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M-369 休暇の過ごし方


 兵員の休暇は3カ月おきに2週間だ。

 その休暇に合わせて、俺達も別荘へと向かう。

 アオイ達と交代での休暇だけど、俺達を先にしてくれた。

 王子様達も帰国して状況報告を行うそうだから、プライベート区画でゆっくりと過ごして貰おう。


「そうもいかないんだ。アテナと講義資料を作らないといけないし、結構質問が送られてきてるんだよなぁ。それに応えるのも俺の仕事ってことだな」

「俺の場合はアリスが殆どやってくれてるんだが、アオイの場合は違うのかい?」


「多分やってくれていると思う。だけど、やはり俺なりに考えないと答えを返した後の質問に窮してしまうよ。ある程度こなしたところで、アテナの答えと整合を図るつもりだ。……とは言っても、ほとんどアテナの答えになりそうな気もするんだけどね」


 俺と違って、自分で答えを作ろうとする姿勢に頭が下がる。

 アオイはかなり優秀な人物だったんじゃないか? 軍では疎まれるのも何となく理解できるな。

 

「休暇中は、王都に向かうのかい?」


 俺の問いに、テーブルのワイングラスを手にしてデッキに顔を向ける。デッキにテーブルを出してエミー達と一緒にお茶を飲んでいる王女様が気になるのかな?


「やはり王女様達の元気な姿を見せないといけないだろうな。どちらの王国にも3日ほど足を延ばすつもりだ。その後は実験農場の館で過ごすよ。もっとも学生達がいるからのんびりとは出来ないだろうけどね」


 10日おきにこの地を離れて、東の王国の北部をボルテ・チノで遊弋したり、実験農場で学生達を教えているアオイだ。

 休暇を過ごすための農場に設けた館に向かっても、農場に滞在する学生達の質問攻めに会うのは目に見えている。

 ウエリントン王国よりも遅れて学府内に新たな学科を立ち上げたナルビク王国の方が案外早く成果を出すことになるんじゃないかな。

 アオイが目指すのは、かつての帝国時代のような緑の沃野と言うことになるんだろうけど、実現するにはかなりの年月が必要だろう。

 だけど、確実に1歩を踏み出してはいるんだよなぁ。

 長い道のりだけど、アオイ達なら歩き続けるに違いない。


「砂の海の土壌調査をしてみたよ。地中50mまでサンプリングしたんだが、本当に砂ばかりだったな。かろうじて地下45mに岩盤を見付けたんだが、5か所調査してそれが一番浅い岩盤だった」


「それほど砂に覆われているということか?」


 俺の問いにアオイが首を振る。

 詳しく聞いてみると、砂礫層が砂の下にあるらしい。粘土や土は見つけられなかったそうだ。


「栄養素が殆どない。古代大戦の後で風雨が砂礫を砂に変える中で失われてしまったんだろう。流出先は海ということになるんだろうが、案外地底湖に集まっているかもしれない。休暇を終えたら、地中湖の探索をしてみるつもりだ。植物の生育に必要な物は先ずは水と日光だからな」


「リバイアサンなら栄養素を合成もしくは抽出できると思うんだが?」


 俺の言葉に再びアオイが首を振る。


「それは止めておこう。どうしても出来ない場合は手伝って貰うかもしれないが、先ずは彼らに何が足りないかを学ばせたい。堆肥作りを獣人族が行っていたよ。堆肥だけでは不足する成分があるんだが……、それは簡単な抽出装置を作ってみるつもりだ。これからの事を考えると、与えることではなく自ら作り出すことが重要だろう」


 頭の下がる思いだ。

 彼にはカテリナさんのように、傍で力になってくれる存在がいないだろうからなぁ。

 学生達と、試行錯誤で農場を広げることになるんだろう。

 その試行錯誤が大事だということだな。

 正しくローマは1日にして成らずということだ。あちこち寄り道しながらも、確実に歩んでいくことが大事だと学生に教えるに違いない。


「なにも無いと思うけど、何かあれば知らせるよ」

「強いて言うなら、魔獣ぐらいだろうな。工事は中断しないそうだから、近付いて来た魔獣は倒してくれよ」

「それぐらいは心得てるよ。低級でも良いから10個ほど欲しいところだからね」


 お土産を購入するための魔石が得られるという事かな?

 実験農場で働く獣人族や学生達に渡すんだろう。

 その地に合った植物を育てるわけではないからね。収支は確実に赤字に違いない。その補填もしないといけないんだから結構大変なんだろう。


「カニでも持参したらどうだ? 王侯貴族には高値で売れるぞ」

「既に亜空間に保存しているよ。とは言っても、年間維持費がどれぐらいかかるか分からないからなぁ」


 苦笑いを浮かべながら席を立った。

 アオイの2人の妻が俺達の方に近付いて来る。これからひと風呂浴びるのかな?

 夕食には時間があるからね。

 ボルテ・チノにも風呂はあるらしいけど、リバイアサンから比べればはるかに小さいはずだ。伸び伸びと手足を伸ばせば、少しは重圧から逃れられるんじゃないかな。


 俺に手を振ってアオイ達が離れていく。

 入れ違いにやってきたのは、カテリナさんとユーリル様だ。

 フレイヤ達がいないのを見計らってきた感じだから、何を言い出すのかと身構えてしまう。


「フレイヤ達はまっすぐに王宮の屋敷へ連れて行くんでしょう? その後に私達を連れて行って欲しいんだけど、真っ直ぐに行くんじゃなくてサザーランドに行って欲しいんだけど……」

「その後の状況調査ということですか? 可能ですが、地上に降りることはしませんよ。さすがにカテリナさん達を危険に晒すわけにはいきません」


 俺の答えはあらかじめ予測していたんだろうな。2人が顔を見合わせて小さく頷いている。


「サンプルを採取出来ないかしら? どんな変化があるのか、それに今現在安全と言えるのか……。それを調べてみたいんだけど」


 なるほど、やはり画像だけでは分からないこともあるに違いない。

 とは言ってもなぁ……。

 2人とも、言い出したなら止めるのは難しそうだ。ここは遅延対策で対処するしかない。


「俺も興味がありますが、そのまま手で掴もうなんてことは危険極まり無いですよ。それを取り扱える装置を考えてみますから、それまでは我慢してください。でもサザーランドのかつての王宮の上空であれば問題は無さそうです。今回はそれで満足してくれませんか」

「案外慎重なのね。それだけ核と言うものが危険なんでしょうけど……。それで何時頃サンプリングの調査ができるのかしら?」


 ちょっと考えてみたけど、直ぐに答えが出るようなものでもない。

 ゆっくりと考えてみた方が良さそうだな。


「少なくとも直ぐに用意するのは無理です。かなり特殊な使い方をする装置になりそうですから、学府に設けることは出来ないでしょう。リバイアサンの施設を使ってならそれなりに形になりそうですから、アリスと一緒に考えることにします」


 アリスと一緒、という言葉に笑みを浮かべるんだからなぁ。

 確かに俺よりは頼れそうだけどね。

 待てよ。カテリナさんが調査したい項目が分れば、案外アリス単独で調査が終わってしまうんじゃないかな。

 アリスの能力なら容易なんだろうけど、カテリナさんはそこまでは考えていないようだ。それとも自らが調査することに意味があると思っているのかもしれない。


「リオ君がそれほど恐れる物なのね。良いわ。今回は上空からの確認で満足しましょう」


 何とか納得してくれたようだ。

 毒という認識なのかもしれないけど、そんな生易しい代物ではないのが問題なんだよなぁ。


 翌日。フェダーン様達は迎えに来た導師の飛行船に乗ってリバイアサンを離れていく。

 離着陸台から飛行船を見送ると、フレイヤ達をアリスに乗せて王宮の館に向かった。

 亜空間移動を行うから、それほど時間は掛からない。とは言っても亜空間移動が出来ることをあまり皆に見せるものでもないから、移動時にはリバイアサンから数十km離れて行なっている。

 その移動に時間が掛るのは、まぁ仕方のないことだろう。

 今回はメープルさんも一緒だ。一瞬に館に到着したから、ちょっと驚いているんだよなぁ。

 後はメープルさんに任せて再びリバイアサンに戻ると、離着陸台には大きなトランクを脇に置いたカテリナさん達が俺を待っていた。

 荷物をアリスの手に乗せると、たちまち空間に溶け込んでいく。

 アリスが作り出す亜空間の容積は一体どのぐらいあるんだろう? アオイの相棒であるアテナはボルテ・チノを丸ごと収容してしまうからなぁ。

 少なくとも戦艦ぐらいは余裕で亜空間に送り込めるのかもしれない。


「途中で釣りはしないんでしょう?」

「すでに息の良いのを確保しています。フェダーン様達も持っていくそうですけど、あれは冷凍ものですからね。王宮の闘技場が賑わうのは明後日辺りでしょう」


「兄王にも困ってしまいます。でも毎回楽しんでいるようですから、リオ様に何らかの報酬が贈られると思いますよ」

「あの館を頂いたようなものですから、それで十分ですよ。会う機会があれば、そのように伝えてください」


 操縦席の後ろの空間に腰を下ろした2人なんだけど、ユーリル様に答える際に後ろを見たらクッションを用意して腰を下ろしていた。

 コクピット内は全周スクリーンになっているからクッションに乗って空を飛んでいるような感覚になるに違いない。それも考慮して少し大きめのクッションを手に入れたのかな? クッションよりも絨毯の方が良いと思うんだけどなぁ。


「それでは、出発しますよ。先ずは星の海に向かって飛んでいきます」


 空を飛ぶことが出来るというのは、どうやら皆に認識されたみたいだ。

 とはいえこの世界の戦姫とはあまりにも性能が違い過ぎるから、俺を知る連中だけの時にしかあまり使うことは無い。

 高度300mで南下し、星の海に出る。

 後方にリバイアサンが見えなくなったから、そろそろ亜空間移動に入ろう。


「アリス。亜空間移動をしてくれ!」

『移動先は、サザーランド王国の王都上空500mとします。それでは……』


 空間がぐにゃりと歪む。

 それが元に戻った時、下界に広がっていた大海が消え去り、緑の大地から突き出すように石造りの廃墟が姿を現した。

 あれから2年近く経過しているからなあ。

 放射線で遺伝子を傷つけられているのだろうが、植物の生育が始まっているみたいだ。

 だが、現在王宮を覆っている植物が果たしてかつ手此処で生育していた植物と同じかどうかは分からない。案外遠くから運ばれてきた種が値を下ろしているのかもしれないな。


「荒廃した大地があるのかと思っていたけど、だいぶ緑が多いわね」

「とはいえ、雑木は芽吹いていないようです。少し丈の長い雑草ばかりです」


 このまま、ここにいるとサンプルの採取を要求されかねない。

 ゆっくり王宮の上空を回りながら王宮から遠ざかることにした。動物の姿を探そうと、サブスクリーンを作ってサーマル画像を映しだす。

 まだ線量が高いのだろうか。王宮周辺にはネズミのような小さな動物が何匹か活動しているだけのようだ。


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