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M-333 反射望遠鏡を作ってみた


「だいぶ出来てきたわね」

「カテリナ様に頂いた撮影機のおかげです。およそ5度の範囲を撮影できますから、7等星までの星図が出来そうです」


 観測点の位置がリバイアサンになるから、赤道から10度南緯までになってしまうのは仕方のないことだろう。南天の星図は別荘のある島に作る天文台が完成するまで待つしかなさそうだな。


「2人ほど学生を同行してきましたが、士官室を使わせて頂きありがとうございます」

「まだまだたくさん余っていますから問題はありませんよ。3室で良かったのですか?」

「十分です。1部屋を作業室に改装しましたし、士官室は大きいのでベッドを2つ運びました。さらに人数を増やしても対応できます」


 学生は女性だけだったから、将来は男性もと考えているのだろう。

 今のところは星図を作るのを優先しているらしいが、気になる天体も見つけたようだ。話を聞くと星雲や星団のようだが、それを分類するのはもう少し先になるだろう。

 なんといっても、そのための望遠鏡の主鏡を俺が磨いている最中だからなぁ。


「ベルッドが首を傾げていたわよ。ガラスを磨くのは見たことがあるらしいけど、少し変わっていると言ってたわ」

「一応磨いているのは鏡なんですけど、平面の鏡じゃないんです。断面がこんな形になっているんですけど、これがどんな役割をするか分かりますか?」


 2人が首を傾げている。

 望遠鏡はあるんだけど、それはかつての望遠鏡を【複写】で複製しただけだからなぁ。少しは改良しているようだけど、光学性能に関わる部分については全く手を付けていないらしい。強いて言うなら、魔法陣で色収差を押えているとアリスが言っていたぐらいだ。


「前に光学という学問について話したことがありますよね。その中で、レンズの特性についても教えたはずなんですが……」


 仮想スクリーンを作り出して、レンズの特性を焦点という形で説明する。単レンズを使って物を拡大するときに、はっきりと姿を見られる位置があることは2人とも納得してくれたようだ。

 その焦点は、鏡を使っても作ることができる。ただし、平面鏡ではなく断面が曲面である場合だ。


「鏡で作った焦点部に接眼レンズを設ければ、通常の望遠鏡と同じように見ることができますよ。光の道を焦点の少し手前で90度変えてこっちから見ることになるんですけどね」

「呆れた形の望遠鏡ね。それをあえて作るのは何か目的があるんでしょう?」


「ガラスレンズと異なり、光を受ける面積を増やすことができます。それに焦点距離を短くできるんです。光を受ける面積が大きくなるほど暗い星まで見えますし、直径が増せばそれだけ対象物の分解能が上がります。焦点距離を短くすれば、微光天体を観測しやすくするためです。ユーリル様が見つけたちょっと変わった星を観察するにはこの形の望遠鏡が必要になるんです」


 反射望遠鏡なら星団や星雲の観測も容易だろう。完成はまだ先になるけど性能に驚くんじゃないかな。


「顕微鏡も、光学を使うんでしょう? 倍率が上がると、さらに小さな生物が見えてくるとキュリーネが言ってたわ」

「キュリーネさんが一生を掛けても、全てを見付けることは出来ないと思いますよ。それだけ微生物の種類は多いんです。大きな動物の種類は限られていますが、小さくなればなるほど生物の種類が増えるということは系統樹の根が1つであることを示しているからでしょうね」


 環境変化によって生物が分化され種類が増える。繁栄する種もあれば淘汰される種もあるだろう。倍率を大きくして見えてきた生物は植物とも動物とも異なる種であることに気が付くだろうか?

 まだ提供はしていないが、さらに高倍率で見ることができるウイルスは自己複製を他の生物の中で行うような生物だからなぁ。

 ある意味原初の生物に近いのかもしれないけど、どこまで生物を辿ることができるか、ちょっと楽しみだ。


 朝夕の砦建設現場とヴィオラ騎士団の2隻周辺を偵察し、日中はひたすら鏡を磨く。

 台に固定したガラスに研磨剤を塗布してもう1枚のガラスを手で磨く。ガラスの中央付近にピッチで持ち手を固定してあるから、丁寧に円を描くようにして研磨を続けているんだが順調に仕上がっているんだろうか?

 たまに太陽光を反射させて焦点を結ぶかどうかを見てはいるんだが、中々先は長そうだな。


 1か月ほど掛けて磨き終えた直径30cmの鏡を、アリスがレーザー光を使って検査してくれた。

 結果は……、もう1度磨けば何とか使えるみたいだな。

 半月ほど掛けて整形したところで、アリスに鏡を渡す。


「蒸着するってことだよね。どこで行うんだい?」

『宇宙空間でアルミのイオン噴流に晒します。距離を離せば熱でガラスが割れることもないかと』


 アルミの酸化を防止するために、シリコンで保護膜を同じように作ると言っていたけど、俺達がいないと製作できないようでも困ってしまうな。

 やはり、屈折式望遠鏡を広げるべきかもしれないが、あれは単焦点の望遠鏡を作るのが難しい。

 

 主鏡が出来たところで、斜鏡となるガラスを磨く。

 主鏡に比べれば、直径10cmの鏡はそれほど面倒ではない。

 何とか半月で形にして、アリスに預ける。接眼レンズは双眼鏡の接眼レンズを使おうとしたら、アリスがすでに作っていてくれた。

 

『さすがに、これを作る工作機械はまだ出来ておりません。マスターの作った主鏡の焦点距離はF6ですから、焦点距離は1,800mmです。系外星雲を観測するなら倍率は50倍以下が望ましいですので、焦点距離40mmの広角接眼鏡を作りました。星団であれば高倍率の使用も可能ですので、焦点距離20mm、と10mmも作ってあります』


 同じ接眼鏡が2個ずつ揃っている。もう1つ作っても良さそうだな。島の別荘にはさらに大口径の望遠鏡を備えよう。

 すでに赤動儀は出来ているから、鏡筒に主鏡と斜鏡を取り付け、斜鏡を覗き込むように空いた鏡筒の穴に接眼部を取り付ける。焦点合わせは接眼部のラックピニオンギヤで接眼レンズを前後させることで合わせられる。 

 出来上がった望遠鏡は100kg近い重さがあるので、赤道儀の三脚部にはローラーを取り付けてある。それでもユーリル様だけでは動かせないようで、学生達が協力してデッキに運んで観測することになってしまった。

 一晩中、夢中になって望遠鏡を動かしていたユーリルさんだけど、何を見ていたんだろうな。

 首から下げたバインダーに色々と書き込んでいたようだから、さっそく星雲団の姿を描き始めたのかもしれない。

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「ユーリルも生涯を掛ける研究を始めたみたいね。導師は飛行船を使って野生動物や魔獣の分類を始めたみたい。少しリオ君と被るところもあるようだから、その内にやってくるんじゃないかしら」

「導師の事ですから、かなり詳しい生態観察を行っているんでしょうね。俺も知りたいところですが、俺はそれほど詳しく魔獣の分類をしているわけではありませんよ。どちらかというと、どんな種がいるのかと調査している状態ですからね」


「アリスがリオ君と一緒だから、広範囲に調べられるでしょう? どこにどんな種がいるかが分かるだけでも、導師はありがたく思うんじゃないかしら」


 まぁ、それぐらいなら情報交換が出来そうだな。

 帝国時代にどんな目的でどんな種を作り出したかを詳しく調べないと、どんな危険が潜んでいるか考えもつかない。

 今現在分かっていることは、魔気を作りだす種、魔石を作り出す種、それに戦に使われたと思う種の3つだ。

 この3種を作り出す前に、研究と称していくつもの種が作られた可能性がある。

 やはり魔獣の全体像を捉えないと、魔獣がこの後どのように変化するかは分からないだろう。


「ところで、まだ出ないんですか? そろそろ1時間になりますよ」

「温めの湯だから、のぼせることはないのよねぇ。でも、そろそろ場所を変えましょうか」


 ソファーでのんびり寛いでいたら、カテリナさんに誘われて大浴場にやってきたんだけど、ここで科学に取り組んでいる状況を話合うことになってしまった。

 これだけ広い湯船なんだけど、いつもカテリナさんは俺の胸の上にいるんだよなぁ。

 フレイヤ達は制御室にいるはずだから、次は寝室ってことになりそうだ。


「ほらほら、早く出なさい。このままで良いでしょう。マイネ達もこの頃は見慣れたみたいよ」

「それも問題ですよ。やはり何か羽織ってください。俺の矜持もあるんですから」


 とりあえず白衣を羽織ってくれたから、言い訳ぐらいはできそうだな。

 カテリナさんを抱くようにして寝室に向かうと体を重ねる……。


「大きな船は見つけたようだけど、その後は何も見つけられないの?」

「今のところは……、ですね。まだまだあると思っているんですが、とりあえず目に付く範囲ってことになります」


 衣服を整えてリビングに戻ると、カテリナさんがコーヒーを淹れてくれた。

 マイネさんは出掛けているみたいだ。プライベート区画も広いからなぁ。あちこち掃除をしているに違いない。


 テーブルに置いたシガレットケースからタバコを抜きとり火を点ける。

 直ぐにカテリナさんに奪われてしまったから、改めて1本を取り出した。


「前に帝国時代の拠点や都市の地図を見ていたわね。たぶんそのほとんどが破壊されたと思うわ。あるとすれば自力航行が可能な物体となるんだろうけど」

「リバイアサンやオルネア、それにヘビも自力で動ける兵器ですね。やはり『動ける』ということはそれだけ破壊を逃れることが出来たということでしょう。となれば、あの地図はあまり当てにはなりません。でも、1つ面白いことが分かりました。それも興味が出てきたんですよね」


 カテリナさんに、王宮の館に出る俺を監視する存在について話をすると、最初は驚いていたがだんだんと真剣に聞いてくれた。


「そんな話をしてたわね。その存在をリオ君は人間ではないと思っているのね?」

「はい。存在と視線は感じるんですが、殺気はまるで感じないんです。俺達を取るに足らない存在として見ているような気がしてなりません」


 危害を加えるわけでは無いし、プライベートを覗き見するようなこともない。

 とはいえ、気になる存在であることは変わりないんだが……。


「ヒルダ達が、その存在を知ったら神だと思い込みそうね。でも、現状でその存在を知るのはリオ君とメープルだけというのも興味が湧くわ」


 科学の先にある存在かもしれないから、自然科学の研究テーマとはならないだろう。

 待てよ……。アリスはその存在に気が付いているんだろうか?


『確認しています。明らかに高次元の存在です。私達と思考形態がまるで異なるようですし、私達に干渉する意図はないようです。観察の目的は推察ではありますが、時空制御を行おうとする私達に興味を持ったからではないかと……』


 監視はしているが、接触しようとは思っていないということか。

 とりあえず肝試しで活躍して貰うことになりそうだな。


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