表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
359/391

M-355 内装は自分の給与で揃えるらしい


 ナルビク王国の工兵達も、ウエリントン王国とその腕に遜色がない。

 半年も過ぎると土台どころか城壁も形を現し始めた。

 リバイアサンのプリベート区画にあるデッキでフェダーン様達が朝夕眺めているけど、さすがに日々変化はそれほどでもないんじゃないかな?

 アオイ達が荒地の地図作りを代わってくれたので、俺の仕事は朝夕の砦周辺の偵察と、ヴィオラ騎士団それにアルマーダ騎士団の陸上艦周辺の魔獣の分布を提供するぐらいになってしまった。

 騎士団の主力がこちらに来ている以上、少しぐらいの贔屓は許されるだろう。

 少しでも赤字は減らしてあげないとね。12騎士団ともなれば王国の為に働くのは当然という矜持もあるのだろうが、それで団員としての暮らしが貧しくなるようでは本末転倒だ。

 少しぐらいの赤字は我慢すべきなのかもしれないけど、大幅な赤字というのは今後の活動に支障が出てこないとも限らない。


「リオは、次の休暇はどのように?」


フェダーン様達がリビングに戻ってくると、ソファーに腰を下ろしながら問いかけてきた。


「いつもと変わりません。王都の館で5日程暮らしてから、プライベートの島に向かうつもりです」

「アオイも同行するのであろう。例の話については父王陛下も乗り気だと聞いている。兄上とも協議をしたのだが、兄上の3人の王女の内の第2王女を降嫁する方向だ。エルトニア王国は、末の王女となるようだが、これは相手あってのことだ。他の王女が全て嫁いでしまったらしい」


「島を訪れるということでしょうか?」

「兄上が本人に打診して見たところ、新たな学問ということに興味を持ったらしい。ゼミの客員参加を希望しているとのことだ。エルトニアの王女も噂では聞いていたようだな。是非とも参加したいとの事であったぞ」


 要するに島に向かう前から、アオイとの付き合いが始まるということかな?

 それならゼミの講師もアオイに任せるべきだろう。学生の出してきた疑問にだいぶ答えてくれたからなぁ。アテナのアシストがあるとはいえ、自然科学を十分に理解している人物だから問題は無さそうだ。

 ようやく、ハンモックで昼寝を楽しむことが出来るんじゃないかな。


「彼なら、俺以上に講師を務められますよ。是非ともやらせてみましょう」

「上手く交渉して欲しい。案外初対面で気に入るかもしれんが、その逆ではなぁ。私としても肩身が狭くなる」


 とはいえ1つ問題はあるんだが、子孫を残せない可能性については今のところは気にせずにいよう。俺にだって子がいないからなぁ。

 それに騎士の多くは、騎士を辞めて後に子を作ることが多いらしい。騎士である時間が短いということもあるのだろう。

 となると、アレク達もそろそろ子どもを考えているかもしれないな。別荘が賑やかになりそうだ。


 夕暮れに帰ってきたアオイに講師の依頼をすると、ちょっと驚いていた。

 

「俺にゼミの講師をしろと?」

「まぁ、学生の疑問に答えてくれればいい。出来れば、その先を示して欲しいんだけどね。それに学問は詰めこめば良いというわけではない。学府で元は魔導科学を学んだ連中だから、頭脳派明晰だぞ。考えることが出来る連中だ」


「それは、この間見せて貰った疑問を呼んである程度分かっているつもりだ。それなりに努力して科学という学問を自分達で新たに作ろうとしていることには敬意を表するよ。リオの頼みなら断ることは出来ないが、あまり基本方針を変えたくはないな。どんな教え方をしてるんだ?」


 世話になっているからと理由だけど、やってくれるならそれで十分だ。

 簡単に生物学、化学、それに物理の話をすると、頷きながら真摯に聴いてくれる。

 これで彼の講義中は自由が得られそうだ。

               ・

               ・

               ・

 砦工事を行っている軍と騎士団の半数がリバイアサンに再び乗り込んでウエリントンのブラウ同盟軍基地を目指す。

 既に砦の外壁が数m以上立ち上がっているし、第1砦から1隻の駆逐艦が防衛任務を帯びてやってきた。

 巡洋艦に軽巡、それに駆逐艦がいるなら魔獣の群れも相手に出来るだろう。

 とはいえ俺達がいない間は、谷の両側に設ける居住区の工事を進めるとのことだ。

 安全を重視しての事だろう。それだけ危機管理が出来ているということになるんだろうな。

 

 星の海の途中の島で再び水棲魔獣を狩り、カニを釣る。

 分配された魔石を使って兵士達にボーナスが出るのはウエリントンと同じだ。たぶんフェダーン様からの進言があったんだろうな。

 アルマーダ騎士団も行きと帰りで受け取った魔石の数が400個近い数だ。

 その上、カニの分配金まで得られたことで顔をほころばせている。

 予想外の収入ということになるのかな。


「このままリオの属する王国領に入るのかい?」

「ウエリントン王国と言うんだ。さすがにこの大きさだからなぁ。同盟軍の基地近くに着底させて、そこからは貨客船もしくは軍の駆逐艦に便乗することになる。王都までおよそ1日は掛かる。俺の館が王宮内の森の中にあるんだ。幽霊屋敷だと聞いて、それなら頂こうとしたんだけど……、建て直してくれたんだ」


 王宮に隣接した学府から学生を館に呼んでゼミを開くと言ったら、ちょっと安心した顔をしている。

 結構参加者は増えているんだけど、あの会議室に入るだけだから数十人になることはない。

 新たな学問に足を入れる学生もいると聞いたけど、そもそもが俺達の休養場所だ。ゼミに参加する人員を選ぶのに学生達が苦労しているらしいけど、あまり多くならないようにしたいところだ。

 

 アオイが周囲を確認する。

 今のところ、俺とアオイの外は誰もいないはずだ。


「アテナ、俺達の別荘の進捗を聞かせてくれ」

『ほぼ完成しております。さすがに調度品はマスターが手に入れないといけませんよ』


 テーブルの上に完成した船体が3D画像で表示された。

 船尾のとんがりは少し丸みを帯びた感じだ。中央よりやや船尾側にブリッジが移動して、後方の大きな甲板が小さくなっている。

 ブリッジ付近の胴体が横に広がっているから翼に見えなくもないが、さすがに飛ぶことは出来ないだろう。


「出来たってことか! そうなるとクルーを探さないといけないな」

『当座は、マスターと私で動かせるでしょう。この世界の魔獣相手なら量子電脳のAI(人工知能)で対処可能です』


 生体電脳ではないのか……。アオイ達は魔導科学と自然科学の融合技術は持っていないからなぁ。

 アリスなら可能なのだろうが、アテナの作った電脳はどれほどの性能なのだろう?


『かつての古代帝国を凌いでいます。リバイアサンの生体電脳遥かに超えますし、小型化出来ています。でも、私やアテナを越えることはありません』


 脳裏にアリスが囁いてくれた。

 リバイアサンですら自動航行が可能なのだ。それを越える能力なら、魔獣狩りも出来そうだな。


「後は給料を貯めて、内装を調えるさ。贅沢をしないなら直ぐに整えられるだろう。さすがに手作りはなぁ……」


 思わずアオイに顔を向けて吹きだしてしまった。ここまで作っておいて、調度品は作れないってことか? 確かにアリスも椅子やテーブルを作ったことが無いけど、アリス達にも不得意な分野と言うのがあるというのもねぇ……。


『私達には、マスターたちの好む、無駄な装飾や機能が理解できません……。機能的な物なら作れますよ』


 そういうことになるわけだな。

 無駄とアリスが判断する部分が、ある意味芸術的なところになるのだろう。

 だけど、アテナも一緒にいるんだからねぇ。2人で少し学習しても良いんじゃないかな?

 先ずはベンチから作ってみてはどうだろう? 出来た品は、フレイヤ達に判断して貰えば良い。見た目が良くなくとも機能的に優れた品なら、桟橋に置いておけば喜ばれそうだ。


「12輪のタイヤはフェイクだね。独立懸架なら不整地でもある程度水平を保てるだろう。地上走行は最大時速80km、地表滑走状態なら最大時速は250kmか……。さらい急ぐなら亜空間移動できるならこれで十分だ」


「やけに部屋が少なくないか? 艦橋のシートは4つだけだぞ。10m四方のリビングに同じ規模の寝室、その半分のサニタリーとダイニング。客室は士官室程度が3つだけだ」


『マスターの家族が暮らせるだけの設備です。空間拡張技術を使っていますから、部屋の規模は拡大ができます』


 確かに直径8m程の船殻に10m四方のリビングは作れないからねぇ。そういうところは魔導科学を使った陸上艦と同じと言えるか。

 武装は見た目が貧弱なんだが、レールガンだからなぁ。

 撃たなければ、武骨な魔撃槍だと皆が思うに違いない。ブリッジの左右に膨らんでいるのは収納型の2連装30mm機関砲だ。たぶん宇宙軍の標準型になるのだろう。弾速が秒速1kmほどだから、魔獣狩りはこれだけで十分にこなせそうだ。


「主砲がレールガンとは意外だな?」

「これか? 見た目は主砲なんだろうが、副砲だぞ。主砲は此処にある」


 アオイが指さしたのは船首だった。


「ここがカパッと開いて砲身が出てくる……。そうそう、これだ!」


 3Dの画面が主砲発射シーケンスの一部を再現してくれた。

 武骨な砲身が出てきたけど、これもレールガンということになるんだろうか?


「拡散プラズマ粒子砲だ。集束型では物騒だからな。アリスから情報を得たが、レッドカーペット相手ならこれが使えるだろう」


 拡散型でも物騒な事には変わりない。アリスの耳打ちによれば、発射時は直径30cmほどのプラズマ球体だが、3km先では直径200mにもなるらしい。その表面温度は2千度を超えるというからなぁ。

 一撃で、艦隊を葬れそうだ。出来ればロマン砲として隠匿したままでいて欲しい。


「まだ資金が溜まりそうもないから、しばらくは亜空間に保管しておいてくれないかな」

『了解しました。搭載するロボットは6体ですが、アリスの情報ではそれだけあれば魔獣の解体は可能だそうです』


 うんうんと笑みを浮かべて頷いている。

 騎士の給与を貰っていると言っていたから、気の利いた内装を調えるのに1年もかかるまい。フレイヤから丁度品のカタログを貰っておいてあげよう。

 見ているだけでも、楽しいからね。


 アレク達も俺達に合わせるように休暇を取るらしい。先に別荘に向かうと言っていたから、領土の状況を確認して貰おう。

 俺の領地だけど、あの領地の住民はアレクを領主だと思っているかもしれないな。

 アレクなら面倒見が良い兄貴気質だから、住民にも慕われる領主になれるに違いない。


 砦建設地を出発して6日後に、ブラウ同盟の基地に到着した。

 先にエミーとフレイヤを伴って館に向かうと、アオイが庭先で俺達を出迎えてくれた。

 アリスから館の座標を教えて貰ったんだろう。

 フレイヤ達がちょっと驚いているけど、直ぐに館のリビングに移動する。

 メイド見習いのネコ族の娘さんが俺達にコーヒーを運んでくれた。だいぶぎごちなさが無くなったのはメープルさんの教えが良いからなんだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ