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★ 10 ナルビク王国の陸港


 ナルビク王国の学府は王宮の隣にある。

 これはウエリントン王国やエルトニア王国も同じらしい。王宮が広大な森の中にあるということで学府を作るのにも都合が良かったのだろう。それに王宮の敷地に隣接した施設ということが学府としても威厳を保てるということかもしれないな。

 俺が拝領した王宮の館は学府と王宮を隔てる豊かな森の中に作られている。これもリオの王宮内の別宅と同じということなんだろうな。宮殿前の大きな広場に至る道と、学府に至る道が館前の広場から伸びている。

 宮殿からかなり離れた位置だから、貴族が羨ましがるようなことが無いらしい。

 どちらかと言えば、せっかく宮殿内に部屋を持てるのを放棄した奇人に思われているとのことだった。


 ナルビク王国の陸港にボルテ・チノを停泊させると、直ぐにメイドさん達が船を下りて行った。

 館の準備をすると言っていたけど、今夜は出前で済ませるんだからそんなに慌てなくても良いと思うんだけどなぁ。

 俺達が最後に船を下りて、しっかりとボルテ・チノの扉をロックする。

 ボルテ・チノの電脳が自己点検を行い、必要な補修を行ってくれる。俺達の船をジッと見つめるドワーフ族の一団が気になるところだが、眺めているだけなら問題はない。


「あんたの船か?」


 その中の1人が俺に問い掛けてきた。


「そうです。結構面白い船ですよ。点検と修理の必要はありません。補給もいりません」


「足回りぐらいはしておいた方が良いんじゃないか? 何なら俺達がやってやるぞ」


 興味深々な表情でさらに問い掛けてくる。どちらかというと提案なんだが、詳しく調べたいということなんだろう。


「外から見学するぐらいなら構いませんよ。でも足回りは……、まぁ見れば分かると思うんですが、車輪を駆動する装置は付いていません。この車輪は飾りに近いものですからね」

「飾りじゃと!」


 驚いてるなぁ。直ぐに桟橋を仲間と共に走り出して行ったのは、車輪を見る為だろう。

 おもしろそうに俺達の会話を聞いていた2人に振り返って、軽く頷く。

 2人の王女様が笑みを浮かべて俺に近付いて来た。

 先ずは買い物ということになりそうだな。


 陸港の桟橋の下は、2階層の大きなショッピングモールが広がっている。

 陸港にはホテルやレストランもあるから、かなりの賑わいだ。軍港と併設されている港だから軍人だけでなく騎士団の連中もちらほら視界に入る。

 そんな騎士団の騎士達に、笑みを浮かべてテラス席から手を振る娘さん達もいるんだよなぁ。

 ある意味、出会いの場でもあるみたいだ。

 騎士団の制服は軍服と違って煌びやかだからなぁ。娘さん達が憧れるのも無理は無いということになるのだろう。

 そんな中で俺達のようなツナギを着た若者達も多いように思える。リオ達に憧れてウエリントン王国の若者達に人気があると聞いたけど、ナルビク王国も変わらないようだ。

 とはいえ、俺達のように採寸した手作りではないようだから、ちょっとやぼったく見えてしまう。

 隣の妻達はどうなんだろうと顔を向けると、しっかりと体にフィットしている感じだ。悪く言えば少し体の線が良く分かるのだが、2人ともスタイルが良いからねぇ。すれ違う若者が俺達を振り返るのは、俺では無くて妻達を見ているんだろうな。


「先ずは服を買います。この辺りで待っていてくださいな」

「さすがに、この店に入る勇気は無いからなぁ。そうさせて貰うよ」


 店先に小さな広場があるのは、俺と同じように女性の買い物を待つ男性の為に用意されているのかもしれない。広場を囲むように配置されたベンチには、小さなテーブルまで備えられている。

 軽い飲み物を楽しめるようにかもしれないけど、それを用意するということはそれだけ女性達の買い物が長いということにもなりそうだな。

 広場の片隅に大きな木箱にも見えるお店が目に入った。近くに歩いていくと、笑みを浮かべたネコ族のお姉さんと目が合ってしまった。


「広場で待つのかにゃ?」

「連れが買い物をするというんで、ここで待つことになりました」


 俺の言葉に笑み浮かべたままで頷いている。やはり見ただけで分かるということなんだろう。


「それなら、これを飲んで待ってるにゃ。ライネジュースにゃ!」


 大きな紙コップを直ぐに散りだしてくれたんだけど、ストローが付いているから、冷たい飲み物に違いない。

 値段を聞いてみたら、5デルと教えてくれた。言われるままに支払いを済ませて、開いているベンチに座る。

 先ずは一口……。

 かなり酸味が強いけど、結構甘味もあるんだよなぁ。

 不思議な味だけど、嫌いではない。

 タバコを取り出し、一服しながら待っているか。

                ・

                ・

                ・

「失礼ですが、相席をよろしいですかな?」


 突然の声に顔を上げると、20代後半に見える青年が立っていた。片手にカップを持っているところを見ると、俺と同じような境遇ということになるのだろう。


「どうぞ、どうぞ。ちょっと入るには勇気のいる店に連れが入ってしまったのでここで待っているところなんです」


 俺の言葉に笑みを浮かべながら頷くと、テーブル越しのベンチに腰を下ろしてカップを置いた。タバコを取り出したところを見ると、先ずは一服ということかな?


「私も同じですよ。そうですねぇ。やはり勇気ということになるんでしょうが、武技を誇ることは出来ても、あの店に入る勇気は持ち合わせていませんよ」


 そう言って、さも面白そうな顔をして笑い出した。

 あまり失礼にならないように、青年を見る。

 着用しているのは、騎士の制服のようだ。略式ということになるようで華美な装いでは無いが、しっかりと長剣を下げているし革製のホルスターには拳銃が収まっているのだろう。


「失礼ですが、騎士団の騎士でしょうか?」


「貴方も騎士とお見受けしました。私はナルビク王国に所属するデラート騎士団の騎士、ライネルです」


 丁寧に答えてくれた。騎士の中には乱暴者もいるとリオが言っていたけど、目の前の騎士はそんな連中ではないらしい。


「俺は……、言葉使いが悪い事はご容赦願います。名はアオイ、ウエリントン王国に所属するヴィオラ騎士団の騎士です」


 俺の言葉に、相手が目を大きく見開いた。

 長剣に手を伸ばしていないから、ヴィオラ騎士団に恨みがあるとは思えない。となると、その名を聞いて驚いたということになるのかな?


「戯れに名を使うのは、属する騎士団に汚名を付けることになりますぞ」


 リオの事だから、あちこちで問題を起こしていたに違いない。

 悪名でなければ良いんだが……。


「これがヴィオラ騎士団の騎士の印です」


 右手を出して、薬指の指輪を見せる。ドワーフ族の工房長が作った指輪には綺麗な宝石でヴィオラの花が描かれている。


「確かに……。いや、失礼した。さすがにあのヴィオラ騎士団にゆかりのある騎士がここにいるとは思わなかったので……」

「それなりにナルビク王国には来ているんですが、さすがに王都に頻繁に来るということは無いですからねぇ。今回も初めて陸港に入港したぐらいです。疑うのは仕方ありません」


 ほっとした表情を見せてくれた。先程はかなり焦っていたからなぁ。


「そうでしたか。では他の騎士達にも会えるということでしょうか?」

「生憎と、騎士は俺だけです。数人乗りの戦闘艇でやってきました。王都に数日滞在した後、エルトニアに向かうつもりです」


 うんうんと頷いているのは、上級騎士団と何か打ち合わせをするぐらいに思っているのだろう。

 それより、警邏隊が誰かを探しているようだ。

 陸港だからなぁ。それなりの犯罪もあるということになるのだろうか。

 俺の視線の先を見た、青年がカップを手に首を傾げている。

 上手そうに飲んでいるのは、コーヒーのようだな。俺も、そっちの方が良かったかもしれない。まだ2人が来ないようなら、次はコーヒーを頼むとするか。


「犯人探しではないようですね。陸港の警備は専門の警邏隊ですが、あの連中は軍人ですよ。目立たぬように警邏隊の制服を着てはいるようですが、警邏隊は長靴を履きませんからね」

「となると……!」


 まさか、俺達を迎えに来たってことかな?

 適当に王宮に向えば良いと思っていたんだが……。

 そういえば今朝方陸港に入港し、王宮に向かう事をラミーが連絡していた。

 よく考えてみれば、確かにそうなるよなぁ。

 何といってもナルビク王国の王女だからね。俺の妻になることで王位継承権を失ったと言っていたけど、王族であることは間違いない。


「俺が原因かもしれません。確かめてみます」


 席を立って、辺りを眺めている一団に手を振った。

 俺に気が付いたのか、直ぐに1人の隊員が駆け寄ってくる。


「何か?」


 近づいてきた隊員が問い掛けてきた。

 任務中ではあるが、困っている人がいるなら任務に支障が出ない限り助けようということかな。


「ひょっとして、人を探していると思ったんだけど?」


 俺の言葉に、きつい目を俺に向けてきた。


「その通りだ。先程桟橋で戦闘艇を確認したが、乗員は既に下りているとのこと。陸港の馬車乗り場で確認した限りでは馬車が1台しか使われていない。しかもメイド達だけだということだから、まだ陸港にいるということになる」

 

 やはり……。

 ここは早めに、兵士達を楽にさせるべきだろう。


「王女様をお探しに思えるのですが? それでしたら、あの店で買い物を楽しんでいるはずです」


 俺の言葉を聞いている内に顔色が変わってきた。俺を睨みつけると右手を長剣に柄に持っていく。握りはしたが抜く様子はないな。


「それを知っていると……。失礼だが、貴殿の名は?」

「アオイと言います」


 聞いた途端に、兵士が姿勢を正して騎士の例を取った。


「失礼しました! 申し訳ありませんがここを離れぬようお願いします」


 そう言うと、心配そうに成り行きを見守っている仲間に体を向けて手招きをする。

 近づいてきた仲間に駆け寄ると、俺に体を向けて指揮官らしき人物に何事か伝えているようだ。

 指揮官が小さく頷くと、兵士2人を引き連れて俺に向かってゆっくりと歩いてきた。


「初めてお目に掛かります。ナルビク王国第3近衛部隊を預かるヨルトマイネです。失礼ですがヴィオラ騎士団所属のアオイ男爵で間違いないでしょうか?」


 優雅に騎士の礼をしたところで問い掛けてきた。

 その通りだと答えると、ほっとした表情を浮かべる。やはり迎えに来てくれたみたいだな。


「さすがに王女様達を民草の馬車に乗せるというわけにもまいりません。馬車をご用意しましたのでご案内いたしたいのですが」


「荒野でしばらく過ごしていたからね。着飾ったり、買い物を楽しむことが出来なかったようだ。出来れば、もうしばらく待って貰えないだろうか?」


「それなら、私達3人がここでお待ちしましょう。確かに荒野ではそんな楽しみは持てないでしょう。妻の買い物を待つのは夫の矜持とも言われていますからなぁ」


 1人に指示を出してベンチの空いた席に腰を下ろした。

 待ってくれるならありがたいな。改めて売店に向かうと、コーヒーを5つ頼んだ。

 売店のカウンターから身を乗り出すようにして俺達を見ていたからね。誰に渡すかぐらいは分かっているはずだ。


「偉い人なのかにゃ?」

「偉くは無いと思うよ。でも皆から尊敬される人物にはなりたいね」


 支払いを済ませ、ベンチに戻ると直ぐにコーヒーが運ばれてきた。

 

「さすがにワインとは行きませんが、どうぞ!」

「申し訳ない。私にまで……」


 ちょっとした陸港でのハプニングということになるんだろうな。仲間内で酒を飲む際の肴になるのかもしれない。


「それにしても、到着が早かったですね。巡航50ケムと聞いた時には驚きましたが」

「ちょっと待ってくれ! まるで陸上艦のように聞こえるがそれは飛行機にことだろう? だが飛行機ならもっと速度が出るはずだ。話に聞く飛行船がアオイ殿の乗り物ということかな?」


 騎士が驚いた表情で問い掛けてきた。

 確かに通常の陸上艦なら時速40kmを出せないだろうからなぁ。陸上艦より速く飛行機より遅いということになれば飛行船ということか……。

 中々鋭い推測が出来る人物のようだな。


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