M-348 荒地の水脈を探すことになりそうだ
ドミニクに新たなメイドがやってきたことを告げると、ちょっと驚いていた。
王宮からの好意ということだから、給与はライムさん達と一緒で王宮から出ると話すと安心した顔をするぐらいだから、やはり俺と同じで貧乏人今生が身についているんだろうなぁ。カテリナさんとはえらい違いだ。
「でも3人の小母さん達は給与を支払わないといけない。マリアン達に話したら、他の事務員と同じ金額を出せると言ってくれた。商会の奥さん達だから経理は任せられると喜んでたよ」
「案外、事務職を見付けるのは苦労するんだけど、良い人たちを見付けたわね。フレイヤ達のサロン活動も無駄ではなかったということかしら」
「本人達は苦労してるみたいだけどね。帰ってきたら2人ともソファーにしばらく寝そべっているぐらいだからなぁ」
俺の話を聞いて、苦笑いを浮かべている。ドミニクとレイドラは絶対にサロンには出入りすることはないだろうな。
騎士団長とその副官なんだから、参加資格は十分にあると思うんだけど。
「私達は拠点周辺で狩りをするわ。ガリナムが一緒だからそれなりに魔石を得られると思うの」
「リバイアサンで水性魔石を狩ることは調整が済んでいる。カニも釣れるから、とりあえずは赤字にはならないと思うよ」
「将来は領地からの税金も入るんでしょうけど、それは領地に還元して欲しいわ」
「売上税だけだから、それほどの額にはならないんじゃないかな? でも、そうさせて貰うよ。今年から少しずつ出荷できるみたいだ」
大きな土地を手に入れても直ぐに作物が採れるわけではない。荒地だから、先ずは土作りから始めたみたいだが、自給する目的で作った野菜が大豊作になったようだ。おかげで漁師町の魚と交換したり、拠点に出入りする商会に卸したりと大忙しの日々が続いたということだ。
少ないながらも現金収入を得たらしいから、今後の開拓の励みにもなるに違いない。
領地の作物次第では拠点で作る野菜類の種類が変わるかもしれないな。
案外、果物の方が良いのかもしれない。新鮮な果物の需要は高いからね。
「私達は、明後日には出発するわ。しばらく離れることになるでしょうけど、たまにヴィオラ周辺の状況を調べてくれない。だいぶマシになっては来てるんだけど、まだまだ飛行機での偵察は試行錯誤というところなの」
「依然と同じようにするよ。ハーネスト同盟の動きは気になるところだし、まだまだ星の海の西の地図作りには時間が掛かりそうだ」
ドミニク達を見送って、館に戻る。
明日は陸港で出航の準備をするのだろう。
一人リビングに残ってしまったが、フレイヤ達は今日ものんびりと買い物をしているに違いない。
夕食は仕出しを頼んだから、早めに戻って来てくれると良いんだが。
タバコに火を点けて、西の荒地を思い浮かべる。
何も内容の思える砂交じりの荒地なんだが、小さなオアシスが点在している。
風で地形は変わるだろうけど、オアシスの位置は変わらないらしい。周辺が砂地ではなく荒地だからだろうけど、それも何となく不思議に思えるんだよなぁ。
『かつての都市と今まで調べたオアシスの位置を比較すると、その原因が分かる気がします』
「どういう事? いや、待ってくれ。少し考えてみるから」
仮想スクリーンを作って、かつて反映していたころの帝国の都市を表示する。その上にオアシスの位置を重ねると……。
なるほど、オアシスは都市の近傍にあるってことか!
だけど、都市の上に重なるわけではない。ある程度都市から離れているようだ。距離は……。それほどでもないな。数十kmというところだ。
「水源地ってことか!」
『私も、そう考えました。北の山脈からの伏流水が地表に現れた場所に貯水池を作ったのではないでしょうか? 貯水池は破壊されても、水脈はいまだに残っているのでしょう』
なるほどね……。今でも枯れないというなら、荒地の地下にはかなり大きな流れがあるのかもしれないな。
「利用したくなるね。出来ればあの宇宙船を傍に置きたいところだ」
『一番近いオアシスは此処ですが、距離は50km程離れています。それにオアシスの池もあまり大きくはありませんよ。とはいえ、地下水の量はかなりの量になるでしょう』
地下に貯められた水の一部が地表で池を作っているのかな?
それなら、何とか導水路を作りたいところだなぁ。
「地下水脈をアリスは確認できるのかい?」
『直径30mm、長さ10mほどの銅の丸棒が2本欲しいですね。50m程離して地中の導電率を測定することで地下水の有無を確認できます』
そんな方法で探すことになるんだ……。
「この地図によると、宇宙船の場所から南西方向に結構大きなオアシスがあるね。このオアシスと水脈が繋がっている可能性は?」
『2つのオアシスの距離は200km近くありますが、南西のオアシスから西の大河に向かって小さな川が伸びています。オアシス同士の標高差はおよそ120mですから、同一水脈の可能性は高いでしょう。地下水脈の流れが蛇行しているとも思えませんから、2つのオアシスを結んだ直線距離に宇宙船の位置を結んだ交点付近を重点的に調査すれば案外簡単に見つかるかもしれません』
この辺りか……。宇宙船の西を通るんだな。距離は数kmにも満たない。この辺りで水脈が見つかるなら地下水路を作るのも現実的に思える。
とはいえ、その前に大きな仕事があるんだよなぁ。
「ところで、宇宙船の限定的な駆動は出来そうかな?」
『再び飛び立つことは不可能ですが、位置を変えるぐらいならば可能です。動力はオルネアの動力炉を使いましょう。トリチウム融合炉が2つありますから、1つを頂いて1日程度動かすことはそれほど難しくはありません』
「計画書を作ってくれないかな? まだまだ先になるんだろうけど、ブラウ同盟とコリント同盟には、打診しておきたい」
『了解しました。概要版も作った方が良いでしょう。概要版を事前にカテリナ様達に手渡せば、同盟間の事前調整をしてくれそうです』
確かに行動力の塊に思える人達だからなぁ。
直ぐに作ろうとしないか心配になってしまうけど、距離がかなり離れているからね。
少なくとも星の海の西岸に作る砦の先に、もう1つの中継所を作らないと無理に思えるな。
それぐらいの判断は付くだろう。だけど中継所の建設を依頼されそうな気もしてきたな。
さて、そろそろフレイヤ達も到着するに違いない。
たっぷりと買い物をしてきただろうから、俺が預かってリバイアサンに持って行かないといけないはずだ。
外に出て、周囲の森を散策していると、自走車の音が聞こえてきた。
どうやら返ってきたみたいだな。だけど1台では無さそうだ。
玄関先で待っていると、後続の自走車はトラックのような荷台を持っている。
玄関先に自分の息子と一緒になって運転手が、荷台の荷物を運んでくれた。
いったい何が入っているのかと考えてしまう荷物の多さなんだよなぁ。
「ご苦労様です。これで帰りに何か摘まんでください」
運転手達に料金以外に銀貨を1枚手渡した。
恐縮してしきりにお辞儀をしてくれたけど、ここまで運んでくれたんだからね。
俺達に手を振って帰って行ったけど、よくよく考えてみたらここは王宮なんだよなぁ。
彼らがここに入ったのは初めてに違いない。
仲間達にちょっとした自慢ができるんじゃないかな。
「リオなら運んでくれるわよね。リバイアサンの広間に出しておいてくれれば、後は私達が片付けるわ」
「ライムさんに怒られるんじゃないかな? だけど部屋には置けそうもないだろうし……」
今度はマープルさんまで一緒になるんだからねぇ。最初から驚かせてしまいそうだ。
夕暮れ近くになって、館に顔を出したのはカテリナさんだった。
学府で学生達と一緒に実験でもしていたのかな?
物理を志す学生達が、自然現象を数学で説明することを始めたみたいだからなぁ。
「皆、揃ったかにゃ? そろそろ夕食にするにゃ」
見習いメイドさん達が運んでくれた仕出しの料理を味わいながら、フェダーン様との話を皆に聞かせる。
「いよいよ資材の積み込みが始まるのね。私も一緒に向かうわよ。そうそう、ヒルダから連絡があったわ。明日、離宮で昼食会をするそうよ。エミーとフレイヤの参加を希望していたわよ」
「それって、略式なんでしょうか?」
「リバイアサンに乗船するご婦人3人の壮行会を兼ねているみたいだから、略式になるわね。2人ともリバイアサンの制服で参加しなさい。でも、テーブルマナー無視出来ないわよ」
フレイヤが苦笑いを浮かべている。
ドレスを着ないで済むのは嬉しいけど、マナーはそれなりということだからね。
明日の昼食さえ我慢すれば、しばらくは自分達の勝手な流儀で食事ができるだろうから何とか耐えて欲しいところだ。
「夕方にユーリルが迎えに行くでしょうから、ユーリルと一緒にリバイアサンに向えば良いわ。これでリバイアサンとの繋がりが深まるとヒルダが喜んでいたわよ」
「例の3人のご婦人ですね。マリアン達が大喜びでしたよ。学卒をある程度雇ってはいるんですが、彼らを束ねる人材が欲しかったようですから」
「なら、調度良かったわね。少なくとも中堅以上の商会を動かしていたご婦人方みたい。使用人の数も数十人を超えていたはずよ」
マリアン達を越えた能力なんじゃないか!
うかうかしているとマリアン達の仕事までこなしそうだな。
食事が終わると、フレイヤ達はメイド見習いのネコ族の娘さん達と一緒に会議室でスゴロク遊びをすると言って出かけてしまった。
残った俺達は、ユーリル様の観察結果とそれが意味するものについて、ワインを傾きながら話し合う。
ユーリルさんが見つけた惑星の近くで位置を変える星が、その惑星を巡る月だということにどうやら気が付いたみたいだな。
今は他の惑星にも月があるかどうかを観測しているらしい。
惑星の持つ月は必ずしも大きくはないからなぁ。俺達の別荘に建設中の大型望遠鏡が完成したなら、もう1度確認すべきかもしれない。