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M-344 来年はアレク達が戦機を降りるらしい


 別荘に入ると、メイドさん達が俺達を迎えてくれた。

 普段は誰もいない別荘だから俺達が別荘にやってこない時には、別荘の掃除やお花畑の手入れをしているらしい。3か月ごとに交代するということだが、その交代先はあの幽霊屋敷なんだよなぁ。

 メープルさんの指導がきついらしく、ここはのんびりと休養を取れる場所として人気があるとのことだ。

 

 荷物を部屋に運び着替えを終えたところでリビングに戻ると、直ぐにお茶を出してくれた。

 

「皆さんは海に行ってますよ。アレクさん達は下の岩場で釣りをしています。昨日は大きな魚を2人で担いできてくれました。あんなに大きな魚がいるんですね」


 お茶を運んでくれたネコ族のお姉さんは、珍しく語尾に「にゃ」が付かない。

 ネコ族の女性特有の言葉使いが気に入っている俺としては、かなり違和感があるんだけど顔に出ていないよな? 


「普段は砂の海で働いてますからね。ここは本物の海ですから、皆がはしゃぐのも分かります。漁村は変わり無いんでしょうか?」


「たまに食料を買うために向かうのですが、雑貨屋だけでなく大きなお店がいくつかできましたよ。燻製工場で働く人が増えたんでしょうね。貧しい漁村だったと先輩のメイドに聞いていたんですが、今ではそんな面影すらなくなっています」


「それも皆さんのおかげでしょう……」と言い残して、お姉さんがリビングを出て行った。

 そんなに発展しているとは思わなかったな。

 税率を1割にしたから、発展が停滞していると思っていたんだが発展に弾みが付いたようだ。

 北の開拓村とも良い関係を作っているに違いない。他の領地も気にはなるんだが、マクシミリアンさんが何も言っていないところを見ると問題は無いのだろう。

 西のガルトス王国の動きが無いのがありがたいところだ。

 国境線を持つ領地だから一番の心配事ではあるのだが、軍の拠点がマクシミリアンさんの領地にはあるからね。飛行機による偵察は毎日行っているに違いない。


「そうそう、この島を訪れたいというご婦人方が多いのよ。『小さな別荘なので……』と断っているんだけど、そんなに魅力があるのかしら?」

「元が王族の島だったからだろうね。釣り好きには魅力的だと思うんだけど、ご婦人方が訪れたい理由はそれだけでは無いと思うんだけどなぁ」


 案外王都から遠く離れて、自由を満喫したいなんてことなんじゃないかな?

 暑くともコルセットで体を締め付け、ドレス姿で暮らすというのは女性としてはきつい暮らしになるのかもしれない。

 たまには別荘でゆったりした服装で過ごしたいというのはフレイヤ達を見れば直ぐに分かることだ。

 王都からここまで離れれば、水着姿で日々を送ることが可能だからなぁ。


「ドミニク達と相談すれば良いよ。俺達がここにいない時間の方が遥かに多いんだからね」

「利用料を稼ぐってことね! 了解したわ」


 さすがに利用料は取れないと思うな。そこは貴族らしく招待ということにしておけば後々役立ちそうに思える。

 その内にカテリナさんもやってくるだろうから、良いアイデアを出してくれるに違いない。


 夕暮れが近付いてきた時だ。外が騒がしくなったので、玄関に出てみると大きな魚をアレクとベラスコが棒に吊して担いできた。

 でかいな……。青物ではなくて、アレクの言う底物と言う奴だろう。でっぷりとした腹が垂れ下がっているんだけど、美味しいんだろうか?


「ようやくやって来たな。これで2匹目だ。今回はベラスコが釣り上げたが、昨日の奴より少し小ぶりだな」

「これで小さいんですか? それよりも美味しいんですか?」


「生でも焼いても、煮ても美味しいですよ。漁村の長老に見せたら、これで銀貨3枚にはなるそうです。これはクロネルさんへのお土産にします」


 喜ぶんじゃないか? それにしても見た目が悪いんだけど美味しいんだ……。

 昨日の魚が残っているということだから、今夜それを味わえるかもしれない。

 アレク達は大物を釣り上げたということですっかり舞い上がっているな。アレクだけでなく、ベラスコの老後もこの島ってことになるんじゃないか。


 皆が戻ったところで、夕食が始まる。

 仲間ばかりだからなぁ。お行儀はリバイアサンやヴィオラに置いて来たに違いない。

 フレイヤ達も、急に元気になった感じだ。明日からは皆と一緒に遊びまわるに違いない。


「それにしても大きな魚じゃったな。明日は我等も釣りをしようぞ。あの倍程の魚を釣り上げるのじゃ!」

 

 ローザの言葉に子供達が歓声を上げる。

 どちらかと言うと釣られそうにも思えるんだが、そこは子供達の保護者達に何とかして貰おう。自分の身長ほどの魚が釣れたなら大喜びだろう。


 食事が終わるとワインを飲みながら、皆で状況の整理と今後対応について話し合う。

 中々集まることが出来なくなってきたからなぁ。休暇期間中ではあるけど、管理職は辛いところだな。

 んっ! ちょっと待てよ。俺って管理職になるのか?

 騎士団員で騎士という身分なんだけど、何時の間にか貴族の称号を貰ってるんだよなぁ。これが原因かもしれないけど、これは対外的なものだと思っているんだけどねぇ。


「リバイアサンは2つ目の砦作りを継続することになるわ。一応、王国からの依頼になるし、リバイアサンの乗員に便宜を図って貰っている以上、最後までお願いするわ。水の魔石のおかげで収支は黒字なんでしょう?」

「毎月の黒字額は金貨20~50枚というところです。三分の一をリバイアサンの積み立てにしていますから、現状で大きな赤字を出すことはありません」


 残りの三分の二がヴィオラ騎士団の収益になるのだろうが、その半分ほどは隠匿空間の施設維持に使われているらしい。

 もっとも隠匿空間の事務所も黒字らしいから、その内に新たな施設が出来るんじゃないかな。

 アレクの農場からやって来たネコ族の農業経営も黒字だとアレクが言っていたからなぁ。赤字なら補填しようと思っていたようだけど、新鮮な野菜や果物は隠匿空間で一休みする騎士団達が先を争うように買い込んでくれるらしい。

 案外、新たな施設は農園の増設になるかもしれないな。まだまだヴィオラ騎士団の所有する土地は開墾の余地があるようだ。


「隠匿空間の方は、現状で問題はないようです。中緯度で活動する騎士団が増えているとのことで、隠匿空間に立ち寄る騎士団も増えています。補給品を運ぶ商会の船団が増えましたから、傭兵団も大人しいとのことです」


 押しかけ傭兵に走ることはないようだな。盗賊とあまり違わないようだけど、高い警護料を取る以上、盗賊団に襲われた時には陸上船が破壊されるまで戦うらしい。

 傭兵団にもそれなりの矜持があるってことだな。


「ヴィオラⅡの方も問題は無いわ。でも、そろそろアレク達が騎士を辞める時期になっているの。ベラスコが後任として十分に育ってくれたけど……」

「新たな獣機をカテリナ殿が作っていると聞いているんだが?」


 んっ?

 リビングに集まった顔ぶれを眺めてみたんだけど、こんな時には必ずいるはずのカテリナさんがいないんだよなぁ。

 何か始めたんだろうか? 多才な人だけど1つに集中しないところがある。

 急に何か閃いて、昔の仕事を再開したのかもしれないな。


「かなり変わった獣機になるはずです。2回り程大きくなると思っているんですが……」


「おいおい、そうなるとアリスより少し小柄と言うことになりかねんぞ」


「狙いは魔獣を倒せる獣機と言うことになるんでしょうが、さすがにチラノタイプやトリケラは無理だと思いますよ」


「小型のモノリーズが狩れるなら引く手あまた……、と言うことになるだろうな。零細騎士団が欲しがるんじゃないか?」

 

 需要はあるということになるのかな?

 アレクが笑みを浮かべているのは、戦機と獣機の中間的な役目と言うことが気に入ったのだろう。

 案外、筆頭騎士の座をベラスコに渡すことになっても、狩の統括者として騎士団の中枢から離れることは出来ないかもしれないな。

 だが……、さすがに魔激槍を使うことは出来ないだろう。とはいえ、獣機の持つ2連装銃では非力に違いない。

 新たな武器を作ることになるのかな?

 であるなら、50mm長砲身のライフル砲が理想的ではあるんだが……。


『初期の戦車砲ですね。設計を終えました。駐退機を内在していますがかなりの反動を受けます。計算では既存の獣機で反動を受けることが出来ますから、新型であるなら無理なく使えるでしょう』


「かつての兵器と言うことかな?」


『45口径37mm砲です。200m先の標準装甲板30mmを撃ち抜けますよ』


 魔撃槍より性能が上なんじゃないか?

 さすがに、装薬量を減らした方が良さそうだな。


「砲弾は2種類作った方が良いだろうな。装薬を減らした砲弾を作れないか?」


『減装弾ですね。標準装甲板20mmを撃ち抜ける砲弾を合わせて設計します』


「それで行こう。減装弾を普段使いすれば、目立つこともないだろう。強敵が現れた時には装薬を増した砲弾を使えば良いからね」


『その他の武装は、獣機が使う解体用の長刀を用意しているようです。少しごつくなっていますから、スコーピオの最初の脱皮後でも十分に使えるでしょう』


 スコーピオ騒ぎが5年遅れていたなら、被害をもっと軽減できたということかな?

 だが、次のスコーピオ騒ぎには使えるはずだ。

 その時に戦姫を動かせる者がいなくとも、新型獣機の数を揃えたなら国王達も安心できるに違いない。


「来年は、新型獣機が完成しなくとも俺達3人は戦機を降りる。それは理解して欲しい」


「了解よ。来年の6の月の末尾で任務を解くことにするわ。新たな任務の前に1カ月程休暇を出すから3人でのんびり過ごしなさい」


「ありがたい。のんびり過ごさせて貰うよ」


 アリスと脳内会話をしているのは誰にも気づかれなかったようだ。ドミニクとアレクの会話を聞いていたけど、アレクの事だからなぁ。たぶんこの島の別荘で漁師生活を送るんじゃないかな? 次の任務に支障が出ないと良いんだけど……。


「次は北の回廊の2つ目の砦になるんだろう? 来年末までには出来そうだからなぁ。案外星の海の西岸に拠点ができるのは早いかもしれんな」


「騎士団が一斉に西に向かいそうですね。ハーネスト同盟もあの爆発事故から大人しいと聞いてますから、騎士団の活躍が始まりますよ」


「リバイアサンも西に移動することになるんじゃないか? ドミニクの思惑もあるだろうが、ブラウ同盟の王国が依頼してくるに違いない。どんな魔獣が出て来ても、リバイアサンに逃げ込めば安全だからなぁ」


 移動する安全地帯と言う感じかな?

 まぁ、それも1つのリバイアサンの効果的な使い方ではあるんだろうが……。俺達は騎士団でもあるんだから、やはり広範囲に魔石を獲るのが筋だと思うんだけどなぁ。



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[一言] 更新再開、有難う御座います。
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