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M-329 無粋な連中はどこにでもいるようだ


 タバコやワイン、それに果実の蒸留酒を何本か買い込み、最後にベルウド爺さんへの土産にするどの強い蒸留酒を買い込んだ。

 これをそのまま飲むんだからなぁ。どんな肝臓をしてるんだろう?

 カテリナさんが言うには、ドワーフ族は酒を飲めなくなったら先がないと言ってたから、ベルッド爺さんはまだまだ俺達の我儘に付き合ってくれるに違いない。


 時計を見ると、待ち合わせ時間の30分ほど前になった。

 陸港のホテルに向かい、エントランスでコーヒーを飲みながらタバコを楽しむ。

 

 そんな俺のソファー席に、2人の男が現れた。

 他にも無人の席があるのにわざわざ俺の傍に来るとは、何か用事でもあるのかな?

 まったく見知らぬ連中なんだが……。


「身なりを見るに、どこぞの騎士団の見習い修理士というところか? ここはそれなりの格式もあるんだ。早々に立ち去って欲しいところだな」

「それに、騎士団で銃を持てるのは騎士とそれに準じる仕官に限られているはずだ。ごつい銃など、ここに置いて行った方が良いだろうな。警邏に見つかればタダでは済まんぞ」


 なるほど、これが例の騎士団ってことなんだろう。

 俺の銃が目当てらしいが、これは俺を世話してくれた爺さんの形見そのものだ。そう簡単には渡せないな。


「恐喝ってことか? 生憎だが俺は騎士だし、これは爺さんの形見だ。銃が欲しいなら店に行って買うのが一番だろう。それにお前たちにこの銃が撃てるとも思えない。その腕ではどこに飛んでいくか分からんぞ」

「なんだと!」


 2人とも年代はアレクより下に見える。ベラスコよりは年上に見えるから、騎士になり立てではなさそうだ。

 気の短そうな男が大声を上げたから、カウンターのお姉さんがこっちに顔を向けて成り行きを見ている。

 大声を出した男が立ち上がろうとしたところを、もう1人が抑え込んだ。少しは状況が分かるようだな。


「止めろ、みっともない。大声を出しても始まらないと、いつも言ってるだろうが! だが、そっちについてはそうもいかないぞ。このホテルには俺達の仲間が何人か泊っている。こいつの大声で直ぐに集まってくるはずだが……、さてどうするんだ?」


 どうするも何も、売られた喧嘩なら喜んで買うだけだ。

 おもむろにタバコを取り出して火を点ける。


「そっちこそ、どうするんだ? 現在はまだ手を出してはいないからどうにでもなるが、やるならいくらでも買うぞ」


 俺の言葉に笑みを浮かべると、片手を上げた。

 少し離れた場所で様子をうかがっていた男達が集まってくる。


「さすがに6人を相手にするには、荷が重いと思うんだが?」


 笑みを浮かべたまま隣の男に向かって小さく頷くと、男が席を立って俺に近づき腰のベルトに手を掛けた。


 その瞬間を待っていたんだよな。これで正当防衛が成り立つ。

 男の手を掴んで、腕を逆に捻り上げる。ボキ! と骨が砕けるような音が聞こえた瞬間男の絶叫がエントランスに響き渡る。

 ゆっくりと男の手を掴んだまま立ち上がったところで、周囲に笑みを向けた。


「盗人を捕まえたが、誰かこいつを知ってるか? まあ、知らないならこいつに自分からしゃべらせれば済むことなんだが」

「騎士を手に掛けたらどうなるか分かってるのか! 構わん、やってしまえ。暴漢に襲われたと言えば済むことだ」


 4人が俺に拳銃を向ける。

 こいつのように、素手で襲ってくるなら腕1本で何とかしてあげたんだがなぁ……。

 銃声がエントランスに木霊して、彼らの銃口から硝煙がゆっくりと漏れている。俺の体に受けた衝撃は4つだから全弾命中ということなんだろう。

 もっとも数mも離れていないんだから、命中しない方が問題だ。

「さて、正当防衛だ。死ぬまでゆっくりと神に祈るんだぞ!」


 先ほどの銃声が子供の玩具のようにも思える銃声が響く。

 立っていた場所から弾かれたように後方で倒れた男達を見て、俺に話しかけてきた男の表情が氷付いた。


「こんな銃だから、お前達には撃てないだろうな。さて、落とし前はどうするんだ?」


 俺の言葉に男は無言で、俺を見ている。

 腕を負った男を突き放して、再度ソファーに腰を下ろすと、すでに冷たくなったコーヒーの残りを飲み干した。


 バタバタと足音が聞こえてきた。

 やってきたのは警邏の制服と軍の仕官の制服だな。俺の迎えも一緒なのか?


「どうした! 何が起こった!」

「ああ、警邏さん。やっと来てくれました。この賊に脅されている状況です。仲間はあの通りですし、生きた心地もありませんでした」


 凄い変わり身だな。思わず拍手をしてしまった。

 その拍手に気が付いた警邏が俺に顔を向ける。


「弁解はあるのか? まぁ、警邏事務所でゆっくりと聞くことになる。そのまま装備ベルトを外して付いてきてもらいたい」

「それはできないぞ!」


 士官の1人が大声で俺の傍にやってきた警邏を止めた。


「失礼ですが、リオ辺境伯で間違いありませんか?」

「そのリオだが、騎士団の騎士でもある。ここで使いを待っていたのだが」

「私がその使いです。となると、この者達は辺境伯を脅迫したということですか……。身の程知らずというか、命知らずというか……。返り討ちに逢ったとみるべきでしょうね。リオ殿が先に手を出すことはあり得ませんし、リオ殿は国王陛下の前でも武装を許されるほどの人物です。取り調べはお任せしますが、場合によっては軍警が身柄を引き取ることがあることをご承知おきください」


「あのリオ殿であると?」

「そうです。トリスタン殿の招きでここで待って頂いたのですが……。着衣に弾痕がありますが大丈夫なんですか?」


「あれぐらいの銃弾なら問題ないよ。それだけ鍛えているからね。それより着替えも持ってないからこのままで行こうと思うんだが……。案内してくれないか?」

「了解です! 玄関に自走車を待たせております。少し予定時刻を遅らせてしまいますが、それはこの者達に責任を取って頂きましょう」


 呆気に取られていた一同から士官に連れられて離れていく。

 さてどんな罪を受けるんだろう。

 しっかりと返礼はしてあるから、それほど大げさにはならないと思うんだが……。


 自走車に密閉型があるとは思わなかったな。

 いつもバギー車のような解放感溢れる自走車ばかりに乗っていたんだが、この自走車の中はかなり快適だ。

 シートはソファーのように柔らかいし、空調まで備わっている。車内の温度を保つために密閉型を採用しているに違いない。

 とはいえ贅沢な品なんだろうな。それに貴族と言えば立派な馬車で移動することで自分達の存在をアピールしているように思える。

 フレイヤ達はヒルダ様の馬車を使わせて貰っているようだけど、その内に俺達も馬車を持つことになるんだろうか?

 だけど直ぐに問題点に気が付いた。俺達は殆ど王都を離れて暮らしているからね。馬車は無用の長物に違いない。

 とはいえ何時までもヒルダ様のご厚意に甘えるわけにもいかないだろう。その辺りの対応はリバイアサンに戻ってからカテリナさん達と相談しても良さそうだ。


 自走車が貴族街に進んでいく。立派な館があちこちに立っているけど、それでも中級貴族の持ち物らしい。上級貴族ともなれば、区画1つが丸ごとみたいだから、通りから館を見ることは出来ないらしい。

 

「大きな館ばかりだね」

「中級ともなればそれなりに名を上げようと躍起になっているはずです。案外内装は質素らしいですよ」

「私の家も、立派なのはエントランスにリビングと客室だけですからね。私の部屋は板張りでしたよ」


 そういって笑い声を上げる。もう1人も頷いているということは中級貴族の次男か三男ということになるのかな。

 家を継ぐことができないから軍に入って頑張っているに違いない。

 軍閥貴族の長男が名目的に軍に入隊することがあるらしいけど、多くは王都の軍の本部務めらしいし、3年以内で除隊するそうだ。貴族ということで准尉の資格で軍隊暮らしを送るらしいけど、少尉以上に上がることは無いらしい。

 その点、この2人の被る帽子の略章は中尉だから、士官学校から叩き上げられたのだろう。


「ところで2人とも本部詰めなのかい?」

「ずっと本部の兵站部にいたのですが、今度の辞令で北方艦隊に所属することになりました。フェダーン様の乗艦する軽巡ですから、とんでもない出世だと仲間から祝ってもらいました」


「なら俺とも会う機会がありそうだな。フェダーン様と一緒に北の回廊計画に参加しているからね」

「あの有名な大型艦を見られるんですか!」

「大きすぎて王都の城門をくぐれないという事でしたね」


 大きな戦艦ぐらいに考えているようだ。現場に行って驚くんじゃないかな。

 あまり教えないでおこう。


「大きいことは大きいよ。たぶん驚くと思うけど」


 2人が笑みを浮かべて頷いている。

 喜んでいられるのも今の内かもしれないな。フェダーン様の指揮下に入れば、寝る間もないほど忙しくなりそうだ。


「到着しました。ここがトリスタン殿の館になります」


 と言われてもなぁ……。私兵の警備する門をくぐったが、肝心の館が見えない。

 なるほど、さっきの仕官の話通りだ。

 そのまま屋形内の庭園に沿った道を走っていくと、やがて大きな館が現れた。さすがに王宮よりは小さいけれど、ヒルダ様の離宮の3倍あるんじゃないかな。

 

 玄関前の広場の中央には噴水までが作られている。

 階段の前に自走車が停まったところで、先に仕官が下りて俺の座る席の扉を開けてくれた。

 ゆっくりと自走車を下りると、館の大きさに改めて驚かされる。

 これならメイドさん達の数も10人ということはないだろうし、向こうで草花の手入れをしている庭師だって1人では無いはずだ。


「ご案内します。付いてきてください」

「よろしく頼むよ。それにしても大きな館だね」


「これと並ぶ館は財務を預かる、エンドレム卿ぐらいでしょう。とは言っても、トリスタン殿は貴族筆頭でもありますから」


 田舎者と思われたかな? だけどこんな大きな館は維持費も大変な金額になるだろうな。それに比べると宮殿内に修理してもらった俺の館等は、大きさだけなら下級貴族になるんだろう。

 とはいえ、王宮内に館建築を許され他ということで、上級貴族でさえ羨ましく思っているらしい。


 館のエントランスから、奥に続く回廊を歩いていくと、賑やかな笑い声が聞こえてきた。

 どうやらクラブの開催場所は1階になるらしい。


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