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M-328 休暇の最後は別行動


「現在建設中の砦が完成したなら、直ぐに次の砦の建設を始めるのかしら?」


 フレイヤの素朴な疑問に、全員の視線が俺に向けられた。

 食べていた物を思わず飲み込んでしまったから、途端に喉に詰まらせて慌てて水を飲む。


「さすがに少し間を開けるでしょうね。まだ次の騎士団が決まってなさそうだもの。それにこの間、リオ君が騎士団の救援に行ったでしょう? その時の原因が……、リオ君。皆に見せてあげて」


カテリナさんの依頼に、プロジェクターをテーブルに乗せる。食後だから、大丈夫だろう。ちょっとグロい奴だからな。


「この2種類を見付けたみたい。騎士団に襲い掛かろうとしたレグナスモドキはリオ君が始末したらしいけど、こっちは映像を記録しただけのようね」

「レグナスに角があるぞ……」


 食い入るように見ていたアレクが画像に目を向けたまま呟いた。

 

「俺達でも倒せそうか?」

「基本はレグナスですよ。でも少し素早い感じがしましたね。山麓を住処としたためだと思っています」


「問題は、あのイソギンチャクなんだけど……。レグナスモドキや他の魔獣が暴走した原因かもしれないということになるわ。1匹だけだったらしいけど詳しい生態は分からないわ。穴に潜んでいるのは確実よ。

 これをフェダーンに見せたら、谷の奥にも城壁を作ることになったらしく、ファネル殿下が頭を悩ませているみたい」


 予定工期が伸びてしまったということになる。

 せっかく王宮でのんびりしてたはずなんだが、俺を恨んでるなんてことは無いだろうな? ちょっと心配になってきたぞ。


「万が一の備えだし、門だって作らないだろうから、それほど大きく伸びることはないと思うわよ」

「そうなると、北の回廊計画自体を見直す必要もあるのでは?」

「あくまで、万が一の備えという感じかしら。それにリスクのない開発計画なんて世の中に存在しないでしょう?」


 すべての事業はリスク評価でなされるからなぁ。リスクが効果を下回っているなら、開発は成功と言えるだろう。

 それに大規模な暴走となることも無さそうだから、火器と城壁で十分に対処できるとフェダーン様は考えたに違いない。


「軍内部の考え方は、明日のクラブで分かるはずよ。トリスタンのクラブに招かれたのでしょう?」

「明日の午後1300時に第二陸港のホテルエントランスに使いを出すと言われてはいるんですけど」

「王宮内の派閥では軍閥ということになるから、それで良いわ。トリスタンもヒルダと調整しているはずよ。エミーとフレイヤがサロンに出入りすれば、当然その夫であるリオ君が所属するクラブが、御婦人方の気になるところになるわ」


 勢力争いの場にもなるってことかな?

 この世界の女性達は強かだからなぁ。派閥争いは案外ご婦人方が主導しているのかもしれないぞ。

 一夫多妻だから女性の地位が低く見えていたんだけど、あえて自分達を低く見せかけて夫を操っているんじゃないだろうか。

 だけどカテリナさん達に確認したとしても、多分笑みを浮かべて誤魔化されるんだろうな。

 フレイヤ達も俺を操っているんだろうか?

 日頃の行動を見ると、何となくそう思える節があるんだよなぁ……。


「とりあえずは様子見ですよ。その場で積極的に活動するようでは、軍の中が乱れそうです」

「リオ君の役目は、トリスタンのクラブに集まる連中に顔を売ることよ。できればリオ君の人間性をよく見せてあげて欲しいけど」


 かなり無茶な要求だ。苦笑いを浮かべると、しょうがないわねぇという感じでカテリナさんも同じような苦笑いを浮かべている。


「私達は、明日予定通りにリバイアサンに戻ります。飛行船の旅も1度は経験したかったので、到着は明後日の昼頃になろうかと」

「私達は明後日、陸港を出るわ。砂の海に入る前には周辺の偵察を頼むわよ」


 エミー達はリバイアサンに、ドミニク達はヴィオラとガリナムに向かうってことだな。

 俺は明日の夜にリバイアサンに戻れば良いだろう。明日の朝食は携帯食を食べることになりそうだから、王都でお弁当でも買って帰ろうか。


「今回の休暇はこれで終わり。次は2か月ほど先になるでしょうね。隠匿空間近くで。暴走した騎士団が襲われているから、狩りは慎重にしないといけないわ。魔獣の数と種類をよく確認して狩りをしましょう」

「賛成だ。リオが来なくとも飛行機を搭載しているからな。昔よりは周辺状況を良く見ることができる。それに自走車も4輪車から6輪車に変更したことで前より速度も上げられるし、車輪が1個外れるぐらいなら問題なく走れるらしいからな」


 そんなことが実際に合ったに違いない。

 確かにあの自走車は貧弱な感じがしたからなぁ。その後改良されたということなんだろう。


 最後にコーヒーを飲み終えると、それぞれが客室に戻っていく。アレク達は自分達の別荘に向かったが、アレクの持っている半島の別荘はどうするんだろう?

 フレイヤが、購入時の倍ほどに値が上がっていると教えてくれたから、もう少し手元に置いておくのかな?

 投機の手段としても使えるならそれも良いかもしれないし、短期間の休暇ならここに来るよりあの別荘で過ごすことにしたいんだろう。


「サロン暮らしにあこがれた時期もあったけど、私にはリバイアサンの暮らしが合っているわ」

「私もです。ローザが羨ましく思えます」

「ローザだって、夫を迎えたならあの世界に行くことになるんじゃないかな。その時はエミーが教えてあげられるようにしないといけないよ。フレイヤの場合は俺と一緒になった災難だと思って諦めてくれ。その世界に明日出掛けるんだから、あまり脅かさないで欲しいな」


「リオの場合は黒のツナギなんでしょう? それだけでもかなり私達より優遇されてるわ。ドレスの下に着るコルセットはかなりギュウギュウに体を締め付けるのよ。ヒルダ様がいつも着てるんだけど、あれってきっと慣れてるからできることなんだと思うわ」


 何事も慣れれば、それなりに暮らせるってことなんだろう。

 御后様の1人だからなぁ。色々と苦労しているんだろうけど、俺達にはそんな素振りさえ見せないんだから、やはり凄い人なんだと思ってしまう。


「私達は笑みを浮かべて座っていれば良いと言われましたが、リオ様の場合は?」

「とりあえず相手の話を聞いて、その場で答えるようにするよ。とはいえ騎士団に関わる話はドミニクに関わるし、リバイアサンの運営はエミー達に関わるからね。持ち帰って検討すると言えば相手も分かってくれるだろう」


 辺境伯でありヴィオラ騎士団の騎士だからなぁ。辺境経営は漁村の村長任せだし、開拓団の方は元騎士団員達に任せているのが現状だ。

 俺に経営なんて高度な技能があるとは思えないから、全てお任せ状態なのが問題ではあるんだけどね。


 休暇中の出来事を話しながらの入浴時間も良いものだ。

 開け放した浴室の窓から波の音が聞こえてくるし、湯気が晴れた瞬間に見える満点の星空は、砂の海で眺める星空よりの星の数が多いように思える。

 湯上りに、浴室に設けられたベランダでワインを味わう。

 2人の髪が乾いたところで、寝室へと向かった。


 翌朝。いつもよりちょっと豪華な朝食は、残った食材の整理を兼ねているのだろう。

 住み込みの小母さん達が作るパンはそのまま王都でパン屋を開けるぐらいにおいしいし、森を少し切り開いて野菜や果物の苗も植えたらしい。

 次に来るときには、朝取りの野菜も朝食に並ぶんじゃないかな。


「荷づくりは済んでるわね。朝食後にバルシオスに運んで頂戴。リオはまっすぐに王都に向かうのよね。これでしばらくはお別れだけど、リバイアサンをよろしく頼むわ」

「エミーとフライヤがいるからね。それほど心配はないよ。それじゃあ、明後日にリバイアサンで……」


 フレイヤ達のトランクをバルシオスに運ぶ。

 アレクとベラスコが桟橋に集まった荷物を次々に船内に運び込んでいく。

 

「そっちの木箱は、リバイアサン向けだ。フライパンが描かれてるのが食堂向けだが、マリアンに渡すんだぞ。ハンマーが描かれてるのはベルッド爺さん向けだから、そのまま渡しても構わん」

「了解! 結構釣れたんですね」

「釣り人が増えましたから。皆騎士団に貢献してくれました」


 釣り仲間が増えたことが嬉しいみたいだな。その内にベラスコを超える腕の持ち主が出てくるんじゃないか? そしたら、その笑みが苦笑いに変わるんだろうな。


 バルシオスが入り江を出ていくのを見送ると、桟橋にアリスが具現化した。残った木箱3つと、フレイヤ達のトランクを直ぐに亜空間に収容される。

 俺の方もクラブに出られるだけの格好になっているから、アリスに搭乗して王都を目指す。


『第2陸港ですね?』

「王宮ではないけど、俺だけどこかに下ろしてくれないかな。迎えが来るまで3時間ほどあるから、適当にお店を巡って時間を潰そうと思ってるんだ」

『了解です。桟橋の端に移動しますから、リバイアサンに戻る時には改めて連絡ください』


 次の瞬間、俺の目の前にどこかの騎士団の陸上艦が停泊する桟橋が広がっていた。

 桟橋を歩きながら陸上艦のロゴを確認する。盾に右上から3本の稲妻が斜めに走っている。初めて見るロゴだが、陸上艦はダモス級だから中規模騎士団になるんだろうな。

 あのスコーピオ戦にも参加したに違いない。陸上艦を眺めながら桟橋を歩き下階にある商店街に向かう。

 桟橋を出る際に、簡単な身分確認があるんだが銃を持つ手前仕方のないことなんだろう。


「ヴィオラ騎士団のリオ閣下ですね。ヴィオラはあちらの桟橋のはずですが?」

「別な手段でやってきたんでこの桟橋を使ったんだ。ヴィオラの連中は夕方ごろに乗船を始めるんじゃないかな」

「了解です。4つほど騎士団が到着しましたから、下の商店街も賑わっていると思いますよ」


 係官に笑みを浮かべて、港の商店街へと足を進める。

 態度の良くない騎士団が4つ来ているということだな。

 絡んでくるようなら、それなりに対処すれば十分だ。

 約束の時間にはだいぶ時間がある。先ずはお弁当を適当に買い込んだところで、お店巡りをしてみようかな。


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