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M-331 居心地の良いクラブ


武官貴族と軍の重鎮ばかりだから、話題は新たな軍艦の建造計画や北の回廊計画等ばかりだ。たまに若い仕官を品定めしているように眺めている壮年の軍人は、娘の婿を探しているのだろうか?

 話題が無くなると、テーブルを壁に倒して始めたのがナイフ投げだった。

 テーブルクロスのような的をテーブルに掛けて、始めたんだがこの場にふさわしくない貧相なテーブルが用意されていたのはこのためだったようだ。


 酔客ばかりだから、中々当たらないんだよなぁ。当たってもちゃんとナイフがテーブルに突き立つのは少ないようだ。

 若い士官が見事に的にナイフを突き立てると、周囲の連中が騒ぎ立てる。

 顔を赤くして、将官からワインをグラスに注がれているが、顔を赤くして喜んでいる。


「リオ殿は、現役も良いところだ。1つ見本を見せてはどうだ?」

「あまり得意ではないんですが……」


 とりあえず言い訳をしておこう。的の距離を5mほどにしているようだけど、ここは少し驚かせてやろうかな?

 倍の距離を取ろうと的を背に歩き、頃合いを見て振り返りながらナイフを投げる。

 皆の使う小さなナイフと異なり、大型のサバイバルナイフだ。

 唸りを上げて的に飛んでいくと、ドン! と大きな音を立ててテーブルに深く突き刺さった。


「「オオ!」」

 感嘆と喝采の渦が部屋を満たしたところで、ナイフを回収してベルトに収める。


「トリスタン殿、リオ殿ならば魔獣でさえも生身で倒せるのではないか?」

「さすがに、それは無理だろう。だが草の海に現れるオオカミなら十分に倒せるだろうな。何といってもメープルと引き分ける男だ。闇討ちも効かんだろうよ」


「「ほう……」」

 再び感嘆の声が上がる。

 だけど、皆の顔が感心しているように見えるんだけど、ニンマリしているのはどういうわけなんだろう?


「王都で、たまに武技を競う大会を行うのだ。その時には、あちこちの胴元が賭けを行うんだが……」

「分かりました。でも、俺が参加するとは限りませんよ」

「参加すれば、それなりに儲けが期待できるということだ。まぁ、人気があると思ってその時には参加するんだな」


 事前に調査しといた方が良さそうだな。

 フレイヤ達に知られたら、絶対に出場しろと指示されそうだ。


「さて、そろそろ晩餐にしようではないか! 食堂は隣だが、今日のスープの材料は国王陛下からこのクラブにと渡された品だ。献上品らしいが、北の珍味であることは間違いない」

「ほう……、下賜された品ということだな。珍味ともなれば是非とも頂きたいものだ」

 

 それって、絶対あのカニだよなぁ。

 やはり王宮からまとまった数を取ってくるように頼まれてしまいそうだ。


 晩餐そのものは、あまりテーブルマナーを気にせずに食べることが出来た。

 こういう晩餐ならフレイヤも嬉しいんだろうけど、サロンともなればそれなりの格調が要求されるみたいだからなぁ。

 

「これはカニですな。海のカニはだいぶ頂きましたが、この味は初めてですぞ」

「星の海に生息しているカニだそうだ。大きさはナイフ投げの的にしたテーブルよりも二回りは大きいぞ。生きたまま運ばれてきたので、その場で近衛兵が始末したぐらいだからなぁ」

「その話は聞いております。文系貴族のほら話と思っていたのですが、本当でしたか」


 軍の連中ならカニを釣ることも出来るんじゃないかな?

 もっとも陸上艦を浮かべるように改造しないと無理だろうけどね。

 味を知った連中が王宮に多くなれば、必然的に需要が出て来うるに違いない。

 リバイアサン以外でもカニを捕獲できる方法を考えれば、結構なパテントを得られるかもしれないぞ。


「だが、煮ても焼いても美味しいカニだ。リオ殿、また頼んだぞ」

「はぁ……。北の珍味として喜んで戴けたら、たまに運んできましょう」

「その節は、是非とも私共にも……」


 あちこちから、欲しがる声が聞こえてくるんだけど生きたままだからなぁ。


「欲しがるのは構わんが、獣機1個分隊に戦機を待機させんと反対に食われるぞ。そんなカニだということだ。国王陛下が王宮に簡単な闘技場を作らせているが、そこで近衛兵の練度をカニで見ようとしているぐらいだからなぁ。我等にもたまに下賜してくださるよう国王陛下に頼むことにしよう」

「是非ともお願いしますぞ。この味は家族にも堪能させてあげたいものです」


 次は5匹というわけにもいかなくなってきた。

 やはりリバイアサンを使って、大量のカニを捕獲するしかなさそうだな。

 とはいえ、トリスタンさんのクラブはそれなりに居心地が良い。

 トリスタンさんの思惑に賛同する武官貴族ばかりだとしても、皆俺をそれなりの人物として扱ってくれる。出身が一般人だということは分かっているのだろうが、身分より実力で評価してくれているのかもしれないな。


 晩餐が終わると、再び大きな部屋に移動してワインとタバコを楽しむ。

 そんな中、トリスタンさんに挨拶をして部屋を出ていく者が現れたところを見ると、このクラブは自然解散ということになるのかな?

 部屋の人数が半分ほどになったところで、改めてトリスタンさんに招いてくれた礼を言い退散しようとしたのだが……。


「そう急ぐな。リオ殿の予定はリバイアサンに戻るだけだと聞いたぞ。そのまま座ってくれないか。もう直ぐ集まるはずだ」


 ん? 何のことだと考えながら言われるままに席に座っていると、10人ほどが座れるテーブルに軍人達が集まってきた。


「さて、ここからが本当のクラブになる。リオ殿も見知った人物がいるだろうが、ウエリントン王国軍の4つの艦隊を率いる指揮官達だよ。もう1人、マクシミリアン殿もいるのだが生憎と任地で拠点作りの最中らしい。もっともリオ殿とは別に連絡を取り合っているだろうから問題は無かろう。

 リオ殿をここに招いた本当の目的は、彼らにハーネスト同盟に状況を説明してやって欲しいのだ。

 国王陛下や私相手なら概況でも構わんが、実際に艦隊を率いる者達にとってはより詳細な状況が欲しいはずだからな」


 なるほどそういう事か……。フェダーン様なら状況説明もできるだろうが御后様だからなぁ。こういった席も設けることはあるんだろうが、疑問を持ったとしても口に出すことができないのかもしれない。

 その点、俺は軍人ではないから、ちょっとした疑問でも問いかけることができるとトリスタンさんが考えたに違いない。


「それなら、俺が休暇を取る前の状況を先ずは説明します。トリスタンさん、画像を投影したいので衝立のようなものを用意できますか?」

「直ぐに用意させよう……」


 若い士官がトリスタンさんの小さな頷きに応えるように慌てて部屋を出て行った。

 改めてワインのグラスが俺達の前に置かれ、すっかり準備が整ったところでバッグからプロジェクターを取り出し、魔獣の暴走からサザーランド王国の近況、ハーネスト同盟軍の調査艦隊などについての説明をする。


「……という状況です。気になるのは、北の山麓の魔獣ということになりますが、現状での対処は難しいものと判断しています。ハーネスト同盟軍の状況はしばらくは変化がないと考えていますが、先程説明した通りサザーランド王都周辺についての偵察は実施しない方がよろしいかと推察します」


「さらに魔獣の暴走が起きた場合は、中規模艦隊の派遣も考えねばなりませんな」

「まったくだ。サザーランドについては国王陛下の命で偵察を禁止しているが、まだしばらくは継続した方が良いだろうな。ブラウ同盟から攻め入ることは現状のプランにないことからガルトス王国領内までの飛行船による偵察で十分だろう」


「リオ殿。今のような状況報告は、我等に今後とも伝えて貰えんだろうか?」

「リバイアサンにフェダーン様が乗船しておられますから、北の回廊の状況報告は1日に2回は行っています。その内の1回についてはファネル様も同席しております。

 さすがにハーネスト同盟の3王国については、定期的とはいきませんが、星の海を調査しているハーネスト同盟艦隊の動向には留意しているつもりです。

 現在俺が行っているのは星の海の西に広がる土地の地図作りですから、ハーネスト同盟3王国の状況調査にはあまり時間を割いていないのが現状です」


「地図を作り始めたのか! それもまた欲しいところだな。フェダーン様と密に連携が取れているなら、私達もありがたい」


 トリスタンさんの言葉に軍人達が頷いているから、フェダーン様はウエリントン王国の軍人にとっても尊敬できる相手なんだろう。


「俺としては、フェダーン様の副官同様に扱われているのが少し腑に落ちないところではあるんですが、北の回廊作りの助成依頼をヴィオラ騎士団が受けている以上、少し拡大解釈されているように思える依頼についても承っているというところです」

「確かにサザーランド王国の状況調査までは、北の回廊と結び付かんだろうな。まぁ、その辺りは私からも国王陛下に耳打ちしておこう。報酬の上乗せを期待しても良いぞ」


「さすがにこれ以上になると、他の騎士団が不満を覚えるでしょう。それは王宮内に館を提供していただけたことで十分です。

 ところであの館……。出るということは事前に教えて頂きたかったですね」


 俺の一言に全員が俺に顔を向けた。

 笑みを浮かべていたトリスタンさんでさえ、真顔になって俺を見ている。


「噂は、本当だと?」

「幽霊やお化けではありませんよ。でも、あの館の外にいることは確かです。あの場所は帝国時代に軍事拠点があったようです。その時に使われた兵器の影響が未だに残っていると思っていたのですが……。存在を確認した相手は、帝国時代の兵士の残留思念でも時空魔法で亜空間に消えた魔導士でもありません。

 そこまでは分かったのですが……。生憎と、詳しく見ようとすると気配を消してしまいます。それに、その気配を感じることができるのは、俺とメープルさんだけで、侍女見習いの少女達やエミー達には分からないようです」


「メープルが、裏の人間をあの館にたまに呼ぶのはそういう事か……。私も噂では知っていたが……。いるってことか」

「俺達を見ているだけで、危害を加えられるわけではありませんし、館の中に入ることはありません。その存在を確認するのが、これからの仕事になってしまいそうです」


「悪気はないぞ。国王陛下にしてもだ。……だが、館の外にその存在があるとなれば……」

「士官の訓練に含めますかな? 気配を敏感に感じられる……、それは軍人の能力として十分に使えそうですぞ」


 まさか度胸試しをしよう、なんてことはないだろうな。

 真夜中に真っ暗な森の道を進んで、館の玄関にロウソクを置いてこい、なんて訓練は止めた方が良いと思うんだけどなぁ。


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