表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
365/391

★ 05 領地は辞退しよう


 リオとアリスの突出した能力が問題になったのだろう。

 ウエリントン王国の貴族とすることで、リオの行動をある程度監視しているようにも思える。

 そこに俺達が現れたことで、ウエリントン王国に衝撃が走ったらしい。

 しかもリバイアサンにリオに連れられてきた時には、隣国の王族達がいたからなぁ。

 さすがにウエリントン王国に俺とリオの2人がいるというのは同盟関係を持つ王国との諍いが起りかねないということになるんだろう。

 俺にナルビクそれにエルトニア王国から王族が降嫁することで調整を執ったらしい。

 降嫁してくる王女様達には良い迷惑に思えてならないが、本人達は籠の鳥から解放されると言って喜んでいるんだよなぁ。

 2人とも美人だしスタイルだって抜群だ。そんな王女様達の降嫁先が俺ではつり合いが取れないと思うんだけどねぇ……。


「今日は、迎賓館にご同行して頂けませんか?」


 1日目のゼミを終えて、さて次はどんな話をしようかとアテナと相談している時だった。

 2人の王女様が俺を訪ねて来たので、同行することにした。

 リオも特に何も言っていなかったし、迎賓館と言うのも興味がある。

 さぞかし立派な建物に違いないのだろうが、俺の姿が黒のツナギに装備ベルトだけだからなぁ。2人の王女様はドレス姿だから、ちょっと違和感がありまくりだ。


「この姿なんですが、構いませんか?」

「叔母様から、ヴィオラ騎士団旗艦のリバイアサンの制服だと聞きました。アオイ様はヴィオラ騎士団の騎士ですから、その姿で問題はありませんわ」


 なら、丁度良い。明日のゼミで話をする項目もほとんど終えたからね。

 昼食を迎賓館で取るということらしいから、メープルさんに話をしたところで王女様の運転する自走車で出掛けることになった。

 自走車と言っても、自動車のようなものではない。四角い金属製の箱にタイヤが4つ付いており、座席はベンチシートだ。

 ハンドルとアクセルにブレーキだけで、ギヤは付いていないようだな。

 ライトも方向指示器も付いていないし、ナンバープレートすらついてない。

 どちらかと言うと、遊園地にあるアトラクション用の乗り物に近い気がするな。

 そんな自走車をドレス姿の王女様が運転するというのもなぁ……。これは1台を早めに手に入れて俺が運転することにした方が良さそうだ。


 それにしても、運転が乱暴なんだよなぁ。

 十字路を直角に曲がろうとするから、外側のタイヤが一瞬浮かんだんじゃないか? 

 運転は得意なような事を言っていたけど、道路を走らせるのは考えものだ。

 ヒヤヒヤしながら自走車の揺られていると、目の前に大きな白亜の宮殿が現れた。

 迎賓館は宮殿の中にあるってことかな?

 数段の横に長い階段のある玄関先に到着すると、俺達は自走車を下りた。

 エントランスの大きな扉は開かれており、2人の人物が両脇に立っていたんだが、その中の1人が階段を下りてくると自走車をどこかに動かして行った。

 この建物の維持管理行っている人なんだろうな。建物が大きいと、維持管理するために大勢が働いているに違いない。


「ようこそいらっしゃいました。ナルビク王国の王子御夫妻とミネルバ公爵、それにエルトニア王国大使御夫妻が客間でお待ちしております」


 エントランスに入った俺達を出迎えてくれたのはこの館を管理する執事長らしい。

 だいぶ御偉方が集まっているんだけど……。ちょっと不安になってきたぞ。


「案内して頂けますか?」


「もちろんでございます。こちらです……」


 静かに、俺達の3歩前を歩いて行く。

 外から見る限り3階建てに見えたんだけど、かなり天井が高いから、実質2階建てなのかもしれないな。エントランスから奥に続く回廊は横幅5mもありそうだし、両側の壁には絵画が飾られている。

 天井から吊り下げられた照明器具はまるでシャンデリアだ。この回廊でパーティが開けるんじゃないか?


 豪華な絨毯の上を少し歩いたところで、執事が歩みを止める。

 両扉だが扉板は1枚物だ。凝った彫刻がなされているから、傷でも付けたらどうするんだろうと考えてしまう。


 トントンと軽く扉を叩き、一呼吸おいて俺達の来訪を告げる。

 中から返事が返ってきたところで扉を開けると、俺達を中に入れてくれた。

 部屋に足を踏み入れて、ちょっと驚いてしまった。大きなシャンデリアの下にテーブルが置かれているんだが、そのテーブルで10人以上食事ができそうだ。

 凝った家具や調度に見入っていると、奥の方で手招きする人がいることに気が付いた。

 この部屋の中に家を建てられるんじゃないかと思うほどの広さだからなぁ。

 そう言えば迎賓館に来る目的を王女様から聞いていなかったのを思い出した。

 とりあえず合ってみれば分かるだろう。


 奥に歩いて行くと、数人が丸いテーブルを囲んで設えたソファーに座っていた。

 前部で7人だな。5人には会ったことがあるけど、初老の御夫妻は初めてだ。

 

「お招き頂き、光栄です。ヴィオラ騎士団の騎士の1人であるアオイです」

「今日はゼミが無いと聞いてね。王女達に呼んで来てほしいと頼んでしまった。突然の非礼を許して欲しい。先ずは、座ってくれないか。確かリオ殿と一緒でコーヒー好きと聞いている。すぐに用意するよ」


 王子様の言葉に軽く頭を下げてソファーに腰を下ろしたんだが、このソファーかなり柔らかだ。まるで腰が包み込まれるように沈んでいく。

 俺の両隣に王女様が腰を下ろしたところで、再び話が始まる。


「作物を育てるという学問が成り立つというんだから驚きだ。私も農園の作物や収穫高の報告は必ず目を通すことにしている。私も作物と言うか植物がどうして育つのかについてはあまり考えることは無かった。毎年の収穫量の差はお天気次第と思っていたのだが、その差を無くしつつ、かつ増産を行えるとなれば協力するにやぶさかではない。エルトニア王国の大使でさえ、ここに顔を出すくらいだからね」


 そう言って初老の男性に顔を向ける、大使が苦笑いを返している。

 やはり、食料増産は王国としても興味があるということになるんだろう。


「フェダーンとも相談したのだが、ウエリントン王国のリオ殿の待遇に近い立場をアオイ殿に与えようと思う。ゼミを開くための会議室を持った館をナルビク王国の宮殿内に設けよう。降嫁に伴い貴族の称号を与えることになるが、さすがにあまり高い位を与えることが出来ん。男爵の爵位を陛下の名を持って与えることになるだろう」

「男爵にも上下があるのだが、貴族は本来同等なのだ。領地を持つことで男爵としては高位になるはず。その領地だが……」


「ちょっと待ってください!」

 このままでは、どこまでも押し切られそうだ。そもそも降嫁の為の爵位なんだから、実質が伴わなくても十分に思えるんだがなぁ。ましてや領地等持っての外だ。そもそも俺に維持管理など出来そうも無い。


「王女様お二方に降嫁頂くだけでも、身の誉れ。それで十分に思えるのですが……」

「それが儘ならぬのが貴族社会ということになる。過去の例に並ばねば、王女達の肩身も狭かろうし、次の降嫁に際して困ることにもなりかねん。ここは先例であるリオを参考にするのが一番に思えるのだが」


 絶対俺で遊んでいる気がする。

 俺を言い聞かせるように話してくれたのはフェダーン様だが、口元がゆるんでいるし、今にも笑い出しそうな感じで瞼がピクピク動いている。

 他の王族達も目元が緩んでいるし、ネヴィア様に至っては扇子で口元を隠して俯いている。肩がピクピク動いているから、笑いをかみ殺しているに違いない。


「ナルビク王国にも王立の学府があると思います。学府内の空いた部屋を2つ程頂ければそこでゼミも開けるでしょうし、実験も行えます」

「なるほど、それも一理あるなぁ。だがやはり住まいは必要に思える。休暇の旅にホテルともいくまい」

「ならば、リオの館のリオ達が住まう間取りの館を作ってはどうです。リビングに寝室とサニタリー、後はメイドたちが必要とする部屋ぐらいなのですが」


 少し譲ってくれたのかな? フェダーン様が代案を出してくれた。

 メイドさんが付くのか……。1人ということも無さそうだし、結構大きくなりそうに思えるんだよなぁ。


「小さな離れということになるのでしょうね。森の中にある池の傍に作ってあげたいかがです?」

「あの池の傍ということですか。なるほど、それもおもしろそうですね。王宮の住まいはそれで良いでしょう。あの辺りをうろつく貴族もいませんから、貴族の派閥争いにも巻き込まれずに済むと思いますよ」


 貴族の派閥争いって、場合によっては死人も出るような話を歴史の講義で聴いたことがあるぞ。

 物理的攻撃ならいくらでも反撃できるけど、陰湿な苛めを受けたりしたなら……。証拠を固めて相手を倒せば良いか……。

 それにしても、建設場所まで決まってしまったようだ。俺の同意は必要ないのかな?


「男爵位の下賜金は毎年金貨10枚です。それはアオイ殿の好きに使うと良いでしょう。それと領地ですが……」


 さすがに広大な領地とはいかないらしい。農園が複数造れる程の領地だから、名目も良いところだと言ってはくれたのだが……。


「今は使われていない軍事基地?」


 思わす声を出してしまった。いくら何でも軍事基地を手渡すかねぇ。そもそも軍事基地なんて利用価値がある場所に作るものだと思うんだが。


「兵站基地としていたんだが、東の同盟国との関係は良好だからなぁ。使い道が無いんだよ。それに、エルトニア王国と近いことも都合が良い。実験農場であるなら、2つの王国から学生を送り込めるからね」

「さすがに領地を拝領するのは問題が多いかと、リオも自分の領地経営に苦労しているようですから、俺には出来兼ねるところです」


「それなら、名目的な贈与で良いかもしれんな。叔母上に基地を賜るなら、王族間の間柄で波風は立たぬであろう。基地の維持管理を叔母上がアオイに委任すれば済むことに思える」

「単なる軍事基地ならそれでも良いでしょう。ですが実験農園ともなれば農作業をする人達や基地を維持する者達を雇わねばなりません。果たして金貨10枚でそれが出来るとは思えないんですが」


「実験農場ともなればそれは王族の務めにも思える。維持管理に必要な機材及び人員は全て王国が出すつもりだ。幸いなことに近くに獣人族の村がある。彼らを雇うことで獣人族に仕事も与えられるだろう」


 王族ともなれば、いろいろと考えないといけないようだ。

 だけど段々と追い詰められているように感じるのは気のせいだろうか?

 隣の王女様達は、俺達の話を聞いて微笑んでいるだけなんだよなぁ。案外花畑を作ろうなんて野望を持っているのかもしれないぞ。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ