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M-367 アオイ達の暮らしが始まるようだ

 第2砦の建設現場に着く前にいつもの島で魔獣を狩り、カニを釣る。

 1日程到着が遅れるけれど、交代で休暇を取る連中にボーナスを支給できるし、アルマーダ騎士団のエストさんも喜んでいるぐらいだからね。王族や商会の連中もカニを手に入れて笑みを浮かべている。

 王宮でたまに開かれる晩餐会の良い食材となるのだろう。さすがに生きたままでは問題があるから魔法で凍らせたカニを送るらしいけど、老師が育てた魔導士の一団が飛行船を運行させているようだ。ウエリントン王宮まで2日で行けるらしいから、高価な食材の輸送には都合が良いということになるのだろう。

 おかげで生鮮食材がそれなりに手に入ると、食堂を経営している商会の連中も喜んでいる。


「たった1日にも満たない狩りではあるが、リバイアサンを含めて工兵連中までもが喜んでいるようだ。そうなると、他の食材も探したくなってくるな」

「さすがに、食材探しを目的とするような行動は控えたいと思いますが、偵察ついでに星の海で糸を垂れるぐらいは構いませんよ。でも、結構グロテスクな魚ばかりなんですよねぇ」


 前に何匹か持ち帰った魚を勇気のある連中が食べてみたんだが、あまり味は良くなかったみたいだな。

 魚というよりは両生類に近いような足を持っていたんだよなぁ。それでいてうろこでおおわれているし、鰓呼吸をしていた。カテリナさんも「魚じゃないかしら?」と首を傾げる生物だった。

 もっと魚らしいのが釣れれば良いんだけどねぇ……。


 俺達が第2砦の建設現場に到着して2日目に、アオイ達が帰ってきた。

 降嫁手続きが済んだようで、晴れて奥さん持ちになったから皆でお祝いということになる。

 メープルさんが腕を振るった料理は、やはり美味いの一言だ。

 デザートのケーキは3段だったから、さすがに残るかと思っていたんだけど夜が更ける頃には全部なくなってしまった。

 いったい誰が食べたんだろうと考えてしまったけど、どうやら犯人はアオイのようだ。

 俺以上に甘いもの好きだとはねぇ……。

 食事が終わってソファーで寛いでいる時も、ワイン片手にドーナッツをつまんでいる。

 ライムさんが呆れた顔をしていたけど、あれで太らないんだからなぁ。その内に女性に刺されるんじゃないかなと心配になるほどだ。


「それで、実験農場を作る基地は見てきたの?」

「ええ、見てきましたよ。古い兵舎を解体している途中でしたので、まだ解体していない兵舎について少し注文を付けてきました。レンガ作りの立派な兵舎でしたからね。屋根と窓だけを改修して貰います」


 カテリナさんの問いに、嬉しそうな表情でアオイが答えている。

 多分温室ということになるんだろう。中隊を丸々収容できる程の大きさらしいから、かなり大きな温室ができるに違いない。


「周囲が分厚く高い塀で囲まれているのも良いですね。話を聞く限りでは魔獣の危険はないとの事でしたが、野生の獣がいるようですから、それで十分に学生達の安全を確保できそうです。基地と近くの獣人族の集落では水脈が異なるようですから、水を大量に組み上げてしまっても獣人族には迷惑を掛けないでしょう。もっとも雨が降るとの事でしたから貯水槽を作ろうと考えています」


「そうなると、こっちの仕事はあまり出来なくなりそうに思えるんだが……」


 俺の問いに、顔を向けて首を振っている。


「そんなことはしないよ。ヴィオラ騎士団の一員であることは自覚しているつもりだ。もっとも常駐というわけにはいかないだろうけど、西の地図作りと魔獣の種類のリストを作るのはリオと一緒に進めるつもりだ。そうだなぁ……、10日ごとに場所を変えるという感じで進めたいね。新たな学科ということで学生達の希望が殺到しているようだ。1カ月後に最初のクラスを作るよ。農学の50人、医学に15人だ。人選は全て王宮に任せることにした」


 ブラウ同盟の3王国の国王達の思惑が色々と絡んできそうだけど、それは仕方があるまい。直ぐに形になるとは思ってはいないと思うけど、少なくともアオイの方は早くに結果が出せそうだ。


「ところで、王女達の姿が見えないんだけど?」


 カテリナさんの素朴な問いに、アオイが笑みを浮かべる。

 どうやらボルテ・チノの内装を5人のメイドさん達と一緒に行っているらしい。フェダーン様がトラ族の兵士を4人派遣してくれたらしいから、大型の調度品も王女様達の指示できちんと据え付けることができるとのことだ。


「客室もあるのよねぇ……」


「カテリナさんなら何時でも歓迎しますよ。でも、王宮にあるリオの別邸より少し広い位のリビングですし、ブリッジへ入れる部外者は2名だけです」


「そんなに小さいの?」


 カテリナさんが小さいと言ったのはブリッジの事だろう。

 アオイが仮想スクリーンを作って、ブリッジの映像を見せているんだけどどう見てもブリッジとは思えないんだよなぁ。

 

「舵輪が無いのか!」


「舵輪ではなく、この操縦席のアームに取り付けられているジョイスティックで行うんです。立って舵輪を握れるほど、ボルテ・チノの機動はのろくはありません。そんな事をしたならカーブした時に体が飛ばされてしまうでしょう」


 ブリッジにある座席は全てが、体がすっぽりと包まれるバケットシートだ。

 ボルテ・チノの機動を楽しむために、あえてブリッジの加速度抑制は半減したらしい。それでもバケットシートを使わないといけないというんだから、どれだけ機動力があるのかと考えてしまうな。

 リビングは完全に抑制されているそうだから、どんなに乱暴な機動を行っても優雅にお茶を飲めるとのことだ。もちろんそれ以外の寝室や客室についても同じことが言える。

 

「それで、王女達は気に入っているのか?」


「病み付きになってます。最初は彼女達の能力を考慮して部署を決めようとしていたのですが、ボルテ・チノの電脳を介した操縦や射撃となると甲乙つけがたいので、今は2時間交替で運用しようと考えています。長距離移動や夜間移動は高度を上げて自動航行することで対応しますから、負担はそれほど無いと考えています」


「リバイアサンのような電脳があるということか。それなら優雅な船旅が楽しめそうだな。それで何時頃から運用を始めようと?」

「調度の配置に彼女達が満足したら、始めようかと考えてます。とりあえずはこの近辺で習熟航行をするように言い聞かせました。その間にヴィオラに何度か通って魔獣から魔石を取り出す獣機の働きを何度か見学に向かうつもりです」


 フェダーン様も興味があるようで色々と問い掛けている。

 アオイの艦には獣機が搭載されていないからなぁ。その代りにアリスが何体か保管していたロボットを1台貰ってアテナが形を似せたロボットを作ったようだ。

 俺も見せて貰ったけど、外形はまるで同じなんだよね。だけどその性能はオリジナルを越えているんだよなぁ。

 しっかりとロボット3原則を組み込んだ電脳を持っているし、搭載された4台はボルテ・チノの電脳の支配下に置かれている。

 サーチ・アンド・デストロイではなくなったが、カテリナさんが近付いたらどんな反応をするんだろうな。

 さすがに反撃することは無いと思うんだけど、それなりの自己防衛ができるとアオイが言っていたらねぇ。ちょっと心配ではあるんだよね。


「あの攻撃能力だ。巡洋艦1隻が遊弋していると考えれば安心できるだろう。早速、帰属問題が出てきたが、通常はウエリントン王国となる。これはヴィオラ騎士団がウエリントン王国に所属しているということだからだそうだ。だが、レッドカーペット時にはエルトニア王国軍に派遣される事でブラウ同盟間の調整が完了した。アオイには済まないが、それだけは了承して貰いたい」

「王女様を降嫁して頂いていますから、それで構いません。王女達もそれを聞けば喜んでくれるでしょう。でもそれではナルビク王国にメリットが無いように思えるんですが?」


「新たな学科を開いてくれるのだろう? それで十分な見返りを得られると父王陛下は考えてくれたのだろう」

「ウエリントンは名目を、ナルビクは実利を、エルトリアは安全を得るということですか……。上手く考えてくれましたね。ブラウ同盟は名君揃いで助かります」


 そうかなぁ? 案外策士揃いだからね。

 アオイもその内に分かるんじゃないかな。


「ところで、ボルテ・チノの改修は本当に終わってるの? ロケットを後部甲板に横に並べると聞いたけど、そんなものがどこにもなかったわ?」

「ああ、搭載は終わってますよ。リオに頼んでカテリナさんが作ったものと同じロケット弾を取り付けました。左右に10発ずつ発射できますが、普段は邪魔ですから甲板直下に装備しているんです。発射時には発射管の蓋を開いて放ちます」


 そんな形にしたんだ。ボルテ・チノは陸上艦と言うよりも何となく潜水艦に見えるんだよなぁ。案外すっきりした外形で、小さな2連装砲塔と横長のブリッジが目立つだけだ。横の張り出した短く太い翼があるから墜落した飛行機に見えなくもないんだけど、さすがにそんな事を言ったならアオイも傷つくに違いない。


 フェダーン様達が客室に戻り、リビングには俺とエミー達それにアオイの4人

だけになった。カテリナさんは、デッキに天体望遠鏡を持ちだして星の観測を始めたユーリル様と一緒に惑星を観察しているようだな。

 直ぐに役立つ学問ではないが、砂の海の航海には使えることは確かだろう。

 それに力学の演習にも使えるに違いない。


 さて、そろそろ今夜はお開きにしようかと思っていると、2人の王女様達が帰ってきた。

 エミー達に軽く頭を下げて、アオイの両側に腰を下ろす。

 フレイヤが2人のワインを勧めながら、作業の進行状況を聞いている。

 2人が顔を見合わせて笑みを浮かべると、嬉しそうに俺達に話をしてくれた。

 それによると、どうやら終わったらしい。

 細かな所はメイドさん達が手直しをするようだな。


「今夜から、そっちに移るの?」

「そうします。でも、食事はこちらで頂きたいのですが……」


 まだ食材が揃わないということかな?

 それも数日中には、商会から纏めて運び込まれるとのことだ。


「準備ができたところで、周辺の監視を始めるよ。だけど、リバイアサンに戻った時には、今までと同じで良いかな?」

「そうしてくれると俺の方も助かるよ。フェダーン様も、俺よりはアオイの方が頼み易いかもしれないからね」


 義理の叔母になるからなぁ。少しは俺の負担が軽くなるんじゃないかな。

 ワインを飲み終えると、アオイ達がプライベート区画を出て行った。

 アオイ達のプライベート区画でもあるボルテ・チノでの生活が始まるということだろう。

 だけど、それほど大きな船ではないからねぇ。どんな暮らしになるのか落ち着いたら聞いてみようかな。


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