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M-343 闇に飲み込まれないように


 映像を見終えた学生達の顔色が優れないのは、やはり衝撃的な映像だったということだろう。影だけを残して人が焼失するなんてこと事態が、彼らの想像を超えていたに違いない。


「物理学の進む先にこれがある。しっかりと目に焼き付けておいてくれ。これだけの危険を孕んでいることを知っているなら、この惨劇を起こすことは無いはずだ。『俺達は作っただけで使うのは別人だ!』等と言い訳をするんじゃないぞ。同罪だ。地獄の猛火に永遠に身を焼かれながら反省するんだな。もっとも、その前に、俺達騎士団がそんな事をした連中は、時間を掛けてゆっくりと焼いてやろう。

 化学についても同じだ。ある意味先ほどの画像よりも厄介に思える。それは数時間内に起こる場合もあるし、子々孫々に渡って影響を及ぼすこともある。

 注意するのは薬品を合成した結果だ。効能がある物を混ぜるということは良くあることだが、それを一般に広める場合には安全性を十分に確かめてから行って欲しい。

 さすがに地上の生物を全滅させることは無いだろうが、深刻な被害を与えることもある。動物実験を繰り返し、場合によっては世代間にその影響が出ないことを確かめるべきだ。

 最後に、生物学の恐ろしさについては、あまりピンとこないかもしれない。だが、生物学で得られた知識は地上の生物を全て抹殺しかねないものがあるということに十分留意して欲しい。

 この地上の生物は多種多様だ。その中には極めて強い毒性を持つものがいる。特に微生物については注意がいる。この世界の病気の多くは微生物によるものと思って間違いないだろう……」


 食い入るように俺を見ている学生達は、果たして善人揃いなんだろうか?

 パンドラの箱を開けてしまった以上、危険性は教えておかねばなるまい。

 あえて、それを行おうというのであれば、極刑で対処することになりそうだ。


「リオ閣下が、科学の危険性を知っていながら、科学を進めようとするのはなぜなのですか?」


 女性が手を上げると、問いかけてきた。

 極論としてはその通りではある。だが、それは自らの幸せを追求したいという欲求があればこそだ。

 彼らが学府に席を置くのは、魔道科学を学んで自分や自分を取り巻く人たちの暮らしを良くしようと考えての事だろう。

 金儲けをたくらむものもいるだろうけど、それは今よりも良い暮らしがしたいということだから、幸せの追求には変わりない。

 だが……。魔導科学の根本でもある魔気の放出が止まったなら、魔道科学は衰退してしまうだろうし、それを補完する学問がまるでない。


「そもそも科学という学問を発展させようとしたのは、スコーピオ戦で魔気を放出する生物に出会ったからだった。これが意味するものは何か……。かつての帝国で作られた遺伝子操作の産物であることは明白だ。どう考えても魔気を放出するような生物は本来の生命樹からかけ離れている。さらに魔獣の魔石がどこにあるかを突き止め、それが大気中の魔気を濃縮して作られていることもおぼろげながら知ることができた。

 魔気を作る生物、その魔気を作る生物……。ここで注意すべきは、魔石を作る魔獣は魔石の恩恵を受けていないということだ。

 ならばその魔石は誰が利用するのか。帝国の兵器として利用されていたということになる。陸上艦の動力や自走車には魔石が使われている。今でも帝国の遺産を我等は利用していることになるんだが……。

 スコーピオは不思議なことに魔石を作らない。そして孵化したスコーピオの一部は魔石を作る生物を捕食していた。

 この関係を皆がどう考えるかだが、俺は本来と異なった生態系を元に戻す何らかの動きがあると考えている。

 神の意思とは言わないが、本来の系統樹から逸脱した生物は淘汰されるというのが俺の考えだ。

 そう考えると、未来がある程度見えてくる。魔気を作る生物が減っていき、魔獣が絶滅する。魔石はこの世界から無くなるのだ。

 同じく、魔気を根源とした魔法を俺達は使えなくなり、魔道科学そのものが無くなってしまう……」


「そんな世界を想像できるかしら? リオ君はそれを憂いて、代わりの学問を始めようとしているのよ。直ぐに成果を出そうなんて考えずに、その学問の始祖をめざしなさい。リオ君と言う参考書があるんだし、今後西の大陸の開発が進めば新たな帝国の遺産だって目にすることもできるはずよ」


 やはり数百年という学求は必要なんだろう。

 急ぐことはない。まだまだ魔道科学は発展しているんだからね。


 QAを終えると、会議室を出てリビングに戻る。

 学生達は目指す学科ごとに集まって討論をしているようだ。

 そんな光景を眺めながら、カテリナさんが笑みを浮かべて頷いている。将来が楽しみだと思っているんだろうけど、彼らの成果をカテリナさんは見ることができるんだろうか?


「とりあえず1日目が終わったわ。今回は学部ごとのQAが主体ってことかしら?」

「そうしていこうと思っています。始めたからには前に進んでいるはずですが、何度も躓いているに違いません。その辺りを確認して方向性を持たせようかと」

「それなら、私の疑問にも答えて欲しいですわ」


 コーヒーを運んできたユーリルさんがカップを渡しながら話してくれた。

 どうやら惑星の観察をしていて、近接した星を見つけたようだ。

 観察するたびに、惑星との位置を変えることが疑問だったらしい。

 惑星の衛星に間違いなさそうだけど、まだその事実に気が付いていないようだな。

 

「ユーリルさんの事ですから、当然その日のスケッチを取っているんでしょう?」

「これなの。5つあるんだけど、ほら……、位置が変わってるでしょう?」


「確かリオ君が惑星だと言ってたわよね。この大地と同じように太陽の周りをまわっているからと模型で変な動きをする理由を教えてくれたわ。なら、この星は惑星の背景として動いているということになるんじゃないかしら?」

「そうでもないの。ほら、20日後のスケッチがこれなの。この星は元に戻ってるでしょう?」


 2人が首を傾げている。そろそろ教えてあげたほうが良さそうだな。

 だけど俺達が住んでいる惑星にだって月が2つあるんだから、すぐに気が付きそうな気もするんだけどねぇ。


「もう少し、短い時間でスケッチをすると良いですよ。特に惑星との位置関係を正確に測ると面白いことが分かってきます」

「あの目盛りのある接眼鏡を使えば調べられそうね。先ずは1か月観測してみるわ」


 カテリナさんが、俺達の会話を聞いて首を傾げている。

 後で教えてあげないと怒られそうだな。

 エミー達が疲れた様子で帰宅したところでカテリナさん達がリビングを去って行った。

 エミー達と一緒に軽く入浴を済ませると、リビングでワインを頂く。


「夫を亡くした御婦人をリバイアサンに迎えても良いでしょうか? 3人ほどいるのですが」

「能力があるなら問題ないと思うな。リバイアサンの運用はある程度俺達に任せられているから、別荘に行ったときドミニクに伝えれば十分だと思うけど」


「かなり優秀みたいよ。ヒルダ様が是非とも、と言ってくれたもの」

「マリアン達が苦労してるからなぁ。学府を卒業したばかりの連中を集めたんだが、彼らを束ねる人材がいないからね」


 兵装に関しては退役軍人達を雇えたから問題はないんだが、兵站に関わって来た軍人はいなかったようだ。やはり引く手あまたということになるのだろう。

 詳しく話を聞いてみると、貴族ではなく商人の夫に嫁いだみたいだな。別に暮らしに困っているわけではないようで、子供達に家業を渡して悠々自適の生活をしているらしい。

 家業に口を出すわけにもいかず、かといって日々サロンに出入りすると言うのもねぇ……。

 自宅の奥で暮らすよりは、目の回る忙しさで困っている俺達を助けてくれた方がやりがいはあるに違いないな。

              ・

              ・

              ・

 何とか4日間のゼミを終えると、エミー達を連れて別荘に向かう。

 カテリナさん達は学府に用事があるらしい。

 今回は俺達だけでのんびり過ごせそうだな。

 メープルさんとの訓練は、どんどんとズルが加算されている。ユーリル様と同じように体に彫り込んだ魔法陣に魔石の粉を擦り込んだらしいけど、種族の特性もあったのだろう唯一の成功例でもあるようだ。

 それにしても、飛んでもない身体能力だ。分身モドキまでするんだからなぁ。

 

「次も楽しみにしてるにゃ」


 そんなことを別れ際に言ってくれたけど、カニってことでは無さそうだ。

 メープルさんが現役引退したとは考えられないんだけど、ある意味貴族達へのフェイクということになるんだろう。

 メープルさんの配下達もこの館に出入りしているみたいだからね。

 案外、この館を裏の指揮所にしているってことかもしれないな。


 ヒルダ様には、3人のご婦人がヴィオラ騎士団に入団できるようであれば連絡すると伝えてある。

 俺達にとっては願ったりなんだが、ドミニクの了承が必要であることはヒルダ様も分かってくれた。


「ようやく解放されたわ。ドレスにハイヒールは歩きにくいのよねぇ」

「やはり騎士団が一番ですね。ローザが宮殿に戻りたくない理由が理解できます」


 それほど苦痛なんだろうか?

 のんびりとお茶を飲みながらの歓談がサロンだと思うのは、俺の想像の世界ってことかな?


 さすがに3人も乗ると、アリスのコクピットが狭く感じるはずなんだが、予想に反してそうでもない。

 時空を操れるということはコクピット空間も状況に合わせて変えられるということなんだろう。さすがに限度はあるんだろうけど、2人を同乗させるぐらいまでは問題ないようだ。

 もっとも、王宮の上空に上がったところで、直ぐに亜空間移動を行ったから数分も経たずに別荘の庭に下り立つことになった。

 アリスが手に持ってくれた3人のトランクを下ろしたところで、アリスは亜空間へと移動した。

 さて、明日は何をして過ごそうか?

 アレクとベラスコ達が先行しているはずだから、釣り三昧にならないように注意しておこう。たまになら良いんだが、毎日ともなるとさすがに疲れるんだよなぁ。


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