M-340 宇宙船のの利用はブラウ同盟に任せよう
「やはり西の土地は問題がありそうだな。さすがに、これ以外の代物を見付けてはおるまいな?」
「今のところは……、です。地中深くにいくつか反応があるようですが、さすがに地上に露出した遺物は外に見つかりませんでした。ですが……」
「ハーネスト同盟の王国に近い部分はさすがに手を控えているというところなの。元々は地図を作るためだったようだけど」
「利用するにしても、これは少し問題があるだろう? 斜めに埋もれているように見えるのじゃが?」
「はい。実際に中に入ってみましたが、床が斜めです。何とか水平に持っていければ、この大きさですから砦として十分に使えると考えているところです」
「リバイアサンの3倍となれば、十分に砦としての機能を持たせられるだろうが、武器は搭載されているのか?」
「全て持ちさられていました。動力は枯渇状態、さらに駆動部も損傷しております……」
何とか船を水平に出来れば良いのだが、その手段がねぇ……。
フェダーン様としても、どうしたものかと頭を捻っている。
「利用できるなら、それに越したことはない。帝国の遺産であるなら船の外殻は我等の陸上艦よりもはるかに頑丈じゃろう。大陸の西を開発するには最適じゃな」
「さすがにリオ君でも悩んでいるってことは、水平にするのはかなり先になりそうね。その間にハーネスト同盟軍が先を越すことはないのかしら?」
今度はプロジェクターで星の海の西の地図を表示した。大陸の最西端まで表示してあるから、宇宙船の位置が未踏破区域の真ん中より西にあることが分かるはずだ。
「その位置なら、しばらくは問題あるまい。とはいえ、ハーネスト同盟軍の調査艦隊の動きはある程度把握しておく必要がありそうじゃ」
「たまに確認するつもりですが、さすがに星の海の西ともなると小規模艦隊での調査とはいかないようです」
星の海の南西部に作ったハーネスト同盟軍の砦は、破壊されていた。規模的にはブラウ同盟軍の拠点と同じように頑丈な城壁で囲んでいたようだが、かなり破壊されていたからなぁ。あの砦を襲った魔獣はどんな奴なんだろう?
地図がある程度出来たなら、魔獣の生息状況の確認に本腰を入れねばなるまい。
「この船の話は、ここだけの話で良いだろう。星の海の西に、騎士団が動き始めてからでも十分に対応できる。だが、ハーネスト同盟の動きだけは注意して欲しい」
「了解です。色々と悩ませてしまい申し訳ありません」
「構わぬ。とはいえ、我も少し考えねばなるまい。さすがにヴィオラ騎士団が2つも拠点を持つとなると、12騎士団との関係が問題になりそうだ」
「利用できるとフェダーン様が認定して頂けたなら、ブラウ同盟に売ろうと考えています。値段的にはかなりの額になるでしょうし、ウエリントン王国だけで運用するとなればブラウ同盟が崩壊してしまいそうです。場合によってはコリント同盟にも利権を与えるべきかと考える次第。できれば即金ではなく、長期に渡る支払いとして頂ければ、リバイアサンの運用資金繰りが楽になると思っています」
俺の話を聞きながら、フェダーン様の表情が崩れ始め、とうとう笑い出した。
カテリナさん達も一緒になって笑い出す始末だ。
笑うことはないと思うんだけどなぁ。俺達でリバイアサンを運営するにはかなりの資金が必要だし、頂いた領地経営だってしなければならない。
いくら資金があっても困らない状況だと思っているんだけどねぇ……。
「ハハハ……。さすがに、リオ殿だな。確かにそれなら誰もが賛成するだろう。コリント同盟にしても、我等が西に向かうのを指を咥えて見ているのでは面白くないだろう。現在の王国間の関係が崩れかねない状況を国王陛下も悩んでいたようだったが……。場合によっては少し斜めでも構わんだろう。第2砦の建設はナルビク王国が実質の責任者になる。1度我にその船を見せて欲しい」
「ちょっと待って! フェダーンだけに面白いところに行かせないわよ。リオ君! 私と貴方の仲なんだから、その時は私も一緒よ」
導師が、やれやれ……、という思念を送ってきた。
何とかしてやってくれ、という感じかな?
「分かりました。とはいえ半日程度の旅ですよ。船の中は、ほとんどがらんどうですから」
笑みを浮かべて、フェダーン様が帰っていく。
残ったのは、カテリナさんと導師だ。
明日からのゼミについて3人で意見を出し合う。
カテリナさんは実験を主体にしたいらしいし、導師は理論の構築が大事だと説く。
どちらも科学を学ぶには大切なことなんだが、学生達はどんな形で自ら科学を開拓しているんだろう。
先ずは彼らの話を聞いてからにした方が良さそうだな。
夕暮れが始まる前に、エミー達が帰ってきた。
導師は夕食の邪魔になるだろうと言って、王宮の禁書庫に向かった。早速、失われた記録を探そうとするんだから、行動的な人物であることは間違いない。
「新しいドレスを作って貰ったの。来るたびに作って貰えるのは嬉しいんだけどねぇ」
「ヒルダ様の好意なんだから、きちんと礼を言えば大丈夫だよ。たぶん、カニのお礼じゃないかな。1匹用立てることにしたんだ」
簡単に釣れるカニで、2人分のドレスが手に入るんだからぼろ儲けも良いところだ。
ある程度ドレスの数が増えれば招待されるサロンに合わせて着ていくことも出来るんだろうけどね。まだそれほど数が無さそうだから、好意に甘えても許されるだろう。
「どのサロンかな? いつ用意するの?」
「明日の午前中に相手方のお屋敷にお邪魔するつもりだ。ヒルダ様が同行してくれると言ってたから、場合によっては一緒に馬車で向かうことになりそうだ」
「リオ様も、礼服を着用するのですね?」
「いつもの服で行くよ。アリスを動かすことになるからね。礼服では動きが取れなくなってしまいそうだ」
黒のツナギだって、リバイアサンの立派な制服だと思ってるんだけどなぁ。
ドレス姿のエミー達の隣に立つわけでは無いし、問題はないだろう。
「失礼に当たるかもよ?」
「サロンには出席しないし、食材を届けるだけだからね。相手方から咎められるようなことにはならないと思うよ」
食事が終わると、ワインを飲みながら王都で過ごす計画を話し合う。
さすがに今回は毎日サロンに出掛けることはないようだ。ヒルダ様の気遣いに感謝しないといけないな。
「ゼミは午後からという事ね。再度学府と調整してくるわ。フェダーンの依頼もあるから、リオ君も役目をしておくのよ」
「夜遅くに出掛けるんですか?」
「学府に夜はないの。明日の事もあるでしょうから、学生寮や本館は煌々と明かりがついているわよ」
規則正しい生活をしてほしいところだな。
俺達に手を振ってカテリナさんが出掛けたけど、時計を見ると11時を過ぎている。
まったく行動的であることは導師と同じだ。魔導師と言う資格を得るためには、それだけ行動力を必要とするのだろうか?
「次は第2砦でしょう。この先、第3を作って最後に星の海西岸に砦を作るだけで終わるのかしら?」
「少なくとも3年はこの生活が続くとなれば、騎士団の存在意義が無くなりそうな気もします」
それは俺も気になるところだ。騎士団は魔獣を狩って魔石を得ることで暮らしを立てる。そんな騎士団が隠匿空間の経営や、リバイアサンを使っての警備任務、さらには領地経営にまで手を伸ばしているんだからなぁ。
それを危惧して、隠匿空間の経営はヴィオラ騎士団を退団した人達の生活の場に移行しつつあるようだ。
辺境伯の領地は12騎士団の協力も得られたから、名目領主としての存在に徹したいところだ。元騎士団員の獣人族に対する生活の場としていきたい。
残った別荘のある島については頂いておこう。
あの島ぐらいは俺の力で維持できるだろうし、アレクやベラスコ達も気に入っているからね。
「北の回廊が完成したら、西で活躍できるんじゃないかな? 長くなっても5年先にはならないと思うよ。ヴィオラ騎士団の陸上艦を連ねて、思いっきり魔獣狩りを行えそうだ」
別荘に行ったら、ドミニク達ともその辺りを相談してみよう。
ドミニクやレイドラも色々と抱えているみたいだからなぁ。ヴィオラ騎士団の将来像についてじっくりと話し合いたいと、皆も思っているんじゃないかな。
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翌日。朝食を終えた俺達は馬車が来るのを待つことになった。
サロンは15時からということらしいが、気の早いご婦人方は2時間も早くやって来るそうだ。
それほど暇なんだろうな。旦那達は何をしているのか気になるところだけど、ヒルダ様がそんなご婦人方と付き合うということは、それなりの影響力を持っているということになるのだろう。
とはいえ、ヒルダ様は御后様の1人だ。自分の持つ影響力を十分に知っていての参加となれば、自分達の陣営の1人であることは確かなんだろう。
「迎えは11時とメープルさんが言ってたけど、そうなると昼時の訪問になってしまうんじゃない?」
「昼食をご馳走になるとは聞いてないから、途中で済ませるのかもしれないよ。ドレスを汚さないようにしないといけないだろうね」
俺の言葉にフレイヤが溜息を吐く。また1つ幸せが逃げ出したかもしれないな。
「ちょっとした食事でしょうし、きちんとナプキンを掛けておけば大丈夫ですよ。母上もドレスでしょうから」
エミーの慰めに、フレイヤがしぶしぶ頷いているけど、エミーも少し不安気な顔をしているな。俺は黒のつなぎに装備ベルトとブーツ姿だから、料理を零しても問題はないだろう。
零さないように恐る恐るお茶を飲んでいる2人を見ると、サロンデビューはまだまだ早かったかもしれないな。
タバコに火を点けようと、窓際に向った時だ。
森の小道を馬車がこっちにやってくる。
「やってきたみたいだよ。忘れ物は無いよね?」
「全てこのバッグに入ってるわ。拳銃も入ってるから問題なし!」
護身用の小型拳銃は2連装だ。俺の掌に入ってしまうような小さな拳銃だから至近距離でなければ致命傷にはならないだろう。
護衛に着く侍女がリボルバーを持っているようだから、馬車を襲うような輩はいないと思うんだが、どうやら昔からの習わしらしい。かつては王都であっても馬車が襲われる時代があったらしい。
トントンと扉が叩かれ、侍女見習いのネコ族のお嬢さんが入ってきた。
「ヒルダ様がいらっしゃったにゃ。馬車で待ってるにゃ」
「ありがとう。俺だけ昼過ぎに帰って来るよ。午後は学生達が大勢やってくるはずだ。人数を確認して仕出しを頼むよ」
「分かったにゃ。私達の分も入るから、皆が羨ましがってたにゃ」
笑みを浮かべて、ぺこりと頭を下げると部屋を出て行った。
さて、あまりヒルダ様を待たせるのも良くないだろう。2人の手を取って、席を立たせるとエントランスに向かった。