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M-352 帝国の遺産よりもあり得ない存在


 翌朝10時丁度に、リバイアサンはブラウ同盟の基地から一路北へと進む。

 時速15ケムということだから時速30kmにも満たない。それでも1日で700km近く進めるんだから5日もあれば第2砦の建設予定地に到達できるだろう。

 もっとも途中の島で狩りをするから、到着予定は6日後になるとのことだった。

 エミーとフレイヤは制御室に向かったし、フェダーン様は指揮所で指揮所の機能をオズエルさん達に教えているようだ。

 アルマーダ騎士団の騎士達は監視所に上がっているらしいが、火器管制システムの要ともいえる測距儀にいたずらをしないでくれるなら問題は無いだろう。

 一応火器管制要員が配置されているから注意はしてくれるはずだ。


 途中、いつもの島に立ち寄って水棲魔獣を狩る。

 水の魔石の分配を180個受け取ったアルマーダ騎士団の2人がかなり驚いていたらしい。カニの釣果については80匹をアリスに頼んで隠匿空間に保存している。10匹ほどはその日の夕食に振舞われたんだが、同じようにアルマーダ騎士団の2人が目を丸くしていた。


「こんな美味しいカニは初めてだわ。オズエル殿、陛下に献上してはいかがです?」

「ウエリントンとナルビク、それにヴィオラ騎士団とアルマーダ騎士団で15匹ずつの分配です。商会ギルドには20匹を渡すそうですから、ナルビクの商会も何匹か手に入れることになるでしょうね。ですが、フェダーン殿の話では、リバイアサン以外にこのカニを取る方法がないそうですよ」


 別に漁業で生計を立てようなんて大それたことは考えていないからなぁ。長い航海の中での実益を兼ねたイベントという感じなんだけどなぁ。

 ナルビク王国もこのカニの味を知ることになると、次の砦建設の時にはエルトニア王国もこの味を知るに違いない。

 その内に、『採ってこい!』と催促されるに違い。


 長い航海も、そんなイベントで少しは気晴らしができる。

 カニを釣って、2日目の昼過ぎ。どうやら目的地に到着した。

 明日からの工事を前に、周囲の偵察を行い指揮所で状況を説明する。

 既に士官達が集まり、指揮所はだいぶ賑やかだ。

 明日からの工事開始を前に、最後の建設行程確認を行っているのだろう。


「ご苦労だった。50ケム圏内にいた魔獣はレグナス30頭の群れだけだな。移動方向が西であれば第1砦への脅威も無いだろう」


 大型スクリーンに投影された周辺の魔獣の状況を見て、ミネヴァ様が驚いている。


「これほどに周辺の状況が分かるのですか!」

「飛行機による周辺監視ではここまで詳細にはいかぬであろう。リバイアサンの監視装置から測量が可能な範囲は15ケムを少し超えるほどだが、リオの調査はそれを越えることが出来る」


「50ケムも離れるとさすがにリバイアサンを見るのは難しいでしょう。それに方角を知ることが出来たとしても、距離はどのように? 推測ということですか?」

「たぶん、1イルムの誤差も無いだろう。それだけ正確な値なのだ。それが可能なのは、リオが魔導科学ではない古代帝国の科学技術と同じ科学を理解していることに寄るのだろう。我等にそれを教えたくとも、我等は理解することも出来ぬ。

 ところで叔母上は、あの巡洋艦の主砲を10ケム先の同型艦に砲撃をすると仮定した時に、何斉射を必要とするのだろう?」


 思いがけない姪の言葉にちょっと目を大きくしていたが、それなりに脳裏では素早くシミュレーションをしているに違いない。


「そうね……。さすがに初弾を当てるというのは無いでしょうね。早ければ4斉射目かしら、少なくとも5斉射目には確実だわ。6斉射でも当てられないなら、火器管制部署の全員を降格した上で入れ替えることになるでしょうね」


 ミネヴァ様の言葉を、フェダーン様がワインを飲みながら頷いているんだよなぁ。

 やはり互いに艦砲を使って交戦した場合はそれだけ砲撃を必要とするということになるんだろう。


「このリバイアサンの副砲は、初弾で相手の艦を捉えられるのだ。片面に8イルム50口径の連装砲塔が18基。全ての砲塔が同時に火を噴くなら巡洋艦ですら姿を消すに違いない」

「今、副砲と言ったわね? 主砲ならば?」

「艦隊が初激で消滅する。レッドカーペットで使っていたのだが、叔母上は見ていないと?」

「残念ね……。艦隊指揮で忙しかったの」


 確か、ハーネスト同盟軍との戦の画像があったはずだ……、とフェダーン様が副官に命じてスクリーンに当時の画像を映し出させて、その説明を始めた。


「驚くべき性能ね……。ハーネスト同盟が星の海の調査をするのも分かる気がするわ。でも国を亡ぼすことになったとはねぇ……。発掘してもそれを理解できるのはリオ殿のみ、というのもおもしろいわね。ウエリントン国王も頭が痛いことでしょう」

「本人に、覇気がないといつもこぼしておいでだ。それに、頭の固い貴族を減らしてくれたことに感謝しているようだ」

「まぁ! それならナルビクでも男爵の称号を贈った方が良いかしら?」


 これ以上、王宮内の政争に巻き込まれたくはないんだけどなぁ。

 そんな役にも立たない争いで時間を潰しているような輩は、さっさと王宮から追い出せないものなのかねぇ……。


 ミネヴァ様はリバイアサンの大きなお風呂をだいぶ気に入ったみたいだ。

 とはいえ24時以降に入ることは無いから、安心してお風呂に入れる。今のところは俺達の暮らしをそれほど奇異な目で見ているような感じはないようだ。

 だけど、メープルさんにはしっかりと知られてしまった。

 特にカテリナさんが問題なんだけど、メープルさんの指摘も本人は気にした様子がまるでないんだよね。

 あまり目に余るようだと、暗殺されないかと心配になってくる。

 遠回しにメープルさんに聞いてみたら、魔導師だということで諦めているようだな。やはり魔導師は変わっているというのが、メープルさんの思いなんだろう。


 到着した翌日から始まった砦建設は順調そのものだ。

 常時10人のアルマーダ騎士団員が監視所に派遣されて周囲を常に見張っている。外に1隻の軽巡が置かれ、日中は6機の戦機が万が一に備えている。

 ヴィオラ騎士団の飛行機が3時間おきに周囲50ケムを監視しているから、魔獣の群れが暴走してきたとしても十分に避難できるどころか迎撃すら可能だろう。

 俺は、星の海の西に広がる大地の地図作りと帝国の遺産探しをアリスと継続しているが、俺の方は学生の疑問にどうこたえるべきかを考える時間の方が多いな。


 そんなある日の事だった。

 アリスが信じられないものを見付けてしまった。


『2時方向、80ケム先に赤外線反応があります!』

「温泉ってことか? 間欠泉の吹き出しかも!」


『いいえ、揺らぎをもっていますし、反応分析によれば焚火ですね』

「それは無いだろう。星の海から1500kmは離れている。ひょっとして冒険好きな騎士団かもしれないな。火事でも起こしていたなら大変だ。方向を赤外反応方向にして様子を見てみよう」


『赤外反応方向よりレーダー波を検知。ステルスモードですから発見されてはいないでしょう。速度を落とし、地上付近を進みます』

「古代帝国の生きている遺産ということか?」

『分かりませんが、その公算は高いと推察します!』


 地上数mの高さを、砂を撒き上げない速度で移動する。既に火が暮れているんだよなぁ。通信を送ることもできるが、相手に気付かれる可能性が高い。後でメープルさんに叱られそうだけど、ここは無理はしないでおこう。


 前方にポツンと小さな明かりが見えてきた。

 やはり焚火のようだな。

 暗視モードに画像を変えて拡大すると、焚火の傍に人影がある。

 どうやら1人のようだ。

 こんな場所に1人とは……。海賊の制裁かな?

 だが、こんな場所まで来るような海賊はいないだろう。海賊は案外危機管理ができているからね。

 となると、やはり物好きの類ということになるのだが、こんな場所まで来る方法などない筈だ。

 待てよ。カテリナさんが、空間魔法を試す魔導士がたまにいるようなことを話してくれたことがある。

 どこかの王国の研究所から、実験でここまで飛ばされてきたということかな?

 どちらにしても保護しないといけないだろう。

 先ずはどんな人物かを確認して、その後に対処方法を考えても良いだろう。

 長剣を背負っていれば騎士ということが分かるだろうし、リボルバーは今までも頼りになった代物だ。

 遅れをとるようなことにはならないだろう。


「アリス。1km手前で俺を下ろしてくれないか? その後は亜空間に潜んで俺を見守って欲しい」

『了解しました。マスターの体を少し強化します。こんな場所にいる人間が普通の人間とは考えにくいです』


 確かにそれは言えている。

 だが、まったく普通の人間かもしれないんだよなぁ。

 やはり、話し合ってみるべきだろう。保護するか、それとも見捨てるかはそれからでも良いだろう。


 アリスのコクピットから出ると、ゆっくりと焚火に向かって歩き出した。

 後ろを振り返るとアリスの姿が消えていた。

 亜空間に身を移動したんだろうけど、荒地に俺1人だからちょっと心細くなってくる。

 小さな砂丘を2つ程越えると、はっきりと焚火の傍にたたずむ人物が見える。

 男性のようだな。近くに荷物がまるでない。やはり実験でここに飛ばされてきた魔導士辺りに思えてきた。


 さらに近付いたところで、俺の足取りが止まりかける。

 立ち止まろうとする足を、無理に前に向けて歩き出した。

 絶対に魔導士ではない。その姿は俺の記憶の中にある宇宙軍の戦闘兵と同じ戦闘服だ。


「こんばんは。こんな場所で人間に出会うとは思わなかった。出来れば、お茶を1杯ご馳走してくれないかな」


 既に俺に気付いているんだろうけど、俺のほうを見ようともしない人物に声を掛けた。

 やはり挨拶は必要だろう。

 いきなり『お前は何者だ!』と言ったりしたら、喧嘩になりかねないからなぁ。


「まぁ、座ってくれ。生憎とお茶ではなくコーヒーなんだ。カップは持っているかな?」


 とりあえず話は通じるらしい。

 小さく頷いて、焚火の人物と焚火を挟む位置に腰を下ろした。

 どうやら男性のようだな。焚火に照らされた顔は俺と同じぐらいに見える。黒髪に黒い瞳。少なくともこの大陸にはこの2つを併せ持つ人間に出会ったことが無かったんだが……。

 俺のシェラカップを見て少し驚いている。

 確かにこの世界ではかなり変わった品だろう。だが彼の持つカップもシェラカップそのものだ。

 どういうことだ?

 とりあえず、タバコに火を点けながらコーヒーを頂く。

 結構良い味だ。

 しばらくは、互いの持つ情報を探る会うことになりそうだな。


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