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H-371 人口統計から需要と供給を考えよう


 アオイ達が俺達と合流したのは、別荘に移動してから5日目の事だった。

 2週間ほどの休暇を取れるはずだったんだが、アオイも貧乏性だからなぁ。ゆっくりと休むことが出来ないようだ。

 それでもアレクに誘われて元気に釣竿を担いで行ったところを見ると、アオイが羽を伸ばせるのは俺達と一緒に行動している時ぐらいなのかもしれないな。


『アテナとの情報交換を終了しました。アオイ様も難しい立ち位置を無難にこなしているようです』

「2か国だかなぁ。それで実験農場は順調なのかい?」


『まだまだ本格的な行動には至っていないようです。先ずは植物とは何かを学生に考えさせるようですね。ウエリントンの学府では生物学として植物も範疇にしていますから、今までの講義内容を伝えました。実験機材は、私とアテナで協議しながら設計を進めて行きます』


 だいぶ実験機材も増えてはいるようだけど、それによって知りえた知識はきちんと論文を作ってブラウ同盟3か国の図書館で閲覧できるようにしている。

 1つの王国だけが突出した見識を得るというのも問題があるだろうからね。

 同盟の下では学問の自由が許可されているような感じだからなぁ。とは言え明文化はしないんだよね。その辺りの王族達の思惑が絡んでいるようにも思えるんだが、実害が無ければ問題はないだろう。


『1つ確認したいのですが、ブラウ同盟3王国の人口推移はどのようになっているのでしょうか? アテナとの対話の中で食料需要と人口推移の情報が我々に無いことが判明しました』

「たぶんヒルダ様なら分かるはずだ。アリス達が懸念しているのは、単に食料増産を図れば良いという事ではないという事だね。食料が廉価になれば庶民は助かるかもしれないけど、生産者側は収入が減ることにもつながりかねないからなあ」


 実際問題としてどうなんだろう?

 サドリナス領に接した所領を持つ俺達は農業の共同経営をしているようなものだ。

 獣機だけでなく、戦機まで使って開拓をして耕作地を作った経緯もある。

 さすがに一般農園よりは単位面積当たりの収穫量に各段に差があることは確かだけど、畑が大きいんだから収穫量その者はかなりの量になるだろう。

 そうなると市場価格を落とすことになりかねないな。それは大農園を経営する連中であるならそれほど問題にはならないだろうが、痩せた畑を苦労して耕している地方の村々に大きな打撃を与えかねない。

 その辺りにも気を付けないと、王国内の格差問題にも発展することになりえそうだ。

 これは、かなり根の深い話になるんじゃないか。


「アリスの話は、人口が増えているなら食料生産量もそれに見合うように増産すれば良いという事かな?」

『そうです。食料需給率は常に留意すべきでしょう。単に、換金作物を作れば良いという事ではありません』


 耳痛い話だな。

 アオイを連れて、一度ヒルダ様と話をしてみるか。

 ヒルダ様なら人口推移についての情報も持っているに違いない。


 その日の夜。

 アレク達の釣り自慢の話が一段落ついたのを見計らって、アオイにウエリントン王国のヒルダ様を訪ねるべく話をしてみた。


「何かあるのかい? 今日一番の大物を釣り上げたから、とりあえず俺の都合は問題ないよ」


 アオイの言葉に、アレクやベラスコがきつい目を向けているんだよなぁ。

 趣味の世界なんだから、そんなに対抗意識を燃やす必要はないと思うんだけどなぁ。


「ちょっと気になることがあるんだ。さすがに俺達には分からないから、ヒルダ様に伝えておこうと思っている。場合によってはアオイにも関係するかもと思ってね」


 俺の言葉に興味を覚えたのか、カテリナさんが俺達に顔を向ける。


「私達にも教えてくれても良さそうに思えるんだけど?」


 うんうんとフレイヤ達も頷いているんだよなぁ。

 ここは、早めに話しておこう。

 俺の危惧を伝えると、皆がちょっと目を大きくしている。

 可能性はあるということになるんだろう。特にアレクは農園の長男だからなぁ。

 酔いがさめた顔で俺を見てるんだよね。


「豊作なら市場価格が下がる。凶作なら上がるというのは理解できるが、この領地の開拓を進めることで市場価格が下がるというのは考えてしまうな。ましてや耕作面積当たりの収穫量を上げるのが農学とも聞いている。一般国民には都合が良いだろうが、農家にも利があるとは限らないという事なんだろう。リオ達が行うことで、そんな将来になるなら早めに対策を考えた方が良いんじゃないか」


 アレクの言葉が耳に痛い。

 要するに、急なバランス崩壊は良くないということになるんだろうな。


「需要と供給のバランスを一定に保つのは国策でもありますからね。その辺りを確認してから、何を作るか開拓団と協議したいと思います」

「そうだな。場合によっては林業と言う手もあるし、牧畜だってできるだろう」


 牧畜も良さそうだな。野菜や果物を作るよりも牧草なら容易に作れそうだ。

 もっとも、その後の精肉なんかで苦労しそうだけどね。


 皆が納得してくれたところで、フェダーン様経由でヒルダ様に連絡を入れる。

 俺の危惧を聞いて、ちょっと驚いていたようだがフェダーン様が関係者と事前調整をした上で、此方に連絡をしてくれると約束してくれた。

 さすがに、直ぐに対応が取れるとも思えないからなぁ。俺達が向かう前に、情報を集めることになるんだろう。


「しかし気になることは確かだな。王国の人口は果たして増えているんだろうか?」


 再びグラスを手にしたアレクの言葉に、皆が首を傾げる。


「新築の家が農園の周辺にも増えていると聞いたけど……。それに、農家なら子供は数人いる筈よ。少しずつだけど増えているように思えるんだけど」


「新たに騎士団を創設した話は、あまり聞きません。でも騎士団員は、どこも増えているように思えます」


フレイヤやレイドラの話は、そう思えるだけで確証がないんだよなぁ。

 少なくとも王国の総務部局なら、人口統計は押さえているはずだ。そうでもしないと税を取っての予算が組めないだろう。

 人口増加率に見合った食料増産計画を作れば、必要な耕作面積が自ずと出てくる。

 その範囲内で農業をするなら、価格の暴落は防げるということになるんだが……。そう簡単なものでもないだろう。誰もが食事を綺麗に食べるわけではないからね。無駄になる食料割合についても調査しないといけないんだろうなぁ。


「村を豊かにするために農業収益を上げようと考えていたんだが、場合によっては収益率が下がりかねないのか……。実験農場の成果を広めるのは、リオの調査結果を見てからにした方が良さそうだな。とはいえ、緑を増やす分には問題はないはずだ。荒地を緑にして森を広げる事を優先するよ。それでも薬草や木材は市場に出せそうだからね」

「それも林業ギルドと調整すべきだろうな。木材価格が下落したなら、既存の木材供給網に影響が出て来るぞ」


『大量に』という枕言葉が付かなければ何とかなりそうなんだけどなぁ。だけど、急に農学の成果が表れるとは限らないはずだ。

 余裕期間があるはずだから、その期間内に調整すれば良いようにも思えるけど、やはり事前調整は必要になるだろう。


「王国の為に良かれと思っての行動で、不幸な人々が出てくることが無いようにしてくださいね」

「重々承知しています。ヴィオラ騎士団の矜持にも関わりますからね。『騎士は誠実であれ!』今でも忘れてはいませんよ」


 誠実であればこその農業開発だからなぁ。星の海の西への足掛かりには大量の食料が必要だ。それを賄おうとして始めたつもりなんだが、開発いかんで小さな農家を没落するようなことがあるなら本末転倒になりかねない。

 作れば良いということではないということが良く分かった。ヒルダ様達の王国運営との調整は早い方が良さそうだ。


「カテリナさん。王国の総人口調査は王宮の内政部門ということになるんでしょうが、どの程度の頻度で行っているんでしょうか?」


「そうねぇ……。聞いたことが無いわ。直轄領、貴族領の申告になるんでしょうけど、出生、死亡、転居等があるはずだからしっかりと管理しておかないといけないでしょうね。出生と死亡は領内を管轄する神殿や教会が行うはずだけど……」


 かなりいい加減なところがありそうだな。税も王国の支出が赤字になっていないから、それが正しいものなのか分からないかもしれないな。

 貴族達の権益を犯すことなく国政を進めてきたのが原因なんだろうけど、長期計画を立てるには色々と問題がありそうに思える。


「代官の仕事って何なんでしょうかねぇ。領内の人々の総数すら分からないで仕事をしているというのも考えてしまいます」

「リオの言うことも分かるけど、あまり叩くと反感を持たれるぞ。だが、このままでは拙いことも確かだな。王国のトップである国王の思惑もあるだろうし、かといってこのまま進めば没落する農家も出てきそうだからなぁ。問題点の提示を行って、王宮の対応を見守るしかないと思うんだが……」


 俺達は騎士団であって、王国の政治に介入することは無いからなぁ。とはいえ結構仕事を仰せつかってはいるんだが、その都度報酬を得ているからそれで納得しているところもある。他の貴族はどうなんだろう?

 ヒルダ様達の話を聞く限り政争に明け暮れているらしいけど、本来の仕事だってあるんじゃないかな。

 その辺りの実情を確認すべきだというぐらいの提言は俺達でもできそうに思える。名目貴族だけど貴族は貴族だからね。


「ヒルダから連絡が届いたわ。明後日の昼食を一緒にと言っていたわよ。でも私達は休暇なのよねぇ。リオ君とアオイ君で行ってきなさい」


 カテリナさんの言葉に、皆がうんうんと頷いているんだよなぁ。アオイと顔を見合わせて、互いに深い溜息を吐く。

 言い出したのは俺だし、アオイも関係者だからしょうがないとしても、俺達の妻達は行かなくても良いんだろうか?

 王族なんだから、少しは関係しそうに思えるんだけどなぁ。


「せっかくノビノビできるんだから、私達は此処にいるわ。それに聞いてもさっぱりだしね。ジッとしているより、ここで体を動かしていた方が次の任務を遂行する上で重要に思えるわ」


 フレイヤの言葉に、3人の王女様達が頷いているんだよなぁ。再びアオイと溜息を吐くことになってしまった。


「国政を上手く行う上での提言だとヒルダに話しておいたわ。それほど長い時間は掛からないでしょうから、お土産を期待してるわね。だいぶワインが減っているの」


 それだけ飲んでしまったということなんだろうな。

 2ダースほど買い込んで来ればいいか。

 まだ休暇は続くんだからね。


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