表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
377/391

M-368 改革が必要に思えるけど


 世の中には世渡りの上手い奴や、真面目なんだけど目立たずに損をする連中がいることはよく知っているつもりだ。

 アオイは、案外後者になるのだろう。

 きちんと役割をこなすし、それを当然と思っているらしく他者に誇るようなことはしないんだよなぁ。

 軍を離れることになったのも、それが原因かもしれないな。

 あいつの性格を考えると、他者の失敗を自分で被るぐらいのことはやりそうだ。


「アオイ君を近頃見ないんだけど?」

「彼なら、エルトニア王国の砂の海をボルテ・チノで遊弋していると思いますよ。彼も魔気を作る存在に興味を持ったようです」

「リオ君達で調べるだけでは不足という事かしら?」


 カテリナさんが興味を持ったらしく、のんびりとリビングのソファーに座って仮想スクリーンを眺めていた俺の隣に腰を下ろしてきた。

 いつもの事だけど、そんな俺達を見てユーリル様が吹き出しそうになって紅茶の入ったカップをテーブルに慌てて戻している。

 昨夜撮影した星雲の写真の分析は終わったのかな?


「さすがに俺達だけでは無理ですよ。それに見解が偏りかねません。他者の調査や確認は実証するための手段でもあります」

「個人的意見と集団による意見の差という事かしら? なるほどね……。魔道科学ではあまり使われないんだけど、新たな学問を進める上では必要でしょうね」


「それは、私の進める天文学にも当てはまるという事ですよね。リオ様の意見を聞くことが出来ますし、興味を持った学生も参加して観測結果について協議をしてはいますけど……」


 ユーリル様の言葉は、自分達の観測結果から引き出される推論が正しいのか迷っているみたいだ。

 でも、それは無駄ではないはずだ。

 自分達の導き出した推論が絶対に正しいと執着しなければ良い。

 今はこの説が有力だとしても、他の説の方に説得力があると判断したなら直にそれを受け入れられる体制を作り上げるべきだろう。

 天文学の世界では、いまだに解決しないことが山のようにある。

 それを説明するための学説は、後を絶たないとも聞いたことがあるからなぁ。

 ユーリル様達が観測結果から得た情報を元に組み上げた宇宙論が、帝国崩壊後の最初の宇宙論になるはずだ。

 その推論が正しいのか否かは、後輩が実証してくれるに違いない。


「初めて望遠鏡で星を見てから2年は経過していると思います。そろそろ執筆を考えてはどうでしょう? 学府で学生に天文学を講義する上でも専門書は必要ですよ」


 俺の言葉に、ユーリル様がカテリナさんに顔を向けた。

 2人でしばらく見つめ合っていたけど、互いに頷いたという事は何らかの同意が得られたという事になるんだろう。

 はっきりと言葉にすれば良いんだけど、2人とも変わっているからねぇ。

 互いに同意したと思っているだけで、全く違うことを考えているってことあり得るように思えてならない。というより、絶対に違っているんじゃないかな。

 溜息を吐いたところで、タバコに火を点けた。

 

「なんか、達観した顔をしているけど?」


 カテリナさんがそんな言葉を投げてきたけど、それはカテリナさん達との暮らしが長いから分かって来たことだし、今更変えられるものでもないと理解できたからだと思うな。


「いや、至って正常ですよ。世の中は不思議に満ちていると自覚しただけです」

「それなら良いんだけど……。話を戻すと、アオイ君に手伝って貰いたかったのよねぇ。でもいないんなら、リオ君にお願いしようかしら?」


 あいつも頼まれると嫌とは言わないからなぁ。

 多分了承するに違いないが、せっかく新たな学問を広げようとしているところだ。

 あまり負荷を掛けたくないんだよなぁ。


「長期的な物であるなら、アオイに頼むのも良いと思います。でも、実験農場もありますからね。短期的な依頼は、できれば避けてあげたいところです」


 ニタリ……とカテリナさんが小悪魔的な笑みを浮かべる。


「となると、リオ君になってしまうわね。実は……」


 だんだんとカテリナさんの言葉に引き込まれるのが自分でも分かる。

 どうやら、学府の改革を目論んでいるらしい。

 これまでの学府は子弟関係を重視していてようだ。学府を出るのは魔導師である師が弟子の資質が魔導士を越えたと判断したところで終わるらしい。その中の一部が学府の残って更なる研鑽を積み魔導師になるとのことだ。


「師となる魔導師によって、その判断がまちまちなの。おかげで人生の貴重な時間を学府で過ごす者達もいるのよ。それに、師が気に食わない人物と判断したなら、簡単に学府を追い出されてしまうわ」


 よくも、カテリナさんやユーリル様が追い出されなかったと感心してしまう。

 だけどそんなシステムなら、改革を行うこと事態は俺も賛成だ。

 しかし、学府は王宮としてもあまり手を出せない領域だと思うんだよなぁ。

 そんなところをどうやって改革していくんだろう……。


「ひょっとして、新たな学部にそれを取り入れるということですか?」

「正解! さすがね。その通りよ。それなら、学長も文句が言えないでしょう?」


 ある意味実験的な導入と言えるだろう。

 上手くいかなくとも、既存のシステムに影響を与えることがない。上手くいったならそれを真近で見ているから容易に取り入れる事も出来るだろう。

 学府側としても反対することはないか……。


「短期には無理ですよ。それにアオイの方にも関わるでしょうから、素案については彼とも調整して見ましょう」


「ありがとう。やはりリオ君は頼りになるわね」


 褒められても、あまり嬉しくないんだよなぁ。

 アリスが聞いていただろうから、既に素案を作り始めているに違いない。アテナとも専用回線を通じて情報を与えているだろう。2つの英知がどのようなシステムを作るのか……。ちょっと楽しみになってきたな。

                ・

                ・

                ・

「この大陸の東西では、同じ魔獣だと思うんだが少し形が違っているな」


 アオイ達がエルトニア王国北部の砂の海から、リバイアサンに戻ってきた。

 明日から彼らが、星の海と呼ばれる湖沼地帯の西の地図作りと帝国時代の遺物調査を引き継いでくれる。

 もっとも地図作りはある程度終了しているから、地中の金属反応や重力変異を踏査して利用可能な遺物か否かを確認することが主流になりつつある。

 アオイの事だから、生息する魔獣についての調査も行っているのだろう。既に知られている魔獣と比較して、その差異をリバイアサンの電脳に蓄えたライブラリーに追加してくれているようだ。

 星の海西岸にブラウ同盟の管理する拠点を作る頃には、立派な本になるんじゃないかな。

フェダーン様にライブラリーを見せた時には、直ぐにでも版権を購入したいと言っていたぐらいだから、これもヴィオラ騎士団の収入源になるに違いない。


「それで、どの辺りを調査するんだ?」

「北の山脈の裾野はリオ達もあまり調査していないだろう? 砂が砂礫にする辺りから北を調べるよ。砂の海へ張り出した尾根の詳細は地図では大まかだからなぁ。まぁ、尾根の谷の奥まで足を延ばす騎士団はいないと思うけど、宝探しの好きな連中がいないとも限らないし、奥の深い谷は魔獣の巣になる可能性もあるんじゃないか」


 笑みを浮かべて俺に顔を向けるアオイの言葉を、そのまま信じることが出来ないんだよなぁ。両隣に座っている2人の王女様達の顔を見ると、宝探しが主流に思えてならない。とはいえ、名目はしっかりしているんだよね。


 ちらりと、フェダーン様を見ると苦笑いを浮かべている。

 俺よりも王女様の事を良く知っているはずだから、思いは俺と同じと言うことになるんだろうな。


「あまりアオイ殿を困らせぬようにするのだぞ。それで、別荘暮らしは上手くいっているのか?」

「ボルテ・チノの操縦も慣れてきましたし、装備されている機械の操作も理解できるようになりました。メイド達ともうまくいっておりますし、この頃は操縦も変わって貰っているぐらいです」


 王女様の言葉に、フェダーン様がちょっと目を見開いてアオイに顔を向けた。


「それほど難しくはないんです。それに通常時は浮かんでいますから障害物に当たるようなことはありませんし、事前に設定した探索コースから大きく外れるようなことがあればボルテ・チノの電脳が警告を出してくれます」


 ナビゲーションシステムがあるからね。リバイアサンにもあるけど、そんな事態に陥ったことがないのは妻達の指揮能力が高いからだろう


「実験農場の方は、上手くいってるか?」

「この大陸を緑の地にするんだ! と張り切っている連中ばかりが集まってしまいました。直ぐにも可能だと思っていたんでしょうけど、先ずは彼らに温室内の区画を与えて、そこで植物を育てて貰っています。自由に初めてくれと言ったんですが……」


 穀物や野菜だけでなく、草花や実の生る木まで植えたらしい。

 それなりの思いがあるだろうということでアオイは笑みを浮かべてそれを見ていたそうだ。


「多分上手く育つことは無いでしょう。そこで疑問が生まれます。何が不足であったのか……。先ずはそれを学んで貰おうと」

「農業は、簡単ではないということを先ずは理解させるということか……。とはいえ、農家出身の者もおるだろうが?」


 アオイが笑みを浮かべて首を振った。

 いないということなんだろうな。


「やはり、農業を下に見る者が多いということになるんでしょうね。王国の骨幹であることを都市部の連中は自覚していないということですね」

「王族ならば、それを重々承知しているはずなのだが……」


 土に塗れて農地を耕す者達を下に見るようではねぇ。

 やはり、社会構造全体を見直す事も必要に思えるけど、そもそもが王制だからなぁ。身分制度の見直しは王国制度を否定することに繋がりかねない。

 だが、労働に貴賤は無い。どちらかと言うと額に汗する仕事の方が優遇されて良いはずだ。


「俺なりに調査した結果では、生産物の流通過程で中間搾取がかなり多いように感じました。農家の売値の3倍は酷すぎますね。その辺りの見直しを計れば農家の暮らしはかなり向上するようにも思えます」


 商会が一括買い取りをしているように思えたんだが、実際は違っているのか?

 フェダーン様も3倍の開きがあると聞いて、表情を曇らせている。

 ヒルダ様が俺の領地からの生産物を一括買い上げしてくれているけど、これも同じなんだろうか?

 一度、ヒルダ様と話し合った方が良いのかもしれないな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ