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M-327 北の山麓に棲む魔獣


 北の山麓を調べたのだが、魔獣の暴走を引き起こすような生物を見付けることは出来なかった。魔獣はそれなりに生息していたが、獣よりも少し大きなくらいの奴ばかりだな。

 画像を記録するためにサーチライトを使うと、ごつごつした岩を飛び跳ねるように小型の魔獣が逃げていく。敏捷になったことで他の魔獣から逃げているのだろう。

 新たな種を記録していると、突然サーチライトの向きが変わった。


『あれではないでしょうか? 直径12m程ですが、ほとんど新円に近い穴です。自然に出来たものではありません』

「直径12mの管虫ってことか? 出会いたくはないが、顔だけでも出して欲しいね」

『深さ50mを超えています。動体反応はありませんし、熱画像にも変化はありません』


 すでに穴の奥底に戻ってしまったんだろう。


「手榴弾を落としたら出てこないかな?」

『可能性は無さそうですが、試してみるのも一興ですね』


 それなりの爆風は届くだろう。その圧力変化を嫌って穴から顔を出さないとも限らない。

 バッグから手榴弾を取り出そうとしていると、アリスの手にはすでに柄付き手榴弾が握られていた。戦機用の手榴弾で一般に出回っていないとなれば、スコーピオ戦の時に少し確保しておいたものかな?

 俺の持つ手榴弾よりはるかに大型だから……、さてどうなるだろう。


 穴から100m上空に停止したところで、アリスが手榴弾の柄の先端部分をねじるようにして引き抜く。

 これで内部の導火線に火が付く構造なんだが、着火して炸裂までが6秒ほどある。

 アリスの手から、穴に落下した手榴弾がどの辺りまで落ちるのか楽しみだ。


 直ぐに大きな爆発炎が穴から吹き上げる。

 さて、この穴だけではなく周囲も監視してないと……。


『手榴弾は正解でしたね。あちらに動体反応が現れました』


 暗視カメラがとらえたものは、1kmほど先に聳える柱のような代物だった。


「あれが脅威とは思えないんだが……」

『そうでもなさそうですよ。触腕が伸びています』


 タコの足というよりイカの足だな。確かに2本の触手が上空に伸びていく様は、イカの触腕に見えなくもない。

 柱は硬質に見える。貝殻のようなものなんだろうか?

 短い触手もウニュウニュと出てきて動きだした。かなりグロい奴だ。撮影のためにサーチライトを向けても反応しないところを見ると、目が存在しない種なのかもしれない。光を感知するような器官すらないようだ。


「なんだろうね? 似た生物を見たことが無いんだけど」

『イソギンチャクの近縁でしょうか? でもあのような触腕を持たないはずなんですが……』


 高度を取って真上から見ると、確かにイソギンチャクにも見える。頭頂部の職種の中心にイカの嘴状の大きな嘴が4つ開閉していた。あんなのに食べられたくはないが、あの筒のような中に奴の体が入っているのだろう。そうなると、ゴカイの一種にも見えなくもない。


「あいつも遺伝子操作で作られたものかな?」

『たぶんそうだと思います……。魔気の濃度が少し上がっています。あの生物も魔気を作りだす種に間違いありません』


 スコーピオ戦のおり、北の山脈で見つけたのも確か管虫のような形をしていた。

 だが、砂の海の掃除屋でもあるデザートワームは魔気を作りだすことがない。

 その関係が、いまいち分からないんだよなぁ。

 特殊な管虫のみが魔気を作りだすということになるのかな?


「さて、戻ろうか。とりあえずはこの生物が原因らしいということだけになるな。その他に何か分かったかな?」

『特殊な分子構造体を見付けました。魔気に少量含まれています。何らかのフェロモンと思われますが人体に影響を及ぼす恐れは少ないかと』


 フェロモンは、特定の生物にのみ反応するということらしい。

 人間でないとすれば、魔獣ということか?

 魔獣が忌避する代物なら使い道もありそうだけど、誘引するようなら困ったことになりかねない。

 この情報は、とりあえず封印しておいた方が良さそうだ。


「さて、帰ろうか。皆が心配しているだろうからね」


 俺の言葉が終わると同時に周囲の景色が歪み、目の前にライトアップされた別荘が現れた。

 アリスから下りると、直ぐにアリスが広場から亜空間へと移動していく。

 広場から完全にアリスの姿が無くなったところで、バッグを手に別荘へと入って行った。


 リビングには誰もいなかったけど、とりあえずはお風呂で汗を流そう。

 別荘の制服である水着に着替えたところで、リビングに向かうとカテリナさんがワインを飲んでいた。


「おかえりなさい。皆は眠ってしまったわよ。さすがに3時を過ぎてるから、悪く思わないで上げてね」

「それは仕方のないことですが、カテリナさんも寝ていた方が良かったのでは?」


 ワイングラスを受け取りながら軽く嫌味を言ったんだけど、どうやら気にしてもいないみたいだ。笑みを浮かべてタバコに火を点けている。


「アリスの性能なら、救援そのものに時間が掛かるとは思えない。陸上艦の損傷がひどく自力航行が出来なければアリスが救助艦の到着まで待つと連絡するはずよね。それがないとなれば修理が終わるまで陸上艦の防衛をしていたことになるわ。

 でも、リオ君の事だから、それだけで終わることはないと思っていたんだけど……。何を見付けてきたの?」


 盗聴器でも仕掛けてるんじゃないか? 俺の行動などお見通しってことのようだ。

 大きく溜息を吐くと、北の山麓で遭遇した魔獣の話をする。

 画像も話の中で見せたから、その形状と大きさに驚いているようだ。


「これも,魔気を放出するのね?」

「アリスの測定ではそう考えられます。かなりの種の管虫が魔気を放出するとなれば、1つ疑問が出てきますよね。サンドワームはなぜ作られたのか……」


 サンドワームは砂の海の掃除屋だけど、それが目的とは思えないんだよね。

 

「やはりリオ君が始めたように、先ずはどんな魔獣がいるのかを確認することが大事みたいね」

「ですよねぇ。ところで、こんなレグナスがいたんです。砂の海に生息するレグナスより少し大きいですし、一番の特徴は頭の後ろに伸びた2本の角ですね」

「初めて見るわ! 確かにレグナスね……。それと、この足も少し太い気がするわ」


 魔獣図鑑を作ることから始めようかな?

 北の山麓には面白い魔獣がいるみたいだし、星の海の西に広がる広大な大地にもまだ見ぬ魔獣がいるはずだ。


「さすがに救援には間に合いませんでしたが、次の魔獣は始末できました。これが精いっぱいですね」

「それで十分よ。いつでもリオ君が出張ることも出来ないでしょう? 見捨てたとしても誰も文句は言わないわ。騎士団は自己責任が原則なの」


 あまり頼られるのも問題だろうな。こちらの都合では出掛けることができない事態もあり得る話だからね。

 何時でも救援にやってくるとなれば、中規模騎士団がこぞって砂の海の北を目指しかねない。


「やはりヴィオラ騎士団内で、救援に関わる規約を作る必要がありますね」

「その辺りは、ドミニクに丸投げしなさい。騎士団長なんだから、それぐらいは判断できるはずよ。その後でフェダーンと調整すれば良いわ」


 やはり軍との調整も必要になるってことか。

 海賊討伐を目的に、数隻の小艦隊が砂の海の南部を遊弋しているからなぁ。彼らの任務の1つに騎士団の救援があるらしい。


「緯度で分けるのが一番だと思うけど、フェダーンの考えもあるでしょうからね」

「あまり出動ばかりしていると、本業がおろそかになりそうです。リバイアサンでは魔獣狩りもそれほどできませんし……」


 それなりの報酬は頂いているから文句も言えないけど、俺達って騎士団員なんだよなぁ。早く砦を作り上げて、回廊を安全に通れるようにしないと本業を忘れてしまいそうだ。


「そうそう、物理を専攻する学生達は、結局太陽時間を使うと言ってたわ。それで問題は無いんでしょう?」

暫定であることを自覚しているなら問題ありません。そうなると、欲しくなるのは正確な時計ということになるんでしょうが、その時計を合わせる相手は太陽ですよ。面積を持っていますから、きちんと合わせるのに苦労すると思います」


 時計は振り子時計を使うならかなり正確な時間を計れるだろう。とはいえ、その限界もある。1秒以下を正確に測るには、さらに工夫が必要になるはずだ。テンプという水平の振り子を考える人物が会の中にいるかもしれないな。


「落下を始めてから時間が経つにつれ、落ちる速度が増えていることに気が付いたみたい。その関係を式で表そうと頑張っているみたいよ」

「実に簡単な式になるはずです。でも、弾道計算には絶対に必要なことですよ。今までは何度も砲弾を放って到達距離と砲の仰角の近似値をグラフにしてるようですが、そんな事をしないでも計算で導き出せますからね。

 ところで、このような計算をカテリナさんはどうやって解きますか?」


 2桁導師の掛け算と5桁を2桁で割る計算をメモに書いて手渡すと、「こんな感じね」と言いながら計算をして見せてくれた。

 掛け算九九はあるみたいだな。ならば……。


「これを1分で解けますか? 上2桁が合えば十分です」

「8桁? 無理よ。3分は掛かりそうだわ。でも問題を出すぐらいなんだから、リオ君には出来るわけよねぇ?」


 やって見せると驚いている。

 上3桁目を四捨五入して、小数点を含んだ2桁にすると後は10の乗数でしかない。

 簡単に2桁の掛け算をして、両者の乗数を足せば完成だ。


「なるほどね……。ちゃんと位はあっているし、上2桁に間違いはないわ。それにしても……10の乗数って、掛け算は足し算になるのね。そうなると割り算は引き算になるのかしら?」

「そうなります。なぜそうなるのかは分かりませんけどね。これを利用すると、いちいち紙に書き込んで計算しなくてもよい方法があるんです。明日の夜にでも教えますよ」


 デジタル計算機は無理でも、計算尺ぐらいなら渡しても問題はないだろう。

【複写】で上手く複製できるなら、物理を専攻する連中に喜ばれそうだ。実験データを上手く纏めるのにも使えるだろう。


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