M-354 アオイの別荘になるらしい
リバイアサンの戦機駐機場に、見つけた代物を亜空間から取り出した。
さすがに駐機場に置くと大きく見えるな。このままにしておいたなら、ローザが来た時に文句を言われかねない。
立ち会ってくれたアオイが船体を見て笑みを浮かべている。
大きいものは正義なんて考えているのかな?
「本当に俺が貰って良いんだろうか?」
「見つけた者が所有権を放棄しない限り、アオイの物だよ。どうやら核の崩壊熱を使った電源で一部が動いているらしいけど、機能維持と最低限の防衛機能が働いているんじゃないかな」
「とりあえず、これが何なのか確認した方が良いだろうな。危険な代物なら、測廃棄しないと……。アテナ、頼んだぞ!」
『了解しました。デッキで一服していてください。今後の利用が可能かを確認します』
「探査能力はアリスの方が上だろう。場合によっては手伝って貰った方が良いかもしれない」
『既に手伝って貰っています。やはり先行偵察機は優秀ですね』
アテナの通信が俺の脳裏にまで届いている。一般回線ということになるんだろうな。
「とりあえず、コーヒーでも飲んで待つことにするか。2機が協力するならそれほど時間は掛からないはずだ」
「だな……。だけど、これなら俺の別荘にできそうだ」
そう言って、コーヒーを飲みながら別荘が欲しい理由を話してくれた。
やはり客としてリバイアサンにいるのは、少し心苦しいところがあるようだな。
リバイアサンで暮らしながらも、休暇中には気楽に暮らしたいということらしい。
「海に浮かべるってことか?」
「最低でもそうしたいね。リオの別荘近くなら係留していても問題は無いだろう? アレクの別荘近くだと、リオの話では漁師に職業が変わりそうだからなぁ。
アオイの冗談に顔を見合わせて笑い合う。
確かに漁師になりかねない。騎士団を離れたらそれも良さそうだけど、まだまだ冒険がしたいんだよなぁ。
「家にするなら、それなりの部屋を作れそうだね」
「だけど、調査次第では陸上艦にすることも可能に思えるんだ。アテナの放った中性子線に反応したぐらいだからなぁ。案外、電脳の性能は良いのかもしれない。アテナの持つ製作能力を使うなら、この程度の大きさの陸上艦なら1人でも動かせそうだ。だが、武装はリオと相談するぞ。この世界を崩壊させるような代物は必要が無いからな」
魔獣相手に戦えて、必要に応じて敵の軍艦とも渡り合えるぐらいということになるのだろう。
口径の小さな砲塔が2つ程度になるのかな? いざとなればアテナを使えるんだからね。
「魔獣を狩れるならありがたいな。俺達騎士団は魔獣を狩って、魔石を得て暮らしているんだからね」
「アテナを使えば簡単に思えるが、それは他の騎士団に妬まれかねないからなぁ。郷に入っては郷に従えという言葉もある。やはり基本は同じように行いたいところだ」
上手くできれば良いと思うんだが、獣機を1個分隊乗せるのは不可能に思える。それはどうするんだろう?
「狩りは出来るだろう。問題はその後の解体だが、アリスから提案があったようだぞ。どうやらオートマターを作れば良いらしい。その原型をアリスが保管しているとのことだから、陸上艦が可能であるなら、それをアテナに製作して貰おうと考えている」
アリスが提供するオートマター?
しばらく考えていたが、どうにか思い出すことが出来た。オルネアの周囲で見つけた物騒なロボットだな。
あのロボットの電脳の性能はかなり低いものだったらしい。『サーチ&デストロイ』が基本だと言っていたぐらいだ。
でも、それを提供することで獣機と同等の働きができるとなれば、アオイ達は自分達で騎士団を作ることが出来るんじゃないか?
「自立しようなんて、考えているのか?」
俺の言葉に、アオイがキョトンとした表情を作ったんだが直ぐに噴き出した。
「ハハハ……。そう考えたのか? さすがにそれは無い。自立するとなれば色々と面倒なことになりそうだからね。この騎士団にいる限り面倒事は任せられるし、何といっても兵站を確保できるからなぁ。それに、ここの連中は皆おもしろい人物ばかりだ。それでいてリオを頼りにしているのが、傍から見ていてよく分かるよ」
『マスター。お話の途中ですが、調査を終了いたしました。さすがに宇宙に出掛けるのは難しいですが、陸上航行であるなら可能です。武装については迎撃ミサイルの発射筒を12基、レールガンを2基持っていました。迎撃ミサイルの弾頭は近接信管による炸薬の爆発で破片を周囲に爆散させる方式です。レールガンの性能は直径40mmの弾丸を秒速2kmで放つことが可能です』
「大型艦の防衛用随伴機というのが正しいようだな。改造に要する資材の調達と期間はどの程度掛かるのだろう?」
『リバイアサンの製造施設を稼働することで約3カ月程度になると推測します』
「となると、リオの許可がいるなぁ。製造施設を使わせてくれるか?」
「ああ、良いだろう。だけど、今は見ての通り2つ目の砦を作っている最中だ。その工程に影響がない範囲でという条件を付けたいんだが?」
アオイが笑みを浮かべて片手を差し出してくれた。
交渉成立ということだな。握手をして、完成を祈ることにした。
さて、戻ろうかと駐機場に目を向けた時だった。
何時の間にか機体が消えている。
アテナが亜空間に収容したということかな? 亜空間内でアオイ達の船が作られているのかと思うと、俺まで笑みが浮かんでくる。
いったいどんな船になるんだろう?
俺達も色々と陸上艦を作ったけど、これは感性もあるからなぁ。きっと驚くような陸上艦が出来上がるに違いない。
その夜の事だった。
アオイ達にも手伝ってもらいながら学生の疑問に答えていると、笑みを浮かべたカテリナさんが湯気の立つカップをトレイに乗せて運んで来た。
俺達の前にマグカップを置くと、俺達に向かって笑みを浮かべる。
ちょっと邪悪な笑みに思えるのは俺の気のせいだろうか?
「私が複製を頼もうとしたら、リバイアサンの製造設備がフル稼働しているの? 何を作ってるのかしら?」
美人のねこなで声程怖いものは無いと思ったけど、ここはどうこたえるべきなのか……。
「ああ、それは俺が頼んだ物を作って貰ってるんです。材料が少し特殊な事もあって、リバイアサンの製造設備が苦労しているのでしょう。直ぐに作れるような代物でもありませんから、製造設備の稼働率を下げましょうか?」
「そう言われると、私の方も直ぐに使うというわけではないから……。一応、指示だけエミーに頼んでおくわ。それで、何を作ろうとしているの?」
「小さな陸上艦を作ろうとしてるんです。リオがリバイアサンでは狩りをするのに苦労すると言ってましたから、駆逐艦の半分ほどの大きさで作れないものかと……」
「少し小さすぎるんじゃない? ガリナムでも魔獣狩りは苦労しているみたいよ。それで、どんな形に?」
さて困ったぞ。カテリナさんは好奇心の塊だからなぁ。
納得するまで、問い掛けて来るに違いない。
「アテナ。仮想スクリーンを作って状況を教えてくれないか?」
『了解しました。……これが完成予想図になります』
テーブルに仮想スクリーンが現れて、涙滴型の船体が姿を現した。艦橋が真ん中についているけど、そんなに大きくは無さそうだ。砲塔は1つだけど、少し太めの砲身が2本突き出している。艦橋の付け根が膨らんでいるのは収納式の機関砲が備えられているのだろう。
特徴的なのは環境の後部だ。絞られた形で尖った船尾なんだけど、その上に広い甲板が作られている。
「結構大きな船体の思えるけど?」
『全長40m。直径8mの船体です。リバイアサンを参考にどこまで自動化できるかを試した試作艦になります。高機動も試験目的の1つです。計算では時速50ケムを越えられるのですけど……』
「かなりの際物ってことかしら? さすがにフェダーンには売り込めないわね。でもせっかく作るんなら、もう少し武装を強化すべきじゃなくて。魔撃槍を連装にしているみたいだけど、それでは魔獣の群れを相手にするのは不足に思えるわ」
「半分趣味のようなものですからねぇ。俺の船にしようかと思ってるんです。アテナがいるならこれで十分ですよ」
魔撃槍ではなくレールガンだとは教えないでおこう。
カテリナさんの勝手な勘違いだから、後で文句を言われることもない筈だ。
それにしても、時速50ケムとはねぇ……。
感心していたら、アリスが脳内に囁いてきた。それによると『地上走行では……、という枕言葉が抜けています』ということだ。
思わず、呆れて口を開けそうになったのを必死でこらえたぐらいだからなぁ。
『リバイアサンと似た原理です。重力勾配を操ることで高度50m程度まで上昇できるでしょう。あの船にセンサーを沢山取り付けることで、アテナの能力を補完するつもりのようです』
まぁ、それでもアリスの能力を超えることはないだろう。だがこの世界では優秀な調査船になることは間違いない。
アオイは魔獣を狩るために使用するつもりのようだが、砂の海を広く移動しながら帝国の遺産を見付けることになるんじゃないかな。
「ところで、アオイ君も自然科学について詳しいのかしら?」
「どちらかというと魔導科学が理解できません。アテナがアリスから情報を得ているようですから、のんびりと学習しようと考えてます。でも、リオの考えを聞くと無理に覚える必要も無いんじゃないかと。未だに亜空間の利用が空間の拡大だけに成功しているだけのようですからね」
魔導科学は俺に頼るつもりなのかな?
確かに必要がないかもしれない。魔法で起こせる事象は科学の力を使えば何とかなるからなぁ。
将来的に廃れる科学であると知って、彼なりに見切りを付けたのかもしれない。