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M-364 やはり農学を知りたく来たらしい


「フム。するとナルビク王国がアオイに提供した実験農場はかつての兵站基地ということじゃな。大きさは隠匿空間ほどになるぞ。エルトニア王国との国境近くにあるのだが、ブラウ同盟が締結されてからはほとんど使われておらんからのう。だが、兵士が散々軍靴で踏み荒らした土地でもある。雑草すらあまり生えぬと聞いた。そこを農場に出来るなら、将来は明るいと言えるじゃろうなぁ」


「リオの領地よりひどい荒れ地ということですか?」


 カテリナさんがちょっと驚いて確認している。


「土地そのものは良いと思うぞ。荒れ地ではあるが、ある程度の草原もあるのじゃからな。近くに獣人族の村がいくつかあるようじゃ。彼等は何代にもわたってそこで農業を営んでいる。もっとも農業だけで暮らしていけぬから、若者達は出稼ぎをしているようじゃがな」


 開拓したが、収穫量が少ないということなのだろうか? それとも開拓した面積が少ないのかな?

 いずれにせよ、農業は可能だがそれほど収益は期待できないということになるのだろう。そんな土地で農学を学ばせようというのだから、ナルビク王国もウエリントン王国並みの策士揃いに思えてくる。


「1つ教えてください。水はあるんでしょうか?」


 アオイの問いに、導師が苦笑いを浮かべる。


「どのように応えるべきか迷うのう。小さな流れはあるのじゃが、さすがにそれを使うことはせんでほしい。獣人族の村の貴重な水資源じゃ。となると地下水ということになるのじゃろう。村に泉がある位じゃから、案外豊富かもしれんぞ」


「地下水脈を調べてみましょう。基地というですから井戸はあるでしょうが、汲み上げすぎて獣人族の村の泉が狩れてしまうようでは本末転倒です」


 うんうんと導師が頷いている。

 過激な開発をしないということが分かったのだろう。


「そうなると、最初に行うのは貯水池作りになりそうだな。なるべく大きく作ることにするよ。魚の養殖も出来そうだからね」


「農業と魚の養殖は方向性が違うように思えるけど?」

「そうでもありませんよ。魚の養殖池の汚泥は、肥料に最適ですからね。獣人族の村の規模は分りませんが、若者を出稼ぎに出しているくらいなら、ある程度の村人を雇う事が出来そうです。農作物の管理の片手間に魚に餌を与えるぐらいは出来るでしょう。育った魚は彼らの物であるとするなら、協力してくれると思うんですが」


 それもおもしろそうだな。となればなるべく味の良い魚にして欲しいところだ。たまに様子を見に行った時に、木陰でのんびりと釣りを楽しめそうだからね。


「村には学校が1つあるだけだ。読み書きと計算位は出来るのだが、それだけでは町での仕事は得にくいらしい。獣人族は皆正直者ばかりだ」


「なるほど、起業家には向いていませんね。実直であるなら、客相手の仕事もしくは農業ということになるんでしょうか」


 下働きでも、文句も言わずに働いてくれる。ヴィオラ騎士団に所属する獣人族の人達がいつも元気に働いているのは、種族の特性もあるんだろう。

 そんな働きをいつも感心して見ていたけど、逆の見方をすれば彼らにはそんな仕事しかないということでもある。


 ヒルダ様達が獣人族の仕事を色々と探しているのは、彼ら種族が王国の底辺から中々抜け出せないためだろう。

 底辺の仕事を蔑む連中も多いようだが、彼らがいないと直ぐに困ったことになるんじゃないかな。

 蔑む連中にやらせたいところだけど、自分では何もできない連中ばかりだからなぁ。

 自分の地位をさも自分が勝ち取ったものだと勘違いしているんじゃないか? それは祖先の誰かが苦労して得たものであることを忘れているに違いない。

 レッドカーペットで少しは貴族の連中も肝が冷えただろう。貴族としての義務でもある私兵を伴っての参戦が出来ない連中が続出したらしいからなぁ。

 さすがに恥じ入って国王陛下に許しを得ようとしたらしいけど、次は無いと釘をしっかりと刺したらしいし、その記録も残されたらしい。

 次に参戦しなければ、貴族の地位を失う事になったから王宮内の政争が一時休戦状態になり両陣営を交えて今後の調整を図ったようだが、その調整案が両陣営から2艦の陸上艦と4機の戦機ではねぇ……。

 国王陛下はその嘆願書を受け取って、「王宮に貴族は2人しかおらぬということで良いのか?」と正したらしい。

 慌てて、貴族達が引き返したと聞いているけど、さてその後はどうなったんだろうな。


「案外学生は、その身分を誇りに思っているところがある。果たして農学を学ぶことができるのかと思う時もあるぞ」


「それで獣人族の話が出てくるのですね。確かにかなりの人数を雇うことになるかもしれません。ですがそれは施設の維持管理を目的にする者であって、彼らを耕作に従事させるようなことは可能な限り避けたいと考えています。農学を学ぶ家で土に親しむのは当然のことでしょう。汚れる事を嫌うような学生なら、直ぐに叩き出しますよ」


 案外アオイは物事を2択で考えるところがあるからなぁ。中間も考えて欲しいところなんだけどね。

 とはいえ、今のアオイの話は俺も頷ける。

 作物の育成と土は切っても切り離せないだろうからね。農学を頭で学ぶだけでなく体でも覚えさせるなら、農園の苦労を学生達も知ることができるだろう。その苦労をどのように改善するかも農学で学ぶことになるのだろう。


「案外貴族の子弟が多いかもしれぬ。ある程度内容を事前に知らせることも必要に思えるのじゃが」

「いらぬ問題を起こさぬようにということですね。了解しました。さすがに指導要領を纏めることは出来ませんが、当座の講義内容と実習内容に付いての解説をまとめて3王国に提出することにします」

「余計な手間を掛けさせてしまうのう。これも王国の安寧の為と思って欲しい。それで貴族連中の権益争いが及ぶことが無いようにしたいところじゃ」

「新たな学部も貴族の権益争いの種になりかねないと?」


 ちょっと驚いたので導師に問い掛けると、俺に顔を向けて頷いてくれた。

 まったく、王国を何だと思っているんだろう?

 自分達の都合で物事が動くとでも思っているんだろうか?


「まぁ、俺のやることに干渉するようなことがあるなら、言葉質を執ったところで始末しましょう。事前に3王国に確認を取っておいた方が良いでしょうか?」


 今度は俺達が慌てる番だった。

 アオイは、案外正義感が強いからね。行動は迅速だから彼の言う始末とは、相手の死に直結しかねない。


「直接行動に出たなら、アオイの判断で問題は無いと思う。だけど、先手は相手に譲ってやって欲しい。それぐらいはできるだろう?」

「リオもそうやっていたんだったな。了解だ。行動は後手にするよ。これはあまり使わないでおこう。人間相手では貫通して後ろを破壊してしまいそうだ」


 アオイが腰の後ろをポンポンと叩いている。

 確か50口径のマグナムリボルバーだと言ってたんだよなぁ。俺の44マグナムより一回り大きな銃弾でしかもマグナムの強装弾等、どんな状況下で使うのか知りたいところだ。

 できれば、人体で弾丸が止まるような代物を携帯して欲しいところだけどなぁ。


「俺は結構使ってるんだけど、やはり協力過ぎるってことか」

「ああ、突進してくる象を止められるぞ。標準装甲の10mmを貫通するからね」


「拳銃を用意しようか?」

「いや、これで良い。慣れ親しんだ愛銃だからね。これで何度も危機を乗り越えてきたんだ」


 移民船団が目的となる恒星系に到着する前に、危険生物を排除するのが役目だったらしいからなぁ。

 俺とアリスの場合は、ある程度の生態系を確認して危険生物のリストを作るだけで済んでいた。

 その後を引き継ぐアオイとアテナともなれば、かなりの修羅場を潜り抜けて来たに違いない。


「貴族と争いがおこった場合はそれで良いわ。相手に先を譲るなら、大きな問題にはならないし、王宮に提訴しても真実裁判で貴族に瑕疵があるなら、最悪家名断絶になるでしょう。争えば負けると知って提訴はしないはずよ」


「そうでもないぞ。案外自分のやることは全て正しいと考える当主が多いことも確かだからな。自分と相手の地位を比較して自分が上だと考えれば、行動に出るかもしれんぞ」


「善意の協力であるなら、受けることも考えねばなりませんね。一応実験農場の責任者はミネヴァ様になるようですから、貴族からの協力や要望があったならミネヴァ様に伝えて判断を仰ぐことにします」


 上手く使うということだな。それで、領地の話を蹴ったのかもしれない。案外策士だな。思わず笑みが浮かんでくる。


「1つ教えて欲しい。農学とは生物学の範疇に入るようにも思えるのじゃが?」

「たぶん、生物学の延長にあると俺も考えています。俺達はすでにたくさんに枝分かれした科学の専門分野を知っていますが、それがどのように発展してきたか、ここで教えることが出来ません。

とはいえ、農作物や草花は植物ですから生物学ということになるでしょう。どのような種類の植物が生息して、それが俺達に利用できるか否か。出来る場合はそれを育成するにはどのような手段になるのか……。次々と調べることが出て来るでしょう。

リオも移民船団には、植物学の専門がいることを知っているんじゃないか? 俺がやろうとしていることは、彼らの仕事をこの世界の連中に教えることになるはずだ」


「ああ、直接的に食用とならずとも、家畜に食べさせることで二次的に利用できる植物まで調査すると聞いていた。地球から持ち込む植物もあるだろうが、えてして環境に合わないとも聞いているよ」


 類似した植物に地球産の植物遺伝子を組み込むような話も聞いたことがある。

 まさしく生物学と農学は切っては切れない縁があるに違いない。


「そうなると、ウエリントンの生物学については動物主体ということで良いかな?

植物についてはアオイに任せたい」

「それで良いぞ。だけどすっぱりとは切れないんだよなぁ。その辺りはアテナとアリスの間で調整したいが構わないか」


 確かにそれもあるだろうな。

 ある意味植物らしく見えるものは全て任せたい気もするけど、そうなった場合、キノコはどちらに入るんだろう? 葉緑素を持たないからなぁ。それに、植物が全て葉緑素を常に持っているとも限らないから面倒だ。

 アオイの言う通り、アリスとアテナに任せるのが一番に違いない。


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