M-350 フェダーン様の叔母さんがやって来た
次にリバイアサンに乗船してくるのは、リバイアサンのクルーになるようだ。貨客船に乗ってドックに入るとのことだから、フレイヤ達が制御室で生体電脳を使って受入れを行うらしい。
とはいえ、それは1時間程後になるらしいから、マイネさん達が俺達の飲み物を運んで来てくれた。
「今日は、クルーの受け入れで終わりよ。でもかなりの資材が基地にあったから、明日は朝早くから資材の搬入が始まるわよ」
「巡洋艦も入ってくるのかな?」
「それは出発の前日になると聞いてるわ。騎士団の陸上艦2隻と輸送船1隻も同じね。リバイアサンのドックの前後を開放して次々と荷を運ぶことになるけど、どうやら輸送船5隻を超える資材になりそうよ」
俺の問いにフレイヤが答えてくれた。
予定より多いようだけど、十分に搭載できるだろう。
「搭載できるだけ搭載して欲しい。それだけ次の輸送が容易になるからな」
「レッドカーペット並みなら問題ないでしょう。あれでも余裕はあったと聞いてます」
予定外ということでフェダーン様が要望として伝えてくれた。既にエミー達に断っているなら何ら問題は無い。
倉庫に入りきれなければ、桟橋に置いて置けるからね。横幅10mを越える桟橋が500m程続いている。それが3つもあるんだからなぁ。
もっとも真ん中の桟橋は両側に陸上艦が停泊できる構造だから、あまり荷物を置いておくことは出来ないだろう。
エミーと一緒にフレイヤが制御室に向かう。
エミー達の荷物は、しばらく置いておくことになるのかな?
マイネさんがジッと見てたんだよなぁ。後でお小言を言われるのは俺だからねぇ。
「カテリナさんは一緒では無かったんですか?」
「飛行船でガネーシャ達と一緒に来るそうだ。導師はカテリナを置いて、直ぐに隠匿空間に向かうと言っていたぞ。あの場所でじっくりと課題を考えるのだろう。導師ともなれば生涯学究に努めることになるのだろうな」
カテリナさんは例外なのかな?
まぁ、自分本位なところはあるけど、興味を持った物の追及はとことんやるみたいだから、やはり導師ということになるのだろう。
「フェダーン様、1つ教えてください。各王国の国境は地図でそれなりに記載があるのですが、北に向かうと途中から点線になっています。これは国境が定まらないということなんでしょうか?」
「地図上の国境の表示の事か! あれは境界を定める手段が無いからだ。緯度経度を正しく求めることが出来ない以上、荒地ではどうしようもない。太陽の位置で大まかな緯度は求められるが、経度ともなれば正確な時計で日の出や日没の時刻を表から求めているのが現状なのだ。リオの考案した標位信号を出す通信局を多数作れば、かなり正確になるだろう」
「基本は、北に真っ直ぐに伸ばすという考えですか……」
「陛下はそこまでは考えておられんようだな。各国とも風の海を越えた場所は他国と共有するということになるのだろう。だが記録は残されていない。暗黙の了解事項ということになる」
となると、北の回廊の砦は各王国の飛び地ということになるのかな?
「ブラウ同盟の3か国が北の回廊に3つの砦を作り、星の海西岸に拠点を設けるとなると、コリント同盟との関係にしこりが残るように思えるのですが?」
「そこが頭の痛いところだ。さすがにリオが見つけた宇宙船はコリント同盟の参加を打診することになるだろうが、その前にも何らかの権益を考える必要があるだろう。陛下が頭を悩ませていたぞ。リオも少し考えてくれるとありがたい」
一番容易なのは、星の海と宇宙船の中間に作る砦の建設を行えば良いんだろうが、さすがに躊躇するだろうな。
アリスの考える砦の形が見えて来たなら、それをフェダーン様に判断して貰おうか。
ブラウ同盟だけが発展するようでも問題だからなぁ。
フレイヤとエミーが戻って来たのは、18時を過ぎてからだった。
カテリナさんも飛行船で到着したから、これでいつものメンバーが揃ったことになる。
ブラウ同盟の拠点基地から運んで来た料理が今夜の夕食だ。
軍の士官クラスの食事になるらしい。
「荷物の積み込みはナルビク王国の工兵士官とロベルさん達が行っているわ。ロベルさんの副官もかなり優秀みたいね」
「夜も継続するのかな?」
「なるべく早く荷下ろしをしたいと言っていたわよ」
輸送船1隻程余分に搭載するのかと思っていたけど、もっと多いようだ。
フェダーン様が申し訳なさそうな顔をしているけど、すでに許可を出してるからね。積み込めるなら運べるだろうけど、そもそもリバイアサンの搭載能力はどれほどあるのだろう?
ちょっと考えていたら、『ダモス級輸送船30隻相当』というアリスの返事が届いた。
このままでも全然余裕ということだな。まったくこの移動要塞は底のしれない能力を持っていると感心してしまう。
「工事現場がかなり遠くになる。場合によっては休暇でリバイアサンを動かす時に、また同じように資材を運んで貰わねばなるまいが、相応の礼はするぞ」
「ウエリントン王国には色々と便宜を図って頂いておりますから、必要はありませんよ。ナルビク王国についても同盟関係があるのであれば当然の事でしょう」
「済まんな。だがそうもいくまい。そのままリオの言葉を伝えるつもりだ」
ん? 俺の言葉を思い出してみると、裏を返せば俺達に便宜を計れとも捉えられかねないように思えてきた。
ここは老練なカテリナさんの話術で、何とか回避したいところだ。
「何か、邪悪な思いが伝わって来た気がするんだけど……」
急にカテリナさんが俺に視線を向ける。
老練という言葉が拙かったかな? だけど言葉に出してはいないんだけど……。
「まあ、良いわ。リバイアサンが動き出したら、リオ君の仕事も出て来るんでしょうけど、それまでは何もない筈よね? 学府の学生達の疑問を沢山持って来たから、その対応をお願いね」
「どれほど、あるんでしょう?」
返って来た答えが、200件を少し超えているとの事だった。
俺への質問について、優先順位を考えた方が良いのかもしれない。自然科学を学ぼうとする学生達に、取りまとめを行う部署を作るよう次に会う機会に提案してみるか。
「次の休暇までで良いんですよね?」
「あら? それは科学を目指す者達にその場に踏み止まれというように聞こえるんだけど?」
アリスにも手伝ってもらおう。俺だけではこなせそうもない。
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ドミニク達が狩りをしながら隠匿空間に向かって軍の拠点を離れて3日目。今度はナルビク王国の巡洋艦とダモス級輸送船がリバイアサンに入って来た。その後ろに控えている2隻の陸上船は元軽巡らしい。魔撃槍を2連装にした砲塔を2つも持っているし、艦尾にも単装の魔撃槍を装備している。
元は軍艦だからなぁ。輸送船を転用した陸上艦と違って、装甲板を船殻に貼ってある。さすがにトリケラの突撃には耐えられないだろうけど、小さな奴なら角で穴を開けられるぐらいで済むんじゃないかな。
「案内はエミー達とメープルさん達で良かったんでしょうか?」
「十分だ。リオは此処で待っていれば良い。だが、やって来たなら席を立って欲しいところだ」
フェダーン様の言葉に、「了解です!」と答えて、タバコに手を伸ばす。
直ぐに下りても、ここに来るまでには時間が掛かる。
タバコを楽しむ時間はありそうだ。
一服を終えたところで、フェダーン様と一緒に下階の会議室に向かう。
マイネさん達に準備を頼んでおいたから、大きなテーブルには白い布が掛けられているし、花瓶に花まで飾ってあった。
「先ほど全員が降りたと連絡が来たにゃ。もう直ぐここにやって来るにゃ。ワインの準備は出来てるにゃ」
「ありがとうございます」とマイネさんに礼を言う。ここは王宮じゃないからね。
さて、俺の座る席は……。奥のヴィオラ騎士団の団旗の下で良いはずだ。
でもよく見ると、これって俺のエンブレムじゃないのか? ヴィオラの花の刺繍の傍に、妖精が花を摘まもうとして背伸びをしているんだよなぁ。
ん! 回廊で話声が聞こえてきた。
やって来たみたいだな。
椅子から立ち上がり、扉の開くのを待つ。
トントンと軽いノックが聞こえると、扉が開きエミーが会議室に足を踏み入れた。
「ナルビク王国オズエル殿下御一行の御到着です」
エミーの後ろから、オズエルさんが3人のご婦人を連れて入って来た。その後に2人の騎士団員が続く。
随行の副官達は先に指揮所へと向かったのだろう。
少人数で来てくれたのはありがたい。
「どうぞ、お掛けください。何分中級の騎士団ですから、いろいろお目を汚すこともあると思いますし、俺も敬語が不得意です」
「謙遜することは無いでしょう。ウエリントンにリオ殿がおられる限り、ハーネスト同盟を恐れずに済むとも聞いております」
とりあえずエミーとフレイヤを紹介すれば良いだろう。
オズエルさんもやって来た人物を紹介してくれたんだが、3人のご婦人がオズエルさんの妻だと思っていたけど、どうやら1人は叔母にあたる人物のようだ。
騎士団の制服を着た2人の人物はアレクより少し年上にように見える。アルマーダ騎士団の団長と妹さんのようだ。
「まさか、フェダーンに此処で会えるとは思いませんでしたわ。昔から運の良い娘だと思っていたけど、良い人物と知り合えたものね」
「良い人物かどうかは、判断に迷うところだ。本人は良かれと思っての行動だから叱るわけにもいかぬ」
俺の評価ってことか?
それ程問題行動をしているとは思えないんだが。
「騎士団の旗艦がこの移動要塞だとは……。レッドカーペットで遠くからこの要塞を見てはいたのですが、まさか乗船できることになるとは思いませんでした。アルマーダのエストと申します。隣は愚昧のマーガレットになります。今回は副官扱いでこちらに参加させることにしました」
「騎士団を分けての参加、ご苦労様です。この艦でも季節毎に狩をすることが出来ます。水の魔石がそれなりに取れるでしょう。詳細は後日お伝えします」
簡単な挨拶を終えたところを見計らって、マイネさん達がワインを運んで来てくれた。
このワインはフェダーン様が提供してくれたんだが、ラベルを見るとマクシミリアンだった。
やはり兄には、良いワインを提供したいということなんだろうな。