾が鎖の先端に塊が付いたものに変わった。鎖分銅だ。

「そぉれ。」

間の抜けた掛け声とは反して的確に刀目掛けて飛んでくる。武器を奪うつもりか。


雲雀


 耳鳴りが起き、蛇のように絡みつこうとしていた鎖が砕け、液状に戻る。


火球


溶けた鎖の後ろから火の玉が迫って来る。


翡翠 回天


火の玉目掛けて音の無い最速の突きを放つ。火の玉に切っ先が触れた瞬間、手首を回転させ刀を回転させる。火の玉が回転時の風圧で消し飛ばされる。

そのまま黒い奴の元へ剣を向ける。


翡翠 回転


 黒い奴の喉元に向けて突きを捻じ込む。が、後ろに下がり、躱される。まずい。

 太刀が頭上から降って来る。

 ガキン

 刀で受け流すが完全では無かった。足にまで衝撃が響き、痺れる。

 足の痺れに怯みながらも距離を取る。途端に太刀が槍に変わり、こちらに突きを放ってくる。ギリギリで躱すが次の瞬間。槍が引っ込み両手に短剣を持って斬りかかって来る。

 更に短剣を消し去ると今度は手の中に黒い光の球を作り出した。それを投げつける。

黒い光の球がこちらに向かってくる。躱しきれずに肩を掠める。力士に掴まれたような鈍痛が走る。これも妖術か。

 大きな負傷は無いが体のあちこちが痛み、赤い血が舞う。それに対して向こうは斬れども斬れども元の形が崩れない。エリ殿の時のような黒い球は何処だ?

 「外道にしては中々な武術擬きを使うな。所詮は外道だがな。」

 強がりでは無いが、それなりに虚勢ではある。

 それに対し、黒い奴は皮肉たっぷりに言い返して来る。

 「ふーん。にしては余裕がなさそうだよぉ?まぁ無理も無いよね。達人が代わる代わる君に襲い掛かっているようなものだもの。」

 気になることを言った。達人が代わる代わる?

 その疑問顔に気付いたのか更に続ける。

 「教えてあげよう。僕のチート…、反則妖術は『憑依』さ。人や物に関係なく取り憑いて操れる。それだけじゃない。取り憑いた対象のの記憶や経験を吸収も出来るんだ。僕はここまで来るのに色々な魔法や武術の達人に取り憑き、経験を吸収してきた。つまり、僕は今、あらゆる事柄の達人なのさ。ああ、僕って素晴らしい。」

 どんどん声の調子が高くなり様子が狂気じみてくる。

 「何故だ?そのような力が有りながら何故このような事にしか使わん?ここの王は賢王ではなかったのか?ここの国は貴様が来るまで平和だったのだろう。何故余計な手を出した?」

 それを聞いた黒い奴は溜息をついたようにうなだれた。

 「はぁー、決まってんだろ?こんなに素晴らしい能力持ったんだ。使いたいだろう?王様に成りたいだろう?暴れたいだろう?争いたいだろう?支配したいだろう?当然だろう?」

 話し合いは無理か。

 「解った。ならば矢張り貴様は斬る。」

 「へぇ、面白。やってみな。」

 黒い奴は手の中でなんと雷を起こした!これも妖術か。


雷撃


紫電が襲い掛かる。走って躱すが埒が明かない。

 そう言えば…先程からこやつ、武器を一つしか使っていない。幾つも幾つも使いながら、それを逐一消しては次の武器を作り、使う。

 もしや。

 推測を確かめるべく拙者は走り出す。紫電を紙一重で躱しながら黒い奴に向かう。

 急に接近した所為か。奴は雷を止めて何かの武器を作りだす。分が悪いと判断したのだろう。しかし間もなく、


焦熱


「貴殿の妖術を一つ見破った。貴殿は一つの達人の真似は出来てもその間別の達人の前は出来ない!子ども騙しだ。」

灼熱の斬り上げが奴の身体を蒸発させる。

ぶくぶくと音を立てて消え…る訳が無い。

 「やれやれ、これじゃぁどうにもならないよ。それくらいばれたってどうってことないよ。馬鹿だな。俺は死なないよ。てか、憑依使いに刀とかwプキャキャキャ」

 そう、それは事実。解った所で達人擬きをとっかえひっかえ相手にするだけ。こちらは向こうの弱点を知らないままだ。灼熱を使って奴の身体全体を沸かしてみたが何の変化も無い。それどころか、焦熱を喰らう際になんの躊躇いも無かった。庇う動作が無かったのだ。まるで、まるでそこを斬られても問題が全くないかのように。

 黒目玉のような核になるものがこいつの中には無いのか?

 だから斬られても問題ない。それが先の黒目玉の液体部分だけだから。

 そうだ、そう言えば妙だ。先刻刀に絡みついてきた挙句、斬られた鎖。あれは妙だ。

 先程の黒目玉の時は本体から離れた液体が自立的に拙者を襲った。先刻の鎖もそのように出来たなら足止めをしてその後の火球を当てるように出来たはずだ。なのに出来なかった。何故だ。

 核が近くに無いと自律的な細かい動きが出来ない。としたらどうだ?

 この玉座には核は無い。故に細やかな動きが出来ない。だから武器も使い捨てせずその都度わざわざ作り出す。しかしそれでも、単純な動きはする。………近くに核があるのか?

 そんな考えを起こしているうちに今度は旋棍で襲ってきた。刀剣相手ではアレは不利。距離を取り、鎌鼬を放つ。それを無視して今度は鎖鎌を作り出して拙者の足を狙いに来た。それを地面に嵐槌を叩きつけた衝撃で跳躍して躱す。しまった!

 手の鎖鎌を引っ込め今度は魔法を使う。そう考えていた。ここで火球はまだしも雷に撃たれれば無事では済まない。しかし。飛んできたのは鎖鎌であった。


鎌鼬


これを鎌鼬で砕くと拙者は地に降りる。何故だ?何故雷を使わなかった?先刻と違って隙はあった。しかし、使わなかった。使えなかった。もしや!


鎌鼬 籠目


天井に向けて鎌鼬を乱発する。それを見た黒い奴は慌てだした。

 「手前!何してんだ。俺はコッチだろ!」

慌てて口調が荒くなる。図星だった。異様に高かった天井の上から黒い、大きな球が覗く。


嵐槌


地面に向けて嵐槌を叩きつけ、跳ぶ。

「やめろぉぉぉぉぉぉおぉ!」

黒い球に向けて一刀を放つ。


パァン


黒い塊は塵と化した。


「このくそがぁぁぁぁぁぁぁ!」

黒い奴が拙者に迫る。雪の様に溶けていく中、拙者に向かう。しかし、



一刀で胴体を真っ二つにされて地面に伏した。

 「クソ、手前…覚えとけ。アレは本体じゃない。まだ本体が居る。遠隔装置の宝玉もまだある。覚えとけ。手前を見つけて八つ裂きにしてやる…。」

 呪詛を投げつけながら溶けて消えた。

 ここに拙者は勝った。







「うげつさぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 エリ殿が駆け寄って来る。

 「おぉエリ殿。実は

 「良かった!生きてた!生きてたぁぁぁぁぁぁ!」

 半泣きになりながらエリ殿は拙者を抱きしめる。

 未だ諸悪の根源は退治出来ていない。そう言うか迷った。しかし、今はこの少女に一段落させてあげよう。と拙者は考えた。


 この後、真実を知ったエリ殿が怒髪天となり、邪悪退治に拙者を引き連れ他国へ渡るのはまた別の話である。


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