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★ 02 技術が歪んでいる


 一瞬視野が歪み、次に全周スクリーンに映し出されたのは、大きな駐機場だった。

 ここがリオの言う、移動要塞リバイアサンの駐機場ということになるのだろう。汎用機体が20機以上駐機できるほどの大きさだ。


 リオが俺達の前に立って降りて来るよう手招きしている。

 何時でも脱出は可能だから、彼の誘いに乗ってみるか。

 コクピットを開き、その場から飛び降りる。10m近い高さだが、俺の身体能力なら何ら問題は無い。


「出来れば、普通に下りてくれないか? ここはドワーフ族のテリトリ―だ。直ぐに整備に向かって来るだろうが、多分俺に連絡が来るはずだ。機体を磨くのは許して欲しいな」

「それぐらいならアテナも喜ぶはずだ。問題ないよ」

「なら、俺達の居住区に案内するよ。とりあえずは客室で暮らして欲しい。俺達の部屋の1階下になるんだが、そこで暮らす人達は限られているからね」


 一般の騎士団員とは待遇を違えるということか?

 後で問題にならないと良いんだが……。


 駐機場を出ると回廊を通りエレベーターホールに出る。今度はエレベーターに乗って上に移動するんだが、かなり上になるようだな。48階でエレベーターを降りると、無駄に装飾されたエレベーターホールに出た。正面に数段の階段があり3mほどの高さを持つ両開きの扉は青銅製のようだが、龍のような絵柄が浮きだしている。


「貴族趣味も良いところだ……」

 

 思わず感想を呟くと、先を歩くリオの足が止まった。


「そうですよねぇ……。一応、貴族という地位を得てはいるんですが、俺にはこの趣味が未だに理解できていないんです。嫁さん連中が王宮の美術品倉庫から色々と持ちだしてきてるんですけど、できればシンプルにして欲しいんですが……」


 苦労性のようだな。その上妻を持っている……、嫌先程の言葉では複数の妻ということになりそうだ。それはさぞかし苦労しているに違いない。


 扉を開くコードが『オープン・セサミ』とはねぇ。

 ちょっとしたユーモアに思わず笑みが零れる。

 扉が開いた先は回廊が続いていた。


「大会議室に小会議室、それに名目的な俺の執務室があります。この扉の向こうが客室になります」


 豪華な扉を開くと再びホールが現れる。体育間ほどのホールの中央には花壇が作られていた。奥まった場所に作られた花壇ということは、光ファイバーで太陽光を導入しているに違いない。やはり異質な文化がここにあるようだな。


 部屋の扉に名前の付いたプレートがあった。

 ここは既に誰かが使っているということになるのだろう。丁度花壇を挟んだ反対側の扉の前にリオが立ち止まる。


「ここを使ってください。鍵は……、これになります」


 扉を開けて、内側のノブに下げられていた金属板を手渡してくれた。


「これがキーになります。これを持っていれば音声で扉の施錠と開錠ができます。適当な言葉で良いですよ。声紋で判断してくれますから」

「了解だ。それにしても立派だね。中は?」

「ツイン部屋です。贅沢なホテルの部屋だと思えば、それほど違和感が無いでしょう」


 十分に違和感がありそうだ。あまり高級なベッドでは寝られそうもないんだが……。


 ホールの入り口の反対側にあった設備を見て思わず首を傾げてしまった。

 苦笑いを浮かべながらリオが説明してくれたけど、これで上階に行けるらしい。

 

「天秤に似せた作りですけど、さすがにつり合いは無視していますね。台に人が乗ったことを判断して上下動するんです。この扉の奥に浴場があるんですが、この世界の浴場は男女別ではありませんから、更衣室に服が脱いである時には注意してください」

「いきなり桶をぶつけられるようなことは無いんだろう?」

「それはありません。大丈夫ですよ」


 と言いながら、言葉の最後で目が泳いでいるんだよなぁ。それなりに危険なのかもしれない。


「それでは俺達の暮らす階に案内します。その前に1つだけ、少し風紀が乱れているように思われる場合があるかもしれませんが、全員善人揃いです。ある程度の乱れは目を瞑ってください」

「気にすることはないさ。その世界の文化は大事にしないといけない。それに、風紀の乱れといっても騎士団なのだろう?」


 俺の言葉に苦笑いを浮かべている。

 結構そんな表情をする時が多いんだが、リオと暮らす連中が必ずしもリオの思いにそぐわない行動をすることが多々あるということなのかな?

 それは夫である矜持をしっかりと示すべきだと思うんだけどなぁ。


「コンバットスーツだが、これで問題は無いかな?」

「十分ですよ。後で騎士団の制服を部屋に届けます。騎士は武装できますが、アオイは何か持っているんですか? 武装していると相手に見せることで争いを未然に防ぐことも可能だと思うのですが?」


 威圧ということかな?

 それならと、亜空間を開いて装備ベルトを取り出した。

 装備ベルトではあるのだが正確にはガンベルトだ。コクピットで邪魔にならないように拳銃ホルスターは腰に付けてある。


「リボルバーですか! 44マグナム?」

「50マグだ。おかげでシリンダー内に5発なんだよなぁ。だが、あまり使ってはいないよ。これで事足りるからね」


 ベルトに差し込んである30cmほどの金属棒をトントンと左手で叩く。


「ライトではないんですか?」

「似ているけど、これはプラズマビームソードだ。アテナの持つプラズマビームソードの小型版になる」


 ちょっと驚いているな。

 彼は持っていないということになるのだろう。

 だがそれは仕方のないことでもある。そもそもが任務の相違が大きい。

 彼らは先行偵察が任務であり、そこで入植に脅威があると判断された場合に投入されるのが俺達だからね。

 その相違はアテナを通して彼のアリスに情報が渡されているだろうから、明日には彼も俺達の性能を知ることになるだろう。


「さて、それではこの台に乗ってください」


 言われるままに乗り込んで、リオが足を2回強く台を踏む。

 ゆっくりと台が上昇して、上階のホールの一角にピタリと停止した。

 目の前の光景に思わず目を見張ることになった。

 中央に大きな水槽があり魚が泳いでいる。


「皆驚くんですけど、あれは映像なんです。今は海の中ですけど、森の中や、山小屋から見る雪山の時もあるんですよ。さあ、此方です」


 やはり文化が歪んでいる。

 いったいどんな文化なのか良く知らねば、何もできないんじゃないか?


 ホールの一角にソファーセットがあった。ここが応接用に利用されているのだろう。4人が座れそうなソファーが3つ、丸いテーブルを囲んでいるのだが、先客がいるんだよなぁ。


「あら! お客様かしら?」


「アオイとお呼びください。荒野でリオと知り合いになりまして、行く当てが無いなら騎士団に迎えてくれるとの言葉に同行した次第です」


 俺の言葉に、2人いた女性の1人が厳しい視線でリオに顔を向ける。


「客人をこの間に連れて来るとは、リオらしくないな。先ずは居住区に案内するべきだろう」


 俺もそう思うぞ。さすがにこんな場所は落ち着かないことこの上ない。


「隣の座ってくれ。……そうもいきません。彼は俺にとって重要な人物ですよ。それに、待遇によってヴィオラ騎士団を去るようなことになればさらに問題です」

「騎士なの? それなら待遇を良くしないといけないでしょうけど、さすがに此処に迎えるのは……」


「騎士ではありませんが、騎士を越える働きをしてくれるでしょう。場合によっては俺を越える可能性があります。彼の乗機はアリスと同じなんです」


 リオの言葉に2人がポカンと口を開けてしまった。

 とはいえ美人はどんな表情をとっても美人なんだな。思わず感心してしまった。


「お客様にゃ。ゆっくりすると良いにゃ」


「にゃ?」という言葉に、その声を発した方に顔を向けると、やさしい顔をした小母さんがニコニコ下表情で俺を見ていた。

 思わず頭を下げたけど、ネコ耳が付いているぞ! それに尻尾が動いている。

 この世界には、ネコ族がいるんだ!

 待てよ。さっき、リオはドワーフ族がどうとか言っていたな。ここはファンタジーな世界ということなんだろうか?


「リオ様みたいにゃ。後で一緒に運動して欲しいにゃ」

「運動ですか? 対人戦はそこそこですよ」


 俺の言葉を聞いてさらに笑みを深めている。嬉しそうに尻尾を振って去って行ったけど、結構強いのかな?

 リオを見ると、呆れた顔をしているし、女性2人は興味深々の表情で俺を見ているんだよなぁ。


「一応、教えておくけど、さっきの小母さんは王宮の裏の仕事人だった人だ。たまに試合をするんだけど、あの姿で相手を判断しない方が良いよ」

「それほどなのか?」

「この状態から戦闘型に5割程変異させてどうにか相手ができる。この間は分身までしたからなぁ」

「事前の情報提供に感謝する。それほどの猛者なのか……。ちょっと信じられないな」


 裏で動くなら、その乖離の大きさが役立つに違いない。

 だけど、俺を見て直ぐに試合を臨むというのは、戦闘狂なのかもしれないな。

 

 突然、リオの腕から小さな音が漏れ出した。

 どうやら通信機として使用できるようだな。俺にちょっと頭を下げて席から離れるとどこかと話を始めている。


「そうです。戦姫ですよ。点検はアリスと同じく必要はありません……。え! カテリナさんが!! 了解しました」


「ブラッドからだろうな。やはりそういうことか。となればここに招くのは当然とも言える。問題が色々とあるが、それは私も協力しよう」


 目の前のご婦人の1人がそう言いながら笑みを浮かべているというのもねぇ。案外策士かもしれないな。

 コーヒーカップに手を伸ばそうとした時だった。

 パタパタという足音が近づいて来る。

 リオの顔を見ると、諦め顔で首を振っている。ひょっとしてかなりの問題児がやってきたということなのか?


 やってきたのは、テーブル越しの座る2人の美女とそん色ない美人ではあるんだけど、俺に顔を向けるとニタリ笑みを浮かべるんだよなぁ。

 この笑みは見覚えがあるぞ。

 何人か葬ったマッドサイエンティストと同じ笑みだ。

 かなりの危険人物に思えるんだが、3人の表情を見る限りそんな感じでもない。

 マッドではあるが、危険なマッドではないってことか?

 だけど、危険だからこそマッドと言われると思うんだけどなぁ……。


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