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★ 01 不思議な出会い


 大きな時空振動波によって亜空間ドライブから弾かれたが、ここは一体どこなんだろう?

 相棒のヴァルキューレ先行試作機であるアテナですら、首を傾げるんだからなぁ。

 だが投げ出されたこの地は、かつて暮らした地球という惑星の環境によく似た星のようだ。

 重力定数も変わらないし、空気中の酸素や窒素の割合も1%以下の近似値とは驚く限りだ。

 周囲はずっと荒地が続き、遥か南東方向に文化を持つ種族がいるということは分かったが、さてこれからどうしたものか……。


『マスター、東に動体反応。小型種ですね……、まさか! 人間!!』

「さすがに此処には来ないと思うけど? ひょっとしたら向こう見ずな若者かもしれないね。保護して近くの人家まで送り届けることになりそうだ」


 ここは小さなオアシスだ。あまりにも小さいから獣すら寄ってこない。

 それでも10本ほどの灌木が生えていたから、枯れ枝で焚火を作っている。その光を見付けたに違いない。獣は焚火を作らないからね。


『人間とも異なるようです。私のスキャンを知ったようで、一瞬戸惑ったしぐさが見られました』

「まだ電波を使った通信もまともに出来ない世界だぞ!」

『この世界の人間とは限りません。私達のような遭難者とも考えられます』


 時空振動で弾かれた場所にあった世界だからなぁ。俺達と同じような目に遭った連中もいるということか。

 だいぶ近付いて来たようだ。

 少し足が遅くなったのは、俺を恐れての事だろうか?

 急にしっかりとした足取りでこちらに向かって来たのは、俺と会う決心が付いたということかな。


「こんばんは。こんな場所で人間に出会うとは思わなかった。出来れば、お茶を1杯ご馳走してくれないかな」


 遭難者では無さそうだ。どちらかというと、俺を心配している様子も見える。

 青年で顔立ちも良い。黒のツナギを着ているが、汚れが無いから町工場で働く男とも思えないな。


「まぁ、座ってくれ。生憎とお茶ではなくコーヒーなんだ。カップは持っているかな?」


 俺の問いに、笑みを浮かべて腰のバッグから取り出したのはシェラカップじゃないか!

 やはりアテナの推測が当たっているのかもしれない。

 焚火の傍からコーヒーポットを取ると、彼の持つシェラカップに注いであげる。


「砂糖はいるかい?」

「自前があるよ。甘党なんでね。いつも持ち歩いている」


 それは何よりだ。俺も甘党だからなぁ。文化の遅れた世界となれば砂糖は貴重品に違いない。数kgは持っているけど、無くなればそれっきりになりかねない。

 自分のシェラカップにも注いだところでポットを焚火の傍に戻す。

 ポケットから煙草を取り出すとジッポーで火を点けた。

 俺がタバコを咥えるのを見て、やってきた青年もタバコに火を点ける。ちょっと変わったライターだが、火が点くなら問題ない。


「ところで、こんな場所に良くも来たものだ」

「それはこっちのセリフですよ。遭難したわけではなさそうですね。かと言って、海賊というわけでも無さそうです」


「ちょっとした事故でこの地に流れついてしまった。帰ろうにも現在地が不明である以上どうすることも出来ない」


「俺は、たまたまこの近くを通りかかったんです。赤外反応がありましたので原因を探ろうとして貴方を見付けました」


 ちょっと驚いて青年の顔に視線を向けてしまった。

 今、何と言った? 通り掛かっただと! それはこの世界の文化では不可能なはずだ。


『彼はマスターと同類なのかもしれませんね。私に似た存在の機体を持っているのかもしれません』

 アテナが脳入りに直接耳打ちしてくれた。

 確認した方が良いのかもしれない。


「まさかと思うが、空を飛んでいたとか?」

「そのまさかです。この地で数年暮らしていますから、その対価を保護してくれた連中に払っているところです。現在はこの大陸西岸の地図作りの最中ですよ」


航空からのサーベイで地表の凹凸まで調べていたのだろう……。たぶんそれだけではないのだろうな。各種の資源探査もしていたに違いない。そのセンサーでこの焚火の発する熱を見たのだろう。


「やはり、俺と似た境遇ということになるんでしょうね? ひょっとして人型で大きなクリーチャーとも戦えるような機体をお持ちですか?」

「知っているということは、お主も持っているということか……。となると、汎用型になるのかな?」


 俺の問いに、笑みを浮かべて青年が頷いた。


「生憎と先行試作型です。アリスが言うには最後の型式になる予定だったとか」

「それはおかしな話だ。俺のアテナはヴァルキューレの最終型を作るための先行試作品だぞ」


 お互いに首を捻ることになってしまった。先行試作品が2つとはねぇ。

 まったく異なる先行試作型等あるのだろうか?

 何時まで考えても、俺達では結論が出ない。

 それなら互いの機体同士で直接確認して貰った方が良いだろうという考えがお互いの浮かんだのは偶然ということなのかな?


 直ぐに近くに2機の機体が具現化する。

 互いに驚いているのは、相手の持つ機体が亜空間制御を行えるということが分かったからだ。


 難しい話はアテナに任せて、コーヒーカップ片手に青年の語るこの世界の話を聞くことにした。直ぐ隣では、似た機体が数mほどの距離を隔てて向き合っている。

 互いに光の速さで情報を確認し合っているだろうから、さほど時間は掛からないはずだ。


「どうでしょう。俺達の機体はこの世界の戦姫と呼ばれる存在にかなり似ています。この世界から出ることが出来ないなら、俺と同じ騎士団で働きませんか?」

「衣食住を保証してくれると?」

「はい。それにこの機体を置く場所にも不自由しません。同じ騎士団の整備士が毎日丁寧に磨いてくれます」

 

 それはアテナも喜ぶに違いない。自己修復の可能な機体ではあるのだが汚れるのは大嫌いだからなぁ。


「アテナの意見も聞いてみるよ。俺にはもったいない存在だからね」

「そうですね。俺に取ってのアリスも同じです。同じ申し出を受けたなら、やはり相談すると思いますよ」


「そうだ! 1つ確認したい。騎士団というからには、この世界の宗教もしくは王国のような存在との関りはあるのか?」


「通常はありませんが、俺達の騎士団は特殊でして、俺が貴族に任じられています。おかげで王国とのかかわり合いが出ているんですが、それ程大きなものではありません。

そもそもが王女の降嫁の為に任じられたところですし、貴族の務めはあまり気しておりません。王宮に出入りはしていますが、できればあまり関わり合いを持ちたくはないですね」


 俺と同じで一般人か。

 それなら貴族暮らしは願い下げに違いない。思わず笑みが浮かんでしまったんだろう。青年も苦笑いで応じてくれた。


『マスター、目の前の青年の名は「リオ」と言う名です。彼の搭乗機は「アリス」。私と似た機体です。たぶん私と一緒で公にはなっていない機体ということになります』

『性能まで同じということか?』

『多少の違いはありますが、それは製造意図の相違と考えられます。アリスは移民船団の先行偵察。私は敵対勢力の排除ですから。それと騎士団への参加は問題なさそうです。彼の騎士団はこの世界の騎士団として模範的な存在に思えます』


 それで多少の違いってことか? 俺には大きな違いに思えるんだけどなぁ。

 模範的な騎士団というのもおもしろいな。騎士団と名乗る模範的でない連中もいるということになるんだろう。

 争いごとなら、大歓迎だ。正義の味方として活躍できると思うと、自然に笑みが浮かんでくる。

「相棒の同意も得た。騎士団への加入をお願いしたい」


「騎士団長は反対しないと思いますが、その時は就職口を用意できると思います。さすがにあなたをこの世界に単独で置くわけにもいきませんし、俺達の敵対する覇権国家に加わるようなことになればこの世界が終わってしまいそうです」


 ヴァルキューレ2機が争うならそうなるだろうな。

 それを防ぐ意味でも、俺を仲間としたいと考えているのだろう。

 せっかく文明を築き上げたこの惑星の住民を、抹殺するようなことはしたくないものだ。


「それほど好戦的な性格ではないんだが……。売られた喧嘩は値引きしたことが無いぞ」

「それは俺も同じです。この世界は王制ですが、戦機と呼ばれる俺達の機体とよく似た機体を操縦できる者達を騎士と呼んで、ある程度の特権を与えています。平民出身であっても戦機を動かせる騎士なら、貴族と同様に扱ってくれますよ。

 俺達と貴族が争った場合でも公平に裁いてくれますが、できれば相手に先を譲ってあげてください」


「自己防衛に徹すれば殺人も罪にならないと?」

「かなり殺しましたよ。もっとも相手は屑以下の連中でしたけど」


 彼のカップにコーヒーを注ぎながら話を聴いてみると、全て攻撃を受けてからの反撃ということらしい。背中から刺されて短剣が胸から飛び出してからの攻撃なら、確かに正当防衛と言えるだろうな。

 だが、そんな傷を負って反撃できたとなると、体のつくりも俺と同じということになりそうだ。


「互いに体の作りまで一緒らしい。となると敵対した場合は、この世界の破滅はあり得るだろう。ここは手を握った方が良さそうだ」

「当座は客として扱うことにします。万が一にも騎士団長が入団を承知しなかった時には俺の客として暮らしてくれるとありがたいですね」

「迷惑にならないと良いんだけどなぁ」


 互いに腕を伸ばして、握手をする。

 リオの表情が苦笑いなのは、何かわけがあるのかもしれないな。


「俺達の船は此処から2千km程先なんです。俺達だけなら亜空間移動で一瞬に行えるんですが……」


「アリスからアテナに船の座標を教えてくれるなら、俺達も同じように移動できるぞ。アテナを収容できる空間があるなら室内でも問題ない」

「ほとんど性能に差が無いということですか。それは益々俺達と行動を共にして欲しいところです。……アリス、アテナに座標データを送ってくれないか?」

「既に送ってあります。リバイアサンの私の隣の駐機台に具現化が可能です」


 バングルから声が聞こえてきた。

 俺と同じように脳内通信ができるはずなんだが、俺にも聞かせたいということなのだろう。


「それでは、ご案内しましょう。俺達ヴィオラ騎士団の旗艦、移動要塞リバイアサンに」


 リオが立ち上がりながら発した言葉に思わず目を見開いた。

 移動要塞だと! それはこの世界にそぐわない代物に思えるのだが?

 まさか自分達で作ったとも思えんし、そうなると俺達の偵察が少し簡単すぎたのかもしれないな。案外、進んだ文明を持った惑星ということになるのだろうか。


 焚火に土を被せて、アテナに乗り込む。

 アテナの手を使ってコクピットに乗り込むのは一緒だな。

 コクピットに座ると、直ぐにリオからの通信が入った。何時でも出発できると返事をすると嬉しそうな声が返って来る。

 さて、どんな場所なのか少し楽しみだ。

 これで野宿しないで済むだろう。今夜はベッドで眠れそうだ……。


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