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M-358 アオイの講義(1)


 昼食を終えて、アオイ達と一緒にコーヒーを飲んでいると、2人の王女様がやってきた。本来ならフレイヤ達にも一緒に聞いて欲しい講義なんだけど、フレイヤ達はヒルダ様の招きで作法の練習をするらしい。明日は2人の王女様と一緒に、昼だ様と懇意の貴族の奥さんが主催するサロンに出掛けるらしい。

 恥をかかないようにとのヒルダ様の配慮なんだろうな。


 2人の王女様は、昨日と違って今日はワンピース姿だ。素足にサンダル姿だから、ちょっとアオイが驚いていた。

 だけど学生の中に混じったら、さほど違和感のない姿ではある。

 とはいえ、美人だからなぁ。ちょっかいを掛けるような輩がいるかもしれないから、キュリーネさんの近くに座って貰おう。


「ゼミは何処で開くんだい?」

「1階の会議室だ。夕食は参加者全員に仕出しを出すよ。俺達も仕出しの夕食だけど、貴族館にも仕出しをしているレストランの物だから味は中々だぞ」


「なら楽しみだ!」なんてアオイが笑みを浮かべている。

 さすがに一緒に食べるということにはならないけど、夕食休憩が終わったなら23時頃まで学生の質問攻めに会うことは黙っていよう。


「さて、出掛けるか! 俺が最初にアオイを紹介するよ。その後はよろしく頼む。何かあったら、アテナ経由でアリスに伝えてくれれば、直ぐに会議室に向かうつもりだ」

「了解。だけど、そこまでリオに頼らなくても何とかなると思うな。アテナが色々と準備をしてくれたからね」


 そういうところはアリスと一緒なんだな。

 俺と同じように講義の原稿を、仮想スクリーンで出してくれるぐらいの事はしてくれるのかもしれない。


 一緒に会議室に向かう俺達の後ろに、カテリナさん達も付いて来る。

 やはりアオイの講義に興味があるのかな? 俺が明かさずとも、アオイならと考えているのかもしれないな。

 カテリナさん達が一緒なら、王女様達にとっても都合が良い。

 座る席は、いつもキュリーネさんの近くだ。


 回廊の外まで会議室内の喧騒が聞こえてくる。いつも学生は元気いっぱいだ。

 コンコンと軽く扉をノックすると、先程までの喧騒が嘘のように静まりかえる。


 先に俺が入り、その後にアオイが続く。カテリナさん達が王女様達を用意されている椅子に案内してくれた。

 半円状に並べた席の中心にテーブルと椅子がある。今日は椅子が2つだから、それを訝しんで学生達が騒いでいたのかもしれない。

 ゆっくりと席に着くと、先ずは俺が口を開いた。


「向学心を持つ君達を見る度に、未来が明るく照らされていることを感じてならない。さて今日は少し趣向を変えたいと思って、もう1人の人物を君達に紹介することにした。

 学府の推薦や王侯貴族の推薦も無いが、俺が無理やり頼んだ経緯がある。

 彼は君達ができることが全く出来ない。だが君達が出来ないことが出来る人物だ。彼は魔法を使えない。だが魔法と同様いや、それ以上の効果を持つ科学技術を習得しているんだ。俺と同等、あるいはそれ以上であることは間違いない。

 そんな彼に、1つお願いをした。この世界に農学を広める事。荒野を緑に変える術を彼から学んで欲しい。魔法で部分的には荒地を緑に変えることは出来るだろうが、さすがに大規模に行うことは出来ないだろう。

 この世界の人口は食料の供給で最大値が決まっていると言っても良いだろう。王国の領地を実り多い土地に変えることは王侯貴族の願いでもある。

 食料増産は人口の増加に繋がり、それによって裕福な民が増えれば商業の発展にも繋がるからね。ということで、彼に講義を引き継ぐぞ」


 俺と同じ知識を持つ人物と聞いて、学生達に動揺が走ったようだ。だが直ぐに静まったところを見ると、やはり学ぼうとする意志が強いんだろうな。

 立ち上がって、椅子を後ろにする。俺も講義を受ける立場で聴いてみよう。

 アオイが後ろを振り返って笑みを浮かべて俺に親指を立てた。後は任せろということかな。


 アオイが、椅子を少し直して座り直した。

 先ずはどんな連中なんだろうと、会議室に集まった学生達をもう一度ゆっくりと眺めている。


「さて、先程リオから紹介されたんだが、肝心の俺の名を教えてはいなかったようだ。

 アオイと言う。今はヴィオラ騎士団の騎士として暮らしている。荒野でアオイに出会って、意気投合したと人物と思ってくれれば十分だ。

 そんなリオから農学と言う学問について教えるよう依頼を受けたんだが、俺の講義や実習には魔法は一切使わない。学ぶ君達にも、これは農学を行う上で必衰であるという魔法を告げることはない。

 全てこの世界の魔法とは異なる、自然科学という学問と技術で行うことになるんだが……。かつてはこの世界にも俺が教えようとする農学があったということが、リオ達の調査で分かっている。

 古代帝国ではかなり発展したに違いない。だが帝国の内戦でその知識が失われてしまったようだ。とは言っても、農業従事者はそれを経験という形で、ある程度は継承しているように思える。

 リオは農学を学ぶことで王国を大きくしたいと考えているが、それを数十年で行うことはさすがに出来そうもない。

 とはいえ、今よりも緑を増やすことは可能だろう。風の海を肥沃な農地に変えるには君達の代では不可能だろうが、孫の代には入植が出来そうに思える……」


 やはり早急には無理か。だが俺が教える分野よりは日の目を見る時期が早そうだ。


「ところで、農学といっても基本は植物学といっても良いだろう。俺達が直接食べる植物、あるいは家畜に食べさせる植物をいかに効率よくたくさん作るかが農学の目的でもある。だが食物としての利用か所は必ずしも一様ではない。さすがにそれぐらいは知っているだろう。そこの君! 答えてくれ」


 なるほど、その場で確認しながら学生達の知識を確認していくということか。案外俺と似ているけど、アオイの場合は積極的に問い掛ける感じかな。


「基本は根と茎それに葉と実になると思います」

 突然の名指しに、ちょっと驚いていた学生がその場で答えてくれた。


「そうだな。植物の中で俺達が食べているのはそんな感じになる。それを頭に思い浮かべておいてくれ。そうなると、俺達が頂く部位が大きく育つ物を栽培することになるのだが……。例えば、トマトを考えてみよう。

 身が大きくて赤いトマトがたくさん採れたなら、農家は笑みを浮かべるに違いない。

 ここで1つ疑問が浮かぶ。畑と荒地で全く同じ種を撒いた時に収穫量は同じになるだろうか? 今度は右の君だ? どうなると思う?」


 アオイの教え方も中々良いんじゃないか? 俺にも理解できるし、カテリナさん達も真剣な表情で聞いている。


「……俺も、君の意見に賛成だ。たぶん荒地のトマトは収穫で着ないかもしれないな。そうなると、さらに疑問が深まって来る。その違いは何処から生まれたのだろう。今度は君だ!」


 簡単な答えだが、その奥は深いんだよなぁ。学生の答えに笑みを浮かべて頷いているアオイの姿に、学生達も好感を持って学ぼうとしているようだ。

 アオイの話を聞いて、直ぐに答えられるのが誇らしいのかな? とはいえ、だんだんと深い話になってきたぞ。


「そうなると、暗がりでは植物は育たないということになってしまう。そこで1つ問題を出そう。ここに1粒の豆の種がある。豆を育てる為に必要な物は何か? それは生育のどの状態で必要になるのか……。1時間の休憩をとる。お茶を飲みながら考えて欲しい」


 アオイがそう言って席を立つと、学生が一斉に席を立ってアオイに頭を下げる。

 俺達が会議室を出た途端に再び喧騒が始まったから、ワゴンでお茶を運んで来たメイドさん達が驚いているんだよなぁ。


「ご苦労さん。リビングで休憩しよう。中々良かったよ」

「ありがとう。次はリオがどの程度学生に教えているのか分かるだろうから、それを確認して始めるよ」


 とりあえずは一服だ。タバコに火を点けてメープルさんが運んで来てくれたコーヒーを頂く。カテリナさんはコーヒーだけど、ユーリル様と王女様達は紅茶を優雅に飲んでいる。


「先に教えてくれても良いと思うんだけど? リオ君なら何時も教えてくれるわよ」


 カテリナさんの言葉に、思わず自分の胸を指差してしまった。教えてたかなぁ?

 思い出しても、ヒントは与えたと思うけど直接教えた記憶が無いんだよな。


「たぶんリオからクロロフィルの話は聞いたことがあるでしょう。基本はクロロフィルがいつから働きだすのかということになります。そしてそれによって得られた糖をどこに蓄積させるかということになりますね」


「あの緑色の物体よねぇ……。それが糖を作るの?」


 ちゃんと教えなさいと言う目でカテリナさんが俺を睨むんだよなぁ。俺は無実だぞ。


「時間は掛かりますけど、実験をさせてみようかと思ってます。リオ、シャーレぐらいはあるんだろうな?」

「ああ、キュリーネさんが微生物のリストを作っているからかなり作ったはずだ。それを使うのか?」


 あると聞いて満足そうにうなずいている。

 どんな実験なんだろうな? 俺も興味が沸いて来たぞ。


「次の講義は植物の生育に必要な物ということになるのか……。光と水、それに栄養素……温度もありそうだな」

「ああ、だから実験ができる。常に同一であるとは限らないことも教えないといけないだろうしな。それは実験で直ぐに分かる筈だ。問題は栄養素ということになるんだが、さすがに肥料を与えれば済むことだという話ではないぞ。ここで化学の知識が必要になってくるんだが、確か元素を確認していると言ってたよな」


「まだまだ足りないけどね。さすがにアオイが名を告げる元素にまでは手が届いていないだろう。その辺りの事は化学を志す連中にも聞かせてあげたいところだ」

「電気分解では限界があるんだよなぁ。初歩的なスペクトル分析位は先行して構わないか?」

「化学の連中にも参加させるように言ってくれよ。専攻するだけでなく他の学問を学ぶ連中にも積極的に交流しろと教えているからね」


 うんうんとアオイが頷いている。

 それにしてもスペクトル分析ねぇ……。ユーリル様が先駆者になると思っていたんだけどなぁ。

 俺達の会話をジッと聞いているユーリル様だけど、確か星の色に注目しろとアオイが教えていたはずだ。

 分析装置を欲しがるんじゃないかな。


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