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★ 12 自らの良心に従えば良いらしい


「リオ殿もそうですが、アオイ殿も宮殿に入りたがらないのですね」


 笑みを浮かべての話だから、それを責めているわけではないのだろう。どちらかと言えば変人とみられているのかもしれないな。


「格式ばった場所は肩が凝ります。元々は平民ですから男爵という肩書もあまりピンと来ないところがあります。とはいえ、騎士は貴族と同格という言葉もありますから、騎士の矜持を保てば問題ないと、リオから教えを受けてはいるのですが……」

「戦姫の騎士なら貴族を越えるでしょう。私も、その対応で問題は無いと思います。本来なら,王宮内で陛下と晩餐を共にして欲しかったのですが、この離宮でも良いでしょう。陛下が私を訪ねてくるだけですからね」

「ご心配をお掛けして申し訳ありません」


 軽く頭を下げる。

 これだから貴族社会は面倒なんだよなぁ。

 

「学長より、新たな学部の学生が王国内を忙しそうにとびまわっていると報告がありました。自走車を3台寄付したのですが、小さな荷車を後ろに曳いて王国内を探索しているようです」


 早速始めたらしい。

 先ずは王国内の植物のリストを作れと指示したんだが、きちんと標本を作ることができたかな?


「王国内の植物図鑑を作ろうとしているんです。ナルビク王国を終えたなら、エルトニア、ウエリントンと進めていくつもりです。王国内に育つ植物がどれほどの種類になるか、それが現在利用されているのか、将来的な利用価値があるのか……。草花1つを採取しても見る観点でいろんな答えが得られるはずです」

「アオイ様の観点からは雑草という言葉は無さそうですね」


「雑草……。利用価値が無く見栄えもしない植物ということになるんでしょうね。そんな中にも案外有効利用できる種類があるかもしれません。学生達に、ブラウ同盟の王国内にある植物を調べるように指示したのは、それらの雑草が同じであるか確かめる為です。各王国の版図は東西に長いですからね。進化の過程で姿が変わっている可能性もあります。俺もボルテ・チノで魔獣狩りをする際にそんな植物を採取しようと考えています。

 星の海の西に果て、コリント同盟の王国……。案外、形が違っているかもしれませんし、それが本来の姿とも言えます。もし、同じであったなら……。これはリオと真剣に話しあうことになりそうです」


 大陸の植物に地域差が無いとなれば、それは魔導大戦と言われる古代帝国の内戦後に植物の種を広く撒いたからに違いない。

 砂の海は元々は緑の沃野だったらしいからなぁ。案外この惑星の動植物は一度リセットされているのかもしれない。


「それほど違いがあるとも思えないのですが?」

「その違いを見付ける方法を見付けることも、学生に指示を出しております。明日はどんな方法で分類したのかを聞くのが楽しみです。ところで……」


 王女達に万が一のことがあるようなら、それこそ王国内の大問題になるだろう。陸港は専門の警邏部隊が巡回しているから、治安は良いと思うのだが王国内の隅々までがそうであるとは思えないし、政争に明け暮れる貴族達は権威を振りかざしているかもしれない。俺が一緒ならそれなりに対処できるだろうけど、場合によっては王女達が銃を使うことだってあり得る。


「王女達が地位を振りかざすようであれば、しっかりと諫めてください。相手が一方的に狼藉を働こうとするなら、王女が銃を使う事は何ら問題はありません。とはいえ、直ぐに警邏部隊を呼び寄せて経緯を説明してください。簡単な報告書が近衛兵の屯所に届き、陛下の耳に入るはずです」


「経緯が明確であるなら問題ないと?」

「そうです。場合によっては真実審判官が当事者から話を聞くこともあるでしょう。ですが、アオイ殿達をそのような場所に召喚するようなことにはならないと思いますよ」


 ちょっと驚いた顔をしたんだろうな。お后様の笑みが深まった気がする。

 今の話を聞くと、特権を持ったようにも思えてしまう。

 俺が王国に害をなさないためということになるんだろうが、そうなるとむやみに事を構える事を躊躇してしまいそうだ。


「ある意味、特権と考えても良いでしょう。アオイ殿が自らの良心に従っての行動であるなら問題は無いという事になります。ウエリントンの例に習って、ナルビクの暗部からメイド長を出しています。迷ったなら彼女に相談するのも手ですよ」


 王女達の降嫁に伴って、2人ずつメイドさんがやってきたんだよな。そのメイドさんを束ねるのがエミルさんという小母さんなんだけど、やはりそういうことになるんだろう。

 たまにメープルさんと試合をする時には、どこからか現れて見学しているんだよなぁ。

 その内に、試合を挑まれるんだろうか?

 メープルさんと同じような技量の持ち主だと考えると、結構面倒な相手に思えてしまう。


「王女達がアオイ殿と離れて動くような場合が生じるなら、事前にエミルに知らせることで動いてくれるはずです」

「護衛を依頼できるということですね。覚えておきます」


 それなら俺が入店するのを躊躇するような場所も問題は無さそうだ。さすがに王女達が銃を使うような王国というのはねぇ。そのようなことが無いように色々と考えておかないといけないな。


 メイドさんが入って来て、お后様の耳元で何か告げている。

 何度か頷いているから、来客の知らせなのかもしれないな。俺達がやってくると知っての来客ということだろうから、俺達も同席することになるのかもしれない。


「エカルニア様達は、この部屋にご案内してくださいな。そして学長達は下の応接室にご案内してください。……アオイ殿。ポーラが応接室にご案内します」


 俺に向かってメイドさんが深々と頭を下げてくれた。

 王女達の膝を小さく叩いて、席を立つ。


「多分、実験農場の話だろう。おもしろくないだろうから俺だけで十分だ」


 2人とも頷いてはくれたけど、何となく恨めし気な目をしてるんだよなぁ。

 この部屋に通されるエカルニア様とはどんな人なんだろう? ご婦人だろうから、サロンの開催についての話に思えるんだけど、俺には関係が無さそうだからね。

 王族の身分は離れても、元王女という肩書は残っているはずだ。サロンに招くことで他のサロンとの違いを誇れるということかな?

 それも政争の一部に思えてしまうけど、リオの話では中には立派な事業を手掛けているサロンもあるらしい。そんなサロンに参加すべく2人の妻をヒルダ様が一生懸命に淑女たるべく育てているらしいんだけど、話を聞く限りでは思った通りにはいかないらしい。

 王宮から戻った2人を見る限りでは、かなり疲れ果てて見えるからなぁ。エミーさんは元王女と聞いたんだけど、王女時代は目が不自由だったらしい。そんなことだから他人と同席するような会席の場には出たことが無いと言っていた。

 フレイヤさんも、農家出身だからなぁ。上流階級の社交の場であるサロンに憧れていたようだけど、憧れと現実の乖離に驚いているようなところがあるんだよね。

 2人とも帰って来るなり、直ぐにドレスを脱ぎ捨てるんだからリオが困った顔を何時もしているんだよなぁ。


 苦笑いを浮かべながら、ポーラさんの後に付いて1階に下りる。エントランスから奥に向かって伸びる回廊の最初の左側の部屋が応接室らしい。

 ポーラさんが豪華な扉を前にして、小さく扉を叩く。

 中からもの音がしたのは、席を立ったということかな?

 それを待つような間を持って、ポーラさんが扉を開けると、「アオイ様をご案内しました」と部屋の中に頭を下げて後に下がる。

 俺が入れば良いってことかな?

 とりあえず部屋に足を踏み入れると3人の男女が立っていた。

 軽く頭を下げて、とりあえず座って貰う。

 何時までも立たせるわけにもいかないだろう。


「王宮にいらっしゃると聞いて、早速訪ねてまいりました。それと、新たな学科である医科を担当するパステル嬢を同行した次第です」


 軽く頭を下げた女性がパステルさんだ。隣のメンダルさんは以前紹介されたからね。農学を俺と一緒に学生達の面倒を見ることになる。


「新たな学科に伴う学府からの支出が無いこともあって、魔導科学の教授達からの反発はありません。強いて言うなら、人気が高いということになるのでしょうが農学、医学共に直ぐに世の中に役立つ物ではないと聞いて、若干の学生の出入りがありました」


 うんうんと学長の話を聞く。

 確かに直ぐに役立つ代物ではないだろう。今を考えるなら魔導科学を放棄するなど出来ないことだ。

 だが、リオの話を聞く限り、この世界から魔気と呼ばれる魔法の触媒のような代物が将来的に安定して供給されるとも思えない。

 無理やり生態系を歪ませて作られた魔気を産む生物はこの惑星の本来の生態系に駆逐されていくに違いない。

 それを長期的に考えれば、今からできる事をするのが当然ではあるんだが、それが開花するのは遥か先の世代になるだろうからなぁ。


「現在学生達は、植物標本を得るために王国内をあちこちと飛び回っています。アオイ殿がやってくるとの知らせを受けて戻って来ていますが、全員が揃うのは明日になりそうです」

「どれだけ集めたか。ちょっと興味がありますね。そうなると、農学については明後日にした方が良さそうです。明日は医学ということでよろしいでしょうか?」


 俺の言葉に、パステルさんが笑みを浮かべる。

 問題ないということになるのだろう。


「農学は医学とも密接に関わると聞いています。興味のある学生を聴講に参加させることは可能でしょうか?」

「ご自由にと言いたいところですけど……、まだ館を見ていないんです。それほど学生が入れるとも思えないのですが」


 俺の言葉に学長が笑い声をあげる。

 おかしな話だったのかな? リオの館でも数十人というところだったはずなんだけどなぁ。


「いや、失礼した。アオイ殿の館の1階は殆どが講堂のような物ですぞ。さすがに100人は無理でしょうが、2つの学生を集めても問題のない広さです」


 思わず、目が見開いてしまった。

 さすがにリオの館を越えるような館ではなぁ……。

 詳しく聞いてみると、どうやら聴講を目的に立てたらしい。仕切れば部屋を半分に出来るとのことだから思ったより大きくは無さそうだ。

 リオの館は学生の宿泊もできるような代物だったが、学府が直ぐ隣だからねぇ。

 宿泊は学府に戻ることで十分とのことだった。


「実験農場の館はさすがに大きくなったようです。ある意味貴族館と言えるでしょうが、他の貴族が羨むような代物では無いでしょう」


 貴族館としては小さなものになるらしい。一般の貴族館と異なるのは立派な客室が2つあるとのことだった。

 そもそもがミネヴァ様の領地という形を取っているからね。滅多に来ることは無いと思うんだけど、来所した時の事を考えての部屋ということになるのだろう。


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