表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
355/391

★ 03 この世界は女性が動かしているのか


 いきなりコンバットスーツを脱がされ、大きな虫眼鏡のような代物で俺を調べ始めた。

 ここはなされるままにしていた方が良さそうだ。逆らったりしたなら、いきなりブスリと注射されかねない。


「……はい! 終わったわよ。私達と同じなのね。でもリオ君の前例があるから油断は出来ないわ。これはお詫びね」


 そう言って飴玉を1つ渡してくれた。

 俺は子供ではないんだけどねぇ。掌で転がしていてもしょうがないから、そのまま口に放り込んだんだが……。

 俺を見ている顔がだんだんと笑みに変わっていく。

 古風な懐中時計を取り出したのは何か理由があるんだろうか?


「3分経過して変化無しか……。フェダーン、直ぐにヒルダに連絡してくれない。リオ君はヒルダを此処に連れて来て頂戴。事態は予断を許さないわよ!」


 あの飴玉に何か仕込まれてたのかな?

 アテナに確認してみると、アオイには無害な成分ばかりですと答えてくれたんだけど……。ちょっと待て! 俺には無害ってことは、他の人間なら問題のある成分ってことか?


『人間が食したなら、早めに処置しないといけません。ナノマシン構成物質の中には人体に極めて有害な物質も含まれております』


 そういうことか……。やはりマッドだった。

 多分リオで何度も試しているに違いない。世の中にはある一定の割合でマッドが生まれるという学説を呼んだことがあるけど、それはどの世界でも適用する事かもしれないな。

 とはいえ俺には無害であった以上、責めることも出来ないし……。


「かなり危険な飴玉だったみたいですね。試すのは俺以外にして欲しいところです」

「リオ君で試した結果だから、貴方も影響がないということかしら。そうなると、いろいろと問題が出てくることも確かね。フェダーン、ヒルダは来られるかしら」

「30分待って欲しいと言われたよ。リオ殿よろしく頼むぞ」


「了解しました。5分前に向かいます。彼の措置についてはフェダーン様と調整を計っていたところなんですが」

「全く、そんな調整で終わるとは思わないわ。戦姫を自由に操れる2人目の人物が現れたのよ。ウエリントン1国の話では済みそうにないでしょうし、万が一にもハーネスト同盟に彼が入るようなことになるなら、この世界は終焉を迎えかねないわ」


 リオがこの世界には王国があり、その王国から貴族の待遇を受けていると言ってたが、それはある意味この陣営に繋ぐためでもあるのだろう。となると彼の妻は王族もしくは有力な貴族の娘ということになるはずだ。

 それに、彼が様付けで呼ぶ女性は彼よりも地位が高いことになるのだろう。いったいどういう人物なのだろう?


「リオと同じということか?」

「そうよ。今は私達と同じでも戦場では全く異なる体組織に変わるはずよ。アリスから頼まれて、リオ君の不足する物質で作った飴玉を普通に舐められるんですもの。私達なら1分で口から泡を吹いて倒れるわよ」


 案外リオとは親しい間柄のようだ。彼のコーヒーカップを手に取り一口飲んで直ぐにテーブルに戻した。

 彼も俺と同じでコーヒーには砂糖だからなぁ。彼女は苦いコーヒーが好みなのだろう。


「俺は人間ですよ」

「それは同意するわ。少し変わっているけど、同じ容姿で話が通じるんですもの。私はアリスも人間だと思っているわよ。それにしても、あの戦姫も美人よねぇ」


 世間話を装っての尋問が始まった。

 とりあえず、正直に答えておこう。嘘はいずれバレるからね。嘘の上塗りを重ねるようだと信用が得られなくなるだろう。


「亜空間移動時の事故ってこと? リオ君も似たような話をしているところを見ると案外その種の事故は多いのかもしれないわね。それにしても魔導科学を理解できないなんて……」

「リオの場合は特別だ。パラケルスに掴まったからな。それで彼の魔導科学をアリスが手に入れたようなものだ。それが無ければリオも魔導科学を全く知らなかったに違いない」


 俺の方が驚いているぞ。この世界では魔法が使えるらしい。その魔法を体系化して種々の技術と組み合わせることで大きな構造体ですら動かせるとのことだ。

 俺も使ってみたいところだけど、副作用もあるに違いない。リオに後で聞いてみよう。


 席を外したリオが10分後に、ドレス姿の美女を連れて戻ってきた。

 テーブル越しの美女2人の隣に座ると、直ぐにカテリナと呼ばれた女性が話を始める。


「リオ君に聞いたと思うんだけど、2人目のリオ君がリオ君の隣にいるの」


 2人目のリオ君って俺の事だよな?


「アオイと言います」


「私はヒルダ。隣のフェダーンと共にウエリントン王国の王妃でもあります。2人目のリオ殿となると、確かに影響が大きくなりますね。陛下はリオ殿を評して覇気がない奴だといつもこぼしておりますが?」


 要するに好戦的であるか否かということだろう。


「どちらかと言えば怠け者。ですが売られた喧嘩を値引いたことはありません」


「中にはチップをはずむ者もいるそうですよ。でも、そうなるとヴィオラ騎士団に加わるのが一番良さそうですね。後はいずれ頭角を現すでしょうから、その措置を考えれば済むことです。それはリオ殿を先例とすれば良さそうですね」


「ウエリントンにはフリーの王女がいないのが問題だな。となると有力貴族が頭を持ち上げそうだ」

「ナルビクとエルトニアには?」

 

 ヒルダさんの提案に考えこんでいるが、やがて笑みを浮かべたところを見ると、いるってことかな?


「いるな。ナルビクは私の意見を重く見てくれるだろう。だがエルトニアはどうか……」

「ナルビクが動けば動かざるを得ないでしょうね。降嫁前にアオイ殿をウエリントンが男爵位に任じれば、2つの王国内に波風は経たないでしょうし、ウエリントンへのやっかみも薄れる事でしょう」


「やはり妬みはあるということか……。リオ殿に頼むともなればウエリントン王国を通す必要があるが、娘を通してならそれほど大げさとはならないということになるだろう」


「後は、リオ殿とアオイ殿の諍いが起らぬよう祈ることになりそうですが、これは妻達の務めになるでしょうね」

「なるほど……。やはりヒルダに相談すればよかったということになりそうだ。私としてはハーネスト同盟との争いに強力な駒が加わったと喜べば良いだけになりそうだな」


 なんか俺を抜いて話がまとまってしまった感じがするんだが……。

 隣のリオを見ると俺に顔を向けて、小さく首を振っている。諦めろってことか?

 この世界は女性が動かしているみたいだな。


 話が一段落したところで、客室に戻ることにした。

 アテナが色々と情報を仕入れてくれたに違いない。それを聞きながら一服を楽しみたいところだな。

 天秤台のような仕掛けで下の階に降りると、与えられた客室の扉を開いた。

 中に足を踏み入れた途端、思わず目を見開いてしまった。

 これが客室か! どう見たって一流ホテルのスイートルームに見えてしまう。

 大きなリビングは10人ほどで食事を取ることだって出来そうだ。

 片隅のソファーセットも豪華という言葉しか浮かんでこない。

 リビングの奥の扉を開くと、寝室だった。ベッドがキングサイズというのもなぁ…ン…。リビングのもう1つの扉を開くと、ジャグジーがあった。

 先ずはジャグジーを使わせて貰うか。

 お湯を出してリビングに戻ると、ソファーの上に服が畳んである。床にはしゃれた半ブーツまで揃えられていた。

 制服を用意してくると言っていたけど、俺のサイズが良く分かったものだ。


『郷に入っては郷に従え』という言葉もある。俺が目立たないようにとのことだろうが、黒のツナギとはねぇ。そういえばリオも黒のツナギだったな。

 これは騎士の制服なのかもしれない。

 浴室にあったタオルを手にジャグジーに入る。直径2mは少し大きすぎるように思えるが手足を伸ばせるから、ありがたい話だ。

 アテナに連絡を入れて、その後の情報に説明を求めると、まるでリストを作ってあるかのような口調で教えてくれた。


「先ずはヴィオラ騎士団についてです……」


 騎士団は、荒野に生息する魔獣と呼ばれる大型の獣を狩って、魔獣の心臓付近にある魔石を得ることを生業としているらしい。

 魔石は魔導科学を利用した機械装置に使用されるということだから、エネルギー源として使われているようだな。

 リオもこの騎士団に拾われたということだから、俺を憐れんで騎士団に誘ってくれたのだろう。

 義侠心がある奴で良かったと思う。少なくとも、リオは俺を利用しようとは思っていないだろう。とはいえ彼を取り巻く周囲が問題になりそうだが、無理強いはしないだろうとのアテナの見解だ。


「かつては科学技術に秀でた惑星だったようです。他の惑星まで植民しようと努力していたようですね……」


 大きな帝国を作っていたらしいのだが、後継者争いで帝国が分裂して互いに争ったらしい。その結果が今ということになるのだが、融合弾を互いに撃ち合ったとはなぁ。科学文明が廃れたのはそれが原因のようだ。

 その争いの中で、魔法という概念が作られたらしい。

 進んだ科学は魔法に似ているとも言われているが、どうやら本物の魔法だ。

 その魔法の効率を上げて、かつ魔石と呼ばれるエネルギー体を作るためにDNAを改変した生物まで生み出したようだ。

 さらには戦に特化した人間を作り出そうとして、いくつかの獣人をも作ったというんだから問題があるなぁ。

 あのネコ姿の小母さんも、そんな人間の子孫になるのだろう。

 現在は平和なのかと思ったが、どうやら覇権国家があるらしい。

 他の王国と同盟を結んでリオの属する王国の肥沃な土地を狙っているとのことだが、その内の1つの王国が発掘兵器を暴走させたということがあったようだ。

 融合弾の炸裂は核爆発以上に被害を与えたらしく、その王国は滅亡したらしい。因果応報ということなんだろうが、何も知らずに亡くなった民衆が哀れだな。

 

『以上の事柄を鑑みても、ヴィオラ騎士団への入団はマスターの心魂に合致していると推測します。アリスとの情報交換によると、かなりウエリントン王国及びブラウ同盟との関係があるようですが、基本的には民衆に利するものばかりの様です。その過程でリオ様が苦労しているようですが、それは我慢のできる範囲と推測します』


「なるほどね。彼なりの理想の追求にも思えるな。俺の協力で少しは肩の荷が落ちると良いんだけどね」


 多分落ちないだろうなぁ。苦労性はいくら周囲の連中が協力しても、別の苦労を背負い込むらしい。

 そんな性格だから、彼の上司が彼を先行偵察の任に付けたのかもしれないな。

 基本的に単独任務らしいから、他人の荷物まで背負うことにはならないはずなのだが……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ