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★ 13 フリーハンドを貰ったぞ


「薬草の種類は多いということになるのか?」


 俺達と晩餐の席に着いた国王陛下が、農業と薬草に付いての話を聞いて問い掛けてきた。

 どの王国でもそうだが、あまり薬草の数は知られていないようだ。民間療法という形では沢山あるようだけど、医者が患者に手渡す薬として使われる薬草は10種類程度ということだからなぁ。

 そもそもが『サフロ』とよばれる回復魔法で済ませているのが現状のようだ。


「俺は魔法が使えません。それでも病気や怪我に対する措置はある程度できます。リオの話では『将来は魔法が使えなくなることも考えるべき』ということでしたので、外的治療と内的治療の2つに区分した医療を学問として学んで貰おうと考えております。薬草は、主に内的治療に用いようと考えているんですが、先ずはどのような植物が王国内にあるのかを調べて、その利用方法を考えようとしているところです」


 うんうんと頷いているのは、今まで何故そのような事を誰もしなかったのかと訝しんでいるのだろう。

 魔法が使えるなら、それで十分ということだったに違いない。

 だが、それだけで十分だったのだろうか?

 魔法を使うことで傷口周辺の細胞の活性化を図り、傷口を塞ぐことができる。

 もしも深い傷を受けて、内臓まで損傷したならどうなるんだろう?

 リオの話では、死を待つしかないらしい。強力な鎮痛薬を飲ませて痛みを和らげるだけで、内臓の損傷を直そうとまでは考えていないとのことだった。

 人体の作りがどのようになっているかを知らない医者ばかりだと嘆いていたからなぁ。解剖をしたことも無いとはねぇ。それで医者と言えるのかと話を聞いて考えてしまったことがある。


「医学は命を預かる学問でもあります。それなりの注意をして措置をするつもりですが、それ以外にも常に王国の医者を傍に置き、処置に対して過ちがあれば指摘して頂くつもりです」


「指摘は最小限にするよう命じている。たぶんその場で指摘をすることは無いだろう。措置が終わったところで立会者の問いに答えて貰えば十分だ」


 手術の最中に手を止められても困ってしまうからなぁ。ありがたく陛下の言葉に頷いておく。


「それにしても、毎時100ケム以上で砂の海を走破できるとは凄い戦闘艇もあったものだ。アオイ殿が作ったと聞いているが、同じ戦闘艇を作れるだろうか?」


 リオは俺達の科学技術を使うことに慎重だったからなぁ。安易な技術提供が必ずしもその世界に幸せをもたらせるものではないことは、俺もこの仕事に就く前に何度となく管理局から教えられた。


「あの戦闘艇は、リオの話によるとかつての帝国時代に作られた品のようです。動かすことは出来ますが、同じ戦闘艇を作るのは不可能でしょう。リオがフェダーン様の命を受けてヴィオラ騎士団のガリナム戦闘艇に似た船体を作ろうとしています。同盟国ですからそれを買い入れる方が、王国軍の艦列に加える上でも都合がよろしいかと」


「フェダーンから、ガリナムが帝国の遺産であると聞いたことがある。最大船速が毎時40ケムを越えるということだからなぁ。2隻で砂の海を遊弋することが出来れば海賊の取り締まりも容易だろう」


 海賊対策ということか。俺達も10日程のサイクルで、ナルビクとエルトリアの北の砂の海を行き来しているが、どうやら俺達がいない期日が海賊には分かるらしい。

 どこからか情報が洩れているのだろうと考えていると、同行してきた将軍がギルドからの情報だと教えてくれた。

 海賊専用のギルドさえあるらしい。となれば海賊稼業に必要な情報は金を出せば得られるということになる。

 それにしてもねぇ……。そんなギルドが合法だというんだからなぁ。世の中は広いというしかないな。


「海賊と傭兵団を明確に区分するのは難しい。ブラウ同盟の3国とも建国時には海賊の協力を仰いだこともあったのだ。それもあって、海賊は人を殺めたり相手の積荷を全て奪わぬ限り捕縛することは出来んのだよ」


 最初から襲ってくるような海賊なら、応戦しても罪にはならないのは理解できるけどね。だけど、積荷の半分を要求するのも問題に思えるんだけどなぁ。その対価が、近くの陸港までの護衛と言うとも考えてしまう。


 俺が首を捻っているのを見て、笑みを浮かべた国王陛下がその理由を説明してくれた。

 対価の支払いを受けた海賊は、たとえ相手がチラノの大群であったとしても、全力で支払った陸上船を守ってくれるらしい。

 それこそ全滅するまで戦うという事だから、海賊と護衛交渉を成立させた後の船舶は安心して魔獣の跋扈する区域から帰投出来るとのことだ。


「そんな海賊連中を傭兵団として区別することもあるようだ。騎士団と海賊の間に傭兵団があると考えれば良いだろう。怪しい陸上艦を見つけたなら、先ずは様子を見て欲しい。海賊行為は重罪だが、傭兵的な行為であるなら罪とも言えんからなあ」


 対価のマックス値が積み荷の5割は暴利に聞こえるが、それによって魔獣からの危機を回避できるなら案外安いという事なのかな?

 その契約で自分達が砂の海で朽ち果てる覚悟があるというんだからなぁ。

 なんか、俺もやってみたくなってきたぞ。騎士団よりもロマンがありそうに思えるんだよなぁ。


「国法的にはグレーという事ですから、ラミー達の悪評が立たないようにお願いします」


 俺の心を見透かすかのようにお妃様が囁くような声で俺に念を押してくる。

 黒ではないが白でもないということか。やはり降嫁したとはいえ王宮内に波風を立たせるのは止めておこう。


「必要悪として許容しているようなら、あまり関りを持たぬようにします。とは言っても、そんな事態に遭遇した時は介入することになるでしょう」


「それは騎士団としての矜持だからな。ましてやアオイは戦姫を駆る騎士でもある。判断はアオイの思うところで十分だ」


 フリーハンドを得られたということかな?

 後でリオに文句を言われないようにすれば良いんだろうが、やり過ぎなければ問題は無さそうだな。


「孫をよろしく頼む!」と言い残して、国王陛下が離宮を後にした。

 部屋から姿を消すまで見送れば、今日のイベントが全て終わったということになる。

 場所をリビングに移して、ワインを頂く。

 立派なテーブルとソファーだから、タバコに火を点けるのを躊躇してしまうんだけど、やはりホッとした時に吸うタバコは格別だな。


「明日は懇意のサロンが開かれます。ラミー達も一緒ですよ。新たな男爵に嫁いだのですから御婦人方に暮らしの様子を話して差し上げれば良いでしょう」


「特に注意することは?」


「そうですねぇ……。共同経営を打診してくる可能性があるかもしれません。例のカニが目的でしょう。美味しいカニが獲れるのですから、その権益を得ようと考えるの貴族の妻としては当然なのでしょう」


 俺達にカニを獲らせて、それを売りさばいて設けようと考えてるのかな?


「そんな話が出たなら、断ってくれないかな。あれはちょっとしたイベントだからね。専業化しようなんて考えは無い。そんな事に時間を使うなら西の調査をした方が将来の為になるだろう」


 ブラウ同盟軍に関わる3つの王国の御用商会にカニを卸している。

 それ以外に王宮イベント用とお后様達の戦略用に少し融通してはいるが、それで十分だろう。リオがウエリントン王国を担当してくれるから、俺はナルビクとエルトリアの王国にカニを届ければ良い。


「カニは貴重という結果になるのですね。ありがたく使わせて貰いますわ」


「多く必要な時には、あらかじめご連絡下されば御用意できるでしょう。実験農場の維持費を出して頂けるのですから、俺としても応えないといけません」


「あちらは問題ありませんわ。ミネルヴァ様も不定期に艦隊を砂の海に派遣するようなものだと言っておりました。貴族達は小型の陸上艦と思っているようですが、ミネルヴァ様は巡洋艦数隻の機動艦隊に匹敵すると評価しておりました。それが駆逐艦1隻の維持費というのですからねぇ」


 おもしろそうに話してくれたんだけど、人件費と食料それに艦体の補修費などで年間金貨20枚以上必要とするらしい。さらには使われなくなった基地とはいえ、放っておいたら廃墟になってしまうからなぁ。海賊達の根城にならないように少数の部隊を駐屯させていたらしい。

 それらを纏めて有効利用できるのだから、お后様達も嬉しいのだろう。


「夜も更けてまいりました。明日の朝食は10時にしますから、ゆっくりとお休みください」


 俺ではなく2人の王女様達に向かって、笑みを浮かべながら朝食の時間を教えてくれた。

 俺はともかく、2人は昼食会を兼ねたサロンということだからなぁ。さすがに礼儀作法は十分に知っているに違いないけど、リバイアサンで長く暮らしていたから、その影響が出ないと良いのだけれど……。


「それでは、失礼いたします。お休みなさい」


 席を立って軽くお后様に頭を下げると、両脇の2人も同じように頭を下げている。

 そんな俺達を見たお后様が、今にも大声で笑い出したいのを必死にこらえているんだよなぁ。

 口元を扇子で隠しているんだけど、目が既にウルウル状態だし、肩が小刻みに震えている。

 さすがに淑女だけあって、何とか堪えているのが良く分かるんだよね。

 ここは早めに、部屋を出た方が良いだろう。

 2人の腰を押すようにしてリビング出る。扉が閉まった同時に小さな笑い声が聞こえてきた。

 お后様の矜持をどうにか守ることができたようだな。


 2人の後に付いて回廊を奥に進むと、左手の扉の前で足を止める。

 どうやらここが客室ということになるのだろう。

 扉を開けて2人が中に入るのを待って、最後に部屋に入る。

 さて、風呂に入って直ぐに寝よう。

 明日は学府に向かわねばなるまい。時間を言っていなかったから、午後でも良いのかもしれないな。

 

 2人を連れて風呂に向かったんだが……。客室用の風呂とは思えないほど大きな風呂だ。

 これなら5人家族が全員一度に入れそうに思える、

 直径2mの円形の風呂はスープ皿に思えてならない。

 リバイアサンの風呂に入っていなかったら、この風呂を見て躊躇したかもしれないな。

 衣服を脱いで先ずは湯船に浸かろう。

 直ぐに2人が俺の両側に入ってきた。湯気が籠らないのは、窓が少し開けられているからに違いない。部屋の明かりに誘われた虫が入って来ないのは、何等かの魔法が使われているのだろう。

 外から虫の声が遠く近くに聞こえてくる。

 案外風流な思いが出来るなぁ。リバイアサンのジャングル風呂は鳥の鳴き声が聞こえるんだけど、あれも案外野趣があるんだよねぇ。


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