M-335 第1砦の完成
「もう直ぐ完成ね。この砦がブリアント騎士団の拠点になりそうね」
「軍と一緒だけどね。まぁ、俺達の隠匿空間も似たようなものだから、確かに拠点として他の騎士団に認知されるだろうね」
「次の砦は、どの騎士団になるのでしょう?」
夜遅くリビングでエミー達とワインを飲む。
デッキでは今夜もユーリル様達が星の観測をしているようだ。
たまに声が聞こえてくるけど、今夜はいくつ星の位置が分かるのだろう。明るい星を最初に位置決めしてから、その周辺の星を調べているらしい。目標は6等星と言っていたけど、その数がどれだけ多いかは教えないでおこう。
少なくとも、星の数は等級が下がるにつれ多くなることは分かってきたようだ。
「たぶんナルビクか、エルトニアに所属する12騎士団になるんじゃないかな。全てウエリントン王国の騎士団としたならブラウ同盟に影が出来そうだ。
そうなると、このリバイアサンに新たに他国の軍隊が乗り込んでくることも考えないといけないだろうが、宿泊場所の提供ぐらいで十分だと思うよ。さすがに1個小隊規模ではやってこないと思うからね」
軽巡洋艦と駆逐艦ぐらいは乗せることになるだろうが、寝る場所はそれらの艦で十分だろう。せいぜい食堂の利用ぐらいになるはずだ。
桟橋が大きいから、艦を下りて運動ぐらいはできるだろうし、外を見たければ桟橋の端の装甲板を開いて、移動桟橋から眺めれば十分だろう。
3回目の休暇に合わせて、第1砦の引き渡し式を砦の門の前で行った。
片手剣ほどもある大きなカギをファリス様がブリアント騎士団の団長に手渡し、フェダーン様がウエリントン国王からの委任状を手渡す。
簡単な式典だけど、式典にはナルビクとエルトニアの王族までもが艦隊を率いて参加してくれたところを見ると、ブラウ同盟の3王国ともに北の回廊に期待していることが良く分かる。
艦隊が運んできてくれた食材を使って、大宴会を砦内の桟橋の上で行った。
導師の飛行船でやってきたアレク達も酒と料理を堪能しているようだ。
「リオ殿、フェダーン閣下がお呼びになっておられます」
「ありがとう。ちょっと行ってくるよ」
アレクやドミニクと一緒にワインを傾けていた俺に、士官が耳打ちをしてきた。
立ち上がった俺の先に立って士官が案内してくれる。
なんだろう? 次の砦についてならリバイアサンに戻ってからでも良いように思えるんだけどなぁ。
案内された先には、他のテーブルと少し距離を置いた大きなテーブルが設けられていた。料理は同じなんだけど席は隣とゆとりを持っている。
重鎮達の専用ってことなんだろうな。案内されるがままに、フェダーン様の横にある席に着いた。
本来なら国王陛下が座る場所なんじゃないか?
後々に問題にならなければ良いんだが……。
「空いている席じゃ。気兼ねなく座るが良い。……さて、リオ殿がやってきた。顔合わせぐらいは必要であろう。リオ殿、向かいの提督の隣がナルビク王国の次期国王陛下であるオズエル殿下である。我の兄でもあるのだが、まだまだ現国王陛下が元気でおられる。戴冠はまだまだ先になるであろうな」
フェダーン様の言葉に、テーブルに付いた人達から笑い声が起こる。
オズエル殿下も苦笑いを浮かべているから、フェダーン様は昔から毒舌だったのかもしれないな。
「いつも妹が迷惑を掛けていると思います。第2砦は私がファネル様と一緒に建設の指揮を執ることになるのですが、名目としての参加と割り切っております。とはいえ、必要な建設資材については不足無きよう計らうつもりです」
「ヴィオラ騎士団の騎士、リオです。いつの間にか肩書が増えていますが、騎士団の騎士として扱って頂ければ十分です」
ワインを頂きながら皆の話を聞いていると、どうやらウエリントン王国の前例に倣って軽巡洋艦と駆逐艦2隻を派遣してくるようだ。さすがに輸送船はウエリントン王国の船籍になるようだが、建設資材はナルビクから大船団を作ってブラウ同盟軍の拠点に移動中らしい。
「明後日から1か月ほどの休暇を取られるとか。私もリバイアサンに乗せて頂けませんか。妻達がウエリントン王国を訪問しておりますから、第2砦の建設時には同行させるつもりです」
「歓迎します。ですが、あの大きさですから王都の城門を通ることが出来ません。近くの軍の拠点まで移動して、その後は貨客船で王都に入ることになります」
「そのことだが、星の海から南に下がり港に向かえば問題ないように思える。港の西は長く続く砂浜だ。場所によっては内陸に2ケム近く荒地が広がっているぞ」
一旦海に出て、上陸するなら何とかなりそうだな。荒地なら人家も無いだろう。リバイアサンを着地させた後はドックの装甲を開いて斜路を伸ばせば艦船をそのまま上陸させることも出来るだろうし、場合によっては資材を積んだ輸送船を搭載するのも容易だろう。
「それなら問題ないかと、とはいえあの大きさですから、事前の周知はよろしくお願いいたします。オズエル殿下には客室を提供できますが、士官室もかなり尤度があります。随行する仕官、従者10人程度であれば士官室の提供は可能です」
「さすがに、10人は必要ないでしょう。従者を2人に将官を3人ということでお願いいたします」
後は適当に話をしながら、ナルビク王国の情報を集めることにした。
フェダーン様も久しぶりに会った兄と嬉しそうに話をしているが、やはり自分が嫁いだ後の王国の状況を知りたかったようだから、結構内情を知ることができる。
一言で言えば、平穏ということらしい。
騎士団が北で活躍しているのはウエリントン王国と同じだが、ハーネスト同盟軍を気にすることもないと言うことで、ナルビク王国軍の艦隊は結構砂の海の北部にも艦隊を派遣しているようだな。それなら騎士団も安心できるだろう。
「中には現在位置を見失って救援を求める騎士団もおるのです。まったく、航海術を知らなすぎますよ」
「ウエリントン王国では通信機を使った方位局を作ろうとしておるぞ。今まで完成しているのは2か所だけだが、この第1砦にも方位局を設ける。通信機の感度が一番高まった方向に、方位局があるということだから、2つの方位局の方向を知ることができれば地図上で自艦の位置を知ることができるのだ。まだ実用化には間があるが、着々と準備が整っておる」
「ほう! それは是非とも技術を開示して頂きたいですな。フェダーン殿を通して何とかできませぬか?」
「隣のリオ殿の考えだ。ウエリントンの至宝ともいえる存在になりつつある。リバイアサンで暮らすのなら、その技術も伝授できるだろうが対価は必要になるぞ」
商売ってことか? まったく抜け目がない人だなぁ。
だけど実際に作っているのはカテリナさんとベルッドさん達だから、使い方と応用を教えれば十分だろう。
その収入で暮らしているわけでは無いから、そんなに高価な値段にはならないはずだ。
翌日。朝から砦の周辺は賑やかだ。
式典の参列者が艦隊を率いて去っていくし、砦の管理を行うブリアント騎士団と駆逐艦2隻、それに商会ギルドの輸送船や1個中隊の工兵部隊が砦内の居住区に入る準備があわただしく行われている。
リバイアサンへの、ヴィオラⅡ、フェダーン様の乗艦と輸送船を2隻の搭載は夕刻になってしまうだろう。
ナルビクの艦隊は隠匿空間を経て、風の海にあるブラウ同盟の拠点に向かうらしい。
ナルビクから輸送される資材を積んだ輸送船を何度か隠匿空間に運ぶようだ。
「このリビングはかなりの規模ですね。これを上回るのは王宮になってしまうのでは?」
「広さだけならかなりの物です。エミーの伝手で美術品を並べてはあるのですが……」
いつものソファーセットではなく、長椅子が4つ置かれた大きなソファーセットに、ファネル様夫妻とオズエル様、それにフェダーン様達が座っている。ヴィオラ騎士団側は、俺とエミー達以外にドミニクとレイドラそれにカテリナさんとユーリル様が席に着いた。
マイネさんの得意なクッキーを摘まみながら、コーヒーやお茶を楽しむ。
「休暇は1か月ほどになると聞いていますが、リオ殿はどのように?」
「学府に新たな学科を立ち上げましたから、ゼミを開く予定です。頂いた領地の経営も気になりますから、1度は見て来たいですね。それとユーリル様の研究施設の場所もある程度決めねばなりません」
色々とあるなぁ。フレイヤ達はサロンが待っているだろうけど、今回は10日ほど王都に滞在することになりそうだ。
ストレスがたまらない内に、フレイヤ達は別荘に向かうかもしれないな。
「カニはどうするのだ?」
「団長と筆頭騎士が同行しています。先ずは魔獣を狩って魔石を得てから、カニを釣ることになりそうです。獣機部隊をお借りします。得られた魔石は半々で……」
「中位魔石は全てヴィオラ騎士団が取るが良い。残った低位魔石の半数を頂こう。商会ギルドの乗員もいるのだ。その場で換金すれば、兵士達にボーナスを支給できる」
ドミニクが笑みを浮かべて頷いている。
ありがたい取り決めだな。軍としては、予定外の収益はあまり好ましくないと思っての事だろうが、カニは王宮で色々と使えるからね。それに、少しは商会ギルドにも渡さないといけないんだよなぁ。
「騎士団の狩りが、リバイアサンから見られるのですか?」
「リバイアサンから狩るのであまり危険性が無いんです。騎士団の狩りとして誇れるようには思わないんですが、かなりの魔石を手に入れられますし、釣りをすると面白いようにカニが釣れます」
「ファネル殿、私が参観することは出来るでしょうか?」
「桟橋の一角を使わせて貰うつもりです。リオ殿、お許し願えますか?」
「移動式の桟橋をお使いください。万が一ということもありますから、武装兵士を何人か同行してください。銃撃で倒しますから、銃声が凄いですよ。スコーピオ戦で使った銃を使うことで獣機主体の狩りになります。念の為数機の戦機を用意しますが、戦機を使わずに倒せるはずです」
「獣機部隊が張り切ってくれますからねぇ。ヴィオラ騎士団と同じ1個分隊でよりしいですか?」
「その後の解体もあります。できれば2個分隊で掃討して頂けると助かります」
俺の言葉にフェダーン様が笑みを浮かべる。
「当然カニも考えねばならんな。反対側の斜路にヴィオラ騎士団の1個分隊だけでなく軍からも1個分隊を送ろう」
過分な申し出に、頭を下げることで謝意を示す。
獣機部隊がそれなりに魔獣と戦えることを、母国の兄に知らせたいのだろう。
とはいえ俺達にとってもありがたい話だから、ありがたく提案を受けておこう。