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M-353 アオイの見付けた物


 荒野で出会った人物は、『アオイ』と言う名だった。どうやら俺と同じように亜空間航行時に次元振動で航路を逸脱したらしい。

 話を聞くと俺と同じ太陽系で生まれたらしいのだが、既に肉体を失い俺と同じようなナノマシンで構成された体を持っているとのことだ。

 年代は俺と同じに見えるが、俺より数十年程後の人物だと分かったのは、彼の相棒である『アテナ』と俺の『アリス』の持つ情報を共有することで知ったことだ。

 互いに相手の持つ機体が、先行試作型だということに唖然としたのだが、なぜに2つも先行試作型が存在し、しかもそれが量産されることが無かった理由もどうにか理解できた。

 アリスは植民船団の先駆けとなる先行偵察に特化した機体であり、アテナは敵対生物の排除を目的とした機体のようだ。

 多分アリスが先行し、その情報を基にアテナが植民地の安全を担保すべく行動するのだろう。

 アリスには多種類のセンサーがあるようだが、アテナはそれほど多くは持たないようだ。アリスから得られた情報がそれだけ多くかつ緻密なものになるからだろう。

 その反面、武装がアテナは強化されている。アリスが広域殲滅兵器を持っていないのに対して、アテナはいくつかそんな物騒な兵器を持っているらしい。

 だがそれを使うには、アテナ本人の倫理とアオイの指示が一致した場合にのみ可能となるらしい。知的生命体を一方的に根絶やしにしてまで植民するのは確かに問題だろう。

 アオイも元は軍人らしいが、上官の指示に従うだけの人物ではなかったようだ。

 最終的には自ら軍を退いたみたいだな。

 その就職先が移民管理局となり、アテナと共に活動していたようだ。

 

「どうやら、移民船団に参加する人間が少なくなってきたらしい。だからアテナは先行試作機ではあるのだが、量産機が無いんだ。リオのアリスもどうやら同じってことのようだな」

「そんな俺達が、同じように次元振動に巻き込まれるとはねぇ……。意図的なものを感じてしまうよ」

「さすがにそれはないだろうな。未だに次元振動を人為的に起こして、亜空間航行をしているアテナを弾くようなことはまだ出来てはいない。もし、それが出来ていたなら、リオの事故を移民管理局が知らないはずがないだろうからなぁ」


 具全にしては出来過ぎているけど、事故なんてそんなものかもしれないな。

 ここは気兼ねなく話せる人物が増えたぐらいに考えておいた方が良さそうだ。


 彼をリバイアサンに保護して、ドミニクの許可を得られれば同じ騎士団員として、活動できそうだ。

 そもそもアリスと似た機体だからなぁ。誰が見ても、戦姫だと思うだろう。

 駐機場にアテナを置いたことで、ベルッド爺さんからカテリナさんに話が行ったようだ。

 それこそアスリート並みの速さで、プライベート区画でコーヒーを飲んでいる俺達の所に駆けこんできたからね。

 簡単な診察をした後に、ちょっと物騒な試験を彼にしたのはやはり魔導師の性ということなんだろうな。

 一般人なら直ぐに口から泡を吹く、という添加物の入った飴玉を彼に舐めさせたんだが、彼がケロリとしているのを見たカテリナさんの表情はいまだに寒気がしてならない。

 あれが悪魔的な笑みということなんだろう。女性は魔物を心に飼っていると聞いたことがあるけど、正しくその通りだと思う。


 その後は、カテリナさんがあちこちに指示を出し始めた。

 獲物は絶対逃がさないという感じがするぐらいだ。やってることも似たような事だったけどね。

 おかげで、めでたくヴィオラ騎士団員の騎士として迎え入れられたし、戦姫を駆るということでプライベート区画の客室を使うことが了承された。

 当の本人はナルビク王国とエルトニア王国から妻をめとることになったことで目を白黒させていたけどね。

 戦力バランスがウエリントンだけに偏るのを防ぎたかったのだろう。急遽、第2離宮からヒルダ様をリバイアサンまで運んで来たぐらいだからなぁ。

 ヒルダ様とフェダーン様、それにミネヴァ様の3人で話合った結果だから、国王陛下も反対することは出来ないだろう。

 相手の女性が少し気の毒になるけど、フェダーン様が言うには王女であれば王国の平穏に寄与して当然の事らしい。

 どんな身分の人にも、それなりの気苦労はあるんだろうけど、王族ともなるとそれだけでは済まないらしい。

 色々考えてみると、王宮で政争に明け暮れている貴族が一番気楽なのかもしれないな。


 そんなアオイがメープルさんと試合をしたんだが、何とメープルさんを跳ね飛ばしてしまった。

 本人に言わせると、互角だったらしい。跳ね飛ばされたのは体重差ということだ。

 俺も同じような事を起こしたからなぁ。色々と噂のあるメープルさんの唯一の欠点は体重が軽いということなんだろう。

 その日の夕食時には再選をメープルさんが申し込んでいたけど、アオイも笑みを浮かべて受けていたから、2人の間にわだかまりは残っていないらしい。

 今まで俺ばかり相手にしていたからなぁ。対戦相手が増えたことがメープルさんにとっては一番嬉しいことなのだろう。


 アオイの乗るアテナは戦闘特化ということらしいから、アリスと同じように地中探査を行うことが出来ないらしい。

 アリスから地中探査用のプログラムを受け取ったらしいのだが、能力はアリスの半分を超えることが無いようだ。

 とは言っても、この世界では破格の性能であることに変わりはない。

 俺達と一緒になって、西の荒野の地図作りと地中探査を手伝ってくれている。

 異常反応を見付けたら、その座標を後で俺達が精密調査をすれば良いことだ。おかげでかなり地図作りが捗っている。

 

 そんなある日の事だった。

 夕暮れ前にリバイアサンに帰投した俺達は、ソファーに腰を下ろして一服を楽しむ。

 コーヒーを飲んでいたアオイが突然興味深い話を始めた。


「どうやらリオのいう古代帝国の残滓というか、遺産を見付けたぞ。地中15mほどの深さに横たわっているんだが、反応の大きさからすると小型陸上艦ぐらいはあるんじゃないかな。座標はアリスに教えているはずだ。明日にでも調査してくれないか?」


 ちょっと驚いたけど、調べる価値は十分にある。

 動力が死んでいるのか、それに軍事用なのか……。場合によっては融合弾を搭載していないとも限らない。


「アリスに提供して貰ったセンシングプログラムによると、船殻はチタン製だ。このリバイアサンは複合装甲を使っているから、案外敵対する側の船かもしれないぞ。それとだ、若干の熱反応が確認されている。動力源は分からないが俺達の反跳中性子線解析用の中性子線を感知して目覚めた可能性もありそうだ」


「危険な存在でなければ良いんだが……。ブービートラップなら、すでに結果が出ただろうから、やはり遺物ということになるんだろうな。調査は了解した。だけど荒野では第一発見者に権利がある。案外大金持ちになれるかもしれないぞ」

「止してくれ。衣食住が保証された上に、小遣いまで貰えるんだからなぁ。ここは天国だと思っているよ」


 本人が嫌がっても、それが掟だからなぁ。必要ないなら売ることもできるだろうから、当座はリバイアサンに留め置けば良いだろう。そうしないとカテリナさんが何を言い出すか分かった物じゃない。だけど案外、興味がそっちに向いている間は俺達に被害が及ぶことはないかもしれないな。


 翌日。教えて貰った座標にアリスと共に出掛けてみた。

 上空から見る限り変化のない荒地としか見えないんだが、アリスに寄ればガリナムほどの大きさの船殻を持つ物が地中に埋没しているとのことだ。


『熱反応は、アテナより教えて貰った数値より3倍ほどに上昇しています。やはりアテナの放った中性子線に反応したと考えられます。船殻の構成物質はチタン合金ですね。単一ではなく、数種の合金を使った複合装甲です』


「詳しく調査したいところだけど……」

『星の海より2千kmほど離れていますから、大きな穴を掘ったとしても落ちる陸上船はいないでしょうね。始めますか?』


 思わず「出来るのか?」と問い掛けてしまった。

 宇宙船のハッチまで土砂を取り除いたことはあったが、あれは直径10mにも満たない穴だったからなぁ。

 これを掘り出すとなったら、獣機を中隊規模で用意しても1カ月は掛かりそうに思えるんだけどねぇ……。


『亜空間を通して、別の場所に土砂を移動すれば良いことです。それほど時間は掛かりませんよ。金属物体を除外すれば土砂だけを撤去出来ます』 


 次元を操るという技術はいろんな応用が利くということか……。

 俺にはそこまで理解は出来ないんだが、亜空間移動は行うことが出来る。アリスによれば、俺の思考とは異なる部分がその時には働いているらしい。

 案外、アリスが補助してくれているのかもしれないな。俺を何時でも見守っているらしいからね。


 アリスの掌に乗って作業状況を見守っていると、みるみる大きな穴が作られていく。近くに土砂の山が出来たのは移動した土砂ということなんだろう。

 

『地上走行型の機体とは異なるようですね。内部空間の存在を確認……。船内の区画から推測すると、以前発見した宇宙船に随伴して行動する警備艇のようです』


 武装しているということか……。慎重に調査しないといけないだろうな。

 

「動力炉は生きているということかな?」

『ある種の原子力電池を持っているようです。動力炉は冷えたままです』


 放射性物質の壊変熱を利用した電池ということなんだろう。中に入っている核種が問題だな。下手に分解しようものなら周囲に飛散するかもしれない。


「所有権はアオイになるからなぁ。話し合って、物騒な代物は撤去したいけど。これを運べるだろうか?」

『乗員はさすがに乗っていませんから、亜空間に収容してリバイアサンのドックに移動しましょうか?』

「それだと、人目についてしまうな……。戦機の駐機場に移動するか。これが入るぐらいの広さはあるはずだからね」


 ローザ達が乗船して来なかったから、リバイアサンの戦機駐機場はアリスだけになってるんだよなぁ。飛行機は反対側の駐機場を使っているから、カテリナさんにもしばらくは気付かれないだろう。

 いずれは気付くに違いないが、その前に物騒な代物を撤去するぐらいはできそうだ。


「亜空間に収容してくれ。だけど、駐機場に入るんだよね?」

『十分に余裕があります。ローザ様達がやって来ても、戦姫や戦機を駐機できるスペースは確保されていますし、離発着デッキへの移動も支障となるようなことはありません』


 確かに小さいからねぇ。

 上空からの探査ではガリナムより小さいぐらいに思えたんだけど、現物は全長40m。直径8mほどの細長い涙滴型だ。尖がっている方が後方なんだろうと思うけど、どう見ても地上を走行できるとは思えないな。

 アオイが所有権を放棄したなら、潰して何か別の物を作った方が良さそうだ。


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