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M-337 お土産と戦うメープルさん


 王都の港から西に50ケム程離れた砂浜にリバイアサンが上陸し、その場で着底する。

 なだらかな砂の丘がだいぶ潰れてしまったが、この地を領地にしている貴族との話は付いているらしい。

 漁村を作ろうとしているので、リバイアサンによる地固めはむしろ歓迎してくれるとフェダーン様が教えてくれた。

 たぶん軍に絡む貴族なんだろう。会うことがあれば一時停泊の許可のお礼を言っておこう。


「さて、王宮には連絡してあるはずだから、迎えの車が来るだろう。これより20日の後に、再びこの地で再会しようぞ」


 俺達にそう伝えると、フェダーン様はリビングを出て行った。

 ドミニク達はヴィオラⅡに乗って陸港に向かい、陸上艦の点検を行うらしい。もっともそれを実際に行うのは陸港の工房の連中だ。ベルッド爺さんの知り合いらしいから、手を抜くようなことはしないだろう。


「ヴィオラⅡを預けたら2日後に別荘に向かうわ。明日は1日中、王都を楽しむつもり」

「私達はサロンが待ってるのよねぇ……。早ければ明日からなのよ!」


 ドミニク達が先に別荘に向かうのを恨んでいるような口調のフレイヤだけど、これも俺と一緒になったのが原因なんだから諦めて欲しいところだ。

 エミーも一緒になって頷いているんだが、他の貴族に降嫁したなら毎日がそんな生活になっていたんじゃないかな。

 2か月おきにサロンに参加するだけなんだから、そろそろ諦めても良いように思えるんだけどなぁ。

 俺の方は、明後日から学生達が押し寄せてくるはずだ。カテリナさんを通して、研究に必要な器具を渡しているから、いろいろと実験しているに違いない。

 その成果をもとに彼らがどのような考察をしてくるか楽しみだな。アリスも俺を通して学生達の研究の矛先を確認してくれるだろうから、その動きを鈍らせることが無いように、次の課題を提供してくれるに違いない。


 デッキに出て一服を楽しんでいると、リバイアサンから次々と陸上艦が下りて王都に向かっていく。輸送船が下りている最中だから、あの次に下りるのが4つの桟橋に停泊していた最後の陸上艦、ヴィオラⅡになるはずだ。

 陸上艦の艦列に反するようにこちらにやってくるのが、商会ギルドや王宮からの車列になるのだろう。埃を避けるように風上にだいぶ離れた場所を通っているようだ。


「どうやら迎えが来たみたいだ。エミー達は一足先に王宮の館に向かってくれないかな。それと、ファリスさん達が桟橋で待機しているはずだから、ドックの指揮をしているロベルに知らせた方が良いだろう」

「了解。私が知らせておくわ」


 壁に埋め込まれたインターホンのような通信機で、制御室にフレイヤが知らせている。

 

「それじゃあ、私達も移動するわね。ちゃんとカギを掛けてくるのよ」

「分かってるさ。今回は全員が下りるはずだからね」


 ロベル達は戦機輸送艦を使って王都に向かうらしい。2隻あるから全員が乗れるだろう。先行してヴィオラⅡのカーゴ区画にも乗船しているようだ。

 誰がどの陸上艦を利用するかは、各部門の責任者が把握していると言っていたから、20日後の出発時に行方不明になる人物はいないと信じたいところだ。


 マイネさん達もフレイヤ達に付いていったし、カテリナさん達はフェダーン様の軽巡に同乗させて貰ったようだ。

 全員が降船するには、まだしばらく時間が掛かるだろう。

 のんびりとコーヒーを飲みながら、タバコを楽しむことにした。

               ・

               ・

               ・

『マスター。リバイアサンに残っているのはマスターだけになりました。ドックの斜路の引き込みを終了し、装甲板の閉鎖を実施しています。デッキは2つともに収容を終えました。リバイアサンの生体電脳に船内の維持管理を移行したところです』

「後は俺が離れれば良いってことだね。アリスはこのまま残るのかな?」


『宇宙船の姿勢を正す作業について検討する予定です』

「それじゃあ、館に送ってくれ!」


 リビングの眺めが一瞬歪むと、次の瞬間には深い森に囲まれた館の裏にある広場に立っていた。

 足元にトランクが1個あるから、指示しなくともアリスは気付いてくれたんだろう。

 

 そして……。やはりいるな。

 俺が亜空間移動を行ったからだろう、俺をジッと観察しているのが分かる。

 しばらくその場に立っていたが、何時までここにいても仕方のないことだ。先ずは館に入ろうと、エントランスに向かって歩き始めた。


 エントランスの扉を開けようとしたら、自動的に開いたのでちょっと驚いた。

 開いた扉からメープルさんが笑みを浮かべて現れると、俺に頭を下げる。


「待っていたにゃ。奥さん達は一緒じゃ無かったのかにゃ?」

「ヒルダ様が用意してくれた馬車を使って移動してるんだ。夕食までにはやってくると思ってるんだけど」


「荷物は私室に運んでおくにゃ。リビングでのんびり待っていれば良いにゃ」

「そうするよ。そうだ! 例のカニを1匹丸ごと持ってきたんだけど……、どこに置けば良いかな?」


「テーブルより大きかったにゃ! それで生きてるのかにゃ?」

「銃弾を数発受けているから、死んでると思うよ。でも直ぐに大きな魔法の袋に入れたから、まだ動くかもしれないんだよね」


「仲間を集めたら、連絡するにゃ。そしたら裏の広場に出して欲しいにゃ!」


 急に眼を輝かせたのは、瀕死のカニと戦えると思ったんだろうか?

 王宮に新設したあの闘技場でのカニと獣機の戦いを見てたんだろうな。だけど、そんなことにはならないと俺には思えるんだが……。


 リビングでコーヒーを飲みながら待っていると、メープルさんが嬉しそうに尻尾を揺らして入ってきた。

 どうやら仲間を集め終えたということだろう。

 直ぐに腰を上げると、メープルさんの後について、先程出現した広場に向かった。

 広場で待機していたのは全員がネコ族だ。トラ族を集めてくるのかと思ってたんだが、万が一生きの良いカニだったら惨事が起こりそうだ。

 解体されるまで俺もいた方が良いのかもしれない。


「準備は良いかにゃ? まだ生きてるかもしれないにゃ。そしたら、皆で息の根を止めるにゃ」


 期待しているようなんだけど、たぶん瀕死のはずだ。

 メープルさん達が槍を手に取り巻いている真ん中に、カニを出してみた。


 大きなカニを見て驚いていたようだけど、メープルさんの合図で一斉に飛び掛かっていく。

 全員ネコ族だけど、裏の世界で働いているだけのことはある。

 カニがどうにかハサミを振り上げようとしたところを甲羅の間に差し込んだ槍で動きが停まる。


「まだまだにゃ! 最後はこれで終わりにゃ!」


 メープルさんが槍を深々と口の中に差し込んで抉り込んだ。ドン! と音を立てて胴体が地に着いたから、絶命したに違いない。


「侍女達皆で食べるにゃ。美味しいカニにゃ!」

 

 たちまちカニが解体されていった。

 胴体はさすがに無理なんだろうな。自走車に曳かれた荷車に皆で力を合わせて積み込んでいった。


「次はもう少し生きの良いカニが良いにゃ」

「死人が出そうですよ。さすがにお土産で誰かが死んだら問題だと思いますけど?」

「だいじょうぶにゃ。その時は狙撃銃を用意しとくにゃ」


 お土産で戦うというのもなぁ……。

 ここは曖昧な笑みを浮かべておこう。エントランスのある広場に出ると馬車が停まっている。フレイヤ達にしては少し早すぎる気もする。


「ヒルダ様が来られたにゃ。リビングに案内したにゃ」

「ありがとう。でもなんだろうな? 何か聞いてるかい?」

「何も言ってなかったにゃ。そうにゃ! お菓子を頂いたにゃ。コーヒーと一緒に準備しとくにゃ」


 笑みを浮かべて頷いた。まだ侍女見習いだから、本来ならヒルダ様にお茶を出すようなことはないのだろう。かなり緊張したらしいけど、その辺りはヒルダ様だって分かっているはずだ。小さな失敗なら笑みを浮かべて許してくれるだろう。

 

 あまり待たせてはいけないだろうと、階段を駆け上りリビングの扉を軽く叩いて中に入る。

 ヒルダ様が俺に顔を向けて笑みを浮かべてくれたけど、さすがは御妃様だけのことはあるんだよなぁ。窓際のソファーに座る姿は、そのまま絵画の題材にできそうだ。


「まさかヒルダ様がおいでになられるとは思いませんでした。生憎と俺1人が先行してきましたので、エミー達は夕暮れ時になると思います」

「エミー達と明日は買い物に出掛けますの。光を失っていたころは何も欲しがりませんでしたから……」


 不憫に思っているのだろうか? だけどエミーは昔をあまり語らない。今現在が楽しくてしょうがないという感じに見えるのだが。


「この間は、たくさんのカニを頂きありがとうございました。王宮から貴族への下賜となったことで、商会への問い合わせもかなりあったようです。商会にもリオ殿が卸していると知ったようですね。とはいえ、その数は注文の数と比べればはるかに少ない……。そのようなときに纏まった数のカニが届けられましたから、色々と有意義に使うことが出来ました」


 色々と工作できたということかな?

 その辺りはヒルダ様の王宮内での役目にも関わりそうだからあまり関わらずにいよう。その手助けが出来たことで恩義を感じてくれれば十分だし、何よりエミーやフレイヤの事で色々と手助けして貰ってるからね。


「数匹程度でしたら、いつでも連絡してください。翌日には第2離宮に届けることは容易です」

「実は……」


 どうやら、ヒルダ様と懇意の侯爵夫人の家で、次期侯爵がめでたく妻を得ることが出来たらしい。家の中がある程度治まったところで、次期侯爵夫人を交えたティーパーティを開くということらしい。


「分かりました。学生達に振舞おうかと何匹かまだ持っているんです。1匹で十分でしょうか?」

「晩餐というわけではありませんから、それで十分です。ですが、よろしいのですか?」


 ほっとした顔を俺に向けたところを見ると、かつて侯爵夫人と何かあったのかな? わざわざ足を運んできたのは、それだけの恩義を受けたということだろう。

 あんなに簡単に釣れるカニなんだから、それでヒルダ様が助かるなら何ら問題はない。

 

「まだ残ってますから、大丈夫ですよ。先ほどメープルさんに1匹上げたんですけど、まだハサミを振り上げてました。送り先を教えて頂けたら俺が運んでいきますが?」

「そうして頂けると助かります。場所は……、一緒に行くのも良いかもしれませんね」


 しまった! 思わず心の中で叫んでしまった。

 俺も、窮屈な格好で出掛けることになってしまいそうだ。


「あら! ヒルダがここにいるなんて珍しいわね」


 まるで自分の家のような言い方で、リビングに入ってきたカテリナさんがヒルダ様に話しかけてきた。

 その後ろにいるのはユーリル様だな。小さくヒルダ様に頭を下げている。

 そろそろエミー達も帰ってくるに違いない。

 今夜は少し賑やかな夕食になりそうだな。


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