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M-339 悪用を防ぐには


「色々と聞きたいことはあるのだが……。科学を学ぶ学生が容易に兵器となるような代物を作れるということなのか?」


 カテリナさん達がフェダーン様の問いに頷いているところを見ると、同じ考えであるのは間違いなさそうだ。


「容易ではありませんが、難しくはないでしょう。しかもその効果は恐ろしいものです。サザーランド王国の王都を破壊した反応弾については、作るのが極めて難しく費用も膨大なものになります。事前察知は容易と考えます」

「あの被害は私でさえも震えがくる。あれが作られないならそれほど問題とならないように思えるのだが? 安易に学生が科学を学ぶ過程で知った技術を使って兵器を作ろうとしても軍の兵器ほどの威力にはならんだろう。実験した本人が身をもって過ちを知ることで落着しそうに思える」


 やはり科学の恐ろしさを理解していないようだ。

 魔道科学でさえも危険な代物は色々とあっただろうし、それを知った魔導師や高位神官が封印した魔法もあると思うんだけどなぁ。

 そんな魔法を封印した記録さえ年月の中に消え去ってしまったのだろうか?


「そう簡単ではありません。本人だけで被害が留まるなら皆さんをお呼び出しするようなことはありません。場合によっては町の一区画の住民全てを殺戮することも出来ますし、可能性はそれほど高くはありませんが世界を終わらせることも出来るでしょう。

 このような話をすれば、直ちに科学の芽を摘むことを考えると思いますが、それは間違いでもあるんです……」


 化学的に合成される各種の薬品は人間生活に多大な恩恵を与えるだろう。生薬から有効成分を取り出し、それを人工的に合成することで病魔に対抗することも可能だし、

 微生物の持つ働きを上手く使えば発酵食品や抗生物質も手に入れることができる。

 原子力も放射線医療には欠かせないものだ。体内に撃ち込まれた銃弾の位置探ったり、骨折の程度を直ぐに判定できる。さらに分子重合や殺菌にも利用できる。

 話を続けると、2人の最初は懐疑的だった表情が少しずつ変わってくる。さすがに導師はフルフェイスのヘルメットだから表情は分からないけど、穏やかな思念が伝わってきた。


「なるほど、まさしく両刃の剣そのものだな。一番気を付けねばならないのは化学と生物学だったとは……。しかもその第一人者は学園の教授じゃなかったか?」

「キュリーネよ。先ずは種類を確認しようとしているようだけど、リオ君の話では一生かけても無理だと言っていたわ」


『種類がある程度見えてきたところで、その種がこの世界でどのような働きをするかを調べるはずじゃ。最初の介入はその時じゃな。それが分かれば応用に向かうじゃろう。応用も簡単な実験で可能とは思えん。ある程度の実験施設を必要とするであろう』


「魔導師の工房は全て、師となった人物の閲覧が可能よ。私の場合は導師になるのよね」

『だがパラケルスの例もある。魔導科学でさえ、全ての監視は無理じゃったな』


「少し救われるのは、魔導科学よりも実験にはいろんな器具を必要としますから、それなりの費用が掛かるということですね。追実験であれば危険性がある程度理解できるでしょうけど、初めての実験となればかなりの危険が伴います」


「危険性をあらかじめ教えることで、勝手な実験を止めさせるということか……」

『無許可実験に対する罰則の法整備も必要であろうな。監察部となる我の仕事が増えそうじゃ』


 導師の面白そうな思念が伝わってくる。

 確かに導師の匙加減1つで世界が変わってしまうことを考えると、かなりの重責になるんだが、それを面白いと思う心境は、さすがはカテリナさんを育てた魔導士だけのことはある。


「導師とリオ殿が存命中であるならそれで何とかなるだろうが、将来を考えると心もとないところもある。1度国王陛下と相談してみよう。場合によってはブラウ同盟の王国とも協議をすべきかもしれんな」

「是非ともお願いいたします。……俺からの話はこれで終わるんですが、1つ教えて頂きたいことがあります。魔導科学はかつての自然科学を魔法によって置き換えたようにも思えます。となれば、当然危険な魔法もあったはず。それをどのように見つけて封印したか、これから開花するであろう自然科学の発展にも応用が利くように思えるのですが?」


 静かに新たな紅茶をカップに注いでいたフェダーン様の手が停まった。

 カップから紅茶が溢れてテーブルに広がっている。

 直ぐに気が付いて、慌ててハンカチで拭き取っているけど、初耳だったということかな?


「導師、リオ殿の話は真実なのか?」

『その話は聞いたことがある。効果範囲の極めて広い魔法もあったのじゃ。建国時にはそのような魔法が魔導師によって次々と作られたと聞く。だが、効果範囲の広い魔法は対象物だけでなく周囲にも影響を及ぼす。リオ殿の言う通り、封印したらしいが、その経緯を記した物さえも焚書に遭ったらしい』


「私も聞くのは初めてだけど、その結果がパラケルスを生んだとも考えられるわね」

『禁止したがために、それを追い求めた……。ということか?』


 ダメと言われるとやりたくなるってことかな?

 当然、その結果がもたらすものを彼は分かっていたはずだ。自分の体で試せば良い物を、俺を使ったんだからなぁ。

 悪人はどこにでもいるってことかもしれない。善人がある日突然悪人に変わることもあり得るだろう。

 その原因が科学に対する欲求だとしたら、とんでもない話だ。


『先ずは封印に関わる記録を探してみるか。王宮の禁書書庫になければ、ブラウ同盟の王国を訪ねてみよう。最後はコリント同盟の神殿にも足を延ばす必要があるかもしれん』

「国王陛下には、導師がすでに対策に動いていると知らせよう。そして、リオ殿のほうはもう少し詳しくやってはいけない行為をまとめて欲しい。

 リオ殿の事だ。現在直ぐにそれが学生達によって行われることはない、と考えての事だろう。時間的な余裕はかなりあるのではないか? 少なくとも10年でそのような事が行なえるとも思えん」


 フェダーン様の言葉に小さく頷いた。

 確かに、ABC兵器を直ぐに作り出せるとは思えない。比較的容易なのは化学兵器である毒ガスだろうが、毒ガスを大量に作り出して保管することは簡単ではないはずだ。

 だが、……待てよ。

 魔道科学と自然科学を融合させたならどうなるのだろう?

 時空魔法による亜空間の利用は、魔法の袋として実用化されているんだよなぁ……。

 

「どうした? まだ心配なのか?」

「心配すればするほど、今の技術を使った応用が浮かんでくるんです。まったく困った性分です」


「魔道科学で自然科学の産物を使えるってこと? まったくリオ君にも困ったものね。後で教えて欲しいけど、そうなると学生達が使える魔法についても一度調べておく必要がありそうね」

『応用できるということは、別の意味では素晴らしいことにも思える。悪用せぬ限り、魔法を使っての科学技術の補完を禁じることはできぬじゃろうな。もっとも、応用力とは学んで身に付くものではない。天性にも思えることがあるぞ』


「それはカテリナに纏めて貰おうか。リオ殿の思いついた利用方法を纏めることも大事に思える。その報告書とリオ殿の報告書、さらに導師の報告書を持って国王陛下に報告を行えばリオ殿の単なる危惧と笑い飛ばすことは無かろう」


 フェダーン様に再度頭を下げる。

 こんな相談に真摯に対応してくれるんだからありがたい存在だ。色々と使われてはいるけど、こんな時には頼れる存在なんだよなぁ。


「すっかり冷えてしまったわね。これでこの話は終わりにしましょう。せっかく導師も来てくれたんだから、リオ君がもう1つ胸に仕舞っている秘密も教えてあげたら?」


 そんな事を言って席を立つ。

 メープルさんに改めて飲み物を頼みに行ったのだろう。

 フェダーン様と導師の顔が俺に向けられたんだが、ちょっと怖い顔なんだよね。


「実は……。大陸のかなり西で大型船を見付けました……」


 フェダーン様の目が大きく見開いた。

 ポカンと口を開けているから、かなり驚いているに違いない。


「2隻目のリバイアサンということか?」

「いえ、リバイアサンのような移動要塞ではありませんし、どうやら故障して放置されたらしく砂に埋もれています。内部を探った結果がこれになります」


 プロジェクターを取り出して、仮想スクリーンを作り出して概略図を表示する。周囲の状況についても画像で示したから、荒地でマストのような代物がポツンと突き出しただけなのが良く分かるはずだ。


「確かに埋もれているな。しかもかなり深そうだ。破損しているとなれば利用価値は躯体の金属ということになるのだろう……。待て、この船のような代物はどれほどの大きさになるのだ?」

「この船にリバイアサンのシルエットを重ねてみます……」


 その画像を見た途端、フェダーン様どころか導師の動きも止まってしまった。

 とんでもない大きさだからなぁ。リバイアサンの3倍を超えている感じだ。


「どう? 驚いたでしょう。動かないのが救いだけど、リオ君は利用しようと考えてるみたい」


 俺達に飲み物を配りながら、カテリナさんが笑みを浮かべてフェダーン様に問いかけている。

 さて、フェダーン様は俺の考える使い道を許可してくれるだろうか?

 もっとも上手く行くとは限らないんだけどね。


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