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M-341 サロンは貴族館とは限らないようだ


 馬車の扉を開けると、中に座ったヒルダ様に先ずは御挨拶。

 これぐらいは俺にだってできるんだよね。2人の手を取って馬車に乗せてあげると、ヒルダ様から、一緒に乗るようにと言われてしまった。

 3人に全く合わない黒のツナギだけど、ヒルダ様は笑みを浮かべたままだ。

 

「それでは出掛けましょうか……」


 ヒルダ様が、扇子で扉をトントンと軽く叩くと馬車が走り出した。

 

「だいぶ早く出掛けるんですね?」

「途中で昼食を取りましょう。リオ様の姿はあまり貴族らしいとは言えませんが、騎士団の制服としてなら十分に通用しますし、この頃はそのような姿をした若者も増えていると聞きました」


 詳しく聞いてみると、どうやらリバイアサンで活躍した士官候補生達が広めたらしい。さすがにヴィオラ騎士団のエンブレムを付けることはないようだが、貴族の子弟なら家紋を付けられるし、平民出身でも配属された軍の略章を付けることが流行のようだ。

 

「さすがに、その帽子を真似ることはしないようですね。被っていた人物は多くはないと言うことなんでしょう」

「帽子で階級を表そうとしたんですが、責任者だけが被っていましたね。エミー達も普段は俺のような出で立ちです」


 それなら私達も……、なんてエミーが言いだしたから、ヒルダ様の表情が変わってきたぞ。

 直ぐに口を閉じたエミーに感心してしまった。


20分ほど馬車に乗って到着したのは、まるで貴族の館に見える。

貴族館と異なる点は、敷地を囲む塀と門が無いことぐらいだ。


エントランス前に馬車が停まると、軍の制服に似せた装いの少年が2人やってきて、フレイヤ達を馬車から下ろしてくれた。

 最後に俺が下りると、少年達がちょっと驚いている。

 やはり騎士団の制服の方が良かったかな? まあ、ここまで来たからには後悔しても始まらないけどね。


「失礼ですが、従者の方でしょうか?」

「いや、前の2人の夫だよ。騎士団の騎士だから、いつでも魔獣の相手ができるような格好で来たんだけどね……。少し場所をわきまえた方が良かったかもしれないね」


「申し訳ありません。この館にその出で立ちでいらっしゃる人物が初めてだったものですから」


 ペコペコと2人が頭を下げている。

 少年に銀貨を握らせ、手招きしているフレイヤの元に向かった。


「王宮の調理人は、数年おきに変えるのですが、その中でも優秀な料理人をこの館で雇っているのですよ」

「庶民に開かれたレストランということでしょうか?」

「大きく開かれているわけではありませんが、それなりの功績を評してこの館への出入りを許可しているのです」


 会員制レストランということか……。庶民にとってはステータスってことになるのかな?

 少年の案内でエントランスから延びる回廊を歩き、向かった先は頂いた館のリビングほどの部屋だった。窓際にテーブルが置かれ、ソファーセットも1つ置いてある。壁には大きな絵画が飾ってあるけど、印象的なのは窓の外にある花壇に咲く色とりどりの草花だ。


 感心して部屋を眺めていると、ソファーから誰かが立ち上がった。

 誰もいないのかと思っていたら、先客がいたようだ。


「お待ちしておりました。今日は義娘の為にご足労頂きありがとうございます」


 午後のティーパーティを主宰する侯爵夫人ということだな。

 ヒルダ様が俺達を紹介してくれたので、帽子を取って軽く頭を下げる。


 ソファーに腰を下ろすのを見計らったように紅茶が運ばれてきたが、俺の前に置かれたのは大きなマグカップに入ったコーヒーだった。

 ヒルダ様から聞いていたのかな?


「12騎士団とヴィオラ騎士団を並べる人物もおりますよ。そのような騎士団長とお話できるのですから、やはりヒルダ様とは長い付き合いをしたいと思いますわ」

「妻達をお招きして頂き感謝いたします。1つ思い違いがあるようです。俺はヴィオラ騎士団の団長では無いんです。ヴィオラ騎士団に所属する騎士ですよ。でも妻のエミーはリバイアサンの艦長ですし、もう1人の妻はリバイアサンの大砲等を統括する人物ですから、妻達の方が地位は高いことになるんです」


「そんなリオ殿に、国王陛下はいつでも面会を許すことを告げていますし、スコーピオ戦の活躍を讃えて辺境伯の地位を与えたのです。現役の騎士であるとともに、ウエリントン王国の西の要となる人物なのです」

「南にリオ殿がいるから安心だと次男が言っていたのは、そういう事でしたか……。分家であるにも関わらず領地を頂いたことを喜んでいましたが、その領地の場所を知って夫と涙を流しました。西の領地はハーネスト同盟軍の足止めとして役立て! ということでしょうから……。ですが、私達に詳しい報告をした次男は笑みを浮かべていたんですよ」


 あの時に、貴族の称号と領地を貰った軍人の母親だったんだな。

 その領地経営となれば……、なるほどヒルダ様が動く理由にもなりそうだ。

 ヒルダ様達の農作物に関わる流通組織の構築は順調に進んでいるに違いない。


「今日のサロンはここで開くんです。もっとも、会場は2階になるんですが」

「招待したのは貴族だけではないのね?」

「同志達を招きました」


 侯爵夫人とヒルダ様が笑みを浮かべて頷いている。

 貴族ではない同志ということは、一般庶民がやってくるということになるのだろう。さすがに侯爵館に招待するとなると、貴族間で噂が立つということかな?

 例の人材発掘とも連動しているようだけど、どんなご婦人方が集まるかをフレイヤ達に聞いておく必要がありそうだな。


「カニはこの館の裏手の広場に下ろして頂きたいのですが?」

「いつでも出すことは出来ますが、少し生きが良いかもしれません。場合によっては俺が対処しますから、直ぐに近寄ることは避けてください。それと、1匹でよろしいのですか?」


 俺の言葉に侯爵夫人がヒルダ様に顔を向けた。


「数匹ならいつでも用意出来るそうですよ。でも、あの大きさですから……」

「私はカニの足が何本か頂けるかと思っておりました。丸々1匹、場合によってはさらに増やせると! ……それなら、2匹として頂けないでしょうか? 私達への協力金として利用させて頂きます」


 季節限定特別料理ってことかな?

 利用客はそれなりの人物らしいから商売になるってことだろう。ヒルダ様達は王国の福祉に力を注いでいるようだ。その資金になるなら定期的に運んできてあげよう。


 エミー達のサロンでの評判を侯爵夫人から聞いていると、来客がやってきた。

 俺達に頭を下げたご婦人は、ヒルダ様達から比べるとドレスの見劣りがしてしまう。

 一般庶民、それも中流というところかもしれないな。

 何着かのドレスを大事に使っているのだろう。


「あら、今日はいつもより早かったんじゃない?」

「噂の騎士がやってこられると聞きました。こちらが……?」


「リオと言います。どんな噂か分かりませんが、ヴィオラ騎士団の騎士ですよ」

「ヘレナです。ヒルダ様のご厚意でこのサロンに出入りを許されております」

「かしこまらなくても大丈夫。もう1人来るはずだけど……」


 どうやら、昔からの付き合いらしい。案外学府で同じクラスだったのかもしれないな。

 昔の仲間付き合いが未だに続いているというんだから、よほどの仲なんだろう。身分は変わってしまったけど、このサロンの中ではそんな柵を無くして楽しんでいるのかもしれないな。


 北の回廊の話をしていると、どうやら待ち人がやってきたようだ。

 少年の案内で部屋に入ってきたのは、オリビアさんだった。

 その姿を見た途端、エミー達に緊張が走るのは、いろいろと作法を仕込まれたからに違いない。


「お久しぶりでございます。ヒルダ様の離宮でも頂きましたが、あの味をまた楽しめると知って、他のサロンを断りましたわ。夫はちょっと困っていましたが、たまに困らせるのは妻の務めと思っています」


 それは、エミー達に教授してほしくないところだな。トリスタンさんもちょっと気の毒に思えてきた。今度別荘に招待してあげよう。あそこならだれに気兼ねすることもなくのんびりできるだろう。

 

12時近くになったところで、いよいよカニを出すことになった。

 皆で館の裏に向かい、裏口近くでご婦人方が見守る中でアリスを呼び亜空間からカニを落とす。

 箒の柄で突くと両方のハサミを振り上げたから、リボルバーでカニの口の上に2発銃弾を撃ち込む。

 ドォン! という銃声は、あまりこの辺りでは聞かれぬ大音量だ。

 館の中から、何事かと男達が飛び出してきたところで、もう1匹を落とす。

 今度のは、前より生きが良さそうだ。ハサミを振り上げて威嚇するように俺に向かって来る。

 後ずさりながら銃弾を3発撃ち込んで、確実に仕留める。


「終わりましたよ。さすがに俺1人では運びこめませんから、料理人にここで解体して貰った方が良さそうです」


 俺に小さく頷いたのは侯爵夫人だった。すぐに見物人の中の1人に近づいて指示を与えると、数人の男達が新たに加わってカニをばらし始めた。


 いつの間にかアリスが消えている。

 カニを夢中で見ていたから、アリスが消えたのは誰も気付いていないようだな。

 後は料理人に任せることにして、俺達は先ほどの部屋へ戻ることにした。

 銃声を聞いたんだろう、裏庭には続々と人が集まってきている。

 今度カニを運ぶ時には、解体してから運んだ方が良さそうだな。



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