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M-326 修理が終わるまでは


「よく来てくれた。仲間達は遅れているのか?」


 戦機が1機、アリスに近づいてきた。魔道通信機から、応援を感謝する言葉に続いて俺だけやってきたことが信じられないように問いかけてきた。


「生憎と、俺1人だ。北から少し変わったレグナスが近づいているぞ。14頭だ」

「とりあえずは、溝を掘って何とか撃退するしかないな。右の車輪が4基破損している。交換しない限りここを動けん。わざわざ来てくれてありがたいが、ここで戦機を壊すことになるぞ」


「何とかなるだろう。俺が溝の前に立つ。上手く行けば溝を超えるレグナスはいないはずだ」


 通信機でそう伝えたところで、コクピットを開放し、アリスの手に乗って北を眺める。

 まだ距離はかなりありそうだな。砂塵さえ見えてこない。


「なんとも、豪胆な奴だなぁ。そんな騎士がいるとはな。ベルドナ騎士団のエミールだ」


 同じように戦機の手に乗って俺に近づいてきた。

 通信機で話すよりもこの方が話し易いし、なんといっても一服ができる。

 

「ヴィオラ騎士団のリオだ。後ろは任せたよ」

「本当にできるのか? 見たところ魔撃槍も持たないようだが?」


「ちゃんと持っているよ。威力があり過ぎるぐらいだから、12頭なら何とかなる。後の始末はそっちでやって欲しい」


「ちょっと待ってくれ……。ああ、今話をしている最中だ。ヴィオラ騎士団のリオということだが……、なんだと! 本当か? ああ、了解した。レクトル王国の話は俺も聞いたことがある……」


 どうやら陸上艦から戦機に通信があったようだ。

 

「まさか、戦姫を駆る騎士だったとはなぁ……。今、コーヒーを運んでくるようだ。

申し訳ないが、お任せしたい」

「同じ騎士団の騎士同志です。互いに困った時には可能な限り助け合うのが騎士だと、筆頭からいつも言われてますからね」


「それはそうだが……、命は大事にするんだぞ」


 うんうんと頷いてくれたんだが、建前は大事だが状況次第だと思っているんだろうな。それも大事なことだろうが、俺の場合はアリスに搭乗している限り命の危険は皆無だからね。アリスの性能を、あまり見せないように苦労するばかりだ。


 戦機がバスケットを手に乗せてやってきた。

 騎士がコクピットから下りて俺達にカップに注いだコーヒーを手渡してくれた。

 ありがたく頂いて、一口飲む。

 少し俺には濃すぎるけど、荒野で飲むコーヒーは格別だ。

 しばらくスコーピオ戦の話に興じていると、跡形やってきた騎士が北を指差した。


「やってきたようです。かなりの数ですよ」

「慌てるな。リオ殿が片付けてくれるそうだ。さすがに全てを倒せるとも思えんから、俺達は溝の後ろで迎え撃つぞ」

「ヤバイと思ったら右に移動してください。左舷の砲の半分はまだ使えます」


 損傷は第一甲板にまで及んでいたのか……。場合によっては動けない状況もありえるな。レグナスを片付けたら帰ろうと思っていたけど、陸上艦が動きだすまではここにいるしかなさそうだ。


「それじゃあ、始めますか。解体するならなるべく近くの方が良いですからね」


 コーヒーの礼を言って、コクピットに収まる。

 すでに10kmほどに接近しているようだが、まだ個々の区別が出来ないな。


 東西に延びた深さ3mほどの溝を越えて、亜空間からレールガンを取り出した。

 20発の銃弾がマガジンに入っているから、射撃途中でのマガジン交換はいらないだろう。

 魔撃槍から比べれば小さな銃だから、後ろから見ると頼りなく見えるかもしれないが、その弾速は凶悪の一言だ。

 当たればレグナスの頭が飛散してしまうだろう。


『だいぶ近付いていますね。もう直ぐ2000です』

「なるべく近場で射撃をしたいが、数が多いから500ぐらいで始めようか」

『了解です。自動照準システムを起動しました。赤の表示枠内に入れば、オートロックされます。軽くトリガーを引いてオートロック、そのままトリガーを引けば発射します』


 結構大きな丸だな。この範囲に目標を入れるようにジョイスティックを動かして、トリガーを引けば良いらしい。

 結構便利なんだけど、一番致命傷を与える部位がロックされるのが問題だな。

 手心を加えるなんてことが出来ないようだ。


 距離1000でレールガンを構える。

 500の表示が点滅したと同時にトリガーを引いて、次に照準を合わせる。

 10秒も掛からずにレグナスの群れを全て倒してしまったことに、ベルドナ騎士団の連中が驚いているようだ。魔道通信機を通して興奮した会話が飛びこんでくる。


「ベルドナ騎士団に連絡を入れて、魔石を回収するように伝えてくれないか?」

『了解です……。通信終了。騎士団長が陸上艦で休息するよう伝えてきてます』


「ご厚意に感謝と伝えて欲しい。このまましばらくはこの場にいることになりそうだ。カテリナさんが通信機を持っているみたいだから、状況報告をしておいてくれないかな」

『了解です』


 戦機が1機近づいてくる。どうやらエミール氏の乗った戦機らしい。

 付いてきてくれという言葉に従って、陸上艦の近くに移動する。アリスから下りると、ドワーフ族の連中が一生懸命修理をしている姿を眺めながら船内に入る。


 出会った頃のヴィオラを思い出す艦だ。

 躯体構造が少し違っているのは、輸送船を元にして作った船だからだろう。

 案内された先は、小さな会議室のような場所だった。

 壮年の男女が2人先にテーブルに着いていたけど、俺が入ると席を立って握手を求めて来る。


「さすがは戦姫ですな。救援に応じてくれてやってきたのが戦機1機だと聞いて落胆していたのですが、リオ殿であると知って胸を撫で下ろした次第です」

「上手く通信が届いたことが幸いでした。中継に次ぐ中継で、ウエリントン王国の最西端の島で休んでいた場所まで届きましたからね。通信が届けばそれなりに駆け付けられます」


およそ5千ケム程先からやってきたことを知って、しばらくはポカンとしていたが、やがて咳ばらいをすると、もう1度感謝の言葉を言ってくれた。


「たぶん昼食はまだのはず。簡単なサンドイッチしか出せないことを恥じ入るばかりですが、どうぞ召し上がってください」

「ありがとうございます。丁度昼時に連絡があったので食事抜きだったんです」


「それはそれは……」と言いながらも、5千ケム程先の場所から駆け付けるためには時間があまりにも合わないことを不審に思っているようだ。

 時空魔法を使えると伝えると納得してくれるんだから、やはり魔道科学の全盛期ということになるんだろう。

 時空魔法はまだまだ不安定らしいが、その危険も顧みずに救援に駆け付けてくれたことに感激する始末だからなぁ。


 小皿に乗ったサンドイッチを食べ終えるころにコーヒーが改めて出てきた。

 タバコの箱を見せると、窓を開けて灰皿がテーブルに乗せられる。

 ありがたく一服しながら陸上艦の状況を聞いてみると、修理に時間が掛かるらしい。

 

「休暇中ですから、ここで休養を取らせてください。何かあれば、俺が対処します」

「済みません。状況が状況ですからよろしくお願いします」


 ブラウ同盟の王国に加わる騎士団なら、俺単独で動いても問題はないだろう。

 アリスに、カテリナさんへ再度通信を送って貰うことにした。

 向こうも心配しているだろうからね。


 日が暮れ始めた頃に、会議室に壮年のトラ族の男が現れた。

 騎士団の団長に革袋を渡して直ぐに出て行く。


「魔石の数は48個だったそうです。その内の13個が中級魔石だったそうですよ。これはリオ殿物です」


 テーブルの上を革袋を滑らせるようにして俺の前に出してくれた。

 革袋の紐を解いて上に載っていた中級魔石を1個手に取ると、革袋を団長に前に押し出す。


「救援の報酬であればこれで十分です。獣機を失い、陸上艦の修理にはいくら魔石があっても足りないくらいでしょう」

「ですが! ……分かりました。ありがたく使わせて頂きます。リオ殿に我等の援助が必要とは思えませんが、手が足りない時には思い出してください。すぐに馳せ参じます」


 3人が俺に頭を下げるんだから、返事に窮してしまう。

 

 そんなことがあったけど、やはり修理には時間が掛かっているようだ。夜になれば周囲を探照灯で照らしながら魔獣の監視をしているようだが、アリスが独自に周辺状況を監視しているはずだから接近する魔獣がいれば直ぐに教えてくれる手筈になっている。

陸上艦の修理が完了して再び南へと動き出したのは日付が変わった2時過ぎの事だった。

周囲20ケムに魔獣はいないと教えたら、驚かれてしまった。

他の騎士団ではできないことだったと反省してしまったが、ベルドナ騎士団の連中は直ぐに小さく頷いて笑みを浮かべている。

それが俺の能力の1つだと思ってくれたみたいだな

魔導科学の生体実験にでも参加したと思ったのかもしれない。


「それではこれで。昼食だけでなく夕食までご馳走して頂きありがとうございます」

「粗食で申し訳ありませんでした。それと、ありがとうございます」


 騎士団長に別れを告げて、アリスを北に向けて闇の中を滑走していく。

 ずっと探照灯で進路を照らしてくれているんだけど、アリスの姿が彼らに見えなくなるまでは飛び立つことも出来ないな。


 どうにか暗闇に逃れたところで、上空に飛び立ち北を目指す。

 高度1000mで暗視画像と熱画像を監視することで魔獣の暴走が起きた現況を探すことにした。

 初めて見たレグナスだからなぁ。たぶん山麓辺りに生息していることで騎士団には見つかっていなかったんだろう。

 となると現況は北の山麓にあるということになる。

 やがて山麓が見えてきた。モノトーンの画像に熱画像結果が色付けされる。魔獣なら体温がかなり高いからこれで発見は容易になるだろう。

 アリスの地上レーダーでもまだ何も見つけられないようだ。


「山麓が怪しいと思ってるんだが、確認できなければ無駄に捜索をしないで帰ることにするよ」

『何かあった……、と推察します。そうでなければ、魔獣の群れがそう幾つも同じ方向に暴走することはありません』


 魔獣なら体温でわかるけど、魔獣のような形態ではなく昆虫やミミズ見たな奴だったら、夜でもあるし中々原因となった未確認生物を見ることは出来ないだろう。

 結果的には原因不明の暴走ということで、幕を下ろすことになりそうだ。


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