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★ 04 さすが暗部を支える小母さんだ


 ベッドで眠ったのは、どれほど前なんだろう?

 記憶にあるのはかなり以前の戦闘艦の兵員室の三段ベッドだった。

 そんなにベッドで寝る機会が無かったんだろうかと、今さらながらに自分の通って来た道を考えてしまう。

 シャワーを浴びて、用意してくれた制服に着替える。

 ご丁寧にキャップまで付いている。これも被った方が良いということなんだろうな。

 3文字の刺繍が額のところに刺繍されているんだけど、黒字にクリムゾンレッドだか

らかなり目立つんだよなぁ。


 ガンベルトに付属した小さなポーチにスピードローダーを2個入れて、もう1つのポーチにシガレットケースとジッポーを入れておく。

 腰には大型リボルバーだ。蓋付きのホルスターだから、それほど違和感を持たれないだろう。

 ベルトのDリングにプラズマソードを下げておく。見た目がライトだから、これは違和感があるかもしれないな。


「時刻は8時を過ぎたところだな。朝食については何も言ってなかったが、昨夜の場所に行けば何か摘まめるだろう」


『何も出ない時には、カロリーバーがありますよ。まだ200本近く残っています』


「その時にはお願いするよ。それじゃあ、移動する。アテナは引き続き情報の収集を続けて欲しい」


 客室を出ると、ホールにある面白い仕掛けまで足を運ぶ。

 昨夜は通り過ぎるだけだったんだが、回廊やホールには絵画や彫刻もかなり凝った品ばかりだ。さぞかし値も張ったんだろうが、騎士団の収入はそれなりに良いということになるのかな?

 雇用条件に付いてもう少し協議すべきだったのかもしれない。


 上階に上がると中央のモニターが高原の花畑に変わっていた。

 思わず見とれてしまう自分に思わず苦笑いを浮かべてしまう。こんな景色がこの世界にあるんだったら、アテナと一緒にもう少し世界を巡ってみた方が良かったのかもしれないな。

 昨夜話し合ったソファーには、リオと物静かな2人の女性が座っていた。

 確かフェダーン様とヒルダ様と、リオが紹介してくれた女性だ。

 その2人は、ウエリントン王国のお后とのことだ。たしかに「様」を付ける必要があるだろう。場合によっては「殿下」と言わなければならないんじゃないのか?


「おはようございます」


 とりあえず頭を下げて挨拶をしておけば良いだろう。

 リオが隣に座るよう声を掛けてくれたので、ソファーに腰を下ろす。このソファーセットもかなりの値打ちものだな。


「カテリナさんが、ドミニクに話を付けてくれた。アオイは正式にヴィオラ騎士団員だ」


 リオの話に、2人のお后様が笑みを浮かべて頷いている。

 既に面倒な調整が済んでいるということなんだろうか? 俺の意見は無視されているように思えるけど、行く当てもないからなぁ。衣食住が確保されたことを喜ぶことにしよう。


「ただし、条件が付いた。妻を2人娶ってほしい。これは王国間のバランスを取るためでもあるんだ。そうでないと、同盟関係が瓦解しかねない」

「名目ということかな? だが、リオも知っている通り、俺の体はリオとさほど変わらないぞ」


「将来は何とかできそうだが、現状は難しいだろうな。だが、昨夜ちょっと顔を出したカテリナさんが色々と手を尽くしてくれている」

「それを承知の上でなら、俺の方は問題ない。だが、相手の方だって都合があるんじゃないのか?」


「王族に婚姻の自由はない。贅沢な暮らしをしているのだから、その見返りというべきかもしれんな。国民にさらなる幸せを与えるのが王族の務め。国民を害するものを排除するのも王族の務めだ」


 フェダーン様の言葉に隣のヒルダ様も頷いている。

 多分幼少のころから言い聞かされている言葉なのだろう。

 王国の利益に繋がる婚姻であるなら、問題ないということになるのかな?

 でもそれは、本人達の幸せを無視しているようにも思えるんだけどなぁ……。


「さすがに直ぐに、ということではありません。事前に1度は会っておいた方が良いでしょう。それは私達で準備します」


 ここは頭を下げておくべきだろう。

「よろしくお願いします」と頭を下げると、2人とも笑みを浮かべて頷き合っている。


「そうすることで、アオイをこのプライベートルームの客室におけるよ。戦機を操縦する騎士は士官待遇だからなぁ。戦姫となればさすがに同列に置くことも出来ないだろうし、俺の相談に何時でも乗って貰えそうだ」


 朝の一服を楽しみながら当座の仕事に就いて話をしていると、ネコ族のお姉さんが朝食を乗せたトレイを運んできた。

 どうやらこのソファーで朝食を取るらしい。

 出てきたのは、フルーツサンドにコーヒーだった。案外質素な暮らしをしているんだな。


「運動に付き合ってくれるかにゃ?」


 お代わりのコーヒーを注いでくれた小母さんが小さな声でお願いしてきた。

 ネコ族だけに、猫なで声だ。


「良いですよ。でも、武器は使わないで良いんですよね?」

「十分にゃ! 訓練場はリオ様に教えて貰うと良いにゃ」


 笑みを浮かべて去って行ったけど、隣のリオは呆れ顔なんだよなぁ。


「本当に良いのか? かなりの使い手だぞ。合気道が通用しなくなったからね」

「彼女は何を?」


「どうやらこの世界の武道らしい。しかもネコ族に代々伝わる物ということは分かったけど、編み出したのが誰かはまるで分らないということだった。かなり空手に似てるんだけどね」


 空手ね……。その上分身に近いことまでやると言ってたな。

 そもそも、獣人族という人種があるということに驚かされたんだよなぁ。

 とりあえず見た目で判断しないようにしよう。

 それにネコ族というからには、ネコの持つ身体能力に近いことが出来るということにも繋がりそうだ。

 ネコは肉食獣で狩りの名人だからなぁ。


 訓練場は居住区の兵員区画にあるらしい。

 リオの案内で付いていくことになったんだけど……。後ろにいるフェダーン王妃とどから湧いて来たのか笑みを浮かべたカテリナさんが一緒だった。


 フェダーン王妃の場合は軍人だから俺達の試合に興味が沸いたのかもしれないが、カテリナさんはマッドそのものだ。リオに聞くと魔導師という地位についているということだ。扱える魔法の中には治療まであるらしいから、万が一の用心ということになるのかな?


「ここが訓練場だ。ちょっと狭い体育館という感じだが、兵士の運動の場所として使われているんだ」

「確かに体育館だな。まったくこの移動要塞は何でもあるんだな」


 俺達の姿を見た訓練士官の何人かが、兵士達に中央を空けさせている。

 その中の1人が俺達の所に走って来るとこの世界の軍の挨拶のようなしぐさをした。

 右腕で胸を叩くというのが面白いな。

 フェダーン王妃とリオが軽く同じ仕草をすると、直ぐにリオがこの場を貸して欲しいと願い出た。


「リオ様の試合を見せて頂けると! 急いで空けましたが、それならもう少し大きく空けた方が良いですな。とはいえ我等も見たいですから、もうしばらくお待ちください」


 リオが話し掛けようとしたけど、士官が直ぐに踵を返して仲間達の所に向かった。さらに真ん中が大きく空けられた。


 床は……、板張りのようだ。軽くその場で跳ねてみたが、軋む音さえしない。

 ブーツと靴下を脱いで、装備ベルトを外してリオに預ける。

 さて、小母さんもそろそろ来るんじゃないかな?


 ン! 中央に歩くといきなりその場で飛び上がる。数m飛び上がると天井に一角に蹴りを入れる。

 急にあの小母さんが姿を現した。それこそ天井から滲みだしたかのような登場だ。

 ひらりと床に降り立って、遅れた俺に体を向ける。


「さすがにゃ! リオ様より上かもしれないにゃ」


 嬉しそうに笑みを浮かべる。

 王家の裏を支えてきたらしいけど、それなら今でもそこにいるべきなんじゃないかな?

 リオが何か無作法をして暗殺対象になっているんだろうか?

 笑みを浮かべたままだけど、俺に向けられた殺気が渦を巻いている。


「俺は無実ですよ。暗殺対象にはならないと思うんですけど?」

「運動にゃ。殺気は職業病にゃ。武器を持ってないから、死ぬことはないにゃ」


 それって、半殺しは覚悟しろってことだよね!

 まったく、困った小母さんだ。

 少しだぶついた上下は、運動服なんだろうな。

 構えは確かに空手に見えなくもない。だけど、あの構えは防御を全く意識してないんじゃないか?

 俺が攻撃する前に、十分先手を取れるという自信があるんだろうな。

 リオは戦闘形態に50%移行してどうにかだと言っていたが、先行偵察要員と戦闘特化要員では使われるナノマシンの種類が少し異なるらしい。

 最初から50%というのはさすがにやり過ぎだろう。先ずは20%まで移行する。

 肉食獣相手でも、この状態ならナイフで挑むことだって可能だ。


「行きます!」


 声と同時に彼女に踏み込んだ。

 彼女はそのままだ。俺の踏み込みに驚く様子は全くない。

 腹に掌底を撃ち込むために伸ばした腕が彼女を通り過ぎた。

 なんだと!

 その伸ばした腕を下げるようにして、前転すると天井へとジャンプする。


「素早いにゃ! 今度はこっちからにゃ」


 目の前に彼女がいた。

 笑みを浮かべて俺に鋭い蹴りを放って来る。

 その場で体を丸めて防御姿勢を取るのが精一杯だ。背中にドン! と衝撃が走る。


 蹴られた勢いで着地点がズレたけど、その場で彼女を見据える。

 とんでもない身体能力だ。

 まるでネコのような動きだが、そこから繰り出される蹴りは半端じゃない。俺でなければその場で昏倒したに違いない。

 侮っていたかな?

 さらに戦闘体型への度合いを増す。

 視力を調整して、彼女の赤外反応を見る。

 動く瞬間に筋肉はどうしても熱を発する。それが分れば少しは対処しやすいし、俺の反応速度も上がっている。

 さて、彼女はどう動く……。


 彼女の目が動いた。左足に反応がある。

 これなら!

 ガツン! と大きな音が体育館に広がる。

 彼女とガチに打ち合ったらしい。

 さすがに体重が軽い彼女が弾かれたけど、俺の方もかなりの衝撃を受けた。

 人間なら肋骨が折れているだろう。いや、背中に彼女の腕が飛び出していたかもしれない。

 まだ立てない彼女の傍に歩いていくと、手を差し伸べた。


「強いにゃ! リオ様と同じにゃ」

「怪我はありませんか? 手加減など出来ない状況だったものですから」

「これぐらいならだいじょうぶにゃ。直ぐにマイネ達がやって来るにゃ」


 立てないってことか! やはりやり過ぎたということなんだろうな。

 彼女をヒョイとお姫様抱っこをして、その場を去ることにした。

 俺達が体育館を出て扉が閉まると、体育館から大歓声が聞こえてきた。

 やはり彼女はかなりの使い手ということになるんだろうな。

 どこにでもいる小母さんに見えるんだけどねぇ……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 続けての更新ありがとうございます。 アオイは右も左もわからんうちにハーレム決定ですね。 [一言] 他の物語も合わせて楽しく読ませていただいています。
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